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需要予測により在庫を最適化。「sinops-CLOUD」が変える流通業界の未来

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農林水産省によると、本来食べられるのに捨てられている食品(以下、食品ロス)は、国内で年間約472万トン、このうち食品製造業や食品卸・小売業、外食産業を含めた事業系の食品ロスは半数の236万トンにも及ぶ。同省は事業系食品ロスを減らす取り組みの1つとして、小売業者へ需要に見合った販売を推進している。

スーパーマーケットなど小売業の在庫最適化を支援しているのが、株式会社シノプス(以下、シノプス)だ。高精度な需要予測をコア技術に、流通業向け需要予測型自動発注サービス「sinops-CLOUD(シノプスクラウド)」を展開し、作業時間短縮や食品ロス削減に貢献している。導入効果や今後の展開について、代表取締役社長の岡本 数彦さんに聞いた。

岡本 数彦(おかもと かずひこ)さん プロフィール

2004年の入社以来、小売業の需要予測、自動発注システムに関する導入プロジェクトを数多く手がける。2020年にはクラウド型サービス「sinops-CLOUD」を立ち上げ、全体を統括。グロサリや日配以外にも惣菜など、従来困難とされていた分野の需要予測・発注の自動化を企画・実現。2025年、代表取締役社長に就任。現在は需要予測データを活用した「デマンドチェーンマネージメント(DCM)」実現に注力している。

リアルタイムに在庫を把握し、客数予測やAIによる値引きも

sinops-CLOUD(シノプスクラウド)」は、在庫を最適化する流通業向けのITソリューションだ。従来の1つ売れたら1つ発注する「セルワンバイワン方式」ではなく、過去の販売実績などをもとに、何がどれだけ売れるかを予測して自動発注までおこなえるサービスを提供している。

「sinops-CLOUDは、リアルタイムの在庫数に基づき、販売実績や天候、店舗のイベントや特売情報など、さまざまなデータをかけ合わせてAIが需要を予測します。パンや惣菜、牛乳など、賞味期限が短く売れ残るとロスが出やすいカテゴリーにも対応していて、店舗ごと、商品ごとの発注数算出や、適切なタイミングでの商品値引きも可能です」

1店舗、1カテゴリー、1機能から導入でき、さまざまな機能を提供するsinops-CLOUD。そのなかでも、スーパーマーケットの売り上げ向上や食品ロス削減に役立つのが「客数予測」と「AI値引」の機能だ。天候やイベントなどを加味して、時間帯別の客数を高精度に予測できるため、日持ちのしない食品の売れ残り対策にも効果が期待できるという。

「弁当や総菜はとくに値引きのタイミングが大切です。夕方、仕事帰りにスーパーに行って、惣菜がぜんぜん売っていなかったらショックですよね。店舗にとっては機会損失となり、売上高にも影響します。とはいえ、毎日決まったタイミングで同じ値引き率にすると、商品が余りすぎたり、逆に在庫がゼロになったりする。閉店まで在庫を確保し、かつ欠品しにくくするといった判断を人がおこなうのはなかなか難しいと思います」

これまで、値引き作業はベテラン従業員の経験や勘に頼っているケースも多く、経験が浅いパートやアルバイト従業員には困難だったという。sinops-CLOUDは、どの商品に、いつ何割引のシールを貼ればよいのかをAIが教えてくれるため、誰でも適切な値引きができる。また、バーコードをスキャンしてシールを貼るだけと作業も簡単だ。

「当社は、各商品カテゴリーに応じた予測ロジックと天候、特売予定情報、イベント情報、多くの小売業さまに導入いただいたときに蓄積したノウハウをもとに予測精度を高めています。客数予測もAI値引も、リアルタイム在庫とセットでその価値を発揮します」

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発注作業時間を大幅に削減し、働き方改革にも貢献

シノプスは、北海道から沖縄まで、全国の小売業へサービスを展開。sinopsシリーズ全体の契約社数は約120社、食品スーパーのシェア率は36.7%で、小売業のシェア率は18.9%(※1)を誇る。

sinops-CLOUDの導入により、大きな効果を得たのが、岡山県で約34万世帯の組合員を有する「生活協同組合おかやまコープ」(以下おかやまコープ)だ。2023年10月から一部店舗で実証実験を実施し、1年後には、おかやまコープの全店舗へ展開した。発注にかかる作業時間が、1店舗1か月あたり約65.8時間、全店舗を合わせると年間約8,680時間減少し、廃棄ロスも大きく改善されたという。

「最初の導入時は、どの店舗でも少し戸惑うこともありますが、実際に利用してみると効果を実感していただけます」と岡本さんは話す。

「たとえば、棚が空いているのに、システムが発注しないときは『バックヤードに在庫があった』とか、まだ在庫があるのに発注が出るときは、『明日は特売だから』などと教えてくれます。これまでは売り場を見て、棚が空いているから、空きそうだから発注していた。このように、人は「見た目」に基づいて発注するかどうかを判断してしまいがちです。sinops-CLOUDはその作業をシステム化し、当日の入荷数、今日と明日に売れるであろう数を予測して発注することで、適正な在庫管理ができるのです」

おかやまコープでは、発注作業の効率化や作業時間削減に加えて、パンの値引き・廃棄ロスが17.5%改善するなど大きな成果を得られた。sinops-CLOUDを導入した企業では、思わぬ効果もあったという。

「意外にも、『休暇が取りやすくなった』というご意見を頂戴しました。発注担当の方は売場に責任をもっているため、休みたい日になかなか休みづらい状況だったようです。sinops-CLOUDの導入後は、『自分がいないと売り場が大変なことになる』という心理的負担も減り、計画的に休暇を取って家族旅行できるようになったとうかがいました」

ほかにも、店舗によっては弁当の廃棄がこれまでの半分に抑えられ、店内で作ったものが無駄になることが減り、喜ぶ従業員も多かったそうだ。

(※1) シェア率は、sinops契約企業の年商÷ターゲット企業の年商で算出。食品スーパーシェアのターゲット企業は、売上400億円以上の食品スーパー。小売シェアのターゲット企業は、コンビニ・百貨店除く売上400億円以上の小売業(連結子会社は子会社の本社地域で集計)

需要予測システムをいち早く開発し、手ごたえを感じた

シノプスは、1987年に現会長の南谷洋志氏が創業した(当時の社名は株式会社リンク)。取引先だった自転車の部品倉庫で、在庫管理に苦戦している顧客から相談を受けたことがきっかけとなり、物流センター向けの需要予測型在庫最適化システムを開発。これが現在のsinopsシリーズの前身となり、以降、在庫の最適化にこだわったビジネスを展開していく。

「弊社ではこれまでパッケージ製品を開発し提供していました。コロナ禍で商談の機会が減り、システム投資をストップする小売業が増えたため、いましかないと社員一丸となり、クラウドサービスの開発にリソースを集中させました。挑戦意欲が高い当社の技術者たちのおかげで、パッケージからSaaS(Software as a Service)という新しいビジネスモデルへ転換できました」

2020年にsinops-CLOUDをリリースすると、初年度のアカウント数は1,360、翌年は3,799と倍以上に。さらに2025年3月時点では12,413まで拡大している。

「コロナ禍だったこともあり、お問い合わせは非常に増えました。とくに多かったのが小売業からの引き合いです。実際の営業数値につながったのはリリースの翌年ですが、反響はかなり多かったですね。一部のカテゴリーをクラウドで運用したいという既存ユーザーから導入が広がり、翌年以降は、新規にクラウドを導入されるお客さまも増えていきました」

クラウドソリューションの開発にあたり、セキュリティの担保や障害対策など、インフラ環境の整備にも注力した。さまざまなクラウド会社と契約して万全の対策を講じ、セキュリティを確保しながら運用を工夫している。

需要予測の先駆者として、流通業のDXを加速する

これまで、スーパーマーケットや食品製造業向けのサービスを中心に提供してきたシノプス。今後はドラッグストアやコンビニなどスーパーマーケット以外の分野にも進出し、さらなるユーザー獲得とシェア拡大を目指す。最後に、今後の展望について岡本さんに聞いた。

「物価高騰による人件費の増加や人手不足、物流の2024年問題など、業界が抱える課題は多く、物流の無駄を省いて効率化を図るには、DXによる改革が必要です。当社のビジョン『世界中の無駄を10%削減する』の実現に向けて、コア技術である需要予測をベースに、小売店の在庫最適化を加速させ、業界全体の課題解決に貢献していきたいと思います」

2024年には、人員配置計画や課題の把握に役立つ、人的資源最大化AIサービス「sinops-WLMS」をリリース。ほかにも、法令に準じた食品表示ラベルを店舗で作成できるサービス「sinops-CLOUD FoodCAS」の展開や、伊藤忠商事株式会社と業務提携し、需要予測データを卸売業や製造業につなげることで物流改善にも貢献する「食品バリューチェーン最適化プラットフォーム(DeCM-PF)」の構築に向けた取り組みにも力を入れる。

創業当初から在庫にこだわり、人、モノ、金、時間、情報を最適化するITソリューションを提供してきたシノプスが、流通業界の未来を変える日はそう遠くないだろう。

株式会社シノプス

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執筆

香川けいこ

大阪市在住のフリーライター。暮らし・食・登山に関する執筆や取材、編集に携わる。趣味は街歩きと山登り、アニメ鑑賞。
HP:https://yoiko.site/

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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