さくらインターネットが提供するさくらのレンタルサーバは、2024年、サービス提供開始より20周年を迎えました。20という数字にちなんで、さくマガでは「担当者に聞きたい20のこと」と題し、さくらのレンタルサーバに携わる社員3名に20の質問に答えてもらいました。本記事は、その前編です。
さくらのレンタルサーバの20年の歩みとともに、開発の裏話やさくらのレンタルサーバの便利な機能、今後の展望などについて語っています。ぜひご覧ください。
3名のプロフィール
1.自己紹介
――さくらのレンタルサーバ20周年企画ということで、これから20の質問に答えていただきます。まず、自己紹介をお願いします。
インターネットサービス部の部長の谷口です。
谷口 元紀(たにぐち げんき) プロフィール
インターネットサービス本部 インターネットサービス部 部長
2016年5月にさくらインターネットに入社。さくらのレンタルサーバ、ドメイン、SSL、ウェブアクセラレータ(CDN)などのサービス企画を担当。システム開発の PMからWebサイト構築、運営、クリエイティブディレクター、PdM、イベント登壇、書籍含めた記事ライターまで幅広くこなす。
インターネットサービス本部のインフラ開発・設計業務を担当している山本です。
山本 真史(やまもと まさふみ) プロフィール
インターネットサービス本部
2008年4月にさくらインターネット入社。これまでにデータセンタースタッフ、サーバー監視チームなどの業務を経験。現在は、インターネットサービス本部のインフラ面の開発・設計の業務を担当。
2023年に入社しました、永岡です。さくらのレンタルサーバの企画業務を担当しています。
永岡 侑起(ながおか ゆうき) プロフィール
インターネットサービス本部 インターネットサービス部 サービスリードグループ
北九州工業高等専門学校を卒業後、クラウドサービスのサービス企画業務や社内システムエンジニアを経て、2023年3月にさくらインターネット入社。さくらのレンタルサーバ、ドメイン、SSLのサービス企画業務を担当。さくらのSSLではプロダクトマネージャーとして業務を担当。
2.さくらインターネットに入社した理由
――谷口さん、山本さんは以前さくマガに登場いただいていますが、永岡さんははじめてですね。まず、さくらインターネットに入社した理由をお聞きしたいです。
以前からさくらインターネットのことは知っていました。大規模なデータセンターを中心に長年にわたってインフラ事業を支えてきた実績と、それによる信頼性、また、最新の技術を研究し取り入れる姿勢にとても魅力を感じたんです。
自社内でレンタルサーバーやSSL、CDNなどを展開していたり、個人・法人問わず柔軟にサービスを提供していたりというところにも惹かれましたね。
私自身はこれまでに複数社を経験してきました。今後のキャリアを考えると、お客さまのニーズに沿ったサービスを企画し、リリースまで進める企画職として、さくらインターネットでチャレンジしたいと考え、入社を決めました。
■谷口・山本の記事を見る
>>企画担当者に聞いてみた! 新しいさくらのレンタルサーバ、どう変わった?
>>「ミドルウェアを駆使してお客さまのニーズに応える」さくらのレンタルサーバを作るインフラ開発エンジニア
20年を振り返って
3.印象に残っているできごと
――谷口さんにお聞きします。これまでサービスに携わってきたなかで、印象に残っているできごとは何でしょうか?
無料SSL機能(Let’s Encrypt)のリリースですかね。他社の競合サービスがつぎつぎとリリースしていましたし、お客さまからの要望も多く集まっていましたので、大きな期待を寄せられていたと思います。セキュリティ系の機能ですから「失敗できない」という緊張感もありました。
――リリース後、お客さまからの反応はいかがでしたか?
「さすがさくらさん、ありがとうございます」という声が多かったです。無事にリリースできて、お客さまにもよろこんでいただけて安心しました。
4.最大のピンチ
――これまでに直面した最大のピンチをお聞きしたいです。
DKIMの対応(※1)はピンチでしたね。
そうですね。私たちの仕事って、基本的に締め切りがあるものはないんです。DKIM対応も、2024年度中にリリースできればいいかなと思っていたのですが……。
Gmailのポリシー変更があり、2024年2月には絶対に対応を完了しないとまずいということになって。もともと進めてはいたんですが、想定していたよりも早くリリースする必要がありました。
通常、新しい機能をリリースする際、多くのユーザーにトラブルが発生しないように、一気に進めずに少しずつ対応範囲を拡大していくものなんです。
でも、DKIMに関してはそんなことをしていられませんでした。他社サービスも当社と同様にデッドラインにリリースされていたので、様子を見ることもできずドキドキしながらのリリースでしたね。ただ、その後も大きな問題は出ていませんし、いまのところ順調でよかったなと思っています。
>>送信先で迷惑メール扱いされない?DKIM機能って何?(コラム)
「困っていることはない」と言われるとうれしい
5.ニーズの変化
――20年で、さくらのレンタルサーバのユーザー層やニーズの変化はありましたか?
個人のお客さまと比較すると、法人のお客さまの比率と数が増えています。中小企業などでWebページを運営したいというニーズはまだまだ多いですからね。
6.ユーザーの声を反映した機能
――お客さまの声から実装に至った機能はありますか?
ストレージの容量は残っているのに、メールの容量がすぐいっぱいになってしまうというお声を多くいただいていました。そこで、サーバーのストレージ容量の範囲内で、1メールアドレスあたりの容量の上限を自由に設定できるようにしました(2023年9月)。
>>メールの基本設定・メールの容量を増やしたい(さくらのサポート情報)
――お客さまの声は多くいただいていると思いますが、どういったものを優先して実装しているのでしょうか。
お客さまの声を取り入れることも大事なのですが、私はエンジニアの視点で「これは必要だな」というものを実装したいと思っています。
ニッチなものではなくて、幅広くお客さまのニーズを満たせるものだったり、ニッチだけどこれは必要だなと思うものだったりします。
何か1つの要素で決められるものではないですね。全体の開発リソースの都合上、手を動かせる人数は決まっているので、そのなかで何を優先するかはそのときによって判断しています。
たくさんご要望をいただいているのに、技術的に実現するのが難しいことももちろんあります。そういうものも、諦めるのではなくどうにかできないか試行錯誤を続けていますね。
――上位プランへの変更もできるようになりましたよね(2024年1月)。これも、何年も前からたくさんご要望があった機能の1つだと思います。いま山本さんがお話ししていた、技術的に難しかったところが解決して実装に至ったのでしょうか。
プラン変更については、技術的なところももちろんですが、社内の料金関連の調整も難しいポイントだったんです。社内の販売管理システムの開発も必要になりますからね。関係者全員が納得する形になるまで、担当者が必死で調整してくれました。
開発担当者の間でやりたいことリストみたいなものがあるんですが、プラン変更もかなり前からそのリストに載っていました。
技術的な面でいうと、データベースをコピーできる機能など、プラン変更機能の実装に至るまでの細かい機能をじわじわと順番に作っていって、ようやく実現したという感じです。
7.ユーザーから好評な機能
――お客さまから実際にいい反応をいただいている機能があれば教えてください。
比較的新しい機能のなかでは、とくに推奨設定機能(※2)ですね。
さくらのレンタルサーバ利用開始後、初期設定から変更していなかったり、セキュリティが脆弱な状態でそのままになっていたりするお客さまが結構多いんです。そういったお客さまに対して、こちらからアプローチできないかと考えたのが、この機能を実装した発端になっています。
実際に、設定を変えていただいたお客さまがどのくらいいるかを毎月確認していますが、推奨設定機能のリリース後にその数が跳ね上がったんです。多くのお客さまが推奨設定からご自身の環境の改善をしていただいている。それが数値として出たので、うれしいですね。結果的に、さくらのレンタルサーバ全体のセキュリティ向上にも繋がっています。
8.ユーザーからの反応でうれしかったこと
――お客さまから直接ご意見を聞く機会はありますか?
業務の一環として、サービスに関連するイベントへ参加することはあります。
先ほどお話したメール容量の上限撤廃については、イベントでブースに来てくださったお客さまから直接お声がけいただきました。お褒めの言葉をいただけてうれしかったですね。さくらのレンタルサーバを使ってくれているお客さまに実際にお会いできると、モチベーションが上がります。
私も、お客さまと直接お会いする機会は少ないのですが、イベントなどでお声がけいただくことはあります。「何か困っていることはないですか」とお聞きしたときに、「とくに無いです」と言われるとうれしいですね。お客さまがやりたいことができているということだと思うので。
あまりコントロールパネルも見ないという方もいますが、逆にコントロールパネルを使わなくてもご満足いただけているということじゃないですか。
たとえば、WordPressを利用しているお客さまの場合、WordPressで快適にWebページを運営できていることが大事。レンタルサーバー自体を使いたくて使っているわけではないはずですよね。お客さまがやりたいことができていればそれに越したことはないです。
「止まらない」ことが重要
9.さくらのレンタルサーバの強み
――あらためて、さくらのレンタルサーバについてお聞かせください。ズバリ、さくらのレンタルサーバの強みは何でしょうか?
日本でもトップクラスのシェアを占めることですかね。多くのお客さまにご利用いただいているからこそ、安定した売上をベースにして、定期的な機材リプレイスや継続的な機能開発などができていると思います。
同時に、多くのお客さまからさまざまなお問い合わせが寄せられるので、それがノウハウ化され、サポートの対応品質も日々上がっている。マイナーなトラブルでも解決できる確率が高いのは、大規模なサービスだからこそではないでしょうか。
その結果、多くのお客さまにさくらのレンタルサーバを選んでいただいている、そしてお客さまが増えることでよりよいサービスになっていくという、よい循環が生まれています。
10.こだわりポイント
――さくらのレンタルサーバを提供するうえで、こだわっていることはありますか?
お客さまがご利用中のサービスが止まらないようにしつつ、新しい機能を提供していくことです。
レンタルサーバーは、冷蔵庫みたいなものだと思うんですよね。止まらないこと、安定して動くことが大事なんです。
さくらのレンタルサーバのご利用数は、およそ50万アカウント。たとえば仕様変更をするとして、それが1%のお客さまに影響があるとすると、だいたい5,000アカウントになります。1%という割合で見ると大したことないのですが、5,000という実数で見ると結構多いなと感じませんか?
そう考えると、1%以上の影響がある仕様変更はしにくい。少なくとも0.1%ぐらいの影響で考えなければなりません。
――たしかに、もし5,000ユーザーが一斉にカスタマーサポートにお問い合わせしたら、大変なことになりますし。
そうなんです。仕様変更後すぐ、一斉に影響がでるのか、時間をおいてじわじわと影響がでるのかといった観点でも考える必要があります。長い時間をかけていろいろな機能が実装されているサービスですから、こっちを立てるとこっちが立たないみたいなこともでてくるので、慎重に進めないといけません。
OSのバージョンアップなど、必ずやらなければならないことはあるのですが、それによってお客さまのWebサイトが動かなくなってしまうといった状況は避けないといけません。
――当たり前のように安定して動くよう、日々努力されているということですね。
さくらのレンタルサーバならではのこだわりでいうと、コンテンツブースト(※3)などの機能ですかね。さくらのCDNサービス「ウェブアクセラレータ」を連携した機能です。自社にあるほかのサービスの技術と連携してさくらのレンタルサーバで利用できるようにする。そういったことは今後もこだわってやっていきたいですね。
11.漢字一文字で表すなら
――さくらのレンタルサーバを漢字一文字で表すとしたら、何になるでしょうか。……この質問、難しいですよね(笑)。
そうですね(笑)。……「繋」とかいかがでしょうか。
お客さまとの「繋がり」を大切に、さまざまなサービス・機能を提供していますし、今後もそれを継続していきたいという想いを込めました。
あとは、サービスはもちろんなのですが、イベントの実施やビジネスソリューションの拡充もしていきたいですね。それを通して、さくらインターネットのファンの方々との「繋がり」を大事にしていきたいです!
――素敵です!考えてくださってありがとうございます!