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AI が生成した文章やイラストが一般化し、映像や音楽などマルチモーダルへの応用も実用段階になってきました。一方、拡大する AI創作物に対する不信や不安から規制を求める声もあり、国内外で議論が広がっています。クリエイターは今後どのように AI と歩むべきなのでしょうか。さくらインターネットは北海道のクリエイティブコンベンション「NoMaps2023」において、「AI が拡張するクリエイティビティ」と題し、生成AI がもたらす新たなクリエイティビティのあり方を議論するセッションを 2023年9月14日に開催しました。本レポートではその一部をお届けします。
クリエイターの生成AI活用シーン
田中 邦裕(以下、田中):モデレーターを務めるさくらインターネットの田中です。日本が AI を牽引しているのをご存知でしょうか。先日開催された「G7広島サミット2023」のなかで、「広島AIプロセス」というものが議論されました。これは生成AI を巡る国際的なルール形成に向けた議論で、その成果文書として「G7広島AIプロセスG7デジタル・技術閣僚声明」が採択されました。AI の利活用に関して国際的な枠組みをつくるため、各国の共通理解やリスク対応などさまざまな議論がなされたのです。
続いて AI分野における当社の取り組みを少し紹介させてください。当社は、経済安全保障推進法に基づく特定重要物資である「クラウドプログラム」の供給確保計画に関する経済産業省の認定を受けました。そして AI時代を支える GPUクラウドサービスの提供に向けて、130億円規模の投資をおこない、大規模クラウドインフラを整備することを 2023年6月に発表しました。日本のデジタル社会を発展させるために必要不可欠な、AI に関わるコンピューティングリソースの安定供給を確保し、日本の AI 発展に寄与すべく、サービス提供に向けて準備しています。
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そんな流れで本日のセッションです。ゲストの深津さんは、インターネットを巡るテクノロジーの先駆者であり、最近ですとまさしく AI、とくに生成AI の先駆者です。生成AI に最初にピンと来たのはいつでしょうか?
深津 貴之さん(以下、深津):画像生成AI の「Disco Diffusion」や「Stable Diffusion」など、オープンに誰でも触れるようになってきた去年(2022年)の 5、6月頃です。それまでディープラーニングは、やはり計算量的に個人が手を出すものではないと思っていたんですよ。
現在は生成AI とひとことで言っていますが、じつは 2つの大きい発明が同時に起きたことに注目すべきです。1つは「生成」で、AI がコンテンツをつくれるようになったこと。もう 1つは「言語モデル」で、人間が人間の言葉で AI に命令可能になったことです。「生成」だけだったら、エンジニアしか扱えない単なる難しいツールで終わっていました。しかし「言語モデル」の発明によって、それまでは、プログラミングの知識があって、パラメーターをいじれる人しか使えなかったものが、「猫、ちょうだい」程度の雑な命令で動かせるようになったわけです。この 2つの発明が世界を変えました。
田中:ChatGPT に代表される LLM(大規模言語モデル)ですよね。本日は「AI が拡張するクリエイティビティ」がテーマとなっていますが、具体的にクリエイターはどのように生成AI を使っているのでしょうか。
深津:端的に言うと「全部」です。まずアイデア出しを ChatGPT などの言語モデルと一緒にやります。次に自分が練ったアイデアを ChatGPT に見せて、壁打ちをします。続いて画像生成AI と相談しながらキャラクターや世界観のラフなどをつくっていきます。そしてまた ChatGPT に戻り、こういうキャラクターが活躍する場合の世界はどうすべきか、と改善していきます。
ただ現在は全部を生成AI とやるのではなく、人間の苦手分野や大変な部分を任せるイメージです。たとえば漫画であれば、武器や小物などのディティールのあるもの、あるいは町のなかに 100人描かなければいけない、などの大変な部分を生成AI にやらせて、大事な主人公は自分で描いたりとか。
あとは 3Dグラフィックでキャラクターや物体のイメージを生成して、それを資料にして自分で最終的に描いたり、人間が描いた線画に AI で色を塗らせたり。このように生成AI はいろいろな場面で使えるんです。
田中:なるほど。余談ですが、私が参加させていただいている政府の AI戦略会議で、まさに政府の審議会のような会議資料こそ AI に書かせたほうがいいという話が出ました。
深津:行政を一気に変える使い方はそこかもしれないと思っています。僕も横須賀市の職員の方に ChatGPT のレクチャーをすることがありますが、最初の演習として、行政の難しいお知らせなどを小学生でもわかるような簡単な言葉に変換して、わかりやすいものにしてもらいました。
田中:そうですね。あとは私もよく原稿執筆する際に、生成AI のお世話になっていますね。ChatGPT って、プロンプトで AI と会話した履歴が残りますよね。そしてこのプロンプトの履歴を追うことで、その原稿がどういう AI との対話プロセスで書かれたのかがわかりますから、いい資料になりますよね。たとえば本を購入してくれた方に、その本のもととなったプロンプトをプレゼントするのもいいかもと思います。
深津:最近原稿を書くときによく使っているプロンプトがあって。生成AI が出してきた原稿に対して再帰的な修正を指示するんです。そうすると修正した原稿を出してくるんですよ。それに対してまた同じ命令をすると、さらにもう一度分析して書き直してくる。これを 5、6回繰り返すと、勝手にどんどんよくなります。人間に言ったらパワハラ気味ですが、AI ならいいだろうという命令です(笑)。
また人に対して何か言う前に、「これを言いたいんだけど、本人のやる気を折らないようにポジティブに言うにはどうすればいいか」と、ChatGPT に聞いてから本人にフィードバックすることも試しています。直接対話が苦手な方はそのようにするのもいいかもしれないです。SNS で投稿するときにも「これ炎上すると思う?」と事前に聞くのは有効です。そうすると世の中が平和になるかもしれませんね。
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生成AI でさらに拡張するクリエイティビティとは
田中:海外に比べて、日本では生成AI が比較的受け入れられていると思うのですが、どのような背景があると思いますか?
深津:いくつか理由があると思っています。1つは宗教、もう 1つは漫画や映画などのエンタメです。
宗教については、たとえばキリスト教やイスラム教は絶対的な神がいるわけですから、AI を神のように崇めることは受け入れられないと思うんです。そしてエンタメの世界では、『ターミネーター』が代表的ですが、AI やロボットって人類に反乱を起こす敵として描かれることが多いですよね。
でも日本の場合、神道では八百万(やおよろず)の神がいる。神がいくらいても気にならない。そういう大ざっぱさが、AI が受け入れられている要因なのではと思います。お箸が話すとか、木綿に顔がついて空を飛んでるとか、「モノが動いて生きている」という価値観が昔からあったわけです。漫画では『鉄腕アトム』『ドラえもん』のように、ロボットが友達として表現されたものが昔からたくさん出てきていますよね。
田中:確かにそうですね。海外だと「AI は怖い」という印象で、アメリカではやはり警戒する声があると聞きます。あと AI によって仕事を奪われるという話もかなりあるようです。
深津:アメリカでは労働組合が強いので、新しいものが出たときに労働者を守ろうとする動きがありますね。一方、日本は少子高齢化社会で人口減少の一途をたどっていて、その状況とものすごく相性がいいということもあるでしょう。海外とは反対に、AI が仕事してくれればいいと。
田中:『2050年の世界 見えない未来の考え方』(ヘイミシュ・マクレイ著、遠藤真美訳)という書籍でも、少子高齢化をいかにポジティブに受け止めて、いかに乗り越えるかが大事だと書かれていました。そして世界のどの国も少子高齢化に向かっていくわけなので、うまく乗り越えられれば日本の強みになるともありました。日本が 1番手になることってなかなかないですから、生成AI の分野ではいいポジションにいますよね。
「生成AI でこれからさらに拡張するクリエイティビティ」といって想像されるのはどのようなものでしょうか。
深津:いま、生成AI はテキスト入力をしたら命令を聞いてくれて、テキストか画像を返してくれていますが、これはまだ入り口に過ぎないと思っています。生成AI、言語モデルが出てきたことで、機械が人間の言葉を理解できるようになったんです。いまはチャットだけども、そのうち音声で家電を動かしたりできるようになる。たとえば今日のようなイベントで、スタッフではなく、照明やカメラと直接会話して調整をお願いできるようになるかもしれない。こうなると、ものづくりが大きく変わってくると思います。
田中:確かにそうですね。また、いまの AI はどちらかというと Web経由やクラウドサービスとして「インターネット越しに使う AI」ですよね。ただこれから家電に生成AI が組み込まれるようになると、「製品に組み込む AI」も考えられるようになると思うんです。これはインターネット越しに使う AI とはまったく違うものになってくるでしょう。たとえば組み込みAI は、学習範囲を制限しないと、利用者の生活情報が漏れてしまう可能性もあるわけで……。今後、日本における組み込み型の生成AI はどういう形になると思いますか?
深津:クラウドやインターネットの上に頭脳を持つのか、あるいは家電などのデバイスそれぞれが頭脳を持つのかはわからないですが、僕は製品それぞれが頭脳を持ったほうが楽しい社会になると思います。
たとえばロボット掃除機に生成AI が組み込まれて会話ができるようになったとしましょう。ロボット掃除機のうえにスマートフォンなどをのせて、「きみは掃除機だけどいまから映画の撮影手伝ってよ。カメラ動かして」とお願いしたら、ロボット掃除機が「私は本来掃除機ですが、安全が担保できる範囲でお手伝いさせていただきますね」って、スマートフォンを抱えて走ってくれるかもしれない。そうなってくると、脚本・撮影・主演・演出が「全部俺 with ChatGPT」という映画撮影ができる。もちろん、みなさんが想定してないような家電の使い方がされて、事故も起きる可能性もありますが……。
田中:『ドラえもん』の世界の始まりのようですね。そしていま深津さんがおっしゃってた事故の可能性はもちろんあって、大事なのは生成AI の学習がどのようにされたかという追跡可能性(トレーサビリティ)です。いまはグローバルで ChatGPT をみんなでチューニングしてるわけですが、個別化がだんだん必要になってきます。製品に組み込まれた AI の場合はなおさらです。事故が起きたときに、当然警察はその機械が悪いということで調べるわけですが、これから AI を追跡しないといけなくなりますよね。
深津:そうですね。AI は、これからたくさんあるほうが望ましいとされています。世界の多様性の問題として、たとえば世界中の人が ChatGPT を使ってるとします。そうすると子どものころから ChatGPT と相談しながら一緒に学んで、ChatGPT と大人になる。すべての人間の価値観が ChatGPT と同じ方向に寄っていってしまうんです。やはりさまざまな思想やコンセプト、善悪の判断のラインが微妙に違う AI がいくつもあったり、文化ごとにあることが重要になるでしょう。
田中:いわゆる「AI の多様性」ですね。1つのコンピューターだけになると、ゲームやアニメでよく出てくる「全能の神」のようになる。いまはその入口に足を突っ込み始めてるわけですよね。
生成AI で生まれる日本のチャンス
田中:ここから先は「AI に支配されるかも」とか、逆に「AI が禁止されるかも」という未来の歴史的なラインにいます。みなさんの発言や、専門家の判断のひとつひとつが未来の明暗を分けることになりそうです。どうせなら豊かな世界のために生成AI をいかにコミットさせるかを考えたいところですが、いかがでしょうか。
深津:便利な技術が一度世に出てしまったあとでは、それがなかった時代に巻き戻すことは非常に難しいと考えています。昔でいえば火や車などもそうですが、便利でみんなが喜ぶテクノロジーが世に出てしまったら、禁止してなかったことには独裁者でもできない。最初に健全な使い方と悪い使い方を洗い出して、悪い使い方を封印する方法を考えるしかないと思います。
かといって、AI に反対する人を否定しているわけではありません。推進派、慎重派、反対派、いろいろな人がいろいろなチャレンジをすることで、最後に一番いい結果に着地することにつながると思っているので、賛成と反対、両方いていいんです。賛否だけで不毛に戦うよりは、それぞれが考える形が最高になるようにつくっていけばいいと思っています。
田中:規制は何も生み出さないですよね。日本は生成AI に関して法律がゆるいです。日本は著作権の厳しい国のはずなのに、生成AI の学習はかなり自由なんですよね。
深津:そうなんです。いろいろな偶然と奇跡と利害の調整が重なって AI に関しての規制が比較的ゆるくなっているのは日本の特徴ですね。世界でもめずらしいことです。ただ、いまになって、「自分の漫画を勝手に学習に使われた」と揉めたりしています。なかなか難しいですが、数年かけて利害を調整していくことになりそうです。
田中:じつは海外の AI研究者や企業家の間で「日本で研究開発や起業したほうがいいのでは」というまさかの動きが出ています。世界的に有名な AI の有識者たちが日本で会社をつくったり、引っ越してきています。日本ってなにせ人件費が安いし、住むコストも安いし、治安もいい。ビジネスでいきなり何かを禁止されたりすることもない。日本は、英語があまり通じないこと以外のビジネスの障壁があまりないんですよね。
深津:生成AI のおかげでリアルタイム翻訳ももうすぐできそうですしね。いままで日本人が世界で苦戦する最大の理由は言語だったと思うんですけど、これから AI が英語でのビジネスメールなどを対応してくれるようになると、日本にいながら海外の仕事をして、海外のお金が日本に落ちるようになる。そうすると少子高齢化や円安という時代のなかで、日本のチャンスがたくさん出てきそうですね。
田中:AI がいろいろなものをボーダーレスにしていくということと、そして AI の研究や開発、ビジネスの拠点として日本が非常に都合がいいという 2点ですね。
深津:そうです。また、いろんなものがいま AI に置き換えられていっていますが、ご飯がおいしいというのはなかなか置き換えられない要素なので、生活環境が充実している日本はいいポジションになってくるでしょうね(笑)。
田中:衣食住の環境が非常にいいんですよね。そこへさらに AI がやってきた。グローバル化が最近終焉を迎えたなかで日本のポジションが上がって、おもしろいことになっていくと思います。
深津:いままでお金持ちや超人、特別な人にしかできなかったなにかが、みんなができるようなものになる。それがテクノロジーだと僕は思っています。すごい精度で細工をしたり、モノをつくり出したり、何年もかけて練習しないとできない演奏をしたり……そういう超人的だった技術が生成AI によってみんなに解放されました。AI がますますクリエイティビティを拡張していくだろうと思いますし、みなさんもそれをポジティブに受け入れていただけるとうれしいです。漫画を描いたり小説をつくってみたり、ぜひ AI と一緒に何かへチャレンジしてみてください!