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社会全体で急速に進んでいる、生成AIの活用。生産性アップや省人化などの効果を求めて、多くの企業がその使い方を模索している。玩具の開発・製造販売を手掛ける株式会社セガ フェイブ(以下、セガ フェイブ)もそのうちの一社だ。同社では、玩具の開発やアンケート集計業務に生成AIを活用する実証実験をおこない、定量的な成果を得ている。試みの内容と現状の効果について、同社の広報を担当する東方 嘉基さんに聞いた。
東方 嘉基(とうほう よしき)さん プロフィール
株式会社セガ フェイブ Toysカンパニー、メディア部ディレクター。同社の広報業務を担当する。印刷会社の企画職、テーマパークなどの広報担当を経験したのち、現職。
会社の上層部と現場の思惑が合致。主力商品の開発に生成AIを導入
株式会社セガ フェイブは、2024年4月に船出したばかりの新しい会社だ。母体となったのは玩具の開発製造販売を手掛ける株式会社セガトイズで、同社がグループ内の株式会社セガからアミューズメント機器などの開発をおこなう部門を吸収合併する形で誕生した。同社では社内カンパニー制を敷いており、従来セガトイズだった部門はToysカンパニーとして、セガから引き継いだ部門はアミューズメントコンテンツカンパニーとして運営している。今回インタビューに応じてくれた東方さんは、Toysカンパニーの広報担当だ。
同社の業務に生成AIを活用しようという機運が生まれたのは、セガトイズ時代の2023年10月。セガトイズが所属するセガサミーホールディングスで生成AIを活用するプロジェクトが始まり、現場の業務改善にAIを活用できないかという打診が上層部からなされたのがきっかけだった。
「上層部から打診される前から、セガトイズの玩具企画担当者は生成AIをクリエイティブに活かせないかと考えていました。そんなタイミングで、主力商品のひとつ『ドリームスイッチ』のリニューアル商品開発に生成AIを活用する実証実験がおこなわれることになりました。商品の開発に生成AIを用いる取り組みは、当社として初の試みでした」
ドリームスイッチは、読み聞かせを通して、子どもの寝かしつけをしてくれる機器だ。プロジェクターとスピーカーを内蔵したドリームスイッチは、寝室の天井に向けて絵本の映像を投影しながら、物語のナレーション音声を流してくれる。共働きの家庭が増えている現代において、「子どものころ親にしてもらった読み聞かせを、自分の子どもにもしてあげたいがその時間がない」「子どもを寝かしつけるのに時間がかかる」という親の悩みを解決するために開発された。
ドリームスイッチがあれば、子どもにとってはただ寝るだけの部屋であった寝室に、エンターテイメント要素が加わる。寝るのを嫌がる子どもに対し、絵本の内容が気になって自ら寝室に向かうという行動変容を促すのだ。親にとっては寝かしつけの手間が軽くなり、子どもにとっては寝室での時間が楽しみになる。寝る前の親子の時間を、ポジティブなものに変えてくれる一台である。
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デザイン案の数が100倍に。アンケート集計は80%も効率化
生成AIが導入されることになったのは、ドリームスイッチのリニューアル品のデザイン開発と、ユーザーアンケートの分析だ。商品の企画担当の本来の使命は、アイテムを通して感動や驚きを提案することだが、ほかの業務に追われ、クリエイティブに十分な時間を割けないという問題を抱えていた。生成AIの活用は、そのクリエイティブ業務のクオリティを上げ、さらに効率化も実現するための取り組みである。
「過去の商品などの前提情報を学習させた画像生成AIに、企画担当者の指示に基づいた新製品のデザイン案を描いてもらっています。このAIの導入により、企画段階で提案されるデザイン案の数が、100倍に跳ね上がりました。しかも、画像生成AIは細部のデザインまで精密に描いてくれるので、細かい部分を詰めていく手間も省けるようになりました」
いわゆるゼロイチの企画開発を人間がおこなうと、“産みの苦しみ”を伴うし、多数のアイデアを出すのは大変だ。しかし生成AIなら、そんな苦痛を感じることはないし、大量の案を瞬く間に生成してくれる。AIの強みを存分に活かした活用法といえるだろう。
ユーザーアンケートの集計・分析にも生成AIが活かされている。アンケートの回答欄はチェックボックス式と自由記述式の2つから構成されるが、このうち前者の結果は簡単に集計できるものの、後者をまとめるのは大変だ。
「文章には文脈があります。そのなかで使われている言葉の数を単純に集計するだけでは、それがいい意味で使われているのか、それとも悪い意味なのかわからず、ユーザーの満足度を測ることはできません。また、複数の論点がひとつの文章内に混ざって書かれていることもあります。従来では、人の目で読まないと、ユーザーの真意を把握することは困難でした」
しかし、自然言語処理能力が発達した最新のAIなら、複雑な文脈の整理も可能なので、こういったアンケートの集計にも活用できる。同社では、コメントの論点やユーザーの満足度などを生成AIによって分析し、一覧化している。
「生成AIの導入によって、アンケートの集計・分析業務を80%効率化することができました。このアンケートで得られたユーザーからの声は、商品デザインをおこなう画像生成AIに学習させています」
生成AIが、人の創造力を引き出してくれる
セガ フェイブで活用されている生成AIは、すでに定量的な効果を挙げている。今後これを横展開していこうという声も、社内で挙がっているという。しかし、生成AIは単に導入すればいいというものでもないと東方さんはいう。
「生成AIに何を求めるかという明確なゴール設定に加え、マインドやプロンプトの書き方といった使う側のリテラシーがないと、逆にAIに振り回されてしまうのではないかという慎重な意見も社内では出ています。AIだけでは人の創造力を飛び越えられませんから、結局最後には、人の力が必要です。でも、その力を引き出すためのアイデアを、AIは提供してくれます。人とAIが、お互いの強みを活かせる関係性を築くことが重要なのではないでしょうか」
取材の最後に、生成AIを活用するためのコツを東方さんに聞いた。
「とにかく触れてみることが大事です。個人的な見解ですが、生成AIは今後さらに発展を遂げ、数年後には手がつけられないくらいになるのではないかと想像しています。いまのうちに慣れておかないと、あとになってから使いこなせるようになるのは大変なのではないかと思います。生成AIを使えるアプリも増えていますし、仕事に活かすまではいかずとも、まずは個人単位で触ってみてはどうでしょうか。生成AIと触れ合い、試行錯誤を繰り返していくなかで、リテラシーも蓄積されていきます」
ChatGPTやClaude3など、生成AIの多くは基本的に無料で使える。それゆえ、生成AIに触れることの敷居は、決して高いものではない。生成AIと話したことがないというあなたも、まずは彼らと何気ない会話をしてみてはいかがだろうか。
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執筆
畑野 壮太
編集者・ライター。出版社、IT企業での勤務を経て独立。ガジェットや家電など、モノ関連の記事のほか、ビジネス系などの取材を多く手掛けている。最近の目標は、フクロウと暮らすこと。
Website:https://hatakenoweb.com/
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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