どこまでも続く青い空。照りつける眩しい太陽。ここはアフリカ大陸東部に位置するタンザニアだ。この国で、教育支援に従事する日本人夫婦がいる。
笹瀬正樹さん・瑞穂さんご夫婦は、教育支援の仕事で、タンザニアの中学校に駐在している。その傍ら、国際交流事業を展開すべく、2022年に一般社団法人Wakwak for Everyoneを設立した。タンザニアの学校や、街のアフリカ布市場などを日本とデジタルで繋ぎ、コミュニケーションを図るイベントを開催している。オンラインを活用した事業内容や今後の展望を聞いた。
笹瀬 正樹(ささせ まさき)さんプロフィール
Wakwak for Everyone 代表。大学院卒業後2015〜2017年の2年間、JICA海外協力隊として、パプアニューギニアの小学校にて理数科教員として活動。2018〜2021年、タンザニアの中学校で実施された「女性リーダー育成のための理数科目強化と全人教育のモデル校開設プロジェクト」にて現地業務を担当。2022年から同学校に再赴任し教育業務に従事。
笹瀬 瑞穂(ささせ みずほ)さんプロフィール
Wakwak for Everyone 理事。2015〜2017年にJICA海外協力隊として、コスタリカの大学で日本語教師として活動。2017〜2021年、東京2020オリンピック・パラリンピック開催に向け、長野県松川町にてコスタリカとのホストタウン事業に精力を注ぐ。2022年からタンザニアの学校で日本語教師として従事。
一般社団法人Wakwak for Everyone とは?
一般社団法人Wakwak for Everyoneは、2022年1月に設立された。日本の子どもたちだけではなく、開発途上国の子どもたちにも国境を越えた学びの機会を与える活動をおこなっている。今後予定されている活動内容は、主に以下の通り。
- タンザニア等、現地訪問スタディツアー
- 海外と繋がるオンラインイベント
- 日本と海外のオンライン交流事業
- 開発途上国の学校や教育、子どもたちの支援活動
代表の笹瀬 正樹さんと、理事の笹瀬 瑞穂さん夫妻は、過去に東京オリンピック・パラリンピックのホストタウン事業をはじめとする教育事業に、国際協力というフィールドで活動してきた。
その経験を活かし、子どもたちが言語の壁を超えた、異文化交流を楽しめる機会を創出している。
世界を繋げる教育支援に取り組む理由
笹瀬正樹さんが開発途上国で教育に携わるようになった理由は、学生時代の経験にある。
「日本の学校で先生になるために勉強していました。日本にずっと居るつもりでしたが、まさかこんなに海外がワクワクする場所だったなんて」
笹瀬さんは大学卒業記念の海外旅行で多くの学びや感動を得たという。その体験に胸を躍らすのと同時に、もともと関心のあった教育支援に考えを巡らせた。
「日本の子どもたちにも、この経験を提供できないだろうか」
子どもたちを海外に送り出すには、さまざまな障壁がある。子どもたちの家庭環境はバラバラで、望んだとしても、全員が海外へ行けるわけではない。さらに「行きたいけど不安」「両親が心配する」などといった、ネガティブな感情も障壁となるケースも存在する。
「現地に来られない人に、この感動を届けたい」と強く感じた笹瀬さんは、オンラインでタンザニアと日本を繋げる支援をスタートさせた。
未知の世界に触れ、目を輝かせる子どもたち
2022年にはWakwak for Everyoneの活動としてイベントの計画をスタート。7月30日(土)に第1回目の、タンザニアと日本をオンラインで繋ぐ交流イベントを開催した。
公式サイトやSNSで募集した日本からの参加者は、幼稚園から小学校の子どもたちと保護者ら17名。笹瀬さんご夫婦がファシリテーター、通訳として間を取り持つ。タンザニアの中学校を、現地の生徒が案内して回り、随所にクイズ要素を盛り込んだ。
リアルタイムで未知の環境を見られる、オンラインツアーに日本の子どもたちから歓声が上がった。
オンラインでの学校ツアー開催は、タンザニアの生徒にとっても貴重な体験だ。「みんな思春期の子たち。はじめは緊張や恥ずかしさで大人しかったですが、だんだん本来の明るさを発揮して、心から楽しんでいました」と笹瀬さん。
タンザニアの生徒が心から楽しんでいることは、画面越しの相手にも届く。日本の参加者も次第に緊張がほぐれ、気軽に質問を投げかけるようになった。
「タンザニアは観光業が盛んです。ツアーガイドを目指す子が多いが、職業体験などはありません。今回の学校案内が、夢への第一歩になったのではないでしょうか」と、現地のキャリア教育に繋がる可能性も感じた。
海外と繋がる体験を「発見」「自信」のきっかけに
「海外と繋がるイベントを実施していますが、海外に関わる仕事についてほしいわけではありません」
笹瀬さんご夫婦がイベントを通じて提供したいのは、参加者の「人生の可能性を広げるきっかけ」だ。海外のことを調べる、自分のやりたいことに気付く、将来海外へ飛び出す。どんなことでもいいから、ワクワクしながら自分の世界を広げてほしいと願う。
また、日本の子どもたちだけでなく、タンザニアの子どもたちも大きな学びを得ている。
以前、勤務先であるタンザニアの学校では盛んに留学生やインターンをはじめとする日本人との交流があったが、2022年8月現在は感染症の影響で訪問できない状況が続いている。現地の生徒は、笹瀬さんご夫婦以外の日本人と、はじめてコミュニケーションをとったのである。
習った日本語を実際に使い、相手に通じた経験は、学びのモチベーション向上に繋がる。コミュニケーションがとれた自信は、生徒たちの将来にプラスになるはずだ。
活用する人がいてこそ、テクノロジーは生かされる
Wakwak for Everyoneの活動において、オンラインは不可欠。事業開始時からあって当たり前の存在だ。
「教育事業に関わっているので、『オンライン教育』は身近なものでした」
座学で得られる学びと、オンラインを通じた体験で得られる学びは別物。そのことはイベント後、参加者が答えたアンケートから伝わる。
「日本とタンザニアが直接つながることは、耳学問では得られない貴重な経験になると実感した。準備した映像や写真ではないライブの学校紹介は、自分も一緒に現地を歩いているような気になれて楽しかったです!」
テクノロジーを使えば、海外と繋がることは容易だ。しかし、テクノロジーは人に活用されてこそ、意味あるもの。どんなにテクノロジーが発展しても、海外と繋がったことがない人は多い。Wakwak for Everyoneのように間を取り持ち、可能性を広げてくれる存在が重要となる。笹瀬さんご夫婦が挑戦する意義は大きい。
DXで創造する2国間交流だけで終わらない未来
日本だけでなく海外同士を繋げることも可能だ。タンザニアの隣国であるルワンダとオンラインイベントを開催しようという案が出ている、と笹瀬さんは語る。隣同士の国でもたくさんの違いがある。そこにまったく異なる文化の日本も加われば、子どもたちの世界は大きく広がる。
「今後は学校以外、たとえばアフリカ布屋さん・一般家庭・マーケットなど、日常の発信やオンラインでの体験等も提供したいです」
現地のありのままをリアルタイムで見たり、言葉を交わして交流したりすることは、留学を考える子どもや家族にとっても有益な体験となる。子どもは事前に留学イメージを膨らませられ、送り出す家族は子どもが過ごす日常を知り安心感を得られる。
駐在員や海外協力隊、インターンや留学生は、アフリカだけでもたくさんいる。そのなかには、Wakwak for Everyoneのように世界を繋げたいと考えている人が多い。デジタルツールを活用すれば、協力者に現地対応を任せることも可能だ。
笹瀬さんご夫婦は、日本の団体から業務委託を請け負いタンザニアを訪れているため、ずっと現地にいられるわけではない。どこの国にいてもパイプ役として海外と日本を繋げる役割を担えるようになる。それが夫婦の目指す支援の形だ。
生徒たちの飾らない学校案内は、日本の子どもたちに親しみを感じさせた。現地にとっての「日常」は、日本とって「非日常」。現地にいると気づかないことに、まだまだ「ワクワク」が眠っている。