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コワーキングスペースにFabスペースを併設し、アイデアをかたちにする

コワーキングスペース、イベントスペース、シェアオフィス、ものづくりFabスペースの4つのサービスを中心に提供しているThe DECK。一般的なコワーキングスペースと異なる点は、3Dプリンターなどのデジタルファブリケーション機材をレンタル利用できる「ものづくりFabスペース」を備えていることだ。クリエイティブ業務にもDX(デジタルトランスフォーメーション)が浸透してきた昨今、このスペースではデジタルデータをもとに、アイデアをすぐかたちにすることができる。コーポレート・ミッションに「Make It Happen(実現する)」を掲げ事業を推進してきた The DECK 株式会社 代表取締役 CEOの森澤友和さんに、設立の経緯やその意義について話を聞いた。

代表取締役CEO 森澤友和(もりさわ ともかず)さん プロフィール

高知県出身。外資系製薬企業のITシステムプロジェクトマネージャーや海外留学、コンサルティング会社を経て、2016年よりThe DECK 株式会社の立ち上げに参画。2018年 代表取締役 CEOに就任。ものづくりもできるコワーキングスペース・シェアオフィスThe DECKの設立に携わる。現在はデジタルファブリケーション機材を使ったものづくりやプロトタイピングの支援、企業のオープンイノベーションの取組支援やスタートアップ支援など、さまざまなアイデアを実現するための場を提供している。

「アイデアをすぐかたちにできる」ものづくりの場を提供

「アイデアが浮かんだときに、すぐにかたちにできることに意義があるんじゃないかと思ったんです」

代表の森澤さんは、コワーキングスペースに「ものづくりFabスペース」を併設した理由をそう話す。

 

The DECK 1階、コワーキングスペースの奥の扉を開けると、さまざまな機材が並んだものづくりスペースが現れる。3Dプリンターやレーザーカッター、ガルバノ式レーザーマーキングマシン、CNC切削加工機、カッティングマシン――。ここには制作データをもとに加工ができる各種機材がそろえられていて、誰でも時間単位でレンタル利用ができる。

さまざまな機材がそろっている、ものづくりFabスペース

「人は誰でも、日々のふとした瞬間にアイデアが浮かんでいるはずです。でも、そのほとんどがその日のうちに、考えている人の頭の中だけで消えてしまっていると思うんです。なぜなら、それをかたちにするための次の一歩が思いつかないから」と森澤さんは言う。

実現していたら世界が一変する。そんなアイデアが過去に誰かの頭の中で浮かんでいたはずなんです。もし、そうしたアイデアがかたちになっていたら、この世の中はもっとよくなっていたかもしれない。せっかくのアイデアが消えてしまうなんてもったいない。そんな想いから、アイデアを実現する第一歩として“試作品をつくる”ことができる場の提供を考えた。

「試作品ができると、そこから議論を進めたりアイデアを詰めたりしやすくなると思うんです。アイデアを具現化するきっかけになればと、アイデアや出会いが生まれやすいコワーキングスペースにFabスペースを併設しました」

 

利用しているのは、学生や会社員、プロのクリエイターなど。個人的な創作物や、仕事で使うためのプロトタイプ、変わったところでは「鳥人間コンテスト」で使う素材の作成など、制作物はさまざまだ。

機材を利用したいけれど、費用や環境などの理由から自宅には置けない人、一時的に利用したい人にとって、なくてはならないスペースとなっている。

3Dプリンターで製作したサンプル

The DECK をオープンした2016年頃、関西ではこのような機材を備えたデジタルファブリケーションスペースは6か所しかなかったが、現在は森澤さんが把握しているだけで20か所ほどに増えているという。需要が高まっていることは確かだが、認知度はまだ低い。「3Dプリンター」の存在は知っていても、現物を見たことはないという人が多く、「利用する」までのハードルは高いようだ。

だからこそ森澤さんは、コワーキングスペース、イベントスペースの隣にFabスペースがあることに意義があると考えている。

「アイデアが浮かんだときに、そういえばあそこに行けば機材が使えたな、かたちにできるかもしれないなと思っていただけるようになればうれしいですね」

The DECK は、このようなスペースとサービスを提供することで、いろいろなアイデアの実現やデジタルでのものづくりを後方支援している。

Fabスペースには専任スタッフがいるので、わからないことは教えてもらえる

事務作業をシステム化し、ウェットなコミュニケーションスタイルを実現

The DECK ではコロナ禍以降、コワーキングスペースの運営に特化したシステムを導入している。事前にオンラインで利用登録をすれば、クレジットカードやQRコード決済などキャッシュレスで支払いを済ませることが可能だ。利用者にとっては便利なうえ、感染症予防にもなる。

 

一方、運営側にとっても「現金を扱わなくてよい」「会計処理が不要」などメリットは大きい。そして、このシステム化は単なる作業の効率化に終わらず、事業の運営スタイルにも関わっている。

「コワーキングスペースでのスタッフのコミュニケーションスタイルは大きく2つにわけられると思います。それは、淡々と受付業務を行う、ある種ドライなコミュニケーションスタイルと、それとは対象的に積極的にコミュニケーションを図りつながりを生むウェットなコミュニケーションスタイルです。弊社は後者のスタイルを目指していますので、システム化によってスタッフの時間的余裕をつくることが必要でした」と森澤さんは説明する。

 

ウェットなコミュニケーションをとろうとすれば、どうしても時間がかかる。だが、それによって利用者から引き出せる情報があり、わかりあったり打ち解けあったりすることもできる。

The DECK は単なる「スペース」を貸し出しているわけではない。人と人、アイデアとアイデア、プロジェクトとプロジェクトを結び、イノベーションを起こし、人の想いを実現する場である。そのために利用者とのウェットなコミュニケーションは不可欠なのだ。

 

よって、「スペースの提供」の先には、起業準備支援サービス「WING」や各種イベントの開催、バーチャルオフィスなどのサービスがあり、あらゆる人のアイデアの実現をサポートする。

コーポレートミッションは「Make It Happen」。これには「困難を伴うアイデアを実現できる場でありたい」という想いが込められている。

 

今後は英語版のWebサイトを充実させて外国人にも利用しやすくすること、スタッフ(コミュニティーマネージャー)の成果や能力をデータ化・可視化し、優秀な人材を正確に評価・教育できるようにすることが課題だという。

スタッフが全員英語を話せるため、外国人の利用者が多い

いまの時代に合った働き方のニーズを満たすコワーキングスペース

「コワーキングスペースは異業種の人との関わりや予期せぬ出会いがある場所。自社と同じ業界でなくても、広く外の事例を見ていくことで、発想が広がっていくのではないか」と森澤さんは話す。

 

コロナ禍以降、世の中ではテレワークが推奨されているにも関わらず、テレワークに適したコワーキングスペースの存在はあまり知られていない。

最近はカフェで仕事をする人も増えているが、長時間利用するのであれば、コワーキングスペースのほうが作業に向いているのは明らかだ。

 

「The DECK は駅直結ですが、郊外にもコワーキングスペースは増えてきていますので、『コワーキングスペース』『地名』で検索して、近くの施設を探してみてほしいですね」

 

Wi-Fi環境が整い、快適な作業や打ち合わせができる場所を見つければ、いまの時代に合った働き方ができる。

さらにそこで新しい出会いがあれば、新たな事業のアイデアが生まれたり、自社のDXの発想へつながったりするかもしれない。

今後もThe DECK はそんなニーズに応えられる場であり、あらゆる人々の「Make It Happen」をサポートしていくことだろう。

 

執筆

山王 かおり

大阪府在住のフリーライター。25年にわたり、雑誌、新聞、社内報、Webサイト、行政刊行物などさまざまな媒体で取材・執筆をおこなう。日本酒を愛飲するきき酒師(SSI認定)でもあり、取材した酒蔵は全国100社以上。業界誌『酒蔵萬流』でも執筆中。趣味は、酒のアテ作り、ハシゴ酒、全国キャンプ旅。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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