アバターロボット「ugo」が老人ホームで生み出した笑顔と会話、そして希望

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未曾有の人手不足への対応策として、ロボットに期待が寄せられている。調理や配膳といった特定業務に絞ったロボットが普及するなか、幅広い業務への対応を目指して開発されたのが、アバターロボット「ugo(ユーゴー)」だ。警備や点検業務で活躍している「ugo」を介護分野で活用するために、実証実験が進められている。車椅子や認知症の方もいる介護の現場で「ugo」はどう役立っているのだろうか? 「ugo」の開発から製造までを一貫して手掛ける、ugo株式会社の取締役COO 羽田卓生さんに、実証実験で得られたものや、見えてきた未来を聞いた。

羽田 卓生(はだ たくお)さん プロフィール

ugo株式会社 取締役COO 。1998年にソフトバンク株式会社に入社後、出版事業部に配属。2006年のボーダフォン買収後は、おもに通信ビジネスに従事。2013年、あらゆるロボットの制御を担う汎用の基本ソフト(OS)「V-Sido」を開発・販売するアスラテック株式会社の立ち上げ時より同社に参画し、現在同社のパートナーロボットエヴァンジェリストとして活動。2019年より、株式会社ABEJAに参画。2020年8月より現職。任意団体ロボットパイオニアフォーラムジャパン 代表幹事、特定非営利活動法人ロボットビジネス支援機構(RobiZy)アドバイザーほか、執筆活動もおこなう。

自在に動き、会話も達者なアバターロボット「ugo Pro」

ugo株式会社の「秘密基地」があるのは、東京の中心部、JR神田駅近くのオフィスビル。扉を開けると、同社のアバターロボット「ugo Pro」が笑顔で出迎えてくれた。ロボットたちはここで作られ、各々の持ち場へ旅立っていく。修理もここでおこなうので、海外製のロボットに比べ、短期間で対応可能だ。

「ugo」シリーズの最上位タイプ「ugo Pro」

「ugo Pro」は、「ugo」シリーズの最上位タイプ。上半身はリフターで 70cm から 150cm まで自動昇降可能。2本のアームを自在に動かすことで、エレベーターなどのボタンを押したり、カードをタッチしたりできる。360度の視野を持つ高性能カメラを搭載、その場で 360度回転できることも特徴の 1つだ。リングライトにより、暗闇での運用も可能。衝突検知センサーで安全性を確保し、緊急時にはパトランプを回転させて知らせる。

続きは、「ugo Pro」自身が滑らかな音声で説明してくれた。

「顔ディスプレイは、表情や任意の文字列を表示できます。顔にはスピーカーとマイクが搭載されており、任意のテキストを音声合成して発話することもできます。そのため、遠隔でもコミュニケーションをとることができます」

カスタマイズ可能な拡張性を備え、遠隔操作と自動化のハイブリッドな運用により、多様な業務を担える。警備や点検業務で活躍しており、有用性が高く評価されている。

 

「ugo」開発のきっかけを訊ねると、羽田さんは「じつは、開発当初は家事代行ロボットを目指していたんですよ」と笑顔を見せた。家事代行は必要な作業の種類が多く、実用化までに時間がかかる。そこで、一部の機能にフォーカスして警備用のロボットを開発したのだ。点検業務も担うようになり、発電所やデータセンターで活用されている。

介護事業を展開する株式会社ツクイからの声がけをきっかけに、2022年6月に、介護分野での実証実験を開始した。警備・点検領域で活躍してきた「ugo Pro」にとっての新たな挑戦の始まりだ。

障がい者スタッフの遠隔操作で介護業務の一端を担う

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実証実験の舞台は、株式会社ツクイが運営する神奈川県横浜市の介護付有料老人ホーム「ツクイ・サンシャイン横浜野毛」 。無資格者でもできる業務の一部、声がけ・案内・傾聴・見回りを「ugo Pro」が担った。現在でも人手不足の代表格ともいえる介護分野は、今後さらに人手が枯渇することが予想されている。実証実験の最大の目的は、人手不足をロボットが補うために、「アバターロボットに何ができるかを確認すること」だと羽田さんは語る。

また、遠隔操作可能な仕組みを使い、ツクイの特例子会社である株式会社Grasol (グラソル)の障がい者スタッフがロボットを自宅から操作する。障がい者雇用創出の実証実験を兼ねていることも、今回の実証実験の特徴である。

実証実験の概要(出典:ugo株式会社 プレスリリース

実証実験は「ugo Pro」1台で開始。案内業務では、食事や入浴の時間に居室前で声かけをし、目的地へ誘導する。事前にルート設定した道のりを自動走行して迎えに行き、4フロア間の移動に必要なエレベーターのボタン操作なども「ugo Pro」がおこなう。移動の途中で出会った入居者に挨拶して軽くコミュニケーションするのに加え、案内業務の合間には入居者の話にじっくりと耳を傾ける。夜間の役目は施設内の巡回だ。

愛称で呼ばれ、笑顔と会話をもたらす

1年近く実験を続けた結果、声がけと案内、傾聴は「ugo Pro」で問題なく業務遂行できることが確認された。業務をこなすだけでなく、入居者に愛され、施設名にちなんだ「のげまる」というニックネームで呼ばれている。さらに、帽子などを被され、お正月には鏡餅を載せられるなど、さまざまな装飾を施されるようになった。これには、羽田さんも驚いたそうだ。

クリスマスにサンタクロースの扮装で笑顔を振りまく「のげまる」くん(画像提供:株式会社ツクイ)

事前の検討段階では、「ロボットに介護されるなんて」という否定的な反応が生じることを懸念する声もあったと羽田さんは振り返る。

「不安な気持ちを抱えながら『ugo Pro』を初めて持っていった日に、100歳近い入居者さんが『ロボットに介護してもらう日が来るなんて』と感激してくださったんですよね。それを見て安心しました。

介護施設用に作ったわけではない『ugo Pro』がそのままで受け入れてもらえた。受け入れられたから会話ができ、会話が続くからかわいがってもらえる。そういう循環を生めたことが実証実験の一番の成果です」

人間のスタッフだけでは十分な時間を取ることが難しかった傾聴を担えたことには、とりわけ大きな意味がある。「ロボット」という存在が受け入れられたあと、コミュニケーションがうまくいった理由はなんだったのだろうか。羽田さんは、障がい者スタッフ個人のキャラクターは前に出さずに、あくまで「のげまる」として運用していることが大きいと分析している。

「入居者さんから見ると、遠隔で裏側に人がいて、だけどインターフェースはロボット。そのことが心理的障壁を下げていると思います」

障がい者スタッフには、精神疾患のメンバーもいるが、遠隔操作時のコミュニケーションは流暢で、疾患があるとは感じられないという。Face to Face ではなく、声を使わずテキストでコミュニケーションすることが、それを可能にしているようだ。「2022年に加藤厚生労働大臣(当時)が視察に来られたときも、障がい者スタッフの方が臆することなく対応していて感心しました」と羽田さんはうなずいた。

大きな成果があった一方で、課題も見つかった。夜間の見回り業務では、「ugo Pro」の動作音が入居者の睡眠を妨げる可能性が確認されたのだ。そこで、より静かに走行できる「ugo mini」を追加導入し、「ugo Pro」と 2台で実証実験を継続することに。「ugo mini」ですべての業務を担うことができればコストを削減できる。それが可能かどうかを確かめることも実証実験の目的に加わった。

実証実験中の「ugo Pro」と「ugo mini」(画像提供:ugo株式会社)

「『ugo mini』の顔の位置が低いことが、入居者の方とのコミュニケーションの支障にならないかという懸念はありました。実際には、腰かけた状態で少し下のほうを向いていただけば、問題なく会話が続きました」

社会になくてはならない産業の下支えに

実証実験は期限を定めず続く予定だ。この施設で新しいことにトライし続けながら、ほかの介護施設へ横展開していく。具体的に進めている挑戦の 1つは、アバターロボットが運搬業務も担えるようにすること。いろいろな運搬実験をおこなった結果、運用の工夫でカバーするのは難しく、ロボット自体の改造が必要という結論に達したところだ。

「元々、『ugo』はあまり重い物を持たせない想定で設計しています。そのため、ある程度の重量がある物を運ばせると、最後の手渡しの部分がうまくいきません。警備や点検の現場とは異なり、介護施設には認知症の方もいらっしゃいます。想定外の動きに対しても安全でなければならないので、難易度は高いですね」

「ugo」はコンポーネント化を進めており、アームだけを取り替えることもできる。介護業務用のアームが登場する日も遠くはなさそうだ。

別方向への展開として羽田さんが挙げたのは、在宅介護だ。施設介護からの発展であると同時に、ugoが当初目指していた家事代行に戻っていくことにもなるという。

「たとえば、在宅介護のスタッフと一緒に『ugo』が自宅を訪ねて、スタッフの監視と多少のサポートの下、遠隔で洗濯物をたたんだり、片付けをしたりする。それは、現在の実証実験の延長線上に見えてくると思っています」

ugo の開発現場。社員 25名、アルバイトスタッフを入れて 40名。「出版社と同程度の人員規模で製造業ができる時代がきた気がします」(羽田さん)

ロボット業界を広く見渡しながらともに歩んできた羽田さんは、ロボットの現状を「まだ高価で、使いこなすのも簡単ではなく、テレビの登場にたとえると街頭テレビ時代」と見ている。

「家事代行をスタッフの介添えのもとでやるところから始まり、次第に各家庭に常時いていろいろなことをやってくれるようになる。在宅介護を入口に、ロボットが街頭から家庭に普及する道を切り開けるのではないかと考えています」

介護分野に限定せず、ugoが今後目指していきたいところを訊ねると、「介護、インフラ産業、そういう社会になくてはならない産業のさらに下支えを担えるようになりたい」と羽田さんは力を込めた。

 

「今回の実証実験で障がい者の働く場を創れたのと同様に、高齢者が仕事を続ける場も増やせると思います。室温が 40度を超え、騒音が鳴り響く発電所で点検業務を続けるのは難しいけれど、ロボットを介して遠隔で若者を手伝ってやるのであれば、一緒にやってもいいと思う人もいると思うんですよね」

羽田さんの眼には、ロボットと人がともに暮らし、ロボットを介して人と人が支え合う温かな未来が映っているようだ。

 

ugo株式会社

 

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