テレビをはじめ数多くのメディアでも取り上げられ、注目を浴びる次世代デジタルスポーツがある。それが「SASSEN (サッセン)」だ。スターウォーズのライトセーバーさながら、光る刀を使ったデジタルチャンバラ。空手の黒帯の師範代で、一般社団法人 全日本サッセン協会 会長の本村 隆馬さんに話を聞いた。
本村 隆馬(もとむら りゅうま)さん プロフィール
1990年生まれ。福岡県北九州市出身。
高校まで福岡県で過ごし、神戸の大学に進学。卒業後、大阪で会社勤めをする。その後、実家の日本空手道 風林火山武術道場の師範代となり道場を継ぐ。一般社団法人 全日本サッセン協会 会長(現職)。
「バッシーン!カッキーン!!」
メイドカフェが軒を連ねる秋葉原のオフィスビルの6階に、その場所はある。刀のぶつかる大きな金属音が響きわたり、ライトセーバーのごとく光が飛び散る。全日本サッセン協会のサムライたちが戦う場。テックスタートアップのようなガラス張りの部屋の向こうには、PCがずらりと並ぶ。
フロア中央のフィールドでは、男性と女性が青く光る刀を手にして向き合い、相手の隙を狙って間合いを計る。一瞬、ここはどこなのか? フロアに足を踏み入れると非日常な空間に戸惑う。壁にはプロジェクターで得点のカウントが映し出され、試合が終了すると電子音が鳴り響く。勝負判定はスマホのアプリでおこなわれ、誰もが納得できる結果が表示される。
モヤモヤした思い
「武道の試合の判定結果にモヤモヤした思いがあったんです」本村さんはそう話す。
父は福岡県北九州市で空手道場を開き、人を傷つけない護身術を教えていた。道場の名前は「風林火山」。本村さんも3歳から空手をはじめた。高校まで福岡で過ごした後、神戸の大学に進学。そのまま関西で就職し、6年ほど大阪に住んでいた。その後、北九州市の実家に戻り、道場を継ぐことになる。
社会人になったら空手に対する視点が変わり、楽しさに気がついた。実家の父を手伝い、道場の師範代になる。父の思いである「人を傷つけずに自分を守る武術」はサッセンの原点だ。
道場では怪我をしない素材の模擬刀で護身術の訓練をしていた。武術の練習メニューの1つだったが、子どもの生徒たちは純粋にチャンバラとして楽しんでいた。武術の中から「武術の訓練」だけを抜き出して独立させてみよう。それが初期の「サッセン」だ。当時は忠実に護身術に従い、剣道、柔道、空手道など、道着を着る人だけが対象だった。
本村さんのモヤモヤは、武道の試合時に審判の判定に泣かされたことに由来する。
「『自分が勝った』と思っても、審判の目によって判定が異なることがあるのです。審判は正しいと判定しつつも、自分にとっては意図しない結果になることもある。審判も人だから、完璧ではないとわかっていても納得いきませんでした」
審判にもどちらが先にあてたかわからない。そのような悩みもあった。師範代となり教える立場になり、責任も自分にかかってくる。見る人もやる人も審判も「みんなが納得する判定はできないだろうか」と考えた。空手は好きだったが、もっと自由に新しいことをしてみたい。チャレンジする気持ちが膨らんでいた。
「サッセン」の誕生
父が60代となり、本村さんは道場の後継を託された。「武術の訓練」としてやっていた初期のサッセンも「自由に形を変えて良いなら」と引き受ける。本村さんの思いを現実化してくれる人が現れた。
実家の道場に通っていた、筑波大学を卒業した開発エンジニアで、全日本サッセン協会のCTOの鋤先 星汰(すきさき せいた)さんだ。センサーを組み込んだSASSEN刀を開発し、勝負の判定をデジタルでクリアにできるアプリをつくった。2016年にデジタル判定をおこなう「スポーツ交戦装置」で特許をとり「サッセン」はスポーツとして独立。本村さんは全日本サッセン協会を設立し、会長に就任した。
「『サッセン』は武道の裏口を入口にしたんです」。裏口を入り口とは、どういうことなのだろうか。サッセンは伝統的な武道とは対称的だ。服装は自由、屋内でも屋外でも、裸足だろうが靴を履いていようができる。男性も女性も、老人も子どもも、武道の経験者であろうとなかろうと年齢性別に関係なく対戦できる。
人の目と経験で判断されていた勝負の判定は、刀に内蔵されたセンサーとスマホのアプリがおこなう。デジタル判定は明快で誰もが結果に納得できる。SASSEN刀は赤、青、緑に光り、当たると強烈な音がする。モノトーンに落ち着いた道場でおこなわれる武道とは、まるで異なるのだ。
サッセンのルールは極めてシンプル。2人で対戦し、制限時間は1分間。相手の頭部に当ててはいけない。2本先取したほうが勝ちだ。ただしSASSEN刀を振り回せるのは5回だけ。むやみやたらには振り回せない。ここぞという瞬間を狙い、間合いを詰めて打ちにいく。
何もしないとき、SASSEN刀は青く光っているが、振ると緑、当たると赤に変わる。同時に当たった時は内蔵された圧力センサーが計測し、時間差が0.025秒以内であれば相打ちと判定される。
サッセンの非日常感
サッセンを初めて体験する人も多い。目の前のフィールドでは初対面の男性と女性がSASSEN刀を構え、今や斬らんと向き合っている。日常でそのようなシーンはあるだろうか。
「これ以上のピリピリ感はないと思います。初対面同士でいきなり向き合い、斬り合うわけですから。安全なフィールドの中で、相手がどう出てくるかまったくわからない。未知の相手が繰り出す次の手を探りあっているのです」本村さんはそう話す。緊張の中で、人それぞれの反応が面白い。
「真剣にサムライになりきる人もいます。戦うことが好きだからでしょうか。一方で笑い出す人も一定数います。『何コレ〜ッ』って。ピリッした空気を感じてなのか、思わず笑ってしまうほどの非日常感なのでしょうね」
サッセンの戦いの場に、本村さんがかつてモヤモヤしていた判定の曖昧さはない。テクノロジーが武道のDXを実現した。
「負けると悔しいですが、勝ったときは爽快です。アプリが点数を出してくれて、明確に勝敗がわかります」
フランス発祥のフェンシングでは人の目ではなく、電気審判機で勝敗を判定する。日本武道の長い歴史の中で、同様な考えを実現したのはサッセンが初めてではなかろうか。
ユニバーサルデザインのサッセン
「誰でも手軽に、どの年齢でも、障がいを持った人も楽しめるスポーツにしよう」
本村さんがサッセンを立ち上げた時のコンセプトだ。年齢性別・障がいの有無に関わらず、同じルール、条件で楽しめる。
叩くと光る、音が出るというSASSEN刀のシンプルな機能は、使い方にも広がりがある。特別養護老人ホームや学童クラブでもレクリエーションとして活用された。たとえば、SASSEN刀をスイカに見立て地面に置き、スイカ割りのように使うこともできる。対戦時の2本の刀から出る音もわけている。視覚障がい者が利用したときは、自分の刀の音がわかるのだ。
SASSEN刀は発砲ポリエチレン製の素材をビニールでラップし、当たっても怪我をしないような安全な素材を使用している。つくっているのは、スポンサーでもある障がい福祉サービス「株式会社 希樹屋」だ。
ここでは就労継続支援B型*1を利用している障がい者の方々が、刀身のコーティングやステッカーを貼る作業をしている。普段はアルコール消毒液をボトルに詰めるなど、エンドユーザーが見えない作業をしている。SASSEN刀は自分たちのつくったものがテレビなどのメディアで紹介されるため、やりがいにつながっているそうだ。
SASSEN刀は1振約20万円。センサーやバッテリー、発光部品が組み込まれ、3Dプリンタでつくられたパーツも使う。
サッセンの新しい使われ方
地下アイドルのオフ会でもサッセンは使われた。秋葉原のスタジオに30人ほどのファンちが集まった。地下アイドルがファンたちのお尻を1人ひとり、バンバンバンと叩いていく。「バシーン」とインパクト大な音がこだまする。ファンたちは「ひぃぃ〜。ありがとうございます!」と歓喜の雄叫びをあげるのだ。
「コンテンツの1つとして自由な発想で活用してほしいと思っています。たとえばサッセンを使った婚活イベントや街コン、企業の研修や新入社員研修、人事の採用にも活用できます。面と向かって話すだけより、サッセンをやっているとその人の性格が出てきます。本気で勝負する人もいれば、相手に気遣いしながら戦う人もいる。ぐるぐる逃げ回っているだけの人もいる。人柄が自ずと引き出されるスポーツなんです」
企業研修では、無礼講でここぞとばかりに上司を叩く部下もいるらしい。
「やりたいことをできるに変える」サッセンのこれから
本村さんにこれからやっていきたいことを聞いた。
「将来的にアジア、アメリカ、ヨーロッパにも進出していきたいですね。コロナ禍もあってまだまだ外国の人に触れる機会は少ないですが、熱心なアメリカ人が通って来ています。香港からも問い合わせが来ています。サッセンのシステムはそれほど難しい仕組みを使っている訳でありませんが、サッセンの概念はきちんと伝えていきたいと考えています」
ビジュアルもワクワク感も楽しめる次世代のデジタルスポーツ。近い将来、ガラスのタワマンに囲まれた街角で子どもたちがSASSEN刀を振り回し、チャンバラをしている光景を目にするかもしれない。
*1:障害のある方が、一般企業に就職することに対して不安があったり、就職が困難な場合、雇用契約を結ばず生産活動などの就労訓練をおこなうことができる事業所及びサービス