大阪・岸和田市を拠点に、関西全域でユニフォームのリースやクリーニング事業を展開する、株式会社エスオーシー(以下、SOC)。1980年に創業し、一般家庭向けのクリーニングサービスの提供を開始した。その後、医療・老健施設を中心に、産業用クリーニングに軸足を切り替え、現在では9つの工場・拠点を開設するまでに事業規模を拡大している。着実に成長を続ける安定した経営基盤を下支えに、業界に先駆けて取り組んできたのが、仕事の効率化に繋がる ICチップでの商品管理や工場のオートメーション化だ。アナログだった業務を改善するため、どのような苦労を乗り越え、この試みを結実させたのだろうか。専務取締役を務め、ICチップの導入などを推進してきた、善野 裕宣さんに話を聞いた。
善野 裕宣(ぜんの ひろのぶ)さん プロフィール
1978年生まれ。大阪府岸和田市出身。大学卒業後、外資系コンサルティング会社に入社し、問題解決の技法と IT に関する技術を学ぶ。2004年に、自身の父親が代表を務める株式会社エスオーシーに入社。現在は、長男・謙一と共に、会社を引き継ぎ、事業のさらなる拡大をめざしている。
「キレイな商品をお届けすることは当たり前」
この業界は、寝具のクリーニングから始まった企業が多いと言われる中で、SOC は一般家庭向けのクリーニングから事業をスタートさせている。この原点の違いが、「成長する大きな原動力になった」と、善野さんはいう。
「みなさまもそうだと思いますが、自分の服は丁寧に扱ってもらいたいと思いますよね? ホームクリーニングでは、もともと素材が持っている質感や色合いを損なわずに、きれいにする技術が求められます。創業者である父は、そのこだわりに1つひとつ応え、細やかなところまで対応しようとしていました。現に、お客さまごとに、ユニフォームのストレッチ性や機能性、デザイン性などは千差万別です。それに応えようとする社風が今も根強く残っていることが、事業の強みになっているように思います」
「1人ひとりのこだわりに応えていく」という想いは、随所に表れている。商品の仕上げ方ひとつとっても、納品先によりロッカーの幅が異なるため、同じ種類のユニフォームであっても畳み方を変え、最適な大きさに調整している。さらに、大型の医療施設においては、より迅速に商品を届けるため、個別のロッカーに納品する取り組みもおこなっている。
「『キレイな商品をお届けすることは当たり前』というプライドを持って仕事に向き合っています。そのうえで、どこまでお客さまのご要望にお応えできるか。オーダーメイドのような仕事を提供するからこそ、価格競争で勝負することなく、事業を上昇させられるのだと思います」
兄弟で新たな頂(いただき)きをめざす
2007年、善野さんの兄・謙一さんが代表取締役社長に就任した。現在は、創業者である父が築いた事業を、兄弟2人で牽引している。また、社長交代と同時に、新たな経営理念を策定し、SOC に根付く仕事における基本的価値観を明文化。地元に息づく企業から、より広い世界をめざして新たな一歩を踏み出していく。
新たな境地をめざすための下地を作るなかで、善野さんはお客さまばかりではなく、従業員のホスピタリティを向上させる施策にも乗り出す。
「よく商いでは、『三方良し』といいますが、いままではお客さまを第一に考えていました。今後、事業を発展させていくうえでは、SOC の従業員たちに働きやすさを感じてもらい、一丸となって仕事に向き合える環境を作らなければいけないと考えました」
その想いから挑戦したのが、当時の主流であったバーコードではなく、次の時代を見通し、商品を ICチップで管理する施策だ。
「それまでは、商品の出荷と集荷はノートに手書きで管理していました。人が作業することなので、当然間違いも起きやすくてお客さまのご迷惑にもなる。また、通常業務で忙しい最中に商品を1点ずつ確認し、記帳していく作業は、従業員の大きな負担にもなっていました。この問題を改善したかったんです」
当時は、ICチップの技術が十分ではなく、一度に大量の商品を読み込むとエラーが発生するなど、結果に結びつけることができなかった。善野さんはこの時の経験を糧に、さまざまな展示会や勉強会に出かけ、自身でもデジタル技術についての学びを深めていった。
「やはり、ICチップを製作いただく外部業者の方に、クリーニング業界のイロハはもちろん、業務内容や仕事の進め方など、細やかなところまで理解してもらうのは難しい。それなら自分自身が製作をディレクションできるまで知識を深め、社内主導で進めることが大切だと学びました」
そうした試行錯誤を繰り返すなかで、SOC の業務内容に合わせ、既成の ICチップをカスタマイズし、商品管理に導入。いまでは、装置に商品を読み込ませることで、納品・出荷に加え、退職・入職などの管理も一括で効率よく対応できるようになった。
「従業員の作業負担が大幅に軽減できたことで、これまでと比べ商品の紛失などのミスも格段に減少することができました。やはり、心に余裕を持ち、気持ちよく働けるからこそ、より丁寧に仕事ができる。このICチップの導入により、そうした職場環境を築くことができました」
社会的課題を乗り越える省人化への挑戦
さらなる躍進をめざし、2023年5月には、岸和田市の岸の丘町に新社屋と工場を開設した。これまでの工場拠点では最大規模となる約8,000㎡もの広大なスケールで、次なるステップへ進むための施策に取り組んでいる。
それが、工場のオートメーション化だ。新工場では、最新鋭の装置を取り揃え、これまで人の手でおこなってきた衣類などの洗浄から乾燥、畳みまでの作業を自動化している。
「数年前、関西国際空港近くのりんくうエリアに工場を開設し、先んじて工場のオートメーション化に挑戦してきました。装置の性能を十分に使いこなせるように、従業員のオペレーションをはじめ、不具合が発生した場合の対応方法、商品特性に合わせた操作方法などについて、学習をしてきました。その成果を、新工場で一気に発揮させようという狙いです」
数々のオートメーション化に寄与する装置が並ぶ中で、とりわけ時間を費やし、SOC 独自の価値を発揮しているのが、ICチップを読み込ませるための設備だ。わずかな誤差で読み込みがエラーとなってしまうため、認識させる装置の角度などを何度も組み直し、より高い精度を実現した。
「ICチップを認識する設備を、この工場でも確立することができました。そのおかげで、商品が決まった順番で仕上げられるなど、お客さまのご要望をかなえられる体制を整えることができました。大量の商品に対応する新工場だからこそ、ICチップを認識させる設備は、より高い価値を生み出せると思いますね」
工場のオートメーション化を推し進めたのは、作業性を高めたいという思いだけではなく、社会課題を乗り越えるための一手でもあった。
「高齢化が進み、需要が増えていく一方で、少子化が原因といわれる慢性的な人手不足は SOC にとっても大きな課題となるでしょう。それは、年を追うごとに深刻化していくのは明らかなので、その課題を乗り越える手立てとしてオートメーション化を推進しています。私たちの取り組みが、たとえ小さくても、社会に対する1つの解決策になればいいなと思いますね」
IT技術で次の未来へ
デジタルソリューションを活用し、さまざまな取り組みを実践してきたSOC。今後の展望について、「これからも力強く挑戦を続けていく」と善野さんは語る。
「まだまだ、人の手が必要な作業が数多くあります。たとえば、お客さまのもとから集荷してきた衣類は、洗浄する前に必ずポケットの中身を確認します。ボールペンが入っていると汚れの原因になりますし、私物の場合は破損する可能性もあり、お客さまに多大なるご迷惑をお掛けしてしまいます。この作業に、X線を導入できないかと考えています。しかし、いまの技術では、水に浮く軽いものはX線では認識できないため、別の方法か、X線の使い方を工夫すれば可能かもしれませんね」
どこまでも、果敢に挑戦を続けるSOCは、今後、どのような未来を切り拓いていくのだろうか。
「この業界は、圧倒的に人の手が必要とされてきました。だからこそ、まだまだ成長する可能性にあふれているのです」
次の未来に向かい、これからも新たな一歩を踏み出していくのだろう。
執筆
橋本 未来
大阪府出身。
広告制作を中心に、書籍の企画・編集や記事の執筆などを行うコピーライター。
関西屈指の編集者・高田強が所長を務める、コンテンツプロダクション「エース制作所」で、各種コンテンツの企画・制作などにも従事している。
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※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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