CtoCサービスが増え、競争が激しいリユースショップ業界において、増収増益を続けている地方の企業がある。中古DVDショップ、古着ショップなど13業態で47店舗を北関東にて展開する株式会社プリマベーラだ。2021年度の売上は約41億円。1998年の創業以来、常に成長を続けている。
成長を続けるプリマベーラだが、その成長の鍵はバックオフィスの DX推進にある。仕組み化を加速させるために、チャットツールや管理ツールを導入。コロナ禍をきっかけにさらなる DX を推進した結果、残業時間の大幅な削減にも成功した。
プリマベーラが取り組むバックオフィスの DX とはどのようなものだろうか。経営サポート事業部 社長執行役の松田さん(リモート参加音声のみ)、総務経理 課長の嶋田さん、広報課 課長の亀井さんに話を聞いた。
松田 幸之助(まつだ こうのすけ)さん プロフィール
経営サポート事業部社長執行役。店長・スーパーバイザーを経て、経営サポートに異動。経営サポート事業部社長執行役として、経営サポート事業部全体を率いる。
嶋田 泰徳(しまだ やすのり)さん プロフィール
総務経理 課長。店舗のスタッフ、店長を経て、経理の部署へ異動。2019年優秀社員賞を受賞。
亀井 彬(かめい あきら)さん プロフィール
広報課 課長。店長、スーパーバイザーを経て、現在は広報・イベントプロデューサーを担当。2011年優秀社員賞を受賞。
「決定」「実施」「チェック」「報告」のサイクルを回すためのDX
リソースが不足しがちな地方の企業において、バックオフィスの DX は進みにくい。日々の業務に追われ、業務改善に手を回せず、デジタル人材も不足しがちなためだ。企業のトップが強固な意志を持ち、リソースを投入する場合は別だが、基本的に DX の推進は敬遠される。
一方プリマベーラでは、Chatwork、Discord、Evernote、Google Workspace などのツールを積極的に導入し、業務で活用している。その理由は、ある考え方が会社に浸透しているためだと松田さんは話す。
「弊社では、『決定』『実施』『チェック』『報告』の4つのサイクルを回すことを重視しています。『決定』とは、代表による会社としての意思決定。『実施』とは、代表の意思決定を受けて、社員がおこなう会社の業務です。『チェック』は、業務内容の確認。『報告』とは、社員が現場の仕事での気づきを幹部や代表に報告することです。そして、社員の『報告』を受けて、再び代表が意思の『決定』をおこなう。この4つのサイクルが回転することで、成果を生み出すと考えています。またこの4つのサイクルのなかでも、重要視しているのが『報告』です。『報告』の精度が低いと、その後の会社方針を決める『決定』の質が低下します。そのため、会社として成長していくためには、まずは『報告』の精度を上げなければならないのです。そのために、さまざまなツールを導入しました」
会社の意思決定に深く関わるため、もっとも重要な部分だという「報告」。松田さんによると、「報告」の精度を上げるために、まず Chatwork を導入したという。
「Chatwork を使用すれば、オンタイムで『報告』のやり取りができます。『報告』がスムーズに行けば、『決定』もおこないやすい。緊急かつ重要な課題をスムーズに解決するために、Chatwork を活用しています」
「報告」から「決定」までのスピードを速めるために、Chatwork を導入したプリマベーラ。しかし、コロナ禍に入ると、「報告」の次に発生する「決定」のフェーズで課題が生じたと松田さんは続ける。
「コロナ禍に入ると、緊急事態宣言が発令されました。店舗運営に支障が出始めた影響もあり、緊急で対応しなければならないことが増えたんです。社員が揃わない日も増え、結果として Chatwork だけでは『決定』をしにくくなりました。『決定』のために、オンラインでのミーティングなどを試しましたが、いまひとつ効果がなかった。そこで、シームレスな意思決定ができるように、通話のしやすい Discord を導入しました。Discord は部署や場所の部屋を設けることができるため、バーチャルオフィスとしても使用できます。社員の状態が可視化されるため、リアルでもバーチャル上でも集まって話をしやすくなり、スムーズな意思の『決定』に繋がりました」
コロナ禍の初期には緊急事態宣言の発令もあり、多くの企業がテレワーク導入に取り組んだ。その際にはコミュニケーションの問題が発生したが、プリマベーラでは、その解決のために、バーチャルオフィスとして活用できる Discord を導入した。
さらにプリマベーラでは、全社的にテレワークを推進できる体制実現のため、経理部門でも業務改善に取り組んだという。
コロナ禍で取り組んだ経理の業務改善
経理の嶋田さんは、コロナ禍で取り組んだ業務改善について、次のように語る。
「オンプレミス型のソフトからクラウド型の会計ソフトである freee へ変更しました。目的は、テレワークの推進と『報告』のスピードアップです。テレワークの実現には、会社にいなくても仕事ができなければなりません。この2点の課題を解決するために、クラウド型の会計システムを導入しました。
導入した結果、両方の目標を達成できました。さらに大きな効果としては、業務改善に繋がったことが挙げられます。弊社では、店舗ごとに口座を設定しているのですが、それぞれの取引情報の処理をするために、専用のパソコンで各銀行口座ごとにログインしなければなりませんでした。この業務が、残業時間の増加に繋がっていたんです。会計ソフトをオンプレミス型からクラウド型へ変更したことで、一斉にすべての口座の明細を同期できるようになり、また場所を問わず仕事ができるようになりました。結果、年間で600時間の残業削減を達成しました」
このようにバックオフィスの DX を推進した結果、社内の残業時間は激減。経理以外のバックオフィスでも、1人あたり1か月約20時間の残業時間の削減に成功した。
しかし企業として業績を伸ばすためには、バックオフィスだけではなく、店舗運営の改善も必要になる。そのコアとなるのは、店舗からの情報だ。プリマベーラでは店舗の情報を多く集めるために、自社内で独自の日報システムも開発した。
「日報革命」の開発と成果
プリマベーラでは「決定」の精度を上げるために、「緊急度は低いが、重要度の高い情報が多く必要」という考え方を持っている。この考え方を加速させるにあたって、プリマベーラはボトムアップ型の情報を集める必要があった。そのために開発したのが、「日報革命」という SNS型の日報システムだ。開発の背景について、松田さんは次のように語る。
「弊社では、日報で上げられる報告や『お客様の声』を基に、改善活動や会社の『決定』をおこなってきたんです。従来の日報システムは14年前からありました。ただ、これまでの日報のシステムでは、データが可視化されていませんでした。精確な意思決定には、多くの現場からの情報が必要ですが、それが多いのか少ないのか判断しにくい状況だったんです。そこで、データの積み重ねをオンタイムで実施できて、日報を提出しやすいシステムを作ろうと思い、『日報革命』を開発しました」
「日報革命」は、SNS と同じようにタイムラインが存在し、気軽につぶやけるシステムになっている。ほかのチャットツールのように、スタンプでのアクションもできる。そのため、普段の仕事や休憩中のやりとりを通じて、社員同士の距離が近づく効果が出ているという。
「日報の提出は社員にとって面倒な仕事のため、どうしてもネガティブなイメージがあります。『日報革命』は SNS 要素を取り込んで、楽しく使えるように開発しました。同僚からの反応をもらえたり、投稿した日報の数量がランキング化されたりするため、ゲーム感覚を味わえます。スマートフォンから気軽に見られるため、使うことが習慣化され、使用頻度が上がり、自然と報告量が増えるアプリです。また、社員が投稿した内容はすべてデータ化されます。ブックマーク保存、情報の仕分けなどで使いやすさを追求しているため、管理コストも少ない。経営に活用することも可能です」
実際に、「日報革命」を社内に導入した影響は非常に大きかった。1か月で2,000件にも満たなかった「お客様の声」が、導入後3か月で5,000件以上に増えたのだ。その後も、経営議題の60%が日報革命の報告から生まれている。
また広報の亀井さんは、日報革命について、利用するいち社員の立場から語ってくれた。
「日報革命は、スマートフォンから操作できますし、非常に使いやすいです。改善提案の順位も見れて、獲得したポイントも現金と交換できるため、積極的に使っています」
日報革命の販売で企業をサポート
「日報革命」は、プリマベーラの社内で大きな成果を残した。そこで、システムをアップデートし、外部への販売を開始。松田さんによると、製造業、飲食業、葬祭業など、さまざまな業態で利用されているという。
「企業の規模としては、年商10億円規模の組織化に課題を抱えている会社が多いですね。たとえば企業の成長において、従業員数が30名を超えると、集団から組織へ変化するといわれています。こういった規模感の企業に採用されるケースが多いです。導入された企業からは、社内の風通しがよくなった、仕事が楽しくなったと言っていただいています。日報革命にはサンクスカードという仕組みがあって、直接社員からの反応があるので、それをもらえて嬉しいという社長も多いです。また、1,800万円の売上に繋がったという声もいただいています」
プリマベーラは「仕組み化日本一の中小企業を創る」をビジョンとして掲げている。自社での仕組み化の成功事例をもとに、これからも多くの企業の成長を支えていくことだろう。
執筆
中 たんぺい
1989年生まれ。フリーライター。ビジネス・メンタルヘルス・ローカルに関わるインタビュー記事を執筆しています。趣味は写真撮影とサウナです。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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