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「自力で体を動かしたい」を支援―装着型サイボーグ「HAL®」をトレーニングに活用するメリット

高齢や病気、けがなどで体を動かすことが困難になった人のリハビリプログラムに、最先端のテクノロジーを活用している施設がある。世界初の装着型サイボーグ「HAL®」(以下HAL)を使ったプログラム「Neuro HALFIT®」を提供するのが、国内に17か所あるロボケアセンターだ。2019年にオープンした道内唯一の札幌ロボケアセンターを運営する、株式会社リハ・イノベーション代表取締役の野﨑円さんに、開設の経緯や成果について話を聞いた。

野﨑 円(のざき まどか)さん プロフィール

1977年生まれ、北海道室蘭市出身。理学療法士として道内複数の病院での勤務を経て、2015年に株式会社リハ・イノベーションを設立。翌年以降、ヴァルハラグループとしてヴァルハラ訪問看護ステーション、ヴァルハラ介護相談センターなどの介護保険事業を相次いで開設し、リハビリテーションや地域に根差した医療介護を推進する。2019年、札幌ロボケアセンターを開設し、HALを使ったリハビリ実践を本格化。

利用者に合わせたプログラムで身体機能向上へ

「利用者さんができることを増やしたい、開設した理由はその1点です。麻痺があり手を動かせなかった人がご飯を食べられるようになったり、持てなかったものが持てるようになったりしてほしい。HALは人の力を使うだけのリハビリよりも効果的にできると理解していたので」。野﨑さんはロボケアセンター開設の狙いをこう語る。

 

札幌ロボケアセンターは札幌市中心部から車で25分ほど。山あいの住宅地にある。建物に入ると、トレーニングマシンのような機器とともに、下肢や腰、腕・肘など様々なタイプがある。これがHALだ。

住宅街にある札幌ロボケアセンター

センター内には HALや歩行運動に使うトレッドミルが並ぶ

HALは筑波大学発のベンチャー企業 CYBERDYNE社(サイバーダイン)が開発した。人は体を動かそうとするとき、脳から神経を通じて意思を伝達する信号が筋肉に送られ動作する。その時に漏れ出る微弱な「生体電位信号」を、皮膚に貼り付けたセンサーで検知し、装着者の意思に合わせ動きをアシストする。「たとえば脊髄損傷や脳出血で腕を伸ばす、膝を曲げるなどの動きが思うようにできない場合、足りない動きをHALがアシストするイメージです」と野﨑さんは説明する。

 

利用者はコロナ禍で大きく落ち込んだが、「現在はコロナ禍以前との比較で月120%程度」を記録しているという。平日は毎日1~3人、週末には道内各地から4~5人がセンターを訪れ、HALでトレーニングしている。センターで提供している HALは歩行運動に使う下肢タイプ、体幹や股関節の運動をアシストする腰タイプ、膝・足首・肘などの単関節タイプを合わせ3種類。単関節タイプは利用者宅へ持参し、在宅でのNeuro HALFITにも活用しているそうだ。

肘などに装着する単関節タイプ。利用者宅でも使用できる

HAL は「道具」の一つかもしれない。しかし、利用者の状態によって HALをいかに適切に使えるかは、野﨑さんの腕にかかっている。「何をできるようにしたいのか、どこまでできるようになりたいのかを聴きます。ですから、利用者さんによりプログラムや取り組み方はすべて異なります」。このぐらいの回数HALを使ってトレーニングをやれば、この段階まで回復できるはず―。そういった実施計画にも、20年近い理学療法士としてのキャリアに裏打ちされた自信が垣間見えた。

介助なしでも大きな効果が期待できる

野﨑さんがHALを知ったのは訪問看護ステーションを開設したころだ。利用者からのリクエストに応え、開発元の CYBERDYNE社 からレンタルし、重さ約15kg の下肢タイプを抱えながら訪問看護で2年間ほど使用した。これが CYBERDYNE社 のフランチャイズとして札幌ロボケアセンターの発足につながる。

 

「2年間 HALと向き合い、リハビリにとって HALは画期的な技術だと確信しました」。HALを使うメリットについて、野﨑さんは次のように説明した。

 

「人ができないことをしてくれることですね。たとえば歩行運動をするとき、利用者さんの身体を私たちが後ろから支えます。この状態で脚を曲げてくださいとお願いするのですが、こちらは両手がふさがっているのでサポートができません。しかしHALを装着することで、利用者さんが1人で運動することが可能です」

HALを装着すれば1人でも歩行運動が可能になる

ところで、肝心の効果はどの程度あるのだろうか。「50代の利用者さんを中心に、他の施設でやっていたときよりも、よくなったと言われることが多いですね」と野﨑さんは語る。道外のロボケアセンターの事例だが、脳卒中の後遺症で18年間肘を曲げられなかった人が、3か月のトレーニングにより、自力で肘を曲げられるようになったケースもあるという。

 

HALを使用した運動を繰り返すことで神経系や身体機能が強化・調整され、HALを外しても同様の動作が期待できるのだ。だが、そこには保険適用外という壁がある。原則全額自己負担になるため、費用の問題は HALを提供する野﨑さんにとっても頭が痛い。

「もっと多くの人に活用してもらいたいという思いは強いです。でも利用者さんの費用負担は1回60分で1万5,000円。決して安くはないので、保険の適用についてのお問い合わせも多く、費用面を理由に断念する人がいるのも事実です。もう少し安く提供したい気持ちはありますが、今は来て頂いたご利用者様にはその価格に見合ったサービスを提供し、ご満足頂けるよう日々研鑽を積んでいます。」

入院時の保険適用によるリハビリが最大180日に制限されているなどの事情により、十分なリハビリを受けられない人が増えている。ロボケアセンターがその人たちの受け皿になっている側面もあるようだ。

予防医療やアスリート向けに広がる可能性

野﨑さんはリハビリ以外の領域にも HAL の可能性を見出している。その1つは予防医療だ。加齢により体力が低下する状態「フレイル」を予防したり、立ったり歩いたりする能力が衰えるロコモティブシンドローム対策に有効らしい。すでに高齢者を対象にグループで取り組むプログラムを提供している。

 

もう1つはスポーツでの活用だ。道外のロボケアセンターでは筋出力の最適化を目指すプログラム「MTX式Neuro HALプラス」がおこなわれ、メジャーリーグの選手らトップアスリートも使っているという。札幌でも同様の取り組みをスタート。市内のゴルフクラブでフォームの矯正に HALを活用し始めた。

 

「腰タイプの HALを装着してスイングしてもらい、筋肉に余計な力が入っていないかどうかを確認します。筋肉が過剰に使われていると、スライスなどの原因にもなります。過剰な筋緊張が起きていないかなどを専用のモニターでチェックし、効率的な姿勢や体を動かし方を学習し、パフォーマンス向上に繋げていこうと考えています」

HAL を装着しゴルフのスイングチェックに活用

こうしたビジネスプランとともに検討しているのが、拠点の増設だ。広い北海道を札幌拠点だけでカバーするのは大変である。経営的な難しさを理解したうえで「旭川に拠点があれば道北の人が通いやすい。釧路や帯広から来る人もいるので、その近くにも拠点を作りたい」と意気込みを口にする。

 

「人のために何かできる仕事はとても魅力的です。HALを選択肢の1つとして活用し、困っている利用者さんができることを増やしたい」と繰り返す野﨑さん。1人ひとりが思い描く暮らしのサポートへ、ぶれずにまっすぐ歩み続ける。

 

札幌ロボケアセンター

 

執筆

おおさきてつや

コンテンツクリエーター・ライター。30年近い新聞記者経験を活かしビジネス系コンテンツやインタビュー記事制作をメインに活動。大学でスポーツ社会学研究者の顔も持つ。愛するものは旅。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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