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ベンダーロックインとは?デメリットや防止方法を解説

ベンダーロックインとは?デメリットや防止方法を解説

 

企業や行政機関がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するうえで、ベンダー(販売事業者)との関わりは必ず発生します。そこで問題になるのが「ベンダーロックイン」です。この記事では、ベンダーロックインについて解説します。

ベンダーロックインとは

ベンダーロックインとは、特定の事業者(ベンダー)を利用し続けなくてはならなくて、他社の参入が困難な状態のことです。ソフトウェアの機能改修やバージョンアップ、ハードウェアのメンテナンスなどの情報システムを独自仕様にすると、他社への切り替えが難しくなります。

特定事業者に依存してしまうと、多くのデメリットがあります。

ベンダーロックインのデメリット

ベンダーロックインのデメリット

 

ベンダーロックインが起きてしまうと、どのような問題があるのでしょうか。ベンダーロックインのデメリットについて、3つ紹介します。

開発・運用費用などが高額に

特定の事業者しか利用できない状態では、競争相手がいなくなります。発注側は特定のベンダーに頼らざるを得なくなるため、契約を結んでいるベンダーは強気な値段設定が可能です。ベンダーロックインの状態では相見積もりもできないので、費用の妥当性もわかりません。

サービス品質の低下

ベンダーロックインによって特定事業者に依存してしまうと、費用が高額になるのと同様に、競争相手がいなくなるので殿様商売のようになってしまいます。発注先が強く抗議できないため、サポート対応や依頼事項への対応が遅れるといった事例もあります。

他社への移行が難しい

ベンダーに不満や問題があっても、他社へ移行できないというデメリットがあります。既存システムの仕様を公開するのを拒否されたり、データ引き継ぎを拒否される可能性もあります。また、仕様の公開やデータ引き継ぎの際に高額な費用を請求されてしまうケースもあるので注意が必要です。

公正取引委員会がベンダーロックインに関する調査を実施

公正取引委員会がベンダーロックインに関する調査を実施

 

令和4年(2022年)2月8日、公正取引委員会は官公庁におけるベンダーロックインに関する調査を実施しました。(官公庁における情報システム調達に関する実態調査について

この報告書から、ベンダーロックインに関するさまざまな事実が浮かび上がっています。

なぜ調査をしたのか

情報システム調達について、競争政策の観点からベンダーロックインを回避し多様なシステムベンダーが参入しやすくするためです。国の機関や地方公共団体における、情報システム調達の実態把握のため、調査を実施しました。

調査結果

「既存ベンダーと再契約することとなった事例がある」と回答したのは98.9%と、ほとんどの行政機関が再契約をしたことがあるそうです。

情報システムの保守・改修・更改などの際に既存ベンダーと再契約した理由について、以下のような結果が出ています(複数回答可)。

 

理由

回答数

割合

既存ベンダーしか既存システムの機能の詳細を把握することができなかったため

483

48.3%

既存システムの機能(技術)に係る権利が既存ベンダーに帰属していたため

243

24.3%

既存ベンダーしか既存システムに保存されているデータの内容を把握することができなかったため

211

21.1%

既存システムに保存されているデータに係る権利が既存ベンダーに帰属していたため

71

7.1%

(出所:公正取引委員会 官公庁における情報システム調達に関する実態調査についてp.4)

ベンダーロックインが起きてしまう背景

ベンダー側だけに問題があると思われがちなベンダーロックインですが、発注側にも問題はあります。たとえば、担当者がシステムに関する知見を持っていなかったり、人員が不足しているとベンダーに丸投げしてしまったほうが楽です。中にはシステムの仕様書作成方法がわからないため、外部のコンサルティング事業者に委託するケースもあります。

オープンな仕様設計のため、外部のコンサルティング事業者に支援してもらうのは良いことです。しかし、システムの仕様について担当者が理解できていないと後々トラブルにつながります。

また、コンサルティング事業者とベンダーがつながっていて、ベンダーロックインが起きてしまう可能性もあります。この可能性については、公正取引委員会の実態調査報告書でも触れられています。

ベンダーロックインと独占禁止法

公正取引委員会は「公正取引委員会 官公庁における情報システム調達に関する実態調査について」の中で、ベンダーがシステム受注の際に不当な囲い込みをした場合、独占禁止法上問題となるおそれがある、との考え方を初めて示しました。

既存ベンダーが合理的な理由が無いにもかかわらず、他のベンダーに対して仕様の開示を拒否したり、他の情報システムとの接続を拒否すること。また、既存システムから新システムへのデータ移行を拒否することは取引妨害となり、独占禁止法上、問題となるおそれがあります。

他にも、既存ベンダーが既存システムの運営などで不利益を示唆したり、他のベンダーに委託しないよう要求すること。また、虚偽の説明などで別の物品や役務を一括発注させることで自社との取引を強要し、他のベンダーに委託できないようにする場合には、排他条件付取引・ 抱き合わせ販売などにあたります。こちらも独占禁止法上、問題となるおそれがあります。

今後、公正取引委員会では、情報システム調達における独占禁止法違反行為に対して、厳正に対処していくとしています。

ベンダーロックインの防止方法

ベンダーロックインの防止方法

 

ベンダーロックインが起きてしまう原因はさまざまです。原因はベンダー側、発注側それぞれにあります。ベンダーロックイン防止の事例を集め、それを共有して対策することが重要です。

ベンダーとのマッチング

現状では情報システムを発注する際に、適切なベンダーを探すのが難しいという課題があります。その課題を解決するために中小ベンダーも含めて、さまざまなベンダーとマッチングできる仕組みを整備することもベンダーロックインの防止策です。

人員体制の整備

情報システムを発注するうえで、知識のあるIT人材がいればベンダーロックイン防止につながります。人材採用や人材育成をおこない、体制を整備する必要があります。必要に応じて、外部の事業者を活用して研修やマニュアルなどの整備も必要です。

官公庁におけるベンダーロックイン防止の取り組み

官公庁におけるベンダーロックイン防止の取り組みについて、公正取引委員会が調査結果を発表しています。

 

Q.情報システムの仕様の内容、発注方法等について、あらゆるベンダーが情報システム調達に参入することができるように工夫・留意していること(複数回答可)。

 

工夫・留意している内容

回答数

割合

情報システムの構築などが完了した際に、ベンダーから情報システムの機能の詳細に関する説明や設計書などの情報提供を受けている。

451

44.6%

不必要な一括発注や、過度なまたは不適切な調達単位の組み合せをしない。

410

40.6%

情報システムの仕様や契約において、情報システムに係るサービス提供主体が変更される場合には、既存ベンダーから新たにサービスを提供するベンダーに対して、円滑な業務移行のための引継ぎをおこなうことを規定している。

291

28.8%

情報システムの仕様や契約において、情報システムに保存されているデータに係る権利について、発注者である機関に帰属させることを定めている。

282

27.9%

地域要件、実績要件などの入札参加条件を可能な限り設けない。

192

19.0%

既存システムの保守、改修、更改などの業務の調達において、当該システムを構築した既存ベンダー以外のベンダーであっても入札等に参入できるようにする。そのための既存システムの仕組みを把握するための情報の開示や一定の検討期間の確保等をおこなう。

175

17.3%

情報システムの仕様や契約において、情報システムの機能(技術)に係る権利について、発注者である機関に帰属させることを定めている。

117

11.6%

(出所:公正取引委員会 官公庁における情報システム調達に関する実態調査について p.12)

長年にわたって続いていたベンダーロックイン解消のため、公正取引委員会はデジタル庁と連携して、競争環境の整備をおこなうとしています。

デジタル庁情報システム調達改革検討会

具体的な動きとして、令和4年(2022年)6月21日に「デジタル庁情報システム調達改革検討会(第1回)」が開催されました。

国内外の情報システム調達に係る制度や体制、手法などの先進的な事例を調査・整理しつつ、情報システム調達に必要な施策を議論し、その実現を目指しています。

密結合なシステム設計や仕様のブラックボックス化を予防する取り組みの検討や、ベンダー独自仕様の組み込みや知的財産権に係る制限を軽減するためのOSSの活用、システムのオープンソース化、APIの活用の検討にも言及されています。

今後は各検討テーマについて議論し、令和5年(2023年)2月6日に最終報告案を取りまとめるスケジュールとなっています。

まとめ

デジタル化を進めるうえで、多くの選択肢があることは重要です。

今後、政府や地方公共団体で政府共通のクラウドサービス利用環境である「ガバメントクラウド」の運用がはじまります。ガバメントクラウドについては「ガバメントクラウドとは?意味や目的、先行事業の内容をわかりやすく解説」をご覧ください。

ガバメントクラウドは、ISMAPリストに登録されたサービスから要件を満たしたITベンダーと政府が直接契約します。ISMAPについては「ISMAPとは?制度の概要やクラウドサービスリストについてわかりやすく解説」でくわしく解説しています。

このようにガバメントクラウドは、ベンダーロックインを防ぎ、競争を促すための対策がされています。

執筆・編集

さくマガ編集部

さくらインターネット株式会社が運営するオウンドメディア「さくマガ」の編集部。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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