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雇用創出を通じて、虐待が起きない社会へ RASHISAの挑戦

社会課題の解決を事業の目的とする「ソーシャルビジネス」が注目を集めている。 そのなかでも、株式会社RASHISA(以下、RASHISA)がおこなう事業は非常にユニークだ。 同社が提供するのは就労支援サービスの「RASHISAワークス」。 虐待被害により、通常の就労が困難な人々に向けた就労支援に始まり、2022年からはシングルマザーに特化したサービスを提供している。 これまで手掛けていた就活サービスを譲渡し、社会的に弱い立場にいる人々に就労機会を与える事業を始めた背景にはなにがあるのか。 代表取締役の岡本 翔さんに聞いた。

岡本 翔(おかもと しょう)さんプロフィール

1995年、広島生まれ。 高校時代に起業家に憧れて、福岡県の大学に進学。 学生時代に就活支援事業をおこなう RASHISA を創業。 九州の学生と東京のベンチャー企業のマッチング事業をおこなう。 2018年に上京。 翌年、就活サービスをリリース。 同年2019年に同サービスを事業譲渡したのち、2019年12月から虐待の後遺症で悩む虐待サバイバー向けの BPOサービス「RASHISAワークス」を運営。 2022年、同サービスの事業をピボットし「RASHISAワークス with シングルマザー」を開始。

大学時代に起業。きっかけは高校時代に出会った一冊の本

「機能不全家族」という言葉が注目を集めている。 依存症や DV(ドメスティック・バイオレンス)、貧困などにより家族としての機能が崩壊した家庭を指す。 このような環境下で、もっとも大きな被害を受けるのは子どもだ。 虐待は、心身の発達や PTSD(心的外傷後ストレス障害)によりその後の人生に深い影を落とす。 厚生労働省がおこなった調査によれば、2021年度に児童相談所に寄せられた児童虐待相談対応件数は207,659件(速報値)。 対前年度比で2,615件増加し、過去最多を更新した。*1

 

RASHISA の代表取締役を務める岡本さんも、機能不全家族で育った1人だ。 岡本さんは生まれ育った広島県で高校生まで過ごし、中学校を卒業するまでは、祖母と叔父と暮らした。 そこで叔父からさまざまな制約を受けて生活をしていた。 そのような家庭から岡本さんを引き離したのは、小学校のときから始めたバスケットボールだった。 岡本さんは県内有数のバスケットボールの強豪校に推薦入学、寮生活を送ることになったためだ。 しかし、その心にはしこりが残っていた。

「叔父からしたら私は『仕方なく』養育者となった存在。 小学生から中学校を卒業するまでの間、さまざまな嫌がらせを受けて育ったんです。 高校受験のときに、2つの高校から推薦をもらえて、そのうちの1校が寮生活できるところだったので、そちらを選びました。 しかし、どこかで鎖のようなものに繋がれている感覚があったんです。 自由になりたいから、家庭から逃げてきたという気持ちを心のどこかで抱えていたからです」

 

バスケットボール一筋で打ち込んだ高校生活は楽しかった。 プロを目指したいとも考えていたが、やがて全国大会常連校との試合などを通して、その壁の高さを知った。

 

プロのバスケットボール選手になる夢は叶わない。 この先の人生はどのように歩むべきか。 そして、自身を解き放つ本当の意味での『自由』とはなにか――。 そのように考えていたころ、実業家・著述家として活躍する高橋 歩さんの著書『毎日が冒険』(サンクチュアリ出版)に出会った。

 

「高橋 歩さんの本を読んだときに、翼を得たような感覚を持ちました。 ビジネスをしながら旅人であるという生き方が、自由の象徴みたいに見えたんです。 自分も高橋さんのように、現状に縛られることなく自由になりたい。 そう思った高校3年生のころから、起業を考えるようになりました」

 

起業を志すようになったものの、当時は「やりたいこと」が明瞭ではなかった。 そこで、高校を卒業後、福岡の大学へと進学。 バックパッカーで旅をしながら、企業へのインターンに参加し、起業への道を模索した。 その中で見いだしたのが、就活イベントの企画・運営だった。

 

「福岡の学生と東京の企業との出会いの場をつくる就活イベントを始めたんです。 就活支援をする会社でインターンの経験があり、マネタイズの方法は感覚的にわかっていました。 関西にある学生向けに特化したプロモーション、マーティング、就活支援をおこなう企業の専務の方に、ビジネスについて教えていただいたことも大きかったですね。 その方には創業初期の段階で出資していただき、株を一部持ってもらい、株主としてもメンタリングもしていただきました」

 

就活イベントは成功し、岡本さんは福岡で開催されたビジネスプラン・コンテストにも出場するようになった。 そこでも、新しい出会いが背中を押した。

 

「コンテストに出場したところ、審査員の方が後日、面談の機会を設けてくださったんです。 そのときに『おかしょーくん(岡本さんの愛称)は起業したいんでしょ? 今後どうしたいの?』と聞かれたのですが、ふわっとしたことしか話せませんでした。 すると『そんなのじゃ全然”侍”になれていない。 侍っていうのは、覚悟することだよ』と言われました。 その言葉にハッとして、起業することを決意したんです」

 

面談から約4か月後の2017年1月、岡本さんは RASHISA を創業。 階段を上っていけるようにと、1月23日を創業日とした。 社名の由来には、1人でも多くの人が「自分”らしさ”」をもって生きてほしいという想いを込めた。

 

虐待サバイバーのために事業の譲渡・ピボットをおこなう

起業から2年後の2019年、岡本さんの姿は東京にあった。 もっと挑戦したいと、新たな事業へと乗り出すために前年に上京していた。 しかし、当初は挫折の連続だった。

 

「慣れぬ新天地での新規事業は予想以上に難しく、一時は会社を清算し、就職しようとも思っていました。 うまくいかない理由を思案していると『もっと社会の役に立つサービスを提供すべきだ』という考えに至りました」

 

そのアイデアから生まれたサービスが、人材紹介エージェントと就活生をマッチングするサービス「キャリアアドバイザードットコム」だった。 サービスは当たった。 当時、就活生によりパーソナライズされたサービスの需要が増え、マネタイズにも成功し、サービスは順調に成長した。

 

新サービスは軌道に乗ったが、岡本さんには心残りがあった。 それは自身の原点ともいえる、機能不全家族と虐待問題への取り組みだった。

 

「虐待問題にずっと関心があったことは間違いありません。 当事者として、虐待への向き合い方や、事業としてどうやっていくかもわからない状態でした。 そもそもこの問題を解決するのは難しいと考えていたんです」

 

そう思っていたとき、転機が訪れた。

「キャリアアドバイザードットコム」をより成長させるために、資金調達をしていたとき、重要な出会いが待っていた。

 

「現在も RASHISA の株主の1人である出資者の方に、4回もミーティングを組んでいただき、事業について話し合ったんです。 毎回『おかしょーくんは本当はなにがしたいの?』という問いを投げかけてくれました。 ミーティングを重ねていき、自分の根幹にあるものとはなにかを突き詰めていくうちに、本音に結びついたんです。

 

最初は、20~30代の間は、しっかりと資金を得たうえで、虐待や DV の問題を解決したいと話していました。 でも、3回目のミーティングのときに『やはりいまから取り組みたいです』と話したら、『それだったらおかしょーくんを応援したい』と出資を決めていただきました」

 

岡本さんは「キャリアアドバイザードットコム」を譲渡し、事業をピボット(事業転換)することを決めた。 目標としていた調達額で不足していた分は、先述の出資者にすべて提供してもらえた。 こうして生まれたのが、虐待被害者に特化した就労支援サービス「RASHISAワークス」だ。

「RASHISAワークス」が引き受けていたサービス内容(当時、提供:RASHISA)

「虐待を受けて育った方の中には、人とのコミュニケーションや、大きい音、人が多いところが苦手な方もいます。 そういった方々は、働くうえで『普通』とされるような物事に対して、困難を抱えています。 しかし、その困難が社会に知られていないため、長く働くことができずに離職が続いてしまうのです。 当社は、そういった方々と業務委託契約を結んでいます。 配慮する項目をマニュアルにしたうえで、当社のスタッフがコミュニケーションを取りながら仕事をお願いするというワークフローをつくりました。 仕事の内容は、企業から受注した文字起こしやライティング、動画の編集チェックといった、在宅でできる仕事です」

 

自分の体験を取り入れた、虐待被害者にも働きやすい環境づくりを目指した。 さらに、経済状況により自宅にパソコンがないワーカーには、パソコンを貸与するなど、就労を通して社会との接点を構築できる仕組みを目標とした。

 

虐待問題の根本解決を。リブランディングの経緯

「RASHISAワークス with シングルマザー」のビジネスモデル(提供:RASHISA)

サービスのスタートから2年が経った2022年8月、RASHISAワークスはリブランディングを実施し、「RASHISAワークス with シングルマザー」となった。 その背景には、事業としての限界があったと、岡本さんは振り返る。

 

「従来のモデルでも売上は立っていたのですが、単価の低い仕事を多く受注せざるをえない状況でした。 結果として、営業利益として黒字化できなかったんです」

 

一時は事業を譲渡して再出発することも考えた。 しかし、岡本さんはシングルマザーの支援に絞ってリブランディングを選択した。 なぜシングルマザーに特化したのだろうか。

 

「リブランディングをする数か月前から、私たちがおこなうべき事業について再考をはじめました。 その結果として行きついたのが『虐待そのものを減らすこと』。 つまり、虐待の原因には世帯の貧困があります。 そして、貧困に陥りやすいのはシングルマザー世帯です。 シングルマザー世帯の貧困を解消し、自立を支援することができれば、機能不全家族が減り、虐待自体の解消にもなると考えたんです」

 

リブランディングにあたり、受注業務も絞ることにした。 未経験からでも挑戦しやすく、完全に在宅で実施でき、今後伸びる市場であることからインサイドセールスに注力することにしたのだ。

 

「まず、貧困は人とお金の問題であり、ここを解決すれば虐待は減るという仮説を立て、在宅でかつ適正なお給料を得られるようにしたいと考えています。 いまのシングルマザーの方の就労収入は、平均で年間200万円といわれています。 出勤する時間を省きながら家族と一緒にいる時間を確保し、働いて稼げるようにしたい。 そういった観点でいえば、もっとも参入障壁も低くて結果が収入につながりやすいのがセールスだと考えました」

 

また、雇用形態も改めた。 これまでは業務委託契約をとっていたが、リブランディング後は直接雇用に切り替え、より安心して働ける環境づくりをしているという。

 

「ただ、セールスという業務が合わないという内的な要因、子育てや離婚調停や裁判などでなかなか時間が取れないという外的な要因があります。 シングルマザーの方々に、より働きやすい環境を提供するには、改善が必要です。 現在おこなっている採用活動では、まずはアルバイトで入っていただくなど柔軟な対応をおこなうことで、少しずつ雇用を増やして、事業を広げつつ改善していきたいですね」

 

シングルマザーが日本で1番活躍している会社に

RASHISA の公式 Webサイトは、「あたたかい社会の実現」という想いを込めてオレンジを基調としたサイトのデザインとなっている(提供:RASHISA)

RASHISA の取り組みは注目を集め、岡本さんは機能不全家族や虐待問題、さらには D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に関する取材や講演に参加している。 「自社の事業を拡大させるとともに、蓄積したノウハウを社会に普及させていきたい」と語る。

 

「まずは、2023年から2024年の間で、シングルマザーがインサイド・セールスとして日本で1番活躍している会社にしたいと考えています。 同時に、営業未経験のシングルマザーが活躍できるための知見を『RASHISAナレッジ』として蓄積。 営業と学習、そして働き方の3つに分けて、知識を集約しています。

 

このナレッジをもって、2025年からはシングルマザー特化型の HR関連事業を展開していきたい。 RASHISA がシングルマザーの方々にとって働きやすい会社のロールモデルとなり、そのノウハウを事業で展開していくことが将来的な展望です」

 

岡本さんは事業と並行して、将来的にはシングルマザーの活躍を社会的にも支援できるように、行政に働きかけたいと意気込む。 現在、D&I の考え方は大企業を中心に普及しつつあるが、シングルマザーが働きやすいとはいえないのが現状だ。 機能不全家族と貧困の問題とともに、未活用人材であるシングルマザーの可能性についても訴求していくという。

 

RASHISA の公式 Webサイトはオレンジを基調としたデザイン。 その想いにあるのは「あたたかい社会の実現」だという。 同社も「さくらのレンタルサーバ」ユーザーであり、Webサイトの更新は岡本さんがおこなっているという。

 

「創業の2017年からさくらのレンタルサーバを使っています。 最初のデザイン構築からリブランディングでサイト改修した際などは、Webデザイナーとエンジニアにお願いし、WordPress で構築しています。 サーバーを勧めてくれたのはエンジニアですが、自身で使っているなかではトラブルらしいトラブルが起きていません。 そのような安定感は頼もしく感じています」

 

最後に、RASHISA の事業を通して岡本さんが目指す未来像について聞いた。

 

「現状の事業でも難しいところが多く、足元では課題が山積しています。 しかし、いまの事業が拡大し、そしてノウハウを広く提供できるようになれば、将来的にシングルマザーの活躍の場を創出できる。 こうした取り組みがシングルマザー世帯の安定をもたらし、機能不全家族や虐待が起こる構造をなくす未来に繋がっていく。 私が目指すのは、雇用を通してさまざまな問題解決が線でつながっていく社会です。 そのような未来を実現するためにも、まずは現在の事業を軌道に乗せ、自社の認知を広げ、多くのシングルマザーの方々、そして企業にご相談いただきたいと考えています」

株式会社RASHISA

執筆

川島 大雅

編集者・ライター。ビジネス系のコンテンツ制作をメインに行っています。大学では美術史専攻。一時ワイン屋に就職してたくらいにはワイン好き(詳しくはない)。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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