ワクワクさんこと久保田雅人さんは、現在も子どもたちに工作を伝え続ける

23年間続いたNHK教育テレビ(現・Eテレ)の幼稚園・保育所向け造形番組『つくってあそぼ』。この番組で相方のゴロリくんと一緒に工作の楽しさを伝え続けたのが、「ワクワクさん」こと、久保田雅人さんです。現在も全国の子どもたちに工作の楽しさを伝えている久保田さんに、工作にかける思いや「やりたいこと」が見つからない人へのアドバイスを聞きました。

 

久保田 雅人(くぼた まさと)さん プロフィール

久保田 雅人(くぼた まさと)さん プロフィール

1961年、東京生まれ。大学在学中に中学・高校の社会科の教員免許を取得するが、教員にはならず役者の道へ。大学在学中に劇団「プロジェクト・レヴュー」に所属し、俳優・声優として活動を開始。1990年4月から2013年3月まで放送された、NHK教育テレビ(現・Eテレ)の幼稚園・保育所向け造形番組『つくってあそぼ』に「ワクワクさん」役として出演。現在も全国の子どもたちに工作を伝え続けている。

教員を目指していた大学生時代

――久保田さんは学生時代に教員を目指していた時期があったそうですね。

 

もともとは、社会科の教員になりたくて大学にも通いました。教育実習にも行きまして、教員免許の取得まではしたんですよ。ところが、大学4年のときに転機がありました。たまたま立ち読みした雑誌に、私が最初に所属した劇団の第1期生募集が載っていたんです。それにふらふらっと応募したら受かっちゃいました。そこが人生のつまずきポイントですね。

その劇団の座長は三ツ矢雄二さんで、副座長格で田中真弓さんがいらっしゃいました。

 

――三ツ矢雄二さんは『タッチ』の上杉達也役など、田中真弓さんは『ONE PIECE』のルフィ役などで大人気の声優さんですね。

 

そうです。私もデビューはビデオアニメの声優でした。その後も三ツ矢さんが出演していた『タッチ』に、ラスト1年間は準レギュラーで出演していたんですよ。最終回にも出演させてもらいました。

「ワクワクさん」になったきっかけ

「ワクワクさん」になったきっかけ

 

――劇団に入ってから、どのような流れで『つくってあそぼ』に出演することになったのでしょうか?

 

当時、田中真弓さんが『おーい!はに丸』という番組に出演されていて、NHKに出入りしていたんです。『できるかな』が終わるので、新しい工作番組を作りたいとディレクターさんが出演者を探していました。そうしたら田中さんが「うちの劇団に、大道具や小道具を作っている手先が器用な劇団員がいる」と推薦してくれて、オーディションが決まりました。受けてみたら受かっちゃって「ワクワクさん」になったわけです。

それが26歳のときですね。放送が始まったときは27歳になっていましたけど。ワクワクさんのキャラ設定って、20代後半なんですよ。だから30年間20代後半を続けていました。番組関係者に途中から「老けるな」って言われるんですけど、無理ですよ! ゴロリくんはいいですけど、私は人間ですからね。

石の上にも三年

石の上にも三年

 

――『つくってあそぼ』は約23年も続きましたが、これほど長く続くと思っていましたか?

 

思わないですよ。レギュラー放送になる前、1989年の夏に試作番組を1本作っています。同じ年の12月に試作番組をもう1本作って、そのときにはじめてゴロリくんが登場しました。オンエアを自分で見て「これはどうしようもないな、ダメだろ」と思ったんですよ。絶対レギュラー化はないな、と。

ところが、翌年の1990年4月からレギュラー化が決まったんです。でも、レギュラー化しても全然下手なんですよ。NHK教育テレビ(現 Eテレ)の最短終了記録を作るんじゃないかと思いましたね。

 

――下手というのは、工作がですか?

 

工作もですし、見せ方も下手でした。ゴロリくんとの会話も噛み合っていなかったです。ゴロリくんとの息が合うまで3年かかりました。「石の上にも三年」という言葉がありますが、昔の人はうまいこと言ったもんですね。3年間、辛抱強く続けることが大切でした。

納得できた作品は3本だけ

――『つくってあそぼ』は23年も続きました。同じ番組をそれだけ長く続けるのは、体力的にも精神的にも大変だったと思います。長年続けられたコツはありますか?

 

まず、23年間メインスタッフが変わっていなかったのがありがたかったですね。私も含めて、みんな身体が丈夫でした。みんなが目標に向かって同じ考えで努力する「プロの集団」でしたね。一致団結して、いいチームワークでのぞめたのが、長年続けられたコツです。

 

――23年間で印象に残っている回を教えてください。

 

――23年間で印象に残っている回を教えてください。

 

23年番組をやってきて、自分でも納得できた作品は3本しかありません。自分でオンエアを見ても「なんか違うな。ここはこの見せ方じゃないだろう」っていう箇所が必ずあるんですよ。納得できた作品は「積み木の回」と「粘土の回」と「ロボットの回」です。

積み木の回は、積み木をただセロハンテープでつなげるだけでいろいろな動きができるんですけど、積み木の動きがものすごくうまく見せられたんです。これは感動しました。粘土を使った工作は何度かやっているのですが、「これは面白いな!」という作品が1本だけあります。

ロボットの回は、われわれがロボットになって暴れるんです。男の子にはたまらないだろうな、というくらい最後のシーンが面白かったですよ。

 

――23年のうち、納得できたのは3本ってすごくストイックなんですね。

 

われわれの目指すものには、到達点がないわけです。つねに上を目指さないといけません。ディレクターさんがOK出してくださっても、自分の中ではどこか引っかかりがあるんです。オンエアを見て「ここはこうしたほうが良かったな」と思ったことがたくさんあります。

失敗しても関係ないから自分の手で作ってほしい

――久保田さんは、番組の中でさまざまな工作を紹介されてきました。子どもたちにはどのような経験をしてほしいと考えていましたか?

 

子どもたちには、とにかく「自分の手で何かを作ってみたい」という思いを持ってほしいです。出来、不出来は関係ありません。子どもたちが作っても、私たちと同じものは作れないわけですよ。大人と子どもですから、それは仕方がありません。だけど、その子にとっては作った作品はものすごい宝物です。子どもたちには「失敗しても関係ないから自分の手で作ってね」というメッセージを送りたいです。

そのために「これを使えばこんなこともできるよ。あんなこともできるんだよ」というのを、ゴロリくんといかに楽しく紹介するかを心がけました。番組を見て面白いだけじゃダメなんです。子どもたちが見て「ああ面白かった、よしあれをやってみよう!」と思ってもらう必要がありました。これは難しいですよ。ただ笑ってもらうだけではダメなんですから。

 

――私たちの会社でも、さまざまな企業と共同で「KidsVenture」という子ども向けの電子工作・プラグラミング教室を運営しています。久保田さんは工作を教えるときに、どのようなことを意識していますか?

 

実際にやってみようと思ってもらうために、どうしたらいいかを考えています。もうひとつのポイントは大人に向けてです。「ここは子どもたちには難しいので大人がお手伝いしてくださいね」と大人向けのポイントも必ず入れます。そうすることで、子どもたちの手助けができるんですよ。完成度が高まりますから、子どもたちも喜んでくれます。

 

――なるほど。一緒に参加している大人にも声をかけるんですね。

 

とくに親子で参加している場合、親御さんにも一緒にチャレンジしてもらいたいですね。工作キットを買って子どもに渡すだけではダメですよ。お父さんやお母さんが、説明書を読みながら一緒にチャレンジしてほしいです。

親御さんはモノを買っただけではいけません。そこから先をおろそかにしないでください。一緒に遊んであげてほしいです。

オンラインでの工作の見せ方

――最近、久保田さんが「熱量を持っておこなっている仕事」を教えてください。

 

熱量を持って工作を教えることに変わりはありません。最近は、オンラインで工作を教える仕事が増えています。オンラインだと工作の見せ方が変わるんですよ。説明の仕方も変わりますし、テレビみたいにカメラがたくさんあるわけではないので、どうやって見せるかは課題ですね。

事前に材料をお伝えして用意してもらうようにしているのですが、忘れてしまう方も中にはいます。そうすると、もうどうしようもありません。対面だったら周りの人に借りれますけどね。

オンラインでの工作は、まだまだ勉強しているところです。

「やりたいこと」を「できる」に変えるため

「やりたいこと」を「できる」に変えるため

 

――メディアのコンセプトが「やりたいことをできるに変える」です。久保田さんが今後やりたいことを教えてください。

 

まずはいまやっていることを続けたいです。さらにそれを時代に合ったものにしていきたいですね。例えば、時代によって工作に使う材料も変わってくるんです。『つくってあそぼ』が始まった当初は、ペットボトルなんてそれほど使いませんでした。牛乳パックの時代ですよ。

でも、途中からペットボトルを使った工作が見たいという要望が増えました。これからは、環境のためにプラスチックのストローなどが減っていくかもしれません。新しい材料でできる工作を考え続けて、変化に対応できる自分でいたいですね。

 

――やりたいことが見つからないという方に向けてアドバイスをいただきたいです。

 

なんでもいいので、自分でチャレンジしてみることが大事です。誰かがやってくれる、誰かが何とかしてくれるという考えではなくて、自分から一歩を踏み出すことで違う世界が見えてきます。

怖い、面倒くさいという気持ちを打破しない限り前へは進めません。勇気を持って踏み込まないと何事も始まらないし成長もないんです。

工作を通じて自分でモノを作る大変さ、それを乗り越える喜びを知ってほしいです。自分で作ることほど楽しいものはありませんよ。それが人生にも通じるかもしれません。楽しちゃダメだけど、難しく考えすぎてもいけません。失敗してもいいから、とにかく一歩踏み出すことが大事です。

失敗というのは、自分の仮説の間違いを発見することです。間違いって発見なんですよ。そこでまた成長できます。だから一番実験で失敗した人がノーベル賞を取れるんです。子どもたちにもたくさん失敗してほしいですね。

 

(撮影:いのうえのぞみ)