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デジタル時代の新渡戸文化学園の情報発信力

世界に誇る名著「武士道」を著した新渡戸稲造。既存のわくにとらわれない進歩的な教育者だった。1928年に新渡戸文化学園の前身の女子経済専門学校の初代校長に就任。はるか昔に女性の社会進出を後押しした。一方、学校は社会との結びつきが必要だと「学俗接近」(学校と社会が接点をもつこと)を唱えた。一転、ネット社会の現代、リアルとバーチャルが融合するSociety5.0の時代に、新渡戸稲造の教育理念をアップデート。積極的な情報発信で、学校と社会を結びつけ、未来の教室を目指す。新渡戸文化学園 理事長の平岩 国泰さんに話を聞いた。

平岩 国泰(ひらいわ くにやす)さん プロフィール

1974年生まれ。東京都出身。1996年慶應義塾大学経済学部卒業、株式会社丸井に入社。人事、経営企画、海外事業部門を歴任。長女の誕生をきっかけに、会社員と二足のわらじで放課後NPOアフタースクールの運営を始める。21校のアフタースクールを開校し、2011年から教育の世界に専念する。放課後NPOアフタースクール代表理事を務めながら、2019年に学校法人 新渡戸文化学園 理事長に就任(現職)。

教員の52%が二刀流。多様性がベースの学びの場

東京都中野区にある新渡戸文化学園は、子ども園(幼稚園と保育園の融合した施設)から短大までを擁する私立の一貫校だ。多様性に溢れ、小中高アフタースクール教員のなんと52%が副業、兼業などの二刀流である。執筆業や大学院生、YouTuber などさまざまな経験がある人や、企業で働いたことがある人が多い。学外の人材登用にも積極的で、社会との結びつきが強い。新渡戸稲造が目指した「社会と一体となった教育活動の実践」をデジタル時代にアップデートした校風のもと、生徒たちはリアルな社会を題材に学んでいる。

 

平岩さん自身も企業出身だ。大学卒業後、株式会社丸井に入社。経営企画をはじめ多様な職種に関わった。教育分野に関わるようになったのには理由がある。

 

家庭を持ち長女が生まれた年、日本中で子どもの連れ去り事件が多発した。

そうした事件の多くは放課後に起こっていた。子どもをもつ親として人ごとではない。会社員の自分にも何かできないだろうか。そう考えて、放課後NPOアフタースクールを始めた。

 

アメリカのアフタースクールにならい、子どもたちの放課後に寄り添う活動を開始した。会社の休日だった水曜日にボランティアとして試行錯誤を続けながら、会社員とNPOの二刀流の生活を続けた。スタート当初は公民館を借りて市民から先生を募った。アフタースクールでは読み書きそろばんだけではない、子どもたちの”得意”や”好き”を伸ばすことを大切にした。家族や学校の先生だけでなく、地域の多様な大人たちも巻き込んだ。

 

毎週1日のボランティアアフタースクールを継続して運営していたが、子どもたちが毎日通えるアフタースクールを作りたい。そう思い公立の学校に提案したが、当初は色よい返事をもらえなかった。私立の学校に提案することを思い付き、1校目に出会ったのが新渡戸文化学園だった。

 

「僕の原体験は小学校時代の経験にあります。図工の時間に粘土をしたあとにお皿を洗ったとき、先生が『平岩君はお皿を使う前より綺麗にして戻してくれたね』といってくれた。ストンと腹落ちする感覚がありました。もちろん、褒めてもらえたことそのものもうれしかったのですが、自分がそのお皿に関わったことでお皿が綺麗になったこと、自分が関わることで周囲の人たちが喜んでくれることがうれしくて。この経験がいまでも自分の原点なんです」平岩さんはそう話す。

「幸せを作る人」を育てる学校

新渡戸文化学園のシンボルは「Happiness Creator」。直訳すると「幸せをつくる人」。学びを生かして将来自分の大切な人や社会を幸せにして欲しい。幸福な人生を描いてもらいたい。「誰かを幸せにできる人」が育つことが学園の願いだ。

 

そのために自律的に学ぶ学習者の育成を目指している。自律型学習者とは何だろう。平岩さんはこう話す。

 

「生徒みずから、実際に起きていることや興味があることを探究して見つけた心の真ん中にあるもの。これが確認できた生徒です。こうした生徒は学びのモチベーションが極めて高い。大学に合格するために学ぶのではなく、興味を深掘りするために大学に学びにいく。大学受験がゴールではなく通過点になるのです」

提供:新渡戸文化学園 3つの”C”のカリキュラム

新渡戸文化学園は、自律型学習者を育てるため、社会と一緒になった教育活動を徹底しておこなっている。具体的には3つの”C”のカリキュラムがある。

 

1つめは Core Learning(コア ラーニング)所謂、教科別の基礎学習だ。

2つめは Cross Curriculum(クロス カリキュラム)科目を横断した学び。

3つめは Challenge Based Learning(チャレンジ ベースド ラーニング)。実際に社会課題に挑戦して学ぶ。

 

中高では毎週水曜は終日クロスカリキュラムにあてられ、1日中探究学習ができる。生徒たちは校外にも出かけていく。関係者に話を聞きにいくし、コラボする企業も訪ねていく。「旅する学校」としてスタディツアーも実施している。京都・奈良を訪ねるお仕着せの修学旅行は廃止し、探究グループ毎に日本中に社会課題を見にいくようにした。東京ではわからない社会課題を見つけるために、生徒たちは時期や場所も自分で企画して全国へ出かけていく。

取材当日におこなわれていた超文化祭での発表風景

「実際に社会課題にチャレンジすることを中心にして日々の学習活動が進んでいきます。社会課題解決のためには基礎知識も十分必要でコアラーニングにも戻ります。こうして自律型学習者に変容していきます」平岩さんはそう話す。

内気だった生徒が全校で講演会を実現

中学時代、内気な男子生徒がいた。高校から新渡戸文化学園に入学してきたその生徒は大の軍艦のプラモデル好き。中学まではその”好き”に学校で注目してもらえることはなかった。

高校生になった彼が「プラモデル×軍艦×平和×本」で検索したとき、ヒットしたのが、駆逐艦の元乗組員が書いた本だった。15歳で乗組員になった著者が説く戦争の悲惨さ、平和の大切さに心が動いた生徒は、高齢の著者に会いたいと自ら行動を起こす。著者の自宅に足を運び、水曜日のクロスカリキュラムの時間にオンラインの講演会を実現させた。残念ながらその著者は2021年に亡くなった。「魂を引き継ぎたい」と、その生徒は今度はウクライナの人たちを呼んで、平和についての全校の講演会を企画した。

 

高校入学当時、専門学校にでもいこうかと考えていたその生徒は、さらに学びを深めたいという強い動機で大学の社会学部に進学した。

 

「いま、多くの高校生にとって有名大学の合格がゴールになってしまっています。しかし、自分が選んだ学びを深めるための大学進学は、モチベーションが持続的で、ライフワークにもなりえます」

 

社会課題や学校外の世界に触れる。探究学習は高い熱量で、モチベーションのエンジンが継続すると平岩さんは話す。

 

「教科書には固定された事実が中心に書かれています。しかし、現実に起きていることはもっととんがっていて、ドロドロしています。常に意識すべきは社会のこと。リアルな社会から何に心を動かされるのか。そこに触れられた生徒のモチベーションは極めて強い」

新渡戸文化学園の「情報発信力」

提供:新渡戸文化学園 コンテンツが豊富なホームページ メディアへの発信が活発だ

学校と社会をつなぐことに大きく貢献するのが強力な情報発信力だ。ホームページには、実業界、経済界ともコラボしたプロジェクトの記事が極めて多い。とてもカラフルでコンテンツが盛りだくさんだ。同時に、温かく優しい雰囲気も感じられ、ワクワク感に溢れている。伝統を重んじる私立学校にみられる落ち着いたイメージのサイトとは一線を画す。

 

コンテンツも「OO部全国大会進出」や「学校行事の案内」といった内容のアップだけではない。企業主催のさまざまな賞の受賞報告、先生方のメディア出演、「こんな本書きました!」など、学園全体のアクティブな躍動感がダイレクトに伝わってくる。

 

「発信力のある学校はカリスマ校長など1人に依存することが多いのですが、私たちの学園はそうではありません。キャラの立っている先生方が多いので、そうした個性的な先生方がチャネルを持ち発信もしています。書籍を書いている人もいれば SNS が得意な人もいる。二刀流のそれぞれのコミュニティでも発信しています。そうしたことで学園全体が『何か面白いことをしているな』と思われているようです」

 

情報発信はホームページだけではない。新聞や雑誌など一般のメディア、書籍、SNS、動画など多角的かつ立体的だ。あらゆる媒体が利用され、露出の頻度も高い。

 

「外部から評価していただけるよう、広報の担当者が頑張っています。コンテンツの内容やデザインは、学園のコンセプトのフィルターを通してずれが無いように確認しています。

最近ではさまざまな賞の受賞が呼び水となり、新たな取材や異業種との関係が広がるケースも多いですね」

 

最近では SmartHR という人事系のアプリケーションの企業が運営する「WORK DESIGN AWARD 2022」でグランプリも受賞した。教育現場の閉ざされた働き方に風穴を開ける「二刀流教員×学外人材×旅する学校」の取り組みが評価されたそうだ。

創立100周年に向けて、やりたいことをできるに変える

新渡戸文化学園の図書室で語る平岩さん

新渡戸文化学園は2027年に創立100周年を迎える。

平岩さんはそれまでを第1ステージとして新渡戸文化学園の生徒たちが変容して欲しいと考えている。海外にでてみたり、一旦社会に出てから再び大学へ戻る、あるいはインターンで本当に学びたいこと見つけるなど、多様な考えの子どもたちが増えて欲しい。

単線ではなく複線的なキャリア形成ともいえるかもしれない。

 

第2ステージでは、全国の学校を幸せにできれば本望だという。100周年を境に自分たちはもっと変容できると考えている。

 

「いまの子どもたちが育ち、2050年になったとき、どんな社会になっているのでしょうか。

確かに、いつの時代も未来のことはわかりません。しかし、未来から逆算するバックキャスティングの思考は大切だと思います。根本的に僕らを超える子どもたちが育ってくれなくてはいけない。そう考えたときに、いまの大人たちのいまの考え方のまま子どもたちに教えていても良いのでしょうか? 受け身ではなく、子どもたちが強い興味と熱量で自律的に学んでいく。そうした未来の学校がいま必要だと考えています」

 

新渡戸稲造が過去に唱えた原点、「学俗接近」に立ち返る視点、そして未来からいまを逆算する視点。両方の視点に立つと、いま、何をすべきかが見えてくる。平岩さんは穏やかな笑顔で力強く語ってくれた。

 

新渡戸文化学園

執筆・編集

さくマガ編集部

さくらインターネット株式会社が運営するオウンドメディア「さくマガ」の編集部。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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