2022年1月、さくらインターネット株式会社と株式会社sketchbookとのアドバイザリー契約を締結しました。この契約は、サービスの開発とエンジニアリング組織の構築に関する支援が目的です。
【ニュースリリース】さくらインターネット、sketchbookとアドバイザリー契約を締結
sketchbook社は、厳選した国産素材によるこだわりの離乳食・幼児食専用の食材キット「baby’s fun!(ベビーズファン)」を提供しています。このキットを使えば、1人で60人分の給食が簡単に調理でき、忙しい保育現場の人材不足解消が期待できます。
sketchbook代表の多田出昇さんと、スタートアップ支援に力を注いでいるさくらインターネット代表の田中邦裕が対談しました。
多田出 昇(ただいで のぼる)さんプロフィール
株式会社sketchbook代表取締役。18歳〜22歳までアメリカ合衆国カリフォルニア州に留学、帰国後「飲食」の世界へ。2014年に娘が生まれ、娘の離乳食作りを期に食の大切さを再認識。「娘に食べさせたい離乳食」を基準に商品開発をし、baby’s fun!を完成。 2019年6月より保育園給食向けに「冷凍離乳食キット」「幼児食カット食材キット」の販売を開始。
田中邦裕(たなか くにひろ)プロフィール
さくらインターネット株式会社 代表取締役社長。1996年に国立舞鶴工業高等専門学校在学中にさくらインターネットを創業、レンタルサーバ事業を開始。1999年にはさくらインターネット株式会社を設立し、月額129円から始められる低価格レンタルサーバ「さくらのレンタルサーバ」の開発に自ら関わる。その後、最高執行責任者などを歴任し、2007年より現職。インターネット業界発展のため、各種団体に理事や委員として多数参画。
アドバイザリー契約のきっかけ
多田出 昇さん(以下、多田出):田中さんとの出会いは共通の知り合いの投資家からの紹介です。その後、昨年から田中さんが出資している起業家コミュニティに参加させてもらい、メンタリングをしてもらいました。最初は、さくらインターネットから副業として当社を手伝ってくれる方を探していました。「もう少し強くコミットしたほうがいいのでは?」という話になり、アドバイザリー契約が進みましたね。
うちの会社はリソースが少ないので、エンジニアの知識や経験が足りない部分もあります。今回のアドバイザリー契約は、私だけではなく社内のエンジニアからも感謝の声が上がっています。
田中邦裕(以下、田中):それはよかったです。いま、日本中でエンジニアが不足していますよね。エンジニアが雇えなくてビジネスができない会社は、これから増えていくと思います。IT企業のエンジニアが、ITを活用したいと考えている会社に流通し、一緒に伴走していくことが重要です。
多田出:現在、アドバイザリー契約として、おふたりの方に入ってもらっています。Slackでことあるごとにアドバイスをくれるので、うちのエンジニアが大きく成長しています。
田中:経験のあるエンジニアの知識を、スタートアップにフィードバックすることは重要です。IT企業でなければ、エンジニアはどちらかというとマイノリティになっていることが多いです。そういう意味では、エンジニア同士のつながりを持てることもメリットの1つではないでしょうか。
アドバイザリー契約ならではの良さ
多田出:僕らは金なし時間なしなので、どうすればスピード感を持って動けるかという話しています。そんな中で、非常に良い関係性を構築してアドバイスをいただけていて、とてもありがたいです。これはアドバイザリー契約ならではの良さといえます。
田中:そうですね。これが受託開発だと「開発が仕事」になってしまいます。アドバイザリー契約なら、組織作りや採用についてもアドバイスが可能です。sketchbookさんにとっても資産になります。
「魚を与えるよりも魚の釣り方を教える」という表現がありますが、まさにこのことです。アドバイザリー契約によって、最終的には継続して自分たちでできるように自立してもらえるようにすることが目的です。
多田出:僕もうちのエンジニアに対して「吸収できることをどんどん吸収してほしい」と伝えています。
田中:「ノウハウを外に出していいんですか」とおっしゃる方もいますが、ノウハウを出して契約が終了したとしても、うちもそれ以上にどんどんアップデートしていきます。そうなると、将来的には長く一緒にやったほうが、相手にとっても得になるはずです。
エンジニア採用について
田中:sketchbookさんでは、エンジニア採用を増やしていくのでしょうか?
多田出:はい。採用を進めたいと考えています。
田中:既存の組織を充実させつつ、エンジニアリングをさらに充実させていくことは重要です。エンジニアの働いている姿が見えないと、エンジニアは会社に来てくれません。だから、エンジニアがいない会社でエンジニアを採用するのは難しいです。そこをどう解消するかがポイントになります。
スタートアップにとっては、お金よりもエンジニアリングが重要です。お金は資金調達などでどうにでもなりますが、エンジニア採用はどうにもなりません。
多田出:それはとても感じます。1人目のエンジニアを採用するのには苦労しましたね。なんとか引き抜きで採用できました。周りにエンジニアがいなかったので、それしか方法がありませんでした。エンジニアがいないと事業スピードが上がりません。
田中:逆説的にいうと、エンジニアがいれば事業スピードが上がります。すべてはエンジニアから始まるといえます。
多田出:アドバイザリー契約によって、社内のエンジニアがスキルアップしています。
僕たちはエンジニアを10人、20人と採用することはできません。なので、1人ひとりのスキルが向上することはとても重要です。
田中:人材を育てて仕組みを作るお手伝いができるのは、良いことですね。
副業とアドバイザリー契約の違い
田中:副業だと、本業とは別の時間に活動するので、働く時間が限られてしまいます。でもアドバイザリー契約なら、時間の制約はありません。さくらインターネットの業務の一部ですから。もちろん社員が副業でやりたいなら、それもありです。
多田出:いつでも聞きたいときに聞きたいことをズバズバ聞けるのは、ありがたいですね。
田中:アドバイザリー契約については、sketchbookさんがはじめてとなります。ただし、さくらインターネットがやりたいのは、アドバイザリー契約で稼ぐというよりもスタートアップを伸ばしたいんです。スタートアップというのは、年率で100%成長とかするわけですよ。大企業が年率100%成長なんてできないですよね。スタートアップこそが世の中を変えていけると思っています。
スタートアップのボトルネックがエンジニアなどの人材にあるのであれば、そこに対して価値提供をしていきたいという思いが背景にあります。アドバイザリー契約というのは、顧問弁護士や顧問税理士と同じようなイメージです。「顧問インフラ技術者」という感じでしょうか。なので、自由に幅広くアドバイスできます。
そのぶん、sketchbookさんもうまく活用していただく必要があります。自由だけれども、責任がともなう契約です。
sketchbook社の事業展開
多田出:もともと僕たちは、食品を卸している会社でした。いまはそれだけではなくて、保育業界をDX化していこうと考えています。食材キットを送るのは、1つの手段です。結局は、そこで働いている保育士さんたちが辞めてしまうのをどうやって食い止めるか。どうやってやりがいを与えられるか、というのが僕たちの目指していくゴールだと思っています。
そのためには、保育士さんたちの時間を作らなくてはいけません。効率化によって時間を作れます。僕たちは保育園給食を扱っているけれど、IT企業です。IT技術を用いて保育業界を変えていきたいと考えています。
田中:いまのDX時代では、すべての企業がIT企業となります。sketchbookさんも給食業者ではありません。給食事業に強みを持っているIT企業です。
給食事業自体もビジネスですが、じつはITが収入源になっているわけです。給食を変えるのは、給食業者ではなくて、IT企業ではないかと思います。sketchbookさんも、IT企業として給食をどんどん良くしていってほしいです。
多田出:給食に関しては、うちに任せてもらえれば、すべてできるようにしたいと思います。例えばそのために「人材派遣事業」も1つの手段として考えています。
保育の現場を辞めてしまったけど、週に1日働きたい人たちと保育園とのマッチングができればいいですね。派遣業で売上を立てようというわけではなく、トータルサポートの1つとして考えています。
sketchbookがさくらインターネットに期待すること
多田出:僕たちは、子どもたちの情報を扱っています。0歳から5歳児までの食まわりの情報を日本一保有できる企業だと思います。そうしたデータをとても大切に扱わなければなりません。この辺りも、さくらインターネットさんと一緒に何かできればありがたいと思っています。
田中:BBSakura Networksという、BBIXさんと一緒に作った会社があり、一緒にレベニューシェアする形で事業をしています。これからは、スタートアップとも一緒にビジネスをする機会が増えるはずです。スタートアップのビジネスを、われわれも一緒になって、ビジネス化していこうとしています。
人が動いて収益を得るというよりも、人が動いてサービスを作る。そして、そのサービスが収益を上げ続けてくれることがポイントです。
多田出:子どもたちのデータを集めて、子どもたちの健康のために活用したいのですが、僕らにはリソースがありません。それをさくらインターネットさんに相談することも可能ということでしょうか?
田中:そうですね。たとえば一緒にサービスを立ち上げて、レベニューシェアで一緒にやるのもいいと思います。さくらインターネットが開発やインフラを提供して、sketchbookさんは顧客情報の提供や、マーケティングや営業を担う。それを一緒にやっていくイメージです。
多田出:それは面白いですね。
田中:このスタイルだと、お互いが「パートナー」となります。サービスが盛り上がれば、お互い収益となりますし、失敗すればお互いが損をします。受託開発の形だと、納品したらおしまいなので、その後、お客様が成功しようと失敗しようとあまり関係ありません。しかしこれからは、顧客と提供者という形ではなく、パートナーとして一緒にビジネスをする形が主流になると思っています。