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どの業界においても人材不足がさけばれている昨今、単に人材を採用するだけでなく、いかに長く働いてもらうか試行錯誤をしている企業も多いだろう。そんな課題の解決のヒントになり得るのが、総合人材サービスを展開しているランスタッド株式会社(以下、ランスタッド)の取り組みだ。
同社では、離職防止ツール「マインドウェザー」を活用し、派遣スタッフの定着率を改善。導入の経緯、具体的な活用法、定着率改善以外のメリットなどについて、マーケティング&ブランドコミュニケーション本部DX部DX室DXディレクター兼マネージャーの中村雄一さんと、同部署でDXスペシャリストを務める大木伸悟さんに話を聞いた。
(写真左)中村 雄一(なかむら ゆういち)さん プロフィール
マーケティング&ブランドコミュニケーション本部DX部DX室DXディレクター兼マネージャー。新車販売業からキャリアをスタートし2004年にランスタッドに支店営業として入社。その後、支店長、エリアマネージャー、営業企画部、事業戦略部から現職。
(写真右)大木 伸悟(おおき しんご)さん プロフィール
マーケティング&ブランドコミュニケーション本部DX部DX室DXスペシャリスト。2009年にランスタッドに新卒入社。コールセンター・事務センターSV、営業・コンサルタントの経験を経て営業企画部、事業戦略部から現職に至る。
派遣スタッフのストレスや悩みなどをいち早く察知
オランダに本拠を置き、日本を含む世界39か国に展開しているランスタッド。同社では「Partner for talent」(人材に寄り添う真のパートナー)を掲げ、「世界で最も公平で専門性を備えた人材サービス会社になること」、そして「誰もが自分らしく働ける環境の実現」を目指している。
そんな同社では、スタッフとの連絡に使用している公式LINEの機能を拡充。2024年4月より派遣スタッフが自身の心情を天気で表すことができるマインドウェザーを導入し、同年6月からは、クライアント企業から派遣スタッフへのタイムリーなフィードバックを実施している。
マインドウェザーは、言語化しにくいストレスや悩みなどをいち早く可視化することができるアプリだ。回答する項目は最大で3つ。1つめは必須項目で、派遣スタッフは「晴れ」「晴れのち曇り」「曇り」「雨」「雷」までの5段階のなかから、現在の自身の心情に近い天気を選択する。残りの2つは任意回答で、2つめは求めていることを自由に記述でき、3つめは相談が必要な場合の連絡手段を選べる仕様だ。短時間で手間をかけずに回答できることから派遣スタッフの負担になりづらく、回答率が高まるというのが、このアプリのメリット。このアンケートは、定着率の向上を狙うクライアント企業に派遣されたスタッフを対象に、毎週金曜日の夕方に送付されている。
「この天気マークによって、派遣スタッフのモチベーションや、その変化が可視化されます。たとえば、雨や雷のマークであれば、当社の営業がその派遣スタッフの悩みやストレスを察知でき、アクションを起こしやすくなる。その結果、離職防止につながります」(大木さん)
続いて実装されたのが、クライアント企業から派遣スタッフへの評価をタイムリーにフィードバックをするための機能だ。まずは、毎月10日前後にランスタッドがクライアント企業に、派遣スタッフの評価をおこなうアンケートを送付する。そして、回答のなかから、派遣スタッフのモチベーション向上につながるフィードバックをランスタッドが選択。それを派遣スタッフに送るという流れだ。
「やはり、人間は誰もが褒められたいですよね。以前から派遣スタッフとの面談時には、クライアント企業が褒めているという事実を口頭で伝えてはいました。しかし、この機能によって『具体的にどのような点が褒められていたのか』をタイムリーに送りつつ、テキストで残せるようになりました。これによってスタッフの心情が悪化する前に、先んじて対応ができると考えています」(中村さん)
この機能の導入は2024年10月時点で、約500人の派遣スタッフが対象。今後、対象を拡大する予定だという。
派遣スタッフによりよい顧客体験を提供したい
同社がマインドウェザーとタイムリーなフィードバックを導入するようになった背景の1つに、少子化による労働人口の減少があるという。求職者向けの広告費は同じでも、以前と比較して費用対効果が低下。これは、人材サービス業界における共通の課題だ。
また、人材サービス事業は差別化が難しく、求職者に選ばれる企業であることも、この業界の悩みの種であるという。そのことから、同社では求職者に対して、他社とは異なる顧客体験を提供し続けなければいけないという考えに至ったそうだ。
「このような厳しい状況で当社のビジネスを成長させるためには、派遣スタッフに快適に、長く働いてもらう必要があります。そのために、派遣スタッフの悩みを吸い上げることが有効だと考えました。しかし、当社の社員に向けて類似のアンケートを実施しても、手間がかかることから回答率がよくなかったのです。そこで、ストレスなく回答できるこのアプリを採用しました」(中村さん)
そして、マインドウェザーの利用による効果があったことから、タイムリーなフィードバックも導入した。
「営業担当者は問題を抱えた派遣スタッフにフォーカスする傾向があります。それ以外の派遣スタッフたちとは接点が少なくなり、彼ら、彼女らの頑張りが報われないと感じていました。そんな社員たちにも、いい顧客体験を提供したい、そしてこれが同業他社との差別化につながると考え、追加を決めました。
マインドウェザーを開発しているシースリーレーヴ株式会社に、タイムリーなフィードバックをおこなう機能のカスタムを打診したところ、『ぜひやらせてください』と快諾いただき、当社専用の機能として追加されました」(中村さん)
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営業の業務効率の改善にも
元々、派遣スタッフの定着率が平均で約90%と高い基準にある同社だが、「マインドウェザー」の導入により、定着率が20ポイント上昇したケース、離職率が15ポイント低下したケースもあり、手ごたえを感じていると中村さんはいう。加えて、副次的な効果も得られたそうだ。
「ケアをすべき派遣スタッフを絞れるため、営業の業務の生産性が向上しました。営業担当者によっては、派遣先企業との定例会でマインドウェザーのダッシュボードを見せて、派遣スタッフの心情とその変化を提示したり、それを資料にして提出したりするといったこともおこなっています」(中村さん)
派遣先の企業としても、人手が不足していることを理解しており、現在働いている派遣スタッフに定着してほしいという気持ちがあるという。つまり、派遣スタッフの心情の確認と、改善のためのアクションは派遣先企業にとってもプラスに働くといえるだろう。
人がいかに介在するかが改善のカギに
マインドウェザーは運用開始から時間を置かずに一定の効果を得ているが、いまだ課題もあるそうだ。
「最終的には人だと実感しています。いくらいいアプリを導入しても、派遣スタッフを担当する営業が行動を起こさなければ、なにも改善されません。アプリで得た情報をもとに、どのように行動すれば思うような結果を得られるのかを分析し、実践に移したいと考えています」(大木さん)
「担当営業が派遣スタッフのケアをしても、適切でないと効果が表れづらい。声のかけ方、話すときの距離感などが大切で、いい関係性を構築できていないと対応が難しくなります。ですから、対人関係のトレーニングの強化を図ることが課題です」(中村さん)
同一の職場における定着率だけでなく、同社での契約を継続してもらうことも課題だ。
「当社が契約している派遣先企業との契約満了後、当社ではなく、同業他社が契約している派遣先を選ぶスタッフもいます。引き続き当社の契約先企業で働いてもらえるような工夫の必要性を感じています」(中村さん)
12月は契約満了月になることが多く、派遣スタッフが来年以降の職場を検討している最中であることが予想される。「派遣スタッフの生計に関わることだから、不安な思いをさせたくない」と中村さんはいい、1月以降の職場の選択肢を増やす努力をし、満了を迎えるよりも早い時期から声掛けをするなどの工夫もおこなっているそうだ。
また、同社では他職種から需要が高いIT業界へキャリア転換を支援するためのトレーニングの提供や、派遣スタッフが、AI・ロボット時代でも淘汰されないためのスキルアップのトレーニングの提供も検討しているという。
「タレント」を思う気持ちは尽きないようで、今後もランスタッドは「タレント」のために、ひいてはクライアント企業のために新しいアイディアを生み、形にし続けるだろう。
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執筆
増田洋子
東京都在住。インタビューが好きなフリーランスのライターで、紙媒体とWebメディアで執筆中。ネズミを中心とした動物が好きで、ペット関連の記事を書くことも。
ポートフォリオ:https://degutoichacora.link/about-works/
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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