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「生成AIの今と未来 - 現実的な活用法と近い未来の展望」NoMaps2024レポート

>>さくらインターネットの生成AI向けクラウドサービスとは?

北海道のクリエイティブコンベンション「NoMaps2024」において、2024年9月12日、さくらインターネットは「さくらインターネット Presents 生成AIの今と未来 – 現実的な活用法と近い未来の展望」と題したセッションを開催。AWL株式会社 取締役CTOの土田 安紘さん、株式会社GitHouse 代表取締役社長の助飛羅 知是さん、さくらインターネット クラウド事業本部 事業開発部 部長の角 俊和が登壇し、モデレーターをさくらインターネット 社長室 イノベーション共創グループの新発田 大地が務めました。生成AIはいま、なにができて、なにができないのか、また近い未来に起こるかもしれないことについて語り合いました。本記事では、その様子を一部抜粋してお届けします。

自己紹介

新発田

今日はお越しいただき本当にありがとうございます。近年、さまざまなところで生成AIを目にする機会が多くなってきましたが、“万能ツール”のような感じでもてはやされている側面があるかと思います。そのような“過剰な期待”もあるなかで、生成AIには何ができるのかお話ししていきます。
このセッションを通して、参加者のみなさまが生成AIの現実的な活用方法をイメージできるようになっていただけたらうれしいです。

では、登壇者の方々の自己紹介に移りたいと思います。

土田さん

AWL株式会社(以下、AWL)の土田と申します。              

土田 安紘(つちだ やすひろ)さん プロフィール

AWL株式会社 取締役CTO
北海道勇払郡生まれ。北海道大学大学院修士課程修了。2001年4月に松下電器産業株式会社(現パナソニック(株))に入社し、NTTドコモ向け携帯電話のミドルウェア開発に従事の後、本社R&D部門にて幾つもの新規事業開発プロジェクトを牽引。その後、米国シリコンバレーでの社内起業プロジェクトリーダに抜擢され、2012年から2016年まで米国・日本市場向けのモバイルO2Oサービス事業の立ち上げを主導。

AI新時代の到来、AI活用ビジネスの最前線で業界リーダーとして”ふるさと北海道”からグローバル市場を切りひらくための挑戦の場として魅力を感じ、参画。全社技術戦略、知財戦略を統括。2019年9月に取締役就任。

土田さん

AWLは、北大(北海道大学)発の9年目のベンチャー企業です。エッジAI 1 を使って映像分析をするといったサービスに特化してきました。            

AWL株式会社

助飛羅さん

株式会社GitHouse(以下、GitHouse)の助飛羅と申します。            

助飛羅 知是(すけひら ともよし)さん プロフィール

株式会社GitHouse 代表取締役社長
SIer、ECサイトコンサルティングの職歴を経て大手外資ベンダーにてCRMの提案〜導入、活用支援を含む戦略コンサルティングに従事。これらキャリアの中で、そもそも部分的なシステム導入やコンサルティングによる支援ではなく、「営業周りの無理なKPI」にどう向き合うかが真のカスタマーサクセスになると考え、GitHouseを創業。

助飛羅さん

GitHouseは今年(2024年)で3期目に入る会社で、おもな事業は、CRMコンサルティング、データスクレイピング、そして生成AIの3つです。          

株式会社GitHouse

さくらインターネットの角と申します。                   

角 俊和(すみ としかず) プロフィール

さくらインターネット クラウド事業本部 事業開発部 部長
大手通信キャリア・メディア企業にてIaaS、ホスティングサービスなどの開発・企画・技術統括・事業統括を経て現職。
現在は機械学習・生成AI向けGPUクラウドサービスなど、新規事業を統括。

当社はAI向けに購入したGPUの機材を石狩データセンターに設置し、インフラサービスとして提供しております。これまで、ベアメタルというかたちでサーバーを提供してきましたが(高火力 PHY)、新たにDockerコンテナーのかたちで実行可能な基盤も、時間貸しで提供開始しました(高火力 DOK)。非常に高価な機材を時間単位で利用することができますので、AIを活用したい事業者さまにご好評いただいています。                 

>>コンテナー型GPUクラウドサービス「高火力 DOK(ドック)」

新発田

僕は本日モデレーターを務めさせていただきます、さくらインターネットの新発田です。 

新発田 大地(しばた だいち) プロフィール

さくらインターネット 社長室 イノベーション共創グループ スタートアップチーム 北海道担当
札幌の音楽専門学校を卒業後、DTMをきっかけにIT業界に興味を持ち、大手ISPや通信回線事業者のテクニカルサポートなどを経て、さくらインターネットに入社。データセンター運用チームにて、収容サービスの構築・保守業務に携わった後、石狩データセンターの入退管理責任者や、業務移管プロジェクトのPMなどを務め、2022年からスタートアップチームに参画。
技術的なバックグラウンドを活かし、スタートアップとの共創をミッションに活動する傍ら、生成AI関連スタートアップを招いた社内向けスタディセッションを開催するなど、社内の生成AI利活用推進にも取り組む。2024年4月からはSTARTUP HOKKAIDOのオープンイノベーション 領域マネージャーも務めている。

生成AIに対する“過剰な期待”

新発田

ガートナーのハイプ・サイクルでいうと、生成AIのピークは去っていて、企業は幻滅期を乗り越えて啓発期、どのように実装していくかというフェーズに入っているところもあるのかなと考えています。そのあたり、どうお考えでしょうか。

助飛羅さん

冒頭で新発田さんがおっしゃった通り、僕もWeb上で過剰な宣伝や期待をされがちだと思っています。

生成AIを使ったことがある方はわかると思いますが、基本的に回答の精度は100%ではありません。アウトプットの質はそこそこ優れているのですが、間違った情報をさも正しいかのようにいってくることもある。信じ切るのは禁物かなと思います。

いまの時点では、叩き台をつくる用途なら価値を出せるのではないでしょうか。生成AIのアウトプットを叩き台として、それに自分の意見を上書きするというような使い方ですね。たとえば、自分が書いたコードの手直しやデバッキングなどのために生成AIを活用しているエンジニアはいるかと思います。

新発田

ありがとうございます。角さんはいかがですか。                

ここ数年、さくらインターネットは生成AI向けにGPUサーバーへ多くの投資をしています。これがメディアに取り上げられたり、株価が上がったりという状況は「AIブーム」を表していますし、同時に過剰な期待、過剰な盛り上がりというのも感じます。

多くのAI関連の事業者さまとお話ししてきましたが、「AIってすごい」という感覚から「すごいと思っていたけどこれしかできないのか」という感覚に変わってきているという状況でもあると推察しています。

一方で、いろいろな方とお話しすればするほど、AWLさんやGitHouseさんも含めて、さまざまな取り組みが進んでいて、この世界、社会が大きく変わっていくことは間違いない。過剰な盛り上がりと、「ちょっとがっかり」が見え隠れしているというのが、2024年現在の状態なのかなと思いますね。

新発田

土田さんはいかがでしょうか。                       

土田さん

いま、角さんがおっしゃったことの裏返しかもしれませんが、いまの生成AIは使い手次第というところがあると思っています。うまく使えば、生成AIが持っているポテンシャルをかなり引き出すことができますが、うまく引き出すことができないから幻滅してしまうんです。

そんなことが起きてしまうのは、やはり使い方が難しいからだと思います。たとえば、最近だと生成AIで絵を描いたり、動画を作ったりできますよね。ただ、思い通りの絵はなかなかできない。条件を何度も追加する作業を繰り返してようやくできあがるので、それなら自分で描いたほうが早いのでは、となってしまうんです。
ここ数年、人類史上はじめてAIとの会話を試行錯誤しているなかで、この「思い通りにいかない」と感じている人たちを中心に幻滅してしまっている。これが現実なのではないかと思います。

一方で、いま育ってきているAIと話すことが当たり前になっている世代の人たちのほうが、うまく使いこなしてしまうのではないでしょうか。AIの制約もうまく解釈して、AIのポテンシャルを引き出すことができている。すでにそういったジェネレーションギャップは存在していると感じます。

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生成AIが得意なこと・不得意なこと

新発田

いまのお話を踏まえて、生成AIはなにが得意で、なにが不得意なのかについて、見解をうかがいたいです。

助飛羅さん

得意なところは、先程も申し上げた「叩き台をつくる」ことで、これは十分実用レベルだと思います。それが中途半端な出来だったり誤情報が含まれていたりしても、ゼロから0.5~0.8ぐらいまでをつくることについては非常に得意です。

その裏返しで「正確な回答」は不得意です。生成AIの回答が100%正しいかというと、疑問を持たざるを得ない。とくに、数値計算ですね。じつは、4桁+4桁の計算などは、質問するたびに回答が変わることがあるんですよ。

土田さん

生成AIは汎用的なことが得意で、なにかに特化することは非常に不得意なんですよね。

いまの生成AIのほぼすべて、Transformerというアーキテクチャをベースに作られています。なにができるかというと、たとえば何か文章を見せたときに、その文章にもっとも関連しそうな情報にものすごい高確率でたどり着くんです。これができると、とにかく世の中のすべての知識にとても早くアクセスすることができるんですね。この仕組みをうまく使っていろいろなタスクをこなしているというのが、いまの生成AIなんです。

逆説的には、当たり前のことを人間よりもうまくできるけれど、非常にスペシャルなこと、特定の人しか知らないことなどはできない。その解決策として、すでにいろいろなテクニックはありますが、なにかテクニックを使わないととにかく普通なことを高度にやることしかできないんです。

生成AIの事例

新発田

実務では生成AIはどのように使われているのか、事例をご紹介いただけますでしょうか。

インフラ事業者である当社(さくらインターネット)から見ると、現在のGPUクラウドサービスの使われ方として多いのは、研究開発、LLM(Large Language Models、大規模言語モデル)の開発です。このあたりは、各企業でかなり投資する意欲があるなと感じています。一方で、エンドユーザーに向けてのサービスについては、当社の事例ではまだまだこれからという印象ですね。

わかりやすいところでは、ChatGPTやMidjourney(画像生成AIサービス)など、手にとってさわれるサービスが目立っています。ただ、全体でいうとなかなか数が増えてきておらず、研究開発段階のものが多く、最終的なサービス提供に至っている事業者はまだまだ少ないのではないでしょうか。ただこれは現時点の話で、来年、再来年になれば状況は大きく変わってくると思います。

助飛羅さん

当社(GitHouse)の事例として一番多いのは、記事生成です。これはいろいろなメディアに導入が進んでいます。たとえば、地域のPRメディアで、自治体が発信するニュース、そのほか検索したら出てくるような地域のニュースなどをAIがどんどん収集して、記事の叩き台を作成するというものです。さらに、外国語に翻訳して自社のメディアやSNSに下書き投稿までしてくれます。いま一番多いWebサイトでは、だいたい月に1,200記事ぐらいを当社のAIで作成いただいています。

それ以外にも、最近面白いなと思ったのは、たとえば今回のようなインタビュー、対談などの動画や文字起こしをAIに読み込ませて、そこからインタビューの記事をつくっている企業もあります。当社としては、今後もいろいろなコンテンツを作れそうだなという期待を持っていますね。

土田さん

当社(AWL)はエッジAIを利用した映像分析に特化しています。たとえば店舗の入口についているセキュリティカメラで、来店人数や、男女比・年齢分布、レジ待ちの状況などのデータを計測し、ダッシュボードに表示するといった事例ですね。

さきほど幻滅期の話がありましたが、店舗の映像をデータ化しても、以前は店舗の担当の方々がうまく活用することができなかったんです。それによってAIに幻滅してしまう状況でしたが、生成AIを使うことによって解決できそうだと考えています。

店舗のリアルな人や商品の動きなどから生成した構造データと、もともとその会社にあったさまざまなデータを合わせて、社長や店舗ごとの店長といったそれぞれの立場の人たちが、ほしいデータにいますぐアクセスできる。そういう仕組みをいま構築しています。

生成AIの未来

新発田

最後に、今後、生成AIはどうなっていくのかについてお聞きしたいと思います。

今日、「幻滅期である」「リテラシーが必要」といった話がでましたが、過剰な期待という意味では、ドットコムバブル(2000年前後)のときに近いのかなと思いますね。当時、インターネットへの期待はあったものの、メールアドレスもパソコンも持っていない人が多かったんです。実際にパソコンを使ってインターネットを利用してみたら、意外と大したことができないし、使いこなすにはリテラシーがものすごく必要でした。その後、いつのまにかあらゆる産業でインターネットは欠かせないものになっていきますが、2000年時点でそれが見極められていた人は少なかったでしょう。

2000年から2010年くらいまでの間に何が起きたのか。それを考えると、インターネットとまったく関係ない事業者が、インターネットというテクノロジーや思想をビジネスに取り込めたかどうかが、ビジネスの成長に大きく影響したと思います。

生成AIも、いまはリテラシーが高くないと使いこなせないし、触ってみたら意外と大したことないように見えるかもしれない。ただ、AIの機械学習のパワーをどうビジネスモデルに組み込めるかによって、各企業はもちろん産業全体や地域などが発展するか、この10年で変わる。いまはちょうどそういうタイミングなのではないかと思います。

土田さん

今後は、当たり前に生成AIを使っていろいろなことをやっていく世界になるでしょう。そうなるにあたって、技術的に今後起きることは2つあると思います。

1つは、とにかく低コスト、省エネで動くAIになっていく。環境への配慮という観点でも、そういった追及は進むと思います。もう1つは、これまでAIのモデルをつくるのはスペシャリスト、いわゆるAIエンジニアに限られていましたが、急速に普通のエンジニアもつくれるようになっていくでしょう。

その究極系として、リテラシーはどんどん求められなくなってくる。プログラムで書いたりデータベースを定義したりするのではなく、自分がやりたいことを自然言語で、プロンプトエンジニアリングやRAG 2 をうまく使うことで制御できます。

これはAIのモジュール化といわれているらしいのですが、なにか特化された機能をもつ生成AIのモジュールを、プログラムやAIのトレーニングではなく、プロントエンジニアリングやRAGでできるようになる。これを積み上げれば、何かに特化したAIモデルが作れるようになります。いま「AIは難しい」と考えている方も、当たり前のようにAIをつくれるようになる時代が、もうすぐ来ると思っています。 

助飛羅さん

僕は視点を変えて、若干ネガティブ寄りの話をします。今後、間違いなく生成AIの精度はどんどん上がっていきますし、サーバーのコストも下がっていくでしょう。 生成AIがビジネスを考えてつくるというところまで浸食してきたとき、「われわれ人間はどこまでできるんだっけ」というのはよく考えますね。

そして、僕がもっとも懸念しているのは教育面です。教育機関の方ともお話する機会がありますが、みなさん一様に心配されています。いまは生成AIを使えば一発で答えが出てきますので、学生にとって重要な考える過程が教育の場で失われているようです。

生成AIはコーチング・教師役として使うこともできるのですが、学生たちはテストのために効率よく答えを出していい成績をとるというところに生成AIを使うかもしれません。生成AIの性能が高くなっていくとともに、自分で考えることができる人材は少なくなっていくかもしれませんね。

新発田

ありがとうございます。ポジティブなこと、ネガティブなこと、いろいろお話いただきましたが、まとめると結局は“使い手次第”ということになるのかなと思います。
今回のセッションの内容については、ぜひ今後の業務や生活のなかでAIを利用する際に思い出していただけれるとうれしいです。

>>さくらインターネットの生成AI向けクラウドサービスとは?

(写真提供:ビットスター株式会社)

  1. エッジAI:端末機器(エッジデバイス)上でAIモデルを稼働させる技術。学習したデータを端末で即時に処理するため、リアルタイムでの意思決定を求められる分野に適している。 ↩︎
  2. RAG:Retrieval-Augmented Generationの略。大規模言語モデル(LLM)に検索技術を組み合わせ回答精度を向上させる技術のこと。 ↩︎

執筆・編集

さくマガ編集部

さくらインターネット株式会社が運営するオウンドメディア「さくマガ」の編集部。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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