さくマガ公式SNS
お問い合わせ

防災・減災の情報を日常に。アールシーソリューションが目指す「命を守る」サービスの未来

>>さくマガのメールマガジンに登録する

東日本大震災から13年。日本列島ではいまなお大小の地震が頻発し、気候変動の影響で豪雨や台風による被害も増加している。被害を低減するためには、適切な情報の収集と活用が欠かせない。「令和6年能登半島地震」の被災者からは、「緊急地震速報通知アプリのおかげで命が助かった」との声も。そのアプリ「ゆれくるコール」を提供しているのは、東京都新宿区に本社を置くアールシーソリューション株式会社(以下、アールシーソリューション)だ。

地震動の予報業務許可事業者として、個人・法人向けに複数のサービスを提供。2007年にリリースした「ゆれくるコール」のダウンロード数は累計700万に達する。防災・減災に特化したシステム開発を手がける同社で営業企画を担当する関根 大さんに、防災情報システムの開発経緯や今後の展望について聞いた。

 関根 大(せきね だい)さんプロフィール

アールシーソリューション株式会社営業企画部係長。茨城県日立市出身。2016年入社。高校2年生のときに東日本大震災を経験し、防災・減災の仕事に携わりたいと考えるようになる。大学進学後、システム開発系の学部でプログラミングの知識を習得。それを活かせる防災・減災の仕事を探していた際に同社と出会う。入社後は3年間ほど自社のスマートフォンアプリ開発に携わり、その後営業部門に異動。現在は顧客との折衝や新規開拓を担当している。

東日本大震災を契機に防災・減災支援事業に舵を切る

2011年3月11日、三陸沖でマグニチュード9.0の巨大地震が発生。2万2千人以上の命を奪い、多くの人の運命を変えた。被災者ばかりではない。アールシーソリューション株式会社のメンバーもそこに含まれる。

東日本大震災から遡ること4年、2007年に気象庁が緊急地震速報の一般提供を開始した。同じ年にApple社の「iPhone」が発売され、スマートフォンの時代が幕を開ける。

当時のアールシーソリューションでは、一般的なシステム開発を手がけていた。創業メンバーの1人がスマートフォンのアプリの技術と緊急地震速報の仕組みに興味をひかれ、緊急地震速報通知アプリ「ゆれくるコール」を開発。

「開発の発端は技術的な関心で、初期ユーザーも『こんなことができるんだ』と、ある意味おもしろがって使ってくださる方々でした」と関根さんは説明する。

「ゆれくるコール」の開発をきっかけに、スマートフォンアプリの開発は同社の事業の柱の1つとなっていくが、防災・減災分野に軸足を置いたわけではなかったという。

ところが、リリース約半年後の2011年に東日本大震災が発生。緊急地震速報に対する関心が高まり、それを受信できる唯一のスマートフォンアプリだった「ゆれくるコール」のユーザー数が10倍に急増する。アールシーソリューションは、サーバーの増強に追われながら、防災情報の重要性を再認識。「防災・減災ソリューションで人と社会の安心・安全に貢献する。」を経営理念に掲げ、防災・減災に特化したサービス開発に注力し始めた。

2024年現在、「ゆれくるコール」は、緊急地震速報の通知に加え、津波警報の通知、震度マップ、安否確認などの機能も備えており、累計ダウンロード数は700万に達する。

「ゆれくるコール」アプリ画面例(左から、震度マップ、設定画面、地震発生一覧)

「命拾いできた」の感謝の声に“命を守る”を実感

 東日本大震災発生当時、関根さんは茨城県の高校2年生だった。

「普通に授業を受けていたら、突然大きな揺れが来て。その後の被害の大きさを目の当たりにして、こういった災害から人々を守る仕事がしたいと思うようになりました」

震災後、関根さんは被災地でのボランティア活動にも参加。その経験が防災・減災への思いをさらに強くした。大学ではシステム開発系の学部に進み、プログラミングの知識を身につけた関根さん。就職活動では、その知識を活かせる防災・減災の仕事を探し、アールシーソリューションに出会う。東日本大震災をきっかけに防災・減災の道を志した企業と、人との縁が結ばれた。

2016年に関根さんが入社した8年後、2024年の元旦に能登半島地震が発生。大きな被害に胸を痛める関根さんのもとに、「ゆれくるコール」のユーザーからメッセージが届く。

「『このアプリのおかげで命が助かりました』という感謝の言葉をいただきました。緊急地震速報が届いて、すぐに逃げたそうです。数秒後に大きな揺れが来て、建物が崩れた。もし数秒前に逃げなかったら、下敷きになっていたとのことでした。こういった声をいただくと、命を守るサービスに携わっていることを実感します」

防災情報を多言語で提供する「防災クラウド」

現在の同社の主力サービスの1つが、2017年にリリースされた「防災クラウド」だ。これは、地震や気象警報などの防災情報を14か国語で提供するAPIサービス。観光庁の事業に協力するため開発した訪日外国人向け防災アプリ「Safetytips」をAPIで利用できるようにしたものだ。

Safetytipsメイン画面例(左から、日本語、英語、インドネシア語)

「Safetytipsは素晴らしいアプリですが、インストールしないと使えません。もっと多くの人に情報を届けたいと考え、APIサービスとして展開することにしました」

多言語による日本の災害情報発信をAPI形式で提供しているサービスはほかにない。「Safetytips」は観光客向けに開発されたアプリのため、訪日観光客がよく使う言語が対応言語に選ばれた。その後、技能実習生など、観光客以外で来日数の多い言語も追加されている。アクセシビリティにも配慮されており、視覚障害者も利用しやすいよう設計されている。「防災情報はすべての人に平等に届けられるべきだと考えています」と関根さんは語る。

現在、防災クラウドは国土交通省が運用する新技術の活用のためのデータベースNETIS(New Technology Information System)に登録されており、30社ほどの企業のサービスと、福岡県などの自治体の防災アプリに導入されている。

福岡県防災アプリ「ふくおか防災ナビ まもるくん」Webサイト

「災害情報を網羅的に扱えることや、連携方法の柔軟性が評価されています。今後はもっと多くの企業や自治体に使っていただき、より多くの人々の安全に貢献したいですね」

命を守り社会を守るBCP支援サービス

「ゆれくるコール」と「Safetytips」はどちらも、個人向けに開発されたサービスだ。「防災クラウド」の導入先も個人向けサービスが中心。しかし、就労中に被災するケースも多く、企業や団体には従業員の命を守る責任がある。さらに、災害発生時に重要業務を守り、早期に復旧を実現しなければならない。

そこで、アールシーソリューションでは、法人向けのサービスにも力を入れている。「ゆれくるコール」は、訓練機能も備えた法人向けプランも提供しており、建設大手企業などで利用されている。「臨場感のある訓練になるとともに、社員の訓練参加意識も高まった」と評価されているそうだ。

企業の防災対策の要となるのが、事業継続計画(BCP)だ。BCPとは、災害などの緊急事態発生時に、企業が被害を最低限に抑え、事業継続・復旧するための計画のこと。政府はBCPの策定を推奨し、一部の業種では義務付けも実施された。しかし、中小企業の策定率は低いレベルで推移しており、2024年2月に日本商工会議所が実施した調査(※1)では、「策定済み」「策定中」をあわせても35.8%に留まる。一方、「必要と思うが策定していない」は54.6%。策定できない理由として、内閣府の調査(※2)であげられたのは、現場の意識や人手の不足だ。

アールシーソリューションでは、この課題解決を支援するために、新サービス「BCP-PREP」の開発にも取り組む。

「従業員の安否確認はもちろん、設備や取引先の状況も把握できます。経営者が適切な判断を下せるよう、必要な情報を集約して提供します」

たとえば、ある部署の従業員が被災して出勤できない場合、その部署が担当する業務にどの程度影響があるのかを可視化する。また、重要な設備の故障や取引先の被災状況なども踏まえて、どの事業からどのように復旧していくかを総合的に判断するための機能も備えた。

BCP-PREPダッシュボード

さらに、平常時にはBCPの策定や訓練にも活用できるよう設計されている。「BCPを策定している企業でも、実際に機能するかどうかは不安を抱えています。このサービスを使って定期的に訓練をおこなうことで、より実効性の高いBCPの運用が可能になります」と関根さんは語る。自社のBCPにも活用し、機能やインターフェースのブラッシュアップにつなげていく計画だ。

BCP-PREPは、2024年5月に災害対策や危機管理の専門展示会「オフィス防災EXPO」で本格的に発表された。関根さんは「『まだBCPを策定していない』とおっしゃるお客さまも少なくありませんでした。最近は義務化の流れもありますし、そういった企業のニーズに応えられるサービスにしていきたいですね」と意気込みをみせる。


>>5分でさくらインターネットのサービスがわかる!サービス紹介資料をダウンロードする

防災・減災の未来に向けて

災害はいつ起こるかわからない。だが、適切な情報があれば、被害を最小限に抑えることができる。関根さんはそう確信すると同時に、防災・減災情報の発信方法にもまだ課題があると指摘する。「避難情報が出ても、実際に避難する人の割合は低いのが現状です。情報の伝え方を工夫し、人々の行動を促すことが重要です」

この課題に対し、アールシーソリューションでは、より細かな地域単位での情報提供や、リアルタイムの危険度を視覚的に表現する技術の開発にも取り組んでいる。「たとえば、自分の家の周辺の状況がひと目でわかるような表示方法を考えています。より身近に感じられる情報提供ができれば、避難行動にもつながるはずです」

また、防災・減災の情報をより身近なものにすることも必要だと関根さんは語る。

「防災というと身構えてしまう人も多いと思います。災害情報を意識せずに受け取れるようになれば、いざというときにもスムーズに行動できるはずです。たとえば、天気予報や雨雲の動きと一緒に、警報情報も表示するようなイメージです。こうすることで、ユーザーが自然に防災情報に触れる機会を増やせると考えています」

防災・減災に親しみをもってもらうために、「ゆれくる遊撃隊」というキャラクターを開発。子ども向けの雑誌での連載や書籍の発行といった取り組みも実施している。

「ゆれくる遊撃隊」ポスター
「ゆれくる遊撃隊」の連載掲載誌を手に取る関根さん

また、サービスを継続的に提供するためには、ビジネスとして成立することも重要だ。「防災・減災は公共性が高い分野ですが、持続可能なサービス提供のためには収益性も考慮する必要があります。社会貢献と事業としての成立のバランスを取ることが、私たちの課題でもあります」

最後に、関根さんが読者にもっとも伝えたいことを尋ねた。

「何らかの形で災害情報を受け取れるようにしておいてほしいですね。当社のサービスでなくても構いません。1つの通知で命が救われることもありますから」

仕事でうれしいことがあったら、仲間たちと乾杯したいという関根さん。高校生のときに抱いた「災害から命を守りたい」という想いは、志を共にする仲間を得て大きく育っている。 

アールシーソリューション株式会社

※1 日本商工会議所「商工会議所LOBO(早期景気観測 2024年2月調査結果)」
※2 内閣府「令和3年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査の概要」

>>5分でさくらインターネットのサービスがわかる!サービス紹介資料をダウンロードする

執筆

ひらばやし ふさこ

インタビューが好きなライター。ビジネス系メディアを中心に、記事の企画・取材・執筆・編集に携わる。元IT系企業の広報・広告担当。宅地建物取引士。趣味は散歩。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

すべての記事を見る

関連記事

この記事を読んだ人におすすめ

おすすめのタグ

特集