ヨガは現代人の体と心を解きほぐすエクササイズのひとつとして確固たる地位を得ている。そんなヨガに出会い、人生が劇的に変わった若者がいる。
渡邉翔太(わたなべ しょうた)さんは中学・高校・大学と長く続けたサッカーで多くの怪我を負い、それを克服するリハビリの中でヨガに出会い、その哲学にあっという間に魅了されたという。ヨガの素晴らしさを広める活動には、SNSやZoomといったデジタルツールの存在が欠かせない。「世界とつながるためのヨガ」をめざす彼に、これまでの道のりとその中で生まれたDXによる変化、そして未来に見据えるものについて話を聞いた。
渡邉 翔太(わたなべ しょうた)さん プロフィール
1998年生まれ。福岡県太宰府市出身。中学・高校・大学ではサッカー部に所属するが、怪我に見舞われることも多く、大学1年生のときには肩の脱臼により1年間サッカーができない状況に。そんな中でヨガと出会い、ヨガに一気に引き込まれ、ヨガインストラクターの資格を取得した。
2022年8月現在、大学生活とヨガ講師の活動を両立させ、全国各地でヨガを教える「1万人ヨガチャレンジ」の講師、オンラインヨガアカデミー「THANKS Yoga」代表として活躍している。
怪我に悩み出会ったヨガで“人生の余白”を見つけた
幼い頃からサッカーを楽しみ、中学高校、大学とサッカー部に所属し、キャプテンを務めるほどにサッカーに情熱を注いだ渡邉さん。しかし、大学1年生のときには肩を脱臼する大怪我をし、1年間サッカーができない状況に追い込まれる。
大好きなサッカーに打ち込めず、リハビリを繰り返すだけの閉塞感を打破したいと思い悩む中、たまたま目に止まったのが、ヨガレッスンの案内だった。
「レッスンが終わったあとの充足感、自分の心に集中できる環境にすっかり魅了されました。すぐにインストラクターの資格が取れるコースに申し込み、ヨガインストラクターの資格を取得しました」
ヨガはサンスクリット語で「つながり」を意味する。もともとはインドを発祥とし、アーサナー(身体的なポーズ)を通じて瞑想の状態へ近づきながら心を整え、悟りにもっていくための動きのひとつだ。
中でも渡邉さんの心を動かしたのは「過去や未来ではなく、いまに集中し、自分の体と向き合うことが大切」というヨガの教えだった。
「サッカーに打ち込んでいた時期は、『レギュラーになるべき』『キャプテンとしてこうあるべき』など、他人からの評価を気にしながら、自分の理想を追い求めてばかりでした。だから『力を抜いて本来の自分と向き合う時間』であるヨガがとても新鮮で、もっと知りたくなったし、周りにも勧めてみたくなりました」
1年後、怪我から復帰した渡邉さんは、大学のサッカー部でヨガを紹介することに。「部員と協力してヨガをやっていくうちに、みんなの笑顔が増えてきました。『怪我ばかりだったサッカーに、ヨガで貢献できた』。その実感があったから、次のステップへ進めたんだと思います」
渡邉さんの行動は早かった。「ヨガの魅力を知ってほしい」という純粋な気持ちで2019年に始めたのが、ボランティアでおこなう「1万人ヨガチャレンジ」だ。「人生にたくさんの希望を与えてくれたヨガを、さらに多くの人に広めたい」という強い思いが渡邉さんを突き動かし、学業のかたわら、大学内だけにとどまらず、原付バイクで全国をめぐる日々が始まった。
オンラインで広がった「1万人ヨガチャレンジ」
現在も活動が続く「1万人ヨガチャレンジ」の主な告知には、ホームページやSNSなどのデジタルツールを活用している。SNSやホームページで「1万人ヨガチャレンジ」の活動を見かけた人から「うちでもヨガを教えてほしい」と声がかかることもあれば、たまたま移動中に同じ宿に泊っていた宿泊客が飛び入りで参加することもあった。そのいずれにも、ヨガを通じて人々の間に笑顔が広がっていく実感があった。
「僕の根底にあるのは『人が好き』なんだと思います。ヨガのおかげでたくさんの方に出会えましたし、出会いの数だけ価値観、暮らし、文化、歴史なども知ることができました。
ヨガに出会い、僕の世界は180度変わりました。沢山の優しさに触れたので、もっと自分を磨き、これから出逢う人に貰った恩を紡いでいきたいです。SNSなどのデジタルなツールは、その出会いをつなげるものなのかもしれませんね」
2022年で「1万人ヨガチャレンジ」も4年目に入り、すでに参加者は2,100名を超えた。
たくさんの人と出会い、互いの思いや悩みをヨガを通じて共有しながらヨガへの学びを深めていった渡邉さんは、より多くの人にヨガを知ってもらうためにZoomを使ったヨガのオンラインアカデミー「THANKS Yoga」を立ち上げる。
オンラインであれば、場所や時間にとらわれることなくヨガに集中できる。Zoomというツールを生かし、ヨガを日常の中に取り入れることで、さらにヨガに親しみを感じる人も増えてきた。
受講者は受講者は学生から70代まで、年代も性別もさまざまだ。「画面越しのレッスンではあるものの、みなさんの笑顔を見たいから毎日続けられている」「ヨガをやっていると笑顔が増えて、毎日が過ごしやすくなった」「『自分はこうあるべき』という思考の枷が取れた」など、渡邉さんと同じように感じ、笑顔になる受講者も増えていく。
「受講者さんから『アカデミーに入ってヨガが習慣となり、毎日が楽しくなりました。忙しい毎日だけどヨガの時間は自分と会話する時間です』という感想や、年配の方や病気や事故でヨガスタジオに通えない方から『家にながら色んな先生のヨガに触れることができることが楽しいです』というような感想をいただいています。
さまざまな状況にある受講者さんにとって、オンラインというツールを使いヨガを日常に取り入れるという点に大きく貢献できているのだと感じられて、とてもうれしく思います」
世界中にいる講師のレッスンをデジタルを使って届ける
Zoomであれば、時間も場所も、そして国境も関係ない。劇団四季のダンサーなど国内の著名な講師のほか、イギリス、インドなどの海外在住の講師にもオンラインで参加を呼びかけた。いまでは哲学、ピラティス、インド舞踊、リラクゼーションなどのさまざまなレッスンが、オンラインを通じておこなわれている。
「コミュニティのめざすべき姿は“球体”だと思っています。僕がつくったTHANKS Yogaというコミュニティに講師のみなさんの人間性が加わることで変化が起き、二次元的な場所から三次元的な状態へコミュニティ自体が深まり、受講者さんの学びもさらに深まっていく。デジタルのツールがその一助になっているのは間違いありません」
そして渡邉さんはさらに次のステップに進もうとしている。2022年9月の大学卒業後、インドへヨガを学びに行くという。
オンライン・オフラインそれぞれの良さをレッスンで生かす
今後は世界各国、国籍や宗教、人種を超えていろいろな人と一緒にヨガをおこないたいという大きな夢を、渡邉さんは抱いている。
「1万人ヨガチャレンジ」はその足がかりであり、一緒にポーズを取り、呼吸をするだけで、そこにいる人たちと心が通じ合うことができるという、渡邉さんの中の大きな証明になるものでもあった。
DXへ導いてくれるオンラインのツールは、これからもどんどん新しいものが出てくるのだろう。企画中の福岡大宰府での大規模ヨガイベント『ヨガフェスタ』もデジタルツールを駆使して実施されることになる。
Zoomを使ったオンラインヨガのように、デジタルツールを適切に取り入れながら、誰もが気軽にヨガを行える環境づくりをおこなうのも、自分たちの役割なのではないかと渡邉さんは語る。
「ヨガが生み出すのは笑顔。その人がもつ本来の笑顔をヨガが引き出してくれるのを、これまでに何度も見てきました。ヨガは、人、そして世界を探求するツールになるはず。その想いを大切に、これからも笑顔をつなげていきたいですね」
執筆
山内ゆかり
ライター・インタビュアー。企業、医療系、建築系などのメディアの企画・取材・執筆を担当。ジャンル問わずインタビュー記事が得意。趣味はピアノ演奏で講師経験あり。現在も担当講師と意見交換を楽しみながらレッスンを継続中。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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