「貴重な戦力で仲間」デリバリーロボット・Relayは人手不足に嘆くホテル業界の救世主

アフターコロナにおけるインバウンド活況で、海外からの旅行客が急増している昨今。宿泊業界の人手不足が連日ニュースになるなか、渋谷ストリーム エクセルホテル東急では、デリバリーロボット「Relay(リレイ)」をうまく活用しながら最小人数のスタッフで深夜・早朝帯の運営を乗り切っている。「Relayは貴重な戦力で仲間」と笑顔を見せる支配人の西澤 由香さんに、導入のきっかけや活用のコツを聞いた。

西澤 由香(にしざわ ゆか)さん プロフィール

渋谷ストリーム エクセルホテル東急 支配人。大学卒業後、大手ホテルチェーンへ入社。宴会予約やウェディングプランナー職に従事した。4年超ほど在籍したのち、フランスの子どもに日本文化を教えるために渡仏。帰国後、レストランのレセプションなどを経て、2001年にセルリアンタワー東急ホテルの開業スタッフとして入社する。ウェディングやセールスに加えて企画宣伝、マーケティングの知見も培いながら 22年ほど在籍。オープンから4年ほど経った2022年12月、現職の支配人に着任した。

深夜・早朝の戦力として期待以上の働きをしてくれる

Relayは、米・サビオーク社が開発した自律走行(自動運転)型のデリバリーロボット。日本では2018年のNEC関連企業による出資や、不動産大手の森トラストが自社の大規模オフィスビル内で活用したことで注目を浴びた。

 

渋谷ストリーム エクセルホテル東急では、各部屋から依頼された備品やアメニティグッズなどを届ける役目を担うことが多い。記憶させたマップをもとに移動し、レーザーセンサーやカメラで人や障害物を避けながら通行するほか、無線による通信機能でエレベーターを自ら呼んで乗降できる。本体内の格納スペースは深さ37cm、入り口のサイズは26×22cmだ。西澤さんいわく「かなり大容量で、予備のバスタオル1〜2枚をお求めのお客さまのもとへよく走らせています」──。ワイングラスやオープナー、各種充電器など小物を運ぶ際には中に内蓋のようなトレーを置き、格納スペースの奥行きを調整しながら使っているそうだ。

客室にアメニティを届けるため廊下を進むRelay

2018年のホテル開業当時からフロントに鎮座しているRelay。導入を決めたきっかけのひとつに、当時の女性総支配人によるスタッフへの配慮があったという。

 

「スタッフがアメニティや貸出グッズを届けに客室におうかがいする際に、女性スタッフが男性がお泊まりの部屋へ、男性スタッフが女性1人でお過ごしの部屋をお訪ねすることは、互いにとって要らぬ誤解や抵抗を生んでしまうきっかけになり得ます。とくに深夜・早朝帯は最小人数のスタッフで運営していますので、お客さまと同性のスタッフを手配できないこともある。一方でロボットでしたら、そうした心配とは一切縁がなくなります。何より365日24時間、休むことなく真摯に働いてくれるスタッフはほかにいませんからね。最小人数の“プラス1要員”として生産性に寄与してもらえたことは、当初の期待以上だったかもしれません」

 

もちろん、開業当時に盛り上がりを見せていたインバウンドを後押しする意味で導入された面もある。

 

「東急ホテルズとして新しいスタイルを模索し、新しい設備をどんどん取り入れたいという当時の私どもの意向にぴったりだったんです。スリムかつスタイリッシュで、ホテルの世界観やコンセプトを損なわないモダンな形であることも決め手の1つになりました」

Relayがいるからこそ、スタッフは複雑な対応が可能になる

洗練されたRelayの存在感は増し、次第に宿泊客の目に留まるようになった。取材日も、海外から来日したと思しき家族の子どもがチェックインの手続きを待つ間、興味深そうにRelayのディスプレイを覗き込んでいた。

 

「強い関心を寄せてくださるお客さまは結構いらっしゃるんです。余裕がある際に少しだけRelayを動かすと、ありがたいことに喜んでくださる。1台しかないのでご要望が重なるとRelayでなくスタッフが備品をお届けすることもありますが、『なんだ、Relayに会えると思ったのに』とがっかりされることもあるほどです(笑)。ただ、Relayお目当てのお客さまとは反対に、ロボットが運ぶことを想定していないお客さまも中にはいらっしゃいます。ご用命を頂戴する際には、必ず『Relayによるお届けでよろしいですか?』と確認し、ご承諾いただいたお客さまのもとへ走らせるようにしています」

 

海外からの宿泊客比率が 83.2%(2023年6月実績)と高い割合を誇る渋谷ストリーム エクセルホテル東急。Relayの利用をスタッフが事前に念押しするオペレーションであれば、日本語話者でない人のもとにも問題なく運べるだろう。メッセージディスプレイの言語表示は、日本語・英語・スペイン語の3種が指定できるそうだ。

ホテル館内の歩行者に向け、英語で「Hello! I’m ready to deliver」と表示されている

Relayに配送業務を託すぶん、スタッフが宿泊客と直接対面する機会は減る。しかし、それを補って余りあるほどの接客効果があると西澤さんは話す。

 

「おかげさまで当ホテルは高稼働の状態が続いており、限られた人数のスタッフで全177室からのお問い合わせに応じています。海外のお客さまが多いほどお問い合わせ内容も多岐にわたるのですが、もしバスタオルをお届けするためだけに行って帰ってきたら、10分ほど経ってしまいます。この機械的な業務をRelayが代行してくれるからこそ、マンパワーのいる複雑なお問い合わせにも対応できるんですよね。だからスタッフはみんなRelayを戦力とみなして、“仲間”だと感じているのではないでしょうか」

実録レポート! Relayに備品を運んでもらった

西澤さんは、Relayのデモンストレーションを披露してくれた。充電スポットである4階のフロントで部屋番号と言語を指定して備品を格納すると、自動的にエレベーターへ向かう。西澤さんも筆者も昇降ボタンを押していない。にもかかわらず昇りのエレベーターが到着した。降りてくる宿泊客を避けながら、静かに乗り込むRelayと一緒に11階の客室へ向かう。

自動でエレベーターに乗る Relay

エレベーターの中で、行き先の「11階」ボタンが自動で点灯する。「回線が切れやすいエレベーターの中でもきちんと連動するよう、高い技術力を要するシステムが組まれているそうです」と西澤さんは言う。11階に到着すると、Relayは障害物がないかセンサーで確認しているかのように慎重に降り、目的の客室に向けて静かに動き出した。

 

「正確なフロアマップが頭に入っているから、Relayは放っておいても指定した客室に向かうことができます。私どもは先回りしてRelayを客室で待ちましょう」と西澤さんに促される。Relayの到着はどうやって知るのだろう? と考えていると、西澤さんから「お部屋の中で音の出るものがヒントです」とクイズを出題された。テレビ? ドアに設置されたインターホン? と不正解を続けていると、ベッド横の電話が鳴った。

 

受話器に耳を当てると、英語で「ご希望のアイテムが届きました」とアナウンスされている。ドアを開けると「ご利用ありがとうございます」「お届け物を受け取ってください」と表示しながらRelayが出迎えてくれた。備品を受け取り、「完了」ボタンを押すとフロントへ向けて再び動き出す。スタッフが備品を詰め、部屋番号を指定し、客室に到着するまで5分ほど要した。

 

「一度に複数の部屋を回ってもらえたら効率的とは思います。ただ、そのためには箱が2つ以上必要ですし取り違いも想定されるので、現在のRelayで十分だと感じています。ときどき、迷子になって探しに行くことがあるんですが......それもご愛嬌(笑)。機械に起こる不具合は想定の範囲内ですし、サポートもついているので不安はありません」

最後に、配送以外のRelay活用アイディアを聞いてみた。

 

「ダズンローズ(12本の薔薇)をRelayが運ぶ宿泊プランをバレンタインデーに出したように、ただ備品を運ぶだけでなく、エンターテインメント面を担えるような活躍をしてもらいたいですね。PRのマスコット的存在としての役割も期待しています」

客室にダズンローズを運ぶRelay

Relay以外にも、レストランに下げ膳ロボットを導入するなど、先進的な設備投資をおこなう渋谷ストリーム エクセルホテル東急。今後もさまざまな用途でホテル内を和やかに移動するRelayに出会えるかもしれない。

渋谷ストリームエクセルホテル東急