支える人も支えられる人も、ともに喜びを分かち合える介護現場へ

IoTの導入で、製造業はどう変わる?
>>資料のダウンロードはこちらから

 

総合エレクトロニクスメーカーとして、家庭用電化製品、住宅設備、店舗・オフィス向けの商品・サービスなどを提供するパナソニックグループ。IoTを搭載した多種多様な商品を取り扱うなかで、介護業界の課題解決に取り組んだ商品「LIFELENS(ライフレンズ)」を開発した。この商品は、老健施設に入所する利用者の生活リズムをリアルタイムで把握する技術により、スタッフの業務負担を軽減させ、介護サービスの品質向上に役立てられている。

 

介護現場の仕事を劇的に改善させたLIFELENSは、いったいどのような思いから生まれたのか。プロジェクトリーダーとして商品開発を手がけた、山岡勝さんに話を聞いた。

山岡 勝(やまおか まさる)さん プロフィール

パナソニックホールディングス株式会社事業開発室スマートエイジングプロジェクト所属。2000年に松下電器産業株式会社(現パナソニック)本社研究所に入社。Blu-rayグローバル標準化業務に従事。2010年よりスマート家電全社プロの立ち上げ。2012年に8商品同時のスマート家電を発売。また、クラウドシステム開発・サービス企画も担当。2017年、本社ビジネスイノベーション本部発足と共に、IoT/AIテクノロジー活用による高齢者およびそれを支える方の「くらしアップデート」としてスマートエイジングPJ立ち上げ、現在に至る。

介護業界が抱える課題を乗り越えるために

慢性的な人手不足や高齢者の増加など、深刻な課題を抱える介護業界に対し、パナソニックでは2010年代頃から老健施設の業務をサポートする商品開発をおこなってきた。

「介護現場では、スタッフの方の知識や経験がサービスの品質に関わるといわれてきました。逆にいうと、まだまだテクノロジーを活用する余地が数多く残っていると考え、私たちの技術を活かし、介護現場の課題を解消する商品開発に取り組んできました」

 

そのおもいから生まれたのが、「エアコンの見守りサービス」だ。エアコンと連動するルームセンサーにより、人の動きや室温などを敏感に検知し、ベッドからの転倒や不測の事態をスタッフに知らせる。しかし、この商品は介護現場で広げることができなかったと山岡さんは振り返る。

 

「人の動きは検知できても、利用者の方がベッドの上にいるのか、部屋の床に転んでいるのかを区別できない。そのため、いますぐ駆けつけるべきか否かに関係なく、スタッフの方にお知らせが届いてしまいます。結局は部屋を確認しに行く必要があり、実質的な業務軽減にはつながらないと判断され、思ったような反響を得られませんでした」

 

この経験から山岡さんは、介護業界大手の企業と連携し、現場で働くスタッフの声を組み上げ、業務内容について深く学んでいく。その取り組みのなかで見えてきたのが、利用者の気持ちを深く知ろうとする姿勢だった。

 

「スタッフの方は、安否確認だけではなく、利用者の方が『不安がっていないか』や『困っていないか』という部分まで確認するため、夜間定期的にお部屋を訪問されています。それだけ細やかな配慮が商品開発には必要だと改めて感じました」

 

この夜間の訪問は、負担が大きい業務でもあった。認知症や慢性疾患の人たちを含め、スタッフ1人で20人ほどの利用者を対応するため、片時も気が休まらない時間が続いているという。その負担を減らそうと、「居室訪問の業務改善」に着目した商品開発に乗り出すことになった。

 

IoTの導入で、製造業はどう変わる?
>>資料のダウンロードはこちらから

業務革命をもたらした「LIFELENS」

山岡さんたちプロジェクトチームは、利用者の安全を守るだけではなく、スタッフの業務改善にもつながる方向で商品開発に挑んでいく。その答えとして、利用者のかすかな動作を検知する体動センサーだけではなく、遠隔からお部屋での様子を確認できる映像センサーを搭載する「LIFELENS」を開発した。

利用者の居室に設置する映像センサー(写真左)とベッドに設置する検知センサー

「利用者の方が『動いた』ことがわかるのではなく『動き始め』がわかるような仕組みにしました。たとえばベッドから起き上がろうとする瞬間に、スタッフの方に報告が届きます。また、お知らせが届いた場合、モニターで利用者の方の様子をすぐに確認できるので、急を要する事態か否かを即座に判断できるようになりました」

 

これまで1~2時間おきにおこなってきた居室訪問の必要がなくなり、モデル施設での調査では、最大で90%の業務軽減につながりました。居室を訪問する回数が劇的に減ったことで、利用者の睡眠も改善されたという。また、LIFELENSは、動作だけではなく、心拍や呼吸の割合も収集することが可能だ。

利用者の状態に加え、心拍数や呼吸がモニターで確認できる

「長年の経験を持つスタッフの方であれば、利用者の方のかすかな異変も見逃しません。その経験を補強する意味合いとしてデータ活用を推奨しています。高齢者の場合、普段と変わりない様子であっても、データを分析することで危険な兆候を把握し、より安全なケアを実現できます」

社会全体でケアできるサービスを

老健施設から大きな反響を得た「LIFELENS」を展開させ、2023年8月には「排泄センサー」を開発・販売した。トイレの入退室時間や排泄状態を自動で検知し、データとして保存。「LIFELENS」と連携させることで排泄情報の一元管理が可能となる。

 

「スタッフの方の負担軽減に加え、的確な情報を得られるのが利点です。情報をもとに、より優れたケアを提供できるため、利用者の方のQOLの向上にもつながっています」

 

「LIFELENS」をきっかけに、老健施設に向けてさまざまな商品を開発する山岡さんは、今後はさらに壮大なビジョンの実現を描いている。

 

「介護現場には、2040年問題というのがあります。人口減少にともない、入居が必要な高齢者の数も減っていくため、必然的に施設数も低減していきます。おそらく、多くの高齢者の方が在宅ケアとなるため、新たなサポート体制が求められます」

 

そうした課題に対し、パナソニックでは地域の医療と福祉、住民たちが連携しながらサポートする「地域包括ケア」を促進させる商品開発も視野に入れている。これまでの施設向けではなく、在宅ケアに対応し、業種が異なる人たちにとっても使いやすい仕組みを目指しているという。

 

「現在、在宅ケアでは1日に最大で5~6回もホームヘルパーの方が高齢者の方のご自宅を訪問しています。今後、ホームヘルパーの数も減っていくことを考えると、たとえ少人数であっても厳重にケアができる体制が必要です。その一助になる商品の開発を模索しています」

 

商品開発のみならず、より幅広い視点からも高齢者をサポートする取り組みにも乗り出している。そのひとつが、介護が必要な高齢者が再び在宅で暮らせるように支援する取り組みだ。

 

「これまでに収集した高齢者の方の膨大なデータを活用し、再び自宅で生活できるようなケアを提供する取り組みを実施しています。ホテルでケアをおこなう取り組みでは、約1年間で自力歩行が困難であった高齢者の方が自ら歩行できるまでに回復しました。いまでは、ご家族と一緒にお買い物へ出かけられるまでになっているんですよ!」

 

この取り組みをさらに広げるため、世界一周旅行をしながら、約3か月間船内でケアを受け、帰国するまでに回復を目指す企画を開催。メディアでも取り上げられるなど、好評を得た。

 

「これはもう事業という目線だけではなく、『日本のなかでこんなことができる』と世界に知ってほしいという気持ちがあります。寝たきり状態の人が、再び自分の足で歩けるようになることを知った責任として、日本だけではなく世界に知らせるのは、私たちの大きな使命だと思っています」

 

IoTを軸に、高齢者や介護現場を変革させていく山岡さんたちは、今後も変わることなく、元気になる仕組みを構築していく。

 

パナソニック ホールディングス株式会社

 

IoTの導入で、製造業はどう変わる?
>>資料のダウンロードはこちらから