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「DXで、共に働くを幸せに」震災を機に大変革を遂げた老舗文具店・高山の軌跡

仙台市中心部から電車で約30分の場所に位置する宮城県塩竈市。その地で1946年に創業した株式会社高山は、もとは文具店だった。それから70年以上が経ち、いまでは最新のデジタルツールを駆使して極限まで生産性を高め、そのノウハウをもって他社をサポートする DX支援事業をおこなっている。

 

地元で愛され続けた老舗文具店が、いかにして全国から依頼が舞い込む DX企業へと変革を遂げたのか。2022年に代表取締役に就任した、3代目社長の高山 智壮さんに話を聞いた。

高山 智壮(たかやま ともたけ)さん プロフィール

1985年、宮城県塩竈市生まれ。2008年に中央大学経済学部を卒業後、三井住友銀行に入行。インターネットバンキング業務などに携わる。退行後、2014年に家業である株式会社高山に入社。サイバーセキュリティ事業を立ち上げる。2022年には代表取締役に就任し、自社の DX事業を推進している。

震災を機に家業を継ぐことを決意

宮城県塩竈市にある高山本社前(写真提供:高山)

株式会社高山は、高山さんの祖父が1946年に現在の場所に創業。文具店として商いをスタートし、その後は事務機器の販売もおこなうようになった。

 

おもに地元の顧客向けに商売をしていた高山が、1つ目の転機を迎えたのが2014年。東京で銀行員をしていた高山さんが、家業に戻ってきたタイミングで、サイバーセキュリティ事業を立ち上げたことがきっかけだ。高山さんは、銀行員時代にインターネットバンキング事業に携わっていた知識と経験を活かし、各企業に向けてサイバーセキュリティの啓蒙活動を始めた。

 

もともと家業を継ぐ気はなかった高山さんだったが、2011年3月に起きた東日本大震災を機に考えを改めることになる。震災時、塩竈市にある高山本社は津波による大きな被害を受けた。「このまま東京で銀行員として働いていていいのだろうか」。心の中にそんな迷いが生まれたという。

 

その後、創業者である祖父が遺した「必ず会社を引き継いでほしい」というビデオメッセージにも心を動かされ、高山さんは事業を継承し東北に貢献していきたいという決意を固めた。

 

それが変革の第一歩となったのだ。

宮城県内でいち早く「全社テレワーク」を導入

社内オンライン会議の様子(写真提供:高山)

2020年3月、高山の事業が大きくデジタルシフトすることになる。コロナ禍がまさに始まろうという時期に、宮城県内でいち早く、全社でのテレワーク導入に踏み切ったのだ。いまでこそテレワーク、リモートワークは働き方の1つとして広く認知されているが、2020年3月の時点ではまだそれほど浸透していなかった。なぜ、高山は早い段階でテレワークを実践できたのか。

 

「もともと、この先どんどんオンライン化が進んでいくだろうと予測していたので、先の時代を見据えて社内のインフラを整えていたんです。ただ、一気にテレワークに踏み切るといったことはしていませんでした。地方においては、まだフェイス・トゥ・フェイスの商談が中心だろうと考えていたからです。それが、コロナ禍をきっかけに一変しました」

 

具体的には、「社員1人ひとりに社用の PC とスマートフォンを配布する」「どの場所にいても社内サーバーにアクセスできるようにする」「誰がいまどんな仕事をしているのかをテクノロジーの力で可視化する」などの対策をおこなっていたそうだ。

 

テレワークを導入する企業がまだ少なかったことから、同年4月にはテレワークのセミナーを他社から依頼されるようになった。これを機に、現在の高山のメイン事業である「DX を活用した支援事業」がスタートする。

DX変革で得たノウハウを顧客の課題解決に活かす

DX体験ツアーでは、高山さん自らが自社で実践してきた DX施策について語っている(写真提供:高山)

「まず、自社の企業変革の一環としてデジタルツールを導入します。使っていくうちに、企業の課題を解決するためのノウハウがたまっていくので、それをほかの企業でも役立てていただいています」

 

2022年1月、高山さんが代表取締役に就任し、そこから DX関連のサービス展開がより加速していく。そのなかのひとつが、「DX体験ツアー」。これは、これまで高山が実際におこなってきたデジタル化・DXのノウハウをつめこんだ来社型のイベントだ。

「デジタルツールをどのように業務に活かしているか」をより具体的に学べる(写真提供:高山)

高山の現在のオフィスは、もともと文房具を販売していたスペースだった。それをリニューアルし、生産性が向上する空間へと生まれ変わらせたのだという。

 

「DX体験ツアー」では、まず高山のオフィスに足を運んで雰囲気を肌で感じ、それから高山がいかにして短期間で変革を起こしたのかというストーリーを高山さんから聞く。もちろん、高山で実際に導入しているツールを、事例と一緒に見ることも可能だ。参加者はこれらのプログラムを通して、自社の DX に参考になりそうな点を探していく。

 

高山さんはこれを「ツールを販売するだけで終わらない。お客さまの悩みに寄り添いながら、伴走して支援していくサービスです」と話す。

DX によって得られた成果

DX推進により、採用に強い企業へと変わった高山(写真提供:高山)

「DX とは、デジタルを通した企業変革です」と高山さんはいう。昔ながらの文房具店、同業他社がひしめく事務機器販売店の実情を見て、「このままではいけない、変わっていかなければ」と危機感を募らせていたそうだ。

 

デジタル化を進めたことで、高山は新規事業の立ち上げなど、大転換を果たすことになる。結果、人時生産性が昨年度よりも123%、採用応募数は2年間で500%もアップし、採用に強い会社へと生まれ変わった。

 

「今まで不可能だと思っていたことが、デジタル化を進めることによってすべて可能になっていきました」と高山さんは話す。

 

どの企業にも抱えている課題があるだろう。収益、採用、ガバナンス、リスクヘッジ……。それらの問題を、デジタルツールと蓄積したノウハウを組み合わせることで解決していける。さらに生産性を向上させ、企業として高みを目指すことができる。DX にはそうした力があると、高山さんは確信している。

DX は目的でなく、手段である

「目的はともに幸せを目指すこと。DX はそのための手段です」と高山さん(写真提供:高山)

DX を通じて自社に大変革を起こした高山さんだが、「大切なのは DX よりもまず EX だ」と語る。EX とは Employee Experience の略で、従業員が働くことで得られる体験のことを指す言葉だ。つまり、働く人の幸せや顧客に付加価値を提供することが第一の目的で、DX はそのための手段なのだという。

 

「自社のビジョンを実現させるために DX に挑戦したい、でも何から手をつけたらいいかわからないという企業は少なくありません。私たちは、そうしたチャレンジをしたい方々のお役に立ちたいという想いでいるとともに、これからも変革を進めていきます」

 

株式会社高山

 

執筆

岩崎 尚美

宮城県出身、仙台市在住のフリーライター。ビジネス系記事のライティングから恋愛アプリのシナリオ制作までおこなう雑食系もの書きです。日々たくさん生まれる「やりたい!」を少しずつ「できる」に変えていけたら素敵ですね。2児の母。
HP:https://nanaplot.com/

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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