スマートフォンを使ったモノづくりで、女性と社会のつながりを作る

出産や子育てなどのライフイベントがあっても、社会とつながり続けたい。モノづくりを通して自分の価値を確認したい。子育ての合間のすきま時間に手元のスマートフォンでデザインした商品が EC にも、リアルの店舗にも並ぶ。自分がデザインした商品が並んだときは人一倍嬉しい。大人かわいい商品を販売する、みんなで作るブランド「GAACAL」(ガーカル)を運営する株式会社rainboww(以下、rainboww)。同社は ECサイトの GAACAL store を運営し、2023年2月にはスマートフォンを通じて商品をデザインできる GAACAL maker をリリースした。今回は、「1人ひとりの女性が、仕事とプライベートの両方で輝く世の中を作りたい」という思いを抱く、代表取締役社長の朱 静儀さんに話を聞いた。

朱 静儀(しゅ せいぎ)さん プロフィール

1988年、中国深セン生まれ。早稲田大学教育学部数学科卒業。学生時代にスマホゲームアプリを開発販売し、2016年に上海型尚信息科技有限公司を設立、CTO に就任。2019年に 株式会社rainboww を設立し、代表取締役社長に就任。1児の母。

スマホゲームのエンジニアから、ECビジネスの世界へ

毎日がワクワクする気持ちになれる、スマートフォンのケースや Apple Watch の時計バンドなど、大人かわいいを販売する「GAACAL store」。ブランドを運営する朱さんは、学生時代はゲームエンジニアとして活躍した。ピンクベージュの優しい色合いの GAACAL store のサイトにアクセスすると、さまざまな商品が並んでいる。Apple Watch もバンドを変えるだけで、こんなにも表情が変わるのだろうか。身につけるだけで気分がアガるようなオシャレなデザインに目を奪われる。

ユーザーの声をもとに商品開発を手掛ける、 女性向け雑貨の ECサイト「GAACAL store」

「商品数は約1万点あります。SKU(Stock Keeping Unit:ストック・キーピング・ユニットの略。受発注・在庫管理をおこなうときの最小単位)はさらに多いですね。スマートフォンケースは同じデザインでも機種ごとに異なります。そのため SKU は商品数の10倍以上になるのではないでしょうか。とてもではないですが、手動で管理できる数ではありません」

朱さんはそういって笑う。

 

朱さんは、2016年から日本のファッション商品を中国向けに卸して、月額でレンタルするビジネスを始めた。その後、日本で結婚、子どもが生まれ、事業を一時中断する。そんな中、中国の共同創業者と「中国の商品を使って日本でビジネスができないだろうか」と、話が進んだ。現地の工場のネットワークを使って作ったものを、日本で販売したらどうだろう。偶然にも同じ月に子どもを授かった共同創業者と一緒に、2019年に rainboww を設立する。朱さんも共同経営者も、子どもが生まれてから半年後の会社設立だった。

「まずは売ってみる」で究極のマーケットインを実現

GAACALのビジネスは、ECサイトの GAACAL store と、アイデア商品化ツールの GAACAL maker で構成される。通常、商品販売では企画、デザイン、モックアップ製作、製造、販売と長期間にわたる。しかしGAACALでは、商品の企画から販売まで最短1週間という極めて短期間で実現し、これが大きな強みとなっている。

 

「多くのメーカーがおこなうような、マーケティングや市場調査はほとんどしていないのではないでしょうか。お客様の『こんな商品が欲しい』の声をいただくと、すぐに工場で小ロットでサンプルを作ってみます。小ロットのラインナップを中心に商品展開をして、一度販売してみます。お客さまのフィードバックや売り上げの状況を見て、逆換算して以降の製造数を決めます。そして市場のニーズから確認し、売れる商品はどんどんラインナップを増やすなど横展開をしていきます」

 

まずは実際にサンプルを作り、市場で売れるかどうかを確認する。こうした方法を採用しているため、早いスピードを実現できるのだと朱さんは話す。

 

「いったん作り、市場の反応を見ながら改善するほうが速くてよいものができますね。市場の反応を知るには SNS を活用しています。たとえば、Instagram のライブ配信やメールマガジンのフォームからお客さまの声を直接受けています。『この商品はどうですか?みなさんの意見を教えてくださいね』と、コミュニケーションしながら商品を作っていくんです」

 

メーカー主導の上流から下流へ流れるプロダクトアウトではない。売ってみて、そこで売れる商品を販売する、市場から製造へ、下流から上流へ向かう究極のマーケットインを実現している。

現地工場のネットワークと独自AIを活用し「ほぼ在庫ゼロ」に

こうした GAACAL のビジネスと膨大な商品供給を支えるのが1,500社以上の中国の現地工場のネットワークと独自の AIシステムだ。

 

「2016年から、地道に中国の工場のネットワークを構築してきました。当初は日本で求められる品質を説明しても理解してもらえませんでしたが、価値観やビジネスの違いを現地の経営者に1つひとつ丁寧に説明して製造体制を整えました。このネットワーク作りはいまでも続いています」

 

物流のシステムも独自に構築した。在庫は、ほぼゼロを実現。保有するとしても、2週間分だそうだ。加えて中国からの輸入は航空便を利用しスピードアップを図る。海上コンテナの輸送よりはるかに早く、市場の変化にも対応しやすい。高速オペレーションが在庫リスクを軽減する。

 

「手動管理には限界があるので、在庫管理には独自の AI を使っています。たとえば、スマートフォンのケース1つでも、7色展開で各機種に対応となるとその数はとても多い。AIがサンプルの販売傾向や流れをみて準備すべき数量を予測し、売れそうな数や持つべき在庫数も提案してくれるんですよ」

 

市場調査もマーケティングもしないが、SNS で活動する女性の声に耳を傾け、売れる商品に集中的にリソースを投下する。独自AI による判断で、売れるものにリソースを集中投下する仕組みを構築した。

女性目線で微妙なニュアンス違いの商品をデザインする

2023年2月、スマートフォン1つでアイデアを商品化できるツール「GAACAL maker」をリリースした。ふと思いついた商品をスマートフォンを使って指先でデザインできる。難しいデザインツールや高度なアプリは必要ない。

 

いままで消費者は、企業がデザインした商品と流行でモノを購入していた。しかし朱さんは GAACAL の運営を通じて発見したことがあるという。

 

「ECサイトを利用するいまの女性は自分の欲しいものが明確で、それを言語化できています。そのため、『こういうものが欲しい』といった声をたくさんお聴きすることができるんです。そして、商品開発はそうした方々と一緒におこなうとうまくいきます。たとえばアパレルの店員さんが企画した商品がヒットすることがありますよね。いまは、SNS で活躍している女性が、主体的に欲しい商品を企画してモノを売っていく時代になったのではないでしょうか」

 

GAACAL の ECサイトで販売されている商品を見比べると、一見同じように見える商品もある。しかし、サイトにアクセスする女性は微妙な違いを汲み取っているという。

 

「たとえば、Apple Watch のバンドやフレーム。1つのフレームでも、数え切れない SKU があるんです。ゴールドやシルバー、シャンパンゴールドやパールなど微妙なニュアンス違いのカラーがあります。ケースの厚みにしてもそう。わずかな厚みの違いで、その商品が上品か、かわいいかといった見方が変わってきます」

 

男性はどちらかというと機能中心で、女性はデザイン重視で購入する傾向があるという。

「GAACAL maker」は微妙なニュアンスの違いがわかる女性たちが、自ら商品をデザインできるアプリだ。

GAACAL maker が作り出す社会との接点

「女性はモノづくりが好きな方が多いのではないでしょうか。加えて普段の生活のスキマ時間で、SNS の延長でモノづくりができれば、女性にとっても負担がありません。スマートフォン1台でできる点を大切にしています。子どもを出産後、子育てなどでいろいろな制限があります。モノづくりが好きな方に向けて、GAACAL maker が、モチベーション高く楽しくやれるお仕事の選択肢を1つ増やせたらいいなと思っています」

 

「自分が好きなものを作って、世の中に関わり、さらに売れることで収入も得られる。それよりも大きな意味は、自分の何かが社会に認めてもらえることにつながること。そうした価値を提供したい」と朱さんは言う。家事や育児のちょっとした合間に生まれる「こんな商品があったらいいかも」という小さな想い。それをアイデアだけで終わらせず、手のひら上のスマートフォンから形にできたら――。在庫を持たないためリスクも低く、安心してモノづくりができるGAACAL maker の評判は上々だ。

やりたいことをできるに変える。いままで消えていたアイデアを世界に。

内閣府 男女共同参画白書 令和4年版によると、令和3(2021)年における女性の非労働力人口2,636万人のうち、就業を希望しながら求職していない女性は171万人いるという。*1

 

日本の市場でくすぶっていた女性の想いを汲み取ってリリースされた GAACAL maker。自分がデザインした商品が GAACAL の ECサイトやリアルの店舗にも並ぶ。在庫リスクを持たずに自分のブランドを持てる。ファッション誌面のタレントが立ち上げたブランドに憧れながら、育児や家事の合間にふと思いついた「こんな商品があったらな」というアイデアは、いままで表現する場が少なく、泡沫のごとく消えていた。

 

「rainboww のビジョンは、『諦めから挑戦する人生へ』です。出産や育児などライフイベントで仕事を離れると、社会との接点がなくなるケースもあります。しかし、GAACAL のサービスを利用すればスマートフォンから社会とつながることができます。近年では、多くの企業で副業が解禁されるなど新しい働き方が広がり始めてきています。これを機に、ぜひ多くの方に挑戦する人生への一歩を踏み出してほしいと願っていますし、私たちのサービスがその一助になればうれしく思います」

 

株式会社rainboww