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消防×DX!救急救命士が選ぶ業務改善に最適なDX

消防とDX(デジタルトランスフォーメーション)は接点がないように感じる人も多いのではないだろうか。しかし、DXを活用することで仕事や生活が便利になることを証明している消防署が中津市に存在している。今回は消防署で取り組んでいるDXについて、中津市消防本部消防署 救急係 消防士長である小林弘典さんに話を聞いた。

小林さんのプロフィール写真

小林弘典(こばやし ひろのり)さんプロフィール

2008年4月、消防士を拝命し、現在は中津市消防本部消防署 救急係 消防士長。趣味は休日にキャンプに行くこと。Nakatsu DX Awards 2021 中津市長賞受賞。

市民が快適に利用するためのDX

紙の申請書には紛失するリスクや承認してもらうまでに時間がかかるといったデメリットが多く存在する。このような状況を変えるべく、申請書のオンライン化に立ち上がった小林さんにDXへ取り組んだ経緯を聞いた。

 

「中津市のデジタル推進課が書いている記事を読んだことがきっかけでした。DXという言葉自体聞いたことがなかったのですが、何だろうと思って調べていると、市民の方にとって便利なことや、DXの事例が書いてありました。これは消防署に導入すべきだと思い市役所の方に連絡をしました」

 

中津市は、令和3年をDX元年としている。それが後押しとなりDX化が進む中津市消防本部。どういった内容のDXがあるのだろうか。

 

「最初に始めたDXは、応急手当講習の受講申請のオンライン化です。令和3年の7月から始まって一年経ち、かなり定着しました。現在9割以上はオンラインで申し込みをしていただいています。また、これに続き、企業や事業所が防火訓練を実施する際に提出する消防訓練計画通知書と、その結果を報告する消防訓練実施結果報告書も担当係がオンライン化しました。」

 

利用者からは、消防署へ行って受付して帰ってくると1時間近くかかってしまう申請が、オンライン化によって5分で済むことから、非常に助かっているとの声も挙がっている。

DXによって作業効率アップ

DXといっても具体的にどのようにすれば作業効率があがるのだろうか。署外に向けたDXだけでなく、署内に向けたDXも手がける小林さんの事例を説明してもらった。

 

「署内の起案文書などの書類もペーパーレス化しました。以前は紙の書類を消防長や署長まで回していましたが、現在は電子決裁でおこなうことも多くなりました。また、消防本部内の情報共有ツールとしてビジネスチャットを導入しました。導入当時は消防関係者向けの無料お試しキャンペーンがおこなわれており、それに申し込み、半年ほど試しに使用した結果、継続利用の希望が多かったため、そのまま利用しています」

 

ビジネスチャットを導入することで多くのメリットを得られたという小林さん。

 

「LINEだとプライベートと仕事の区分けができないという難点がありましたが、ビジネスチャットだと安全性も高いうえ、仕事の資料も送れるということがメリットとして非常に大きいです。自分が所属している救急救命士のグループでは、病院実習の日程や、資料を送りあっています。さらに行方不明者が出た場合は、一斉連絡という機能で連絡して、非番の職員にも情報を送ることもできます」

 

救急救命士のグループで連絡する様子

「また、従来は上司に急ぎで資料を確認してもらいたいとき、休みの日でも署まで出てきて確認してもらうこともありました。ビジネスチャットの導入により、チャット上でデータをやり取りすることが可能になったため、休みの日に職場に来ることがなくなりました。結果としてプライベートと仕事の時間をわけることに成功しています。

あとは仕事中の申し送りや情報共有が非常に楽になりました。今まで電話でやり取りしていた部分も、チャットに切り替えることで、不必要な電話を減らすことに成功しました」

 

チャットツールの導入によって多くのメリットが生まれたが、一筋縄ではいかなかった部分もある。

 

「個人のスマートフォンに仕事のアプリを入れることに反対する方もいらっしゃいました。しかし、我々の仕事上、緊急の事態に対応すべきときに、全員がアプリを持っていないと意味がないため、利用時間やセキュリティ対策などのルールを設けることで解決しました」

あくなき探求心でさらなるDXを

署内外に向けて多くのDXを手がけてきた小林さん。しかし、まだまだDX を導入すべきところがあるという。

 

「現在は2つのDXの実現に向けて取り組んでいます。1つはGoogleマップに消火栓や防火水槽など、消防水利のデータを落とし込む試みです。仕事でそれらの消防水利が使用できるか調査に行くのですが、中津市全域で1000個以上あるため、紙の地図と照らし合わせながら調査すると非常に時間と労力がかかります。

2つ目は、救急出動する際に使う資器材の在庫データのクラウド化です。救急出動で使用する資器材は100種類程あり、現在はその在庫管理を紙でやっています。これがかなり大変で、多くの資器材を使用する現場や救急出動が連続した場合などに、補充する資器材を取り、個数を紙に記録するという行為が非常にネックとなります。また棚卸の際には資器材の在庫数がずれていることも多く見受けられました。そこで、資器材の在庫をスマートフォンのアプリで管理できる仕組みの導入を検討しています。アプリができれば紙に記録する必要もなくなり、帰署途上や出向中などでも資器材の入力をスマートフォンでできるようになります。入庫と在庫のずれも減り、履歴も残るため、現在抱えている問題を解決できます」

使用する資器材の一部

救急出動という命に関わる場において1秒でも早く現場に着くことは非常に重要である。小林さんの導入するDXによって短縮された時間は人命救助に直結しているといっても過言ではない。

また、最近はDXに関心をもった職員からの提案や要望の声が少しずつ上がってきているという。

 

「水害などの出動では、使用した土嚢の個数や活動記録を通信室に報告しなければなりません。しかし、通信指令室には119番通報や市民からの問い合わせ電話も入るため、負担はかなり大きくなっています。そこで市が契約しているツールを使用したフォームを作成し、土嚢や活動記録を入力、報告すれば、通信指令室の負担を減らすことが可能となります」

これにより市民の電話をより多く受けることができ、現場の状態把握や災害対応に、より一層力を入れることが可能となる。

 

小林さんが始めたDXは、いまや署内全域に広がってきている。

前例のない環境でDXを進めていくために

中津市消防本部のDXを思いつき、行動に移し続けてきた小林さん。そんな彼にDX導入のコツを聞いた。

 

「どこの職場でも紙での管理が好きな方は多いと思います。中津市消防本部もそうでした。そういった方々に説得が必要ですが、大切なのは『まずやってみる』ことです。導入し、そこから悪いところを改良していくことをテーマに行動しています。そうすることで全体を巻き込んでいき、言い方は悪いですがやらざるを得ない状況に持ち込むことですばやくDXを実現できました」

 

小林さんの行動力により、DX化が始まってたった1年で中津市消防本部は多くの物ごとをDX化できている。DX自体は難しいものではなく、生活や仕事を便利にしてくれるもの。実際にDXに触れることで、そういった理解が進むことが重要であることがわかる。これからも小林さんは、市民と署内の仲間のためにDXに取り組む予定だ。

 

 

執筆

本田翔音

株式会社イージーゴー コンテンツ制作部所属の編集ライター。趣味はオフロードバイクでレースに出ること。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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