お家にある不用品が、可愛らしいおもちゃに生まれ変わる!
親子で楽しんで作れるおもちゃに、子どもたちも大喜びです。そんなおもちゃをたくさん生み出す「おもちゃ作家」の佐藤蕗さん。
最近では不用品から作る「サスティナブルトイ」や、デジタルを活用したおもちゃづくりにも挑戦しています。佐藤さんに、おもちゃづくりやこれから「やりたいこと」について話を聞きました。
佐藤 蕗(さとう ふき)さんプロフィール
手づくりおもちゃ作家。1982年、愛知県生まれ。建築設計事務所勤務を経て、第一子の出産を機にフリーランスに。育児をしながら作っていたおもちゃが反響を呼び、デザイナーやイラストレーターとしての活動のかたわら造形作家、おもちゃ作家として、雑誌や新聞、Webなどで作品を発表している。著書に『親子で笑顔になれる“魔法の手作りおもちゃ”レシピ』(宝島社)、『ふきさんのアイデアおもちゃ大百科 ひらめいた! 遊びのレシピ』(偕成社)がある。
子どもと遊ぶためにはじめた、おもちゃづくり
――佐藤さんは、出産を機にフリーランスになったんですよね?
そうです。フリーランスになる前は、建築設計事務所で働いていました。ただ、結構きつかったんです。子どもを生んでからは、続けられないなと思いました。フリーランスになってからは、店舗の壁面のグラフィックを作ったり、図面を描いたりしていましたね。
――おもちゃ作家のお仕事は、いつからはじめたのでしょうか?
子どもが生まれて、0歳のときからおもちゃづくりはしていました。子どもを産んで3年くらいしてから『親子で笑顔になれる “魔法の手作りおもちゃ”レシピ』(宝島社)という本を書きました。そこから、仕事としておもちゃ作家を名乗っています。
――本の出版はどのように決まったのでしょう?
2014年に出版社の編集の方がTwitterで見つけてくれました。おもちゃづくりについてブログを書いたり、Twitterにアップしたりしていたんです。でも当時は、フォロワーも全然いませんでした。自分が子どもと遊ぶために作っていたんですけど、それを見つけてくれたんです。
ただ、待つだけではなくて自分から売り込みもしましたよ。育児雑誌とかに「こういうものを作っています」ってメールを送ったり。それで、雑誌にちょこっと載せてもらったりしていました。
子どもを観察して興味のあるおもちゃを作る
――おもちゃづくりで意識されていることを教えてください。
自分の子どもに作っているときは、子どもが好きなことは何なのかをよく観察します。ひらがなに興味あるなと思ったら、ひらがなのおもちゃを作ったり。
子どもが大きくなってきて、いろいろなお子さんに向けて作るようになってからは、作り方をマネできるように考えています。
子どもたちが作り方を見たときに、その通り完璧に作るんじゃなくて「ここマネできる」と思ってもらえれば十分です。自分でアレンジしたい、応用したいと思ってもらえるものがいいですね。
売っているおもちゃは買えるじゃないですか。売っていないおもちゃを作れるといいな、と思っています。
何でもないところから面白みを見つけ出す
――佐藤さんの作るおもちゃは、まさに売っていないものだと思います。そういう売っていないようなおもちゃを作るアイデアは、どうやって生まれるのでしょうか?
アイデアはつねに考えていて携帯にメモしたりしているんですけど、基本的には何でもないところから面白みを見つけ出したいみたいな……。そういうものを痛快に感じるタイプです。すごく頑張って作るというよりは、普通のところにも面白味があるっていう。そういうのが好きなんですよ。
たとえば、最近は虹を探しています。ガラスを見ると、角度によってはちょっと虹が出てくるときがあるんですよ。
――ガラスを見ると虹が出てくる……?
ちょうど自転車のホイールに付ける反射板を持ってきたんですけど、これも角度によっては虹が出るんですよ。部屋に吊るしておくと向こうの壁に虹が見えたりします。
虹を出すための三角柱のガラスも売っているんですけど、日常にあるものを使いたいんです。そういうのが好きなんですよね。気づかなかったらスルーしちゃうけど、気づいたら楽しいものが日常にはいっぱいあります。
そういうものを見つけて、トリミングして面白く見せるのが好きです。これは多分、小さい頃からですね。小さい頃、工作ばかりやっていました。だからおもちゃづくりをしていても、子どもたちが私と一緒に遊んでくれているという感覚ですね。
――自分が楽しむからこそ面白いアイデアも出てくるのかもしれないですね。
子どもは素直に反応してくれるのでありがたいです。自分がいいと思ったものを子どもに見せてみて、反応を見ています。いまは反応してくれる人たちが全国にいるので、うれしいですね。
デジタルなおもちゃづくりにも挑戦
――最近ではアナログなおもちゃだけじゃなく、micro:bitを使ったデジタルなおもちゃも作られてますね。
今日も持ってきています。センサーがあって、音が鳴るとベロが出てくるおもちゃです。可愛くないですか?
――可愛いですね。某ゲームのキャラクターみたい。
中にモーターが入っていて、音が閾値を超えるとセンサーが反応してモーターが動きます。それでベロが出てくるんです。
――どうしてデジタルを活用しようと思ったのでしょうか?
11歳の息子がプログラミングに興味を持って、Scratchをやっているんです。私も一緒にやってみようと思い、はじめました。やってみたら、ひとつの素材のように使えるなと思ったんです。難しいプログラミングはできないんですけど、それでも表現の幅が広がりました。いまは、Arduinoを息子と一緒に使いはじめています。
自宅でも音に反応するおもちゃを作って、キッチンカウンターに置いています。下の子が4歳なんですけど、その子が笑ったり泣いたりしたときにおもちゃも動くんですね。それが本当にペットみたいに見えてくるんですよ。自分で作っているのに、ひとつの命に感じて面白いですね。
働き続けることが当たり前になりつつある
――佐藤さんは、育児をしながらお仕事をされています。同じような働き方をする人も増えてきているとは思うのですが、女性のキャリアについてどうお考えですか?
ここ10年くらいでだいぶ変わった気がします。女性も働かないと経済的に厳しいから、というのもあると思うんですけど、働き続けることが当たり前になりつつあるのはいいことだと思います。私がはじめて子どもを産んだ11年前は、そういう感じでもなかった気がしていて…。
すごく頑張る人か、両親が近くに住んでいてサポートのある人じゃないと働きながら育児するのは難しかったです。私はやりたくても「絶対に無理」と思ったんです。
うちの場合は、子どもはふたりとも保育園に入園できたんですけど、保育園に申し込むときに「誰かを蹴落としている」っていう意識が強くありました。保育園に入れる枠は少ないので…。本当はお互い励まし合いたい立場の人たちなのに、そういう人たちと競争して保育園に入れる状況ってよくないですよね。
たくさんの選択肢があって、柔軟にやっていけるようになればいいなと思います。
――不用品を活用した「サスティナブルトイ」に力を入れていますね。
そうなんです。このおもちゃを見てください。
このおもちゃは、パッケージだけで作っています。捨てるものからおもちゃを作るのは、昔からみんなが普通にやっていることですけど、こうしたおもちゃが愛されて、長く遊べたらいいじゃないですか。
サスティナブルトイは、売られているおもちゃと相反するものではないんです。序列がないっていうか、ほかのおもちゃと同じところにリサイクルしたおもちゃがあってもいいと思っています。パッケージから「どうやっておもちゃを作ろうかな」っていう楽しみ方もあります。制約があるとより楽しいんです。
おもちゃにすることを想定されているお菓子のパッケージも増えてきました。たとえば、ピノを2箱買うとピノが出てくるピノガチャが作れるみたいな。私もその開発に関われたらいいなと思って、いろいろなお菓子メーカーにメールしています。
「やりたいこと」を「できる」に変える
――メールをしているんですね。このメディアのコンセプトが「やりたいこと」を「できる」に変えるでして、いまのお話は、まさに「やりたいこと」を「できる」に変えるために実行していることだと思います。
そうですね。おもちゃになることが決められているパッケージづくりをやりたいです。いまでもおもちゃになるパッケージは結構あるんですけど、さらに面白くて簡単に作れるものを作りたいですね。
いまって、小学校でもSDGsについてたくさん言われているんですよ。でも、言われずぎて少しうんざりしているみたいなんです。
でも、買ってきたお菓子のパッケージが面白いおもちゃになるんだったら、1粒で2度美味しいじゃないですか。それって教育のためではなくて、本当に面白いから作るわけです。その結果、環境のことについて考えるようになればいいと思うんですよ。押し付けがましい教育っぽいものではなくて、楽しみながら考えられたら面白いなって。
(撮影:ナカムラヨシノーブ)