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“レンタカーとカーシェアリングのいいとこ取り”―― 株式会社東海理化(以下、東海理化)が開発・提供する「Uqey(ユーキー)」は、まさにその言葉がぴったり当てはまるサービスだ。スマートフォン1台でレンタカーを利用できるため、ユーザー数が増加中。同時に加盟店数も伸び続けている、今注目のサービスだ。競合企業も多いなかで、どのような戦略を展開しているのだろうか。開発担当の平井 祐介さんと、マーケティング担当の李 侑皇さんに聞いた。
(写真左)平井 祐介(ひらい ゆうすけ)さん プロフィール
2021年11月に東海理化に入社。トヨタグループの金融会社で15年間、システム開発に従事した経験を生かし、Uqeyを含むデジタルキーシステムの立ち上げと開発に携わっている。
(写真右)李 侑皇(り ゆふぁん)さん プロフィール
Webマーケティング会社に7年勤めた後、2022年10月に東海理化に入社。現在はUqeyのクリエイティブ制作や広告運用など、マーケティング全般を担当している。
スマホさえあればOK! レンタカーとのマッチングサービス「Uqey」
Uqeyは、2023年4月にスタートしたレンタカーサービスだ。現在は北海道・東京都・富山県・静岡県・愛知県・三重県・福岡県・沖縄県で展開している。ローンチして1年ほどだが、2024年5月末時点でユーザー数は1万7,000人以上、累計利用数は2,500件以上。加盟するレンタカー会社は、16社にのぼっている。
最大の特徴は、車の予約から出庫・返却、利用料金の支払いまで、すべての手続きがスマートフォン1台で済むことだ。ユーザーが事前におこなうべきことは、専用アプリ「Uqey」のダウンロードだけ。あとはアプリ上で車を借りたい地域と日時、車種を選択して決済すれば予約が完了する。
自身のスマートフォンが車の鍵となるため、多くの場合、レンタカーを借りる際に必要な「店頭で受付をして鍵を受け取る」「車を返却して、利用料金を決済する」という工程が、丸ごと省略されているのだ。ユーザーは日時と場所を決めて空いている車を探し、時間になったら車のあるところへ行く。その様子はさながら、「レンタカーとのマッチング」だ。
Uqeyユーザーの年齢層は、一般的なレンタカー会社の利用者と比べてかなり低い。20~40代が大半で、約半数は20代というから驚きだ。現代の“スマートフォン世代”に、大いに受け入れられているサービスと言えよう。
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ユーザーと加盟店の「かゆいところ」をカバーするシステム
「Uqeyはレンタカーとカーシェアリングの“いいとこ取り”をしたサービスだね、と言われます」と平井さんはいう。Uqeyのユーザー数・加盟店数が増えているのは、双方がメリットを感じているからだと推測できる。では、それぞれの利点を見てみよう。
ユーザー側から見たメリット
ユーザー目線では何より、“受付レス”で気軽にレンタカーを借りられるインパクトが大きい。受付で長時間並ぶ心配がないため、旅行や出張など、すぐに出発したいときはとくにその恩恵にあずかれるだろう。
「旅先でレンタカーを予約していても、空港からレンタカー会社までの移動や、その後の受付で2時間近くかかることもあります。加盟店の運用方法にもよりますが、その時間が浮くのでユーザーからは非常に喜ばれています」(平井さん)
常に手入れの行き届いた車に乗れる安心感も、魅力の1つだ。Uqeyはカーシェアリングにも似たサービスだが、返却後は必ずレンタカー会社が清掃やメンテナンスをする。カーシェアリングでしばしば遭遇する「前の人の使い方が悪くて車内が汚い」「ガソリンが入っていない」といったトラブルが起こりにくいのだ。
レンタカー会社側から見たメリット
レンタカー会社の立場から見てとくに惹かれるのが、「初期費用の安さ」と「裁量の大きさ」だ。
Uqeyでは、ユーザーのスマートフォンが鍵になる「デジタルキー」という機能を活用している。通常、自動車にデジタルキーを導入する際は、車内に専用の機材を取り付ける工事をする必要がある。
しかしUqeyでは、運営元の東海理化が開発したキーボックスを車内に設置・配線するだけで、デジタルキーが使えるようになる。特別な工事も不要で、気軽に導入可能なため、加盟店の多くを小規模事業者~中堅事業者が占める。
自社開発できるスキルの高さに驚くが、それもそのはず、東海理化はもともと自動車のさまざまなパーツ――とくに鍵作りに強いメーカーだ。トップクラスの世界シェアを誇る製品も多く、その技術力は確かなものだ。
「大手レンタカー会社さんであれば、デジタルキーの開発から車への搭載まで自社で一貫して取り組めます。でも、スキルや人手、資金が限られる中小のレンタカー会社さんは、デジタルキーに興味はあっても、開発・導入まではなかなか難しい。だから東海理化でシステムを作って、それをレンタカー会社さんに提供する仕組みを取り入れています」(平井さん)
運営に対しても、制約は少ない。どの車両をレンタカーにするのか、料金をいくらにするのか、貸し出し・返却の場所をどこにするのかなどは、すべて加盟店側で決めることができる。そして、レンタカー料金に対する手数料と、キーボックスの月額利用料を東海理化に支払うビジネススキームだ。
無人化で実現した「自由度の高いレンタカー業」
そして双方から評判を集めているポイントが、時間の融通が利きやすいことだ。
地域や店舗によっても異なるが、レンタカー会社は7~8時ごろに開店し、20~22時ごろに閉店することが多い。ユーザーがより早く借りたい、もっと遅くまで借りたいと願っても、なかなか難しいのが実情だ。予定が思ったより長引き、返却が閉店時間を少し過ぎてしまった、という経験のある人もいるのではないだろうか。
一方、Uqeyはいわば「店舗を持たないレンタカー」。車さえ空いていれば、24時間いつでも予約や利用・返却ができる。Uqeyと同様のサービスは他社でも提供しているが、利用・返却の時間を問わないサービスはほぼゼロだ。
そしてこの自由度の高さは、レンタカー会社の負担も軽減している。Uqeyは、時間になればユーザー側で出庫・返却をしてもらえる。対応に割く人員を抑えられ、「閉店時間ギリギリにしか返却されないから、スタッフを残しておく」という必要もない。
「利用者のデータを見ると、とくに22時以降の深夜返却をしている人が非常に多いです」と平井さんは話す。それだけ、夜間の返却を望んでいた人々が多いのだろう。
無人レンタカーのパイオニアを目指して
Uqeyのユーザー数は右肩上がりだ。レンタカー会社からの加盟の問い合わせも日々増加しており、さらなる台頭の兆しが見える。今後の展望について、平井さんと李さんに聞いた。
「Uqeyは今後も力を入れていく事業の1つです。東海理化の新規事業全体で、2030年度までに売上150億円規模への成長を目指しています。今後はさらなるユーザー数・加盟店数の増加に向けて、開発にもマーケティングにも注力していきます」(平井さん)
「Uqeyはローンチ段階で競合企業が多く、どのようにシェアを獲得するかが悩みどころでした。でも『沖縄のようにレンタカー需要が大きいところから導入する』『デジタルに強い若年層にアプローチする』といった戦略が、うまく実を結んだと感じています。今後もさまざまな取り組みをして、『レンタカーを借りたい』と思ったときにUqeyを想起してもらえるシーンを増やしていきたいです」(李さん)
Uqeyは目下、新機能も開発中だという。フットワークの軽い若者だけではなく、子連れのファミリー層がさらに利用しやすくなる仕組みを考えている。DX推進のコツについて尋ねてみると、現場を主導する平井さんが最後にこう教えてくれた。
「DXは、世の中にある『不便、不満』を解消することが原点だと考えています。初めから大きな変革を狙うのではなく、『もっとこうだったらいいのに』という身近な気づきに着目して、小さく始めてみると良いのではないでしょうか」