東武鉄道と日立製作所がタッグ 「生体認証を社会インフラに」

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本人確認に身分証を、決済にスマートフォンやクレジットカードを、ポイントを貯めるのに紙のカードを。提示物が多く煩雑なこれらの手続きがワンストップ、かつ指の静脈や顔認証で簡単におこなえたら。

 

東武鉄道株式会社と株式会社日立製作所は、日常生活をもっと身軽でスマートにすることを目指し、生体認証を活用したシステム基盤を立ち上げる。あらゆる事業者が参画できるこのプラットフォームを、ゆくゆくは「社会インフラ」に──。まず2023年度中に東武ストアでの導入を目指す東武鉄道の安齋秀隆さんと日立製作所の清藤大介さんに、開発経緯や導入メリットを聞いた。

(写真左)安齋 秀隆(あんざい ひでたか)さん プロフィール

東武鉄道株式会社 経営企画本部 課長補佐。2007年に入社以降、株式会社東武カードビジネス、交通系ICカードのPASMOを運営する株式会社パスモ(PASMO協議会)への出向などを経て、現職。日立製作所との新規事業立ち上げにともない、出向時に培ったカード決済まわりの知見を業務に役立てている。

(写真右)清藤 大介(きよふじ だいすけ)さん プロフィール

株式会社日立製作所 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット マネージドサービス事業部 セキュリティサービス本部 デジタルトラスト推進部 主任技師。東武鉄道とのプロジェクトにともない、2016年に入社した株式会社日立コンサルティングから出向中。バックグラウンドにある会計や事業立ち上げの経験を糧に、ビジネスサイドのプロジェクトマネージャーとして日立製作所の生体認証を活用したビジネス検討を進める。

現行のデジタル認証が抱える課題を解決する「共通プラットフォーム」へ

鉄道・バス以外にも、スーパーマーケット・百貨店など多数の事業を展開している東武グループ。これまでポイントプログラム「TOBU POINT」を顧客との重要なタッチポイントにしてきた。そんななか、生体認証の多様な活用事例を目にした東武鉄道は「お客さまとのデジタル接点にしたい」と考えるように。「交通機関の利用にも生体認証を普及させ、ゆくゆくは多くの企業が参画できるプラットフォームに成長させれば、インフラとして社会のお役に立てるのでは」と構想したという。

「われわれが運営する東京スカイツリー®は電波塔で社会のインフラ。東武鉄道はインフラ事業との親和性が高いはずなんです」と話す安齋さん

そこへ声をかけたのが、日立製作所だった。

 

「最初は『日立製作所の生体認証技術を使ってみませんか?』とご提案したんです。すると、実証実験だけでなく『プラットフォーマーになりたい』と高い理想を掲げてくださいました。これまでにない新しい社会インフラをつくり、世に浸透させるには、同じ熱量を持っているパートナーとタッグを組むのが最適です。東武鉄道のビジョンを実現しながら、ぜひ一緒に事業を開拓していきたいと感じました」

清藤さんは「様子見する企業が多いなかで、東武鉄道の熱意がとくに光っていました」と舞台裏を明かす

では、現行のアナログ・デジタル認証が抱える課題はなんだろうか。ユーザー視点から、安齋さんはセキュリティ面の不安を指摘する。

 

「いま多くの企業が独自でシステムを構築し、お客さまの募集をしています。あちこちに個人情報を登録したら、その数だけ情報漏洩のリスクがあります」

 

さらにオペレーションにも課題は残る。昨今、労働力不足を背景に、セルフレジの導入が進む。しかしアルコールの販売では、年齢確認のために有人レジを利用しなければならない。またスポーツクラブでは、常駐スタッフを置かないことで会員証の貸し借りによる「なりすまし」が問題視されている。現行のままでは無人化に課題が残るいま、東武鉄道と日立製作所のタッグで何が実現できるのだろうか。

 

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利用シーンに応じて指静脈認証または顔認証を使い分け

両社が立ち上げる「生体認証を活用したデジタルアイデンティティ共通プラットフォーム(以下:本プラットフォーム)」は、クラウド上に保存されている個人情報(デジタルアイデンティティ)に指の静脈や顔をかざすだけで安全にアクセス可能だ。本人確認・決済・ポイント付与・キャンペーン応募といったサービスを、スマートフォンやICカードなどを提示することなくワンストップで利用できる。

あらかじめ登録してある個人情報には、生体認証のたびに安全にアクセス

導入するメリットは多岐にわたる。まず、あらゆる事業者が広く使えるプラットフォームであること。これまで導入する企業が独自で情報を管理するシステムを構築・運用していたが、本プラットフォームで企業は参画するだけ。利用者が店頭で生体認証をするたびに年齢確認・決済・ポイント付与などが実現できる。安齋さんは「お客さまも、個人情報を登録するのは一度だけ。これまで企業ごとに生じていた煩雑な手続きから解放されます。登録内容を更新したい場合も、共通プラットフォームを書き換えれば一括変更できます」とユーザーの利点も明かす。

共通プラットフォームの登録内容は一括変更され、参画企業のサービス提供時に反映される

指静脈認証・顔認証の2種が使い分けできることも、企業側の導入メリットといえるだろう。 正確性や安全性が求められる決済においては、セキュリティの高さが特徴的な「指静脈認証」を。施設の入退館などでは、指静脈に比べて精度は下がるものの反応スピードが速い「顔認証」を。安齋さんは「本プラットフォームに参画してくださる企業が、利用シーンによって認証方式を選べることも使い勝手のよさにつながるのでは」と語る。

利用シーンに応じて認証方式を選ぶことができる

発想を転換し、漏洩しても大丈夫なセキュリティ管理へ

一方で、このプラットフォームを導入した事業者すべてに個人情報が共有されるのかと疑問を覚え、指静脈や顔の情報の盗難リスクについて不安に感じる企業やユーザーもいるだろう。その懸念点を払拭するのが、セキュリティを担保する日立製作所の特許技術「PBI(Public Biometric Infrastructure:公開型生体認証基盤)」だ。

 

ID・パスワードによる認証であれば、情報漏洩したらパスワードを変更すればいい。しかし替えのきかない生体情報が漏れてしまったら、変更しようがない。そこで日立製作所が開発したのが、生体情報を復元できないデータに変換する技術だ。

PBIは、暗号化された電子署名を用いて相手との安全な金融取引を実現する「ブロックチェーン」 とも近い技術ではなかろうか

日立製作所のPBIは、「公開鍵」のみをクラウド上に保管し、「秘密鍵」は生体認証のたびに生成する。「公開鍵」と照らし合わせて本人確認をしたら、「秘密鍵」の生体情報はすぐに消去される。クラウド上で2つの鍵が揃うことはない。鍵に紐づく生体情報は暗号化され、対となる鍵の片方(公開鍵)しかクラウド上には存在しないため、個人情報にたどり着けないのだ。

 

清藤さんは「これまでセキュリティといえば、『どうやったら情報が漏れないか』に重点を置いていましたが、PBIは万が一漏洩しても大丈夫なんです。そもそもの発想を変えて生体情報を管理します。また、生体・個人情報を抱えるリスクは東武鉄道と日立製作所が引き受けるので、安心してこの本プラットフォームを有効活用していただきたいです」と強調した。

東武グループでの活用事例を増やし、将来的には「社会インフラ」へ

東武鉄道と日立製作所は、このデジタルアイデンティティの共通プラットフォームをスーパーマーケットの「東武ストア」に先行導入する。2023年度中のサービス開始を目指すというが、実証実験のスタートにスーパーマーケットを選んだのにはどういった狙いがあるのだろうか。

 

「一度登録するだけで、毎日の買い物が格段に便利になる。この利便性をより実感いただけるのが、日常使いのお客さまが多い東武ストアであると考えました」と安齋さん。指の静脈を用いた認証方式で、年齢確認が必要なアルコールの販売・決済・ポイント付与・キャンペーン応募などを、ワンストップで可能となる。

これまで年齢確認できる有人レジでしか買えなかったアルコールが、無人レジでも指静脈認証で購入できる

東武ストアでの実証結果を踏まえ、ゆくゆくは東武グループ内で業種を横断した利用を視野に入れる。「他社線に乗り入れる鉄道は精算の関係ですぐ導入することは現実的ではありませんが、ぜひ実現させたいですね」と、安齋さんは言葉に力を込める。活用事例を増やして、東武グループがロールモデルになることでグループ外の導入を促進し、将来的にはインフラとして社会全体に浸透させたい構えだ。

東武鉄道・日立製作所が見据える、デジタルアイデンティティの共通プラットフォームの今後

これら一連のビジョンを、東武鉄道と日立製作所は2023年8月の記者会見で発表した。本プラットフォームには、さまざまな事業者に参画してもらいたいと伝えたところ、とくに事業を多角経営する同業の鉄道会社から引き合いの声が挙がったそうだ。そのほか、スーパーマーケット、百貨店といった小売業界からも反応があったという。両社タッグの結晶といえる本プラットフォームは、決済が発生する業種のビジネス推進やDXに好都合といえるだろう。

 

東武鉄道株式会社

株式会社日立製作所

 

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