”戦う美容師”菅原美優さんに「やりたいことを見つけるために必要なこと」を聞く

2022年6月25日、K-1初の女子大会「K-1 RING OF VENUS」が、国立代々木競技場第二体育館でおこなわれます。その大会で、初代K-1女子アトム級王座決定トーナメントに参戦する菅原美優さん。菅原さんは第3代Krush女子アトム級王者でありながら、現役の美容師としても働く「戦う美容師」。パラレルキャリアを実践する菅原さんに、お話を聞きました。

 

菅原美優(すがわら みゆう)さん プロフィール

菅原美優(すがわら みゆう)さん プロフィール

1999年生まれ、東京都出身。格闘家をしながら美容師としても働いている。小学1年生の時に父の影響で空手を始め、高校在学時にK-1アマチュアに出場。全日本大会チャレンジBクラストーナメントで3度の優勝を果たす。2019年1月にプロデビューし、2020年7月からスタートした第3代Krush女子アトム級王座決定トーナメントに出場し、優勝。

格闘家✕美容師のパラレルキャリアを実践

――菅原さんは格闘家と美容師を両立し、パラレルキャリアを実践しています。菅原さんが感じているパラレルキャリアの良さを教えてください。

 

私は1つのことだけやっていると、いっぱいいっぱいになってしまうタイプなんです。2つやることがあると、いろいろな角度から物事を見られるので、バランスが取れるのかなと思っています。

 

――格闘家と美容師は全然違うお仕事ですが、それぞれの経験が仕事に活きることはありますか? 

 

美容師は立ち仕事ですし、荷物運んだりするので結構体力が必要なんですよ。それは格闘家の経験が活きていると思います。美容師をしていると、お客さんとお話しすることが多いです。会話の中で、格闘技に対するお客さんの率直な意見や感想を聞けるので、新しい発見があります。格闘技をやっているだけでは気づけないことに、気づかせてもらえますね。

 

――美容師としてのお仕事は、どのようなことをしているのでしょうか?

 

まだアシスタントなので、カラーやシャンプーなどのカット以外の部分を担当しています。マッサージもしていますよ。

パラレルキャリアで苦労したこと

パラレルキャリアで苦労したこと

 

――チャンピオンにシャンプーやマッサージをしてもらえるってすごいですね! 菅原さんがパラレルキャリアを実践していて、大変だと感じることを教えてください。 

 

最初しんどかったのは、時間の使い方ですね。美容師の仕事だけでも時間に追われるんです。朝早くから働いて、帰りは終電になることもよくあります。営業時間は11時から21時までなんですけど、営業時間前と後にカラーやパーマの練習をします。

忙しいとお昼ごはんを食べられなかったりするので、入社して1年目に4キロ痩せました。でも、2年目からは少しずつ慣れてきて、時間の使い方も分かるようになりました。後輩ができてからは指導もするようになったので、毎年課題は増えますね。

あと、試合後に出勤すると顔に傷やアザができていることもあるので、私が格闘技をやっていることを知らないお客さんに驚かれます(笑)。

 

――たしかに知らないと驚きますね(笑)。さすがに試合の翌日は、美容師のお仕事はお休みですか?

 

試合に勝てば、翌日に会見があるので休みです。負けてしまうと会見がないので、普通に出勤します。アザだらけで仕事していたこともありますね(笑)。

勝っても何日も休まないです。働いている美容室の運営会社がスポンサーをしてくれているので「休んでもいいよ」と言ってくれるんですけど、仕事しています。試合に勝ってお店に行くと、みんな喜んでくれるし、お祝いしてくれるんです。みんなの感想を直接聞けるのが楽しみなので、すぐに仕事に行っちゃいます。

1日のタイムスケジュール

――いまは、6月25日の大会に向けて格闘技の練習が大変だと思います。1日のタイムスケジュールはどのような感じですか?

 

いまは朝から15時くらいまで美容師の仕事をして、早上がりさせてもらって16時以降に格闘技の練習というスケジュールです。練習後に美容師の仕事があれば、また仕事に戻ることもありますね。格闘技の練習は、週に6日しています。

 

――練習後に美容師の仕事に戻ることもあるんですか! 大変ですね…。

 

練習終わった直後が一番しんどいので、なかなかつらいですね。私の場合は減量がないので、そこは救いです。

格闘家になろうと思ったきっかけ

試合中の菅原さん

(c)K-1

 

――菅原さんは、お父さんの影響で小学1年生のときに空手をはじめたんですよね。そこからK-1をはじめようと思ったのはなぜですか?

 

空手をやっていて、格闘技をみることにもハマったんです。魔裟斗さんがK-1で活躍されていた時期で、日本武道館まで試合を見に行っていました。魔裟斗さんよりもブアカーオさんが好きでした(笑)。

 

――空手ではなく、ムエタイの選手が好きだったんですね。

 

もちろん空手も好きなんですけど、子どもの私にはパンチよりも蹴りのほうがカッコよく見えたんです。前蹴りで相手を吹っ飛ばしたり、ミドルやローで相手を蹴るのを見るのが好きでした。

 

――そう言われてみれば、菅原さん自身も前蹴り多めですよね。

 

前蹴り多いですね(笑)。気づいたら前蹴りばっかり打つようになっていました。空手の影響もあると思います。空手の大会で顔面に前蹴りを入れると「技あり」になるんです。技あり2回で「一本」になるので、顔面に前蹴りを2回入れたら勝ちになります。

小学生のときは、男女混合で試合していたんですよ。50キロ未満の階級でしたが、私は20キロ前半くらいしかなかったんです。男の子と打ち合ったら絶対勝てないので、顔面に前蹴りを入れたら逃げるという戦法で勝つようにしていました。それが、いまのスタイルにつながっているかもしれません。

 

――小学生の試合って男女混合なんですね。格闘技は、小学生の頃から休むことなく続けているのでしょうか?

 

格闘技から離れていた時期もありました。小学生のころ、空手で男の子にアゴやアバラを折られることがあったんです。本当に嫌で、中学生の時に高校受験を理由に練習しなくなりました。でも、練習はしないけど道場には通っていたんです。お父さんは道場に通っていたし、途中でお母さんも通いはじめたんですよ。私は一人っ子なので、両親が道場に行くと家でひとりぼっちなんです。それが嫌で、練習はしなくても道場には通っていました。完全に格闘技から離れたことはないですね。

美容師になろうと思ったきっかけ

美容師になろうと思ったきっかけ

 

――美容師には、いつからなりたいと思っていたのでしょうか?

 

小さい頃からメイクに興味があったんです。小学校の高学年からYouTubeでメイク動画を見ていました。お母さんに子ども用の化粧品を買ってもらって、見様見真似でメイクしていましたね。この頃から化粧品が好きで、お小遣いで化粧品を買っていました。

高校生になってから、ブライダルの式場でアルバイトをした経験も大きいです。そこで新婦さんにヘアメイクをする方を見て「こういう仕事をしたい」と思ったんです。それがきっかけで美容の専門学校を目指しました。専門学校の合格通知が来た後に、K-1のプロデビューの話がきたんです。ちょうどタイミングが重なったんですよね。どちらもやりたかったので、両立しようと決めました。

いまはサロンワークをしていますが、将来はブライダルも含めてメイクやヘアメイクの仕事をしたいです。最近、K-1の仕事で自分がヘアメイクをしてもらう機会が増えてきたんですけど、そういう現場仕事がしたいんです。格闘技のない生活は考えられないので、引退後も選手のヘアメイクとかで関われたらいいなと思っています。

 

――対戦相手のヘアメイクを菅原さんがする、なんてこともあるかもしれませんね。

 

あはは(笑)。それ面白いですね。

「やりたいこと」を見つけるために必要なこと

――菅原さんは「やりたいこと」をやれていると思いますが、なかなかやりたいことが見つからない方もいます。どうすれば、やりたいことが見つかると思いますか?

 

何事も試しにやってみることが大事だと思います。やってみることで、視野が広がっていきます。私は好奇心旺盛で、とりあえずやってみるタイプなんです。友だちの趣味にもついていきますし、趣味の釣りもお父さんについていったのがきっかけです。海釣りからはじまり、川釣りもしています。釣りをしているうちに船にも興味が出てきて、今度は船舶免許を取りたいなと思っているんです。こんな感じで広がっていきます。

最初は興味のないことだとしても、その中で楽しいポイントを見つけています。

 

――試しにやってみることが大事なんですね。すでに「やりたいこと」が決まっている場合、それを実現するためには何が大事だと思いますか?

 

繰り返し続けることが大事です。めげずに一生懸命やってほしいですね。ひたすらやっていると、できることが増えていきます。そこから、違うやりたいことが生まれるかもしれません。

菅原美優さんの「やりたいこと」

菅原美優さんの「やりたいこと」

――このメディアのコンセプトは「やりたいこと」を「できる」に変えるです。菅原さんの今後「やりたいこと」を教えてください。

 

6月25日の大会で、王者の座を何が何でも獲りたいです。後のことは一切考えていません。K-1初の女子だけの大会を、あれだけ大きい場所(国立代々木競技場第二体育館)でやってもらえるのはうれしいですね。大会の1週間前までは美容師の仕事と格闘技の練習をして、それ以降はしっかりと身体を休めて大会に臨みたいと思います。

 

(撮影:ナカムラヨシノーブ)