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人材不足と働き手の高齢化に苦しむ畜産業界に、物流×ITの知見を持ち込み課題解決を図ろうとしているユーピーアール株式会社(以下、ユーピーアール)。牛の首輪に装着するだけで、タイミングを読み取るのが難しいとされる雌牛の発情を検知できる「DXタグ」を開発したという。現在、日本各地の牧場と実証実験に取り組んでいる担当者の森山 純平さんに、製品の魅力や導入のメリットを語ってもらった。
2020年、ユーピーアール株式会社へ新卒で入社。コネクティッド事業本部 コネクティッド営業部に所属。物流機器のレンタル・販売をメイン事業とする同社において、新規ビジネスを手がける部署に新入社員として初めて配属される。「物流業界で浸透しているポピュラーな IT技術を、ほかの業種でも活かせないだろうか」という想いで、日々新しい事業の種に水をやっている。
自社製品スマートパレットの技術が他業界のビジネス課題解決へ
ユーピーアールは、パレット(物流の現場で荷物を載せる台)をはじめとする物流機器のレンタル・販売事業で成長してきた企業だ。パレットに電波が飛ぶアクティブRFIDタグを搭載し、高性能リーダー(受信機)と組み合わせた「スマートパレット」で、クラウド上での在庫データ管理を可能にしてきた。デジタルや IT に注力し、自社製品の価値を高める努力を怠らない姿勢から生まれたのが、今回の「DXタグ」といえるだろう。
「大手企業にもご活用いただき、このスマートパレットは市場に40万枚ほど流通しました。在庫だけでなくヒト・モノといった資産を遠隔地からデジタル管理できるこの技術を、物流業界だけにとどめ置くのはもったいない。さまざまな現場にフィットするかたちにアクティブRFIDタグをアレンジすれば、あらゆる業種が抱えるビジネス課題を解決できるのではないか──。そう考えて『DXタグ』は生まれました」
新規事業を生み出す部署に配属された森山さんは、まず「個体管理を必要としている業界はどこだろう」と考え、「畜産業界が思い浮かんだ」と話す。「家畜は、盆暮れ正月や大型連休も関係なく、昼夜問わず世話をしなければいけません。それにもかかわらず IT や自動化が進んでおらず、すべて人が対応するだけあって、体力的に大変キツい仕事。若い働き手が少なく慢性的に人手不足が続き、高齢化が進む負のスパイラルに陥っています」と、現場が抱える課題は容易にイメージできたという。
舎内で飼っている牛をデータ管理する他社製品はすでにあるが、畜産の現場では「広い放牧地に散らばった牛の頭数を把握できない」ことが課題になっていた。森山さんはそこにビジネスチャンスを感じ取り、「電波が最大300mの範囲に届くDXタグを牛の首輪につければ、受信機のデータから頭数管理できるのでは」と仮定した。実証実験に参加してくれる牧場を探したところ、岩手県葛巻町のくずまき高原牧場が協力してくれたのだ。
「通信距離の長い電波帯を用い、中継用の受信機を設置することで広大な放牧地にいる牛の頭数管理が可能になりました。これは飛距離の短い Bluetooth や Wi-Fi を用いてデータのやり取りをおこなう他社製品にない『DXタグ』ならではの独自性です。くずまき高原牧場のご担当者様とお話しするなかで、さらなる課題に気づきました。それは、ベテランの経験則に頼っている雌牛の発情検知です」
雌牛の発情検知率40〜50%が、DXタグ導入で「90%」に向上
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高級なブランド牛を育てる場面では、どの雄が雌に種付けをしたのかという「血統」が商品価値に直結する。となると、雄から採取した精子を人の手で確実に雌の体に入れる「タイミング」が大切だ。しかし雌雄が同じタイミングで発情し、自然に交尾するのを待っていたのではビジネスにならない。そのため、畜産家は雌の発情検知に手を尽くす。
「夜になっても眠らず活動量が減らない、発情を察知した他の牛が覆い被さってくる“スタンディング”という行為が見られる、陰部から粘液が垂れ赤く腫れるなど、雌牛の発情は目に見て判断できることが多いんですよね。ただベテラン畜産家であっても、目視できる検知率は40〜50%と高くない。このパーセンテージを上げれば受精が成功し、生産性が向上すると考えました」
そこで森山さんと牧場担当者は、「DXタグ」に搭載されている振動センサーに着目した。牛が動き回るとセンサーが反応する。「一定の時間内に〇回以上の振動が見られたので、この個体は発情したとみなす」と判断するプログラムを組み、クラウド上で確認できるようにした。しかし、当初は得られたデータの価値付けに戸惑ったと明かす。
「なかには、この牛は発情していないのにどうしてこんなに動き回っているんだろう?という、発情の傾向から大きく外れた値もあり、その道のプロでない我々には、こうしたデータをどのように受け止めればよいかわかりませんでした。しかし牧場の方々や大学教授に話を聞き、徐々にデータ解析が進められるようになりました。とくに牛の個性を熟知している牧場の方々とは二人三脚で『DXタグ』をブラッシュアップしている感覚です」
くずまき高原牧場との牛舎内における実証実験では、飼育されている牛から90%以上の高い発情検知率を記録した。40〜50%しかない目視による検知率に比べて、幸先のよさがうかがえる。さらに、2023年8月より放牧地における発情検知の実証実験を開始した。
「飼育舎のなかにいる牛は人間が与える餌を食べて、掃除してもらって、寝て……と生活リズムがおおよそ決まってきます。しかし放牧地の場合は、そのリズムが定まりづらい。そういった環境下でしっかりと『DXタグ』が反応するか未知数ではありますが、我々の強みは、働き手が休みたいであろう夜間帯にも絶えずデータを送れることです。放牧地であっても動いている牛を発見できることに変わりはないので、問題なく発情検知できると考えています」
類似製品の半額ほどでサービスを導入できる
放牧地での実証実験に成功したら、「DXタグ」採用を検討する牧場も増えるだろう。その場合、放牧地での発情検知や頭数管理以外に、導入するメリットはどこにあるのだろうか。
「安価に導入できることでしょうか。僕らは物流業界ですでに使われている技術を応用する形で『DXタグ』を展開したので、開発コストが抑えられています。現在検討しているのは、飼育舎内の牛1頭につき年間5,000~6,000円ほどの料金プランです。これは従来のサービスと比べて半額ほどの価格設定となるはずです。畜産業界では家族経営で小規模の牧場も多くありますし、新型コロナウイルス感染症の影響で牛乳を破棄したり仔牛の値段がつかないなど多く問題もあり、コストを掛けづらい業界ではないかと認識しています。そのため、1頭あたりにかける管理コストは少しでも低いほうがいい。その点にご共感いただいた牧場さんから引き合いの声を頂戴しています」
10月中旬の段階で、実証実験に進んだ牧場は16社を数えた。そのうち768頭の首輪に「DXタグ」が装着されている。くずまき高原牧場とは今後AI技術を活用した解析ソフトを開発し、発情検知の精度をより高めていく。
「牛も人間のように個体差があって、発情しても動かない牛や発情していないのに動く牛もいます。 現在は『振動が◯回を超えたら発情とみなす』という絶対値を判断基準として採用していますが、より正確に発情を検知するため、いずれは相対的な判断ができるようにしていきたいと考えていて。私たちは牛ごとにデータを取っているので、発情しているときと発情していないときのデータをAI処理すれば、絶対値でなく『相対的にみて、この牛は発情している』という傾向がわかる。こうしたデータをもとに、机上の空論にならないよう牧場の方々の声を取り入れながら、使いやすい製品になるようDXタグをアップデートしていきます」
「物流×IT」の知見を持つユーピーアールでは、デジタル・DXの波と今後どのように共存していこうとしているのか。その旗振り役を担うであろう森山さんに尋ねてみると、心強い反応が返ってきた。
「『波と共存する』というより、『僕らが波をつくっていこう』というぐらいの気持ちで取り組んでいます。我々は物流が主体の会社ではありますが、社長も『社内外にDXをもたらすことで企業価値を高めていきたい』と常々発信しています。波をつくって社会によい影響を与えられるように、今後もがんばっていきたいですね」
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執筆
岡山朋代
編集・ライター。大学卒業後、受験予備校の校舎運営、全国紙夕刊の執筆・編集、ニュースサイト記者、事業会社でのWebディレクター職を経て、独立。プライベートでは年間100本ほど観る演劇・ミュージカル、サウナ&銭湯、ラジオ、おいしい酒&ごはんの話題になると鼻息荒めに。新しい商品やWebサービスはまず試してみるタイプ。
ポートフォリオ:https://www.foriio.com/tomoyo-okayama
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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