深くて熱い、趣味を極めた人が集まるミュージアムDXの世界

人生の転機、プロジェクトを完遂した時。そんなタイミングで増えていった革靴。イギリスの靴を中心に、その数は300足以上におよぶ。壁一面の棚に収まりきらず、靴のための部屋も用意した。

その靴の持ち主である成松 淳(なりまつ じゅん)さんは、ミューゼオ株式会社の代表取締役社長として、クラウド上でミュージアムが作れるサービスを提供している。

 

成松 淳(なりまつ じゅん)さんプロフィール

成松 淳(なりまつ じゅん)さんプロフィール

1969年生まれ。ミューゼオ株式会社代表取締役社長。早稲田大学政治経済学部を卒業後、公認会計士試験合格。監査法人トーマツに入社、東京証券取引所にも出向した。その後、2006年クックパッドに参画。取締役CFOとして、東証マザーズ上場、東証一部上場を主導。その後、好奇心を深め広げることと、大切な物を愛でる楽しみを残すことの2つを次のミッションに、ミューゼオ株式会社を設立し、現在に至る。

コレクションに深くハマる

革靴のトゥ(つまさき)を、指に巻きつけた布で円弧を描きながら磨く。鏡のように光った先端に空が映り込む。自宅の屋上で靴磨きをしていた成松さんは、並べられた靴を眺め、幸せな気持ちで満たされていた。

 

「並べたら楽しいという感情に着目しています。原始時代、狩猟をしていた男性は一定の確率で死んでしまいます。だからこそ、得られた収穫を並べた時、脳の報酬系が働くように設計されているのではないでしょうか。これがコレクションにハマりやすい理由ではないかと勝手に思っています」

 

幼少期から、一度ハマると深く探求する傾向があった。子ども時代、興味の対象は電車やクルマだった。それがプラモデルになったり、昆虫や植物にもなった。ハマって深みに達すると、次のことに興味が移った。受験勉強中などでもハーブの本を大量に読み、庭で育てていた。今でも、大変な数の植物を大切に育てている。

本の虫でもあった。年間数百冊は読破した。『指輪物語』や『秘密の花園』など、イギリスの小説から受けた影響は、現在のビジネスの世界観にも続いている。ミューゼオのサイトはイギリスの街並みにインスパイアされている。

ミューゼオ設立とミュージアムDX

ミューゼオ設立とミュージアムDX

 

「持っているコレクションで、クラウド上にミュージアムをつくるサービスをできないだろうか」

 

当時クックパッドの取締役CFOだった成松さんが、ミューゼオ株式会社を立ち上げたきっかけだ。深くまで潜った趣味を、デジタル上で可視化して、博物館を作る。強い好奇心を持つ、コレクターの熱量を伝えたい。好奇心によって人生の楽しみと喜びを得ていた成松さん。好奇心を深掘る楽しみと魅力を、他の人にも伝えていきたいと考えた。

すぐに行動を起こした。クックパッドで一緒に働いていたエンジニアにアイデアをぶつけ、翌日には知人の事業家にも相談に行った。プログラミングも学びに行ったという。

社名は博物館を意味するイタリア語の「Museo」をもじり、間に「use」を入れて「Muuseo」とした。「use」を入れたのは、「愛着と共に歩んできた革靴のように、良いものを長く、楽しんで使い続けたい」という思いからだ。

デジタル上では、情報を発信していかないと見つけてもらえない。情熱がある人の「自分はこれを愛していて、この良さを伝えたい!」そんな思いの表現を支援したい。個人、法人問わず、デジタル上で、個人の趣味の存在感を作りあげることを支援する。ミューゼオが目指している世界だ。

 

「デジタル上にデジタルで認知されていなければ、これからは『無いことに近くなってしまう』と考えています。趣味やカルチャーがデジタル上で残っていき、その理解者がいること。これが僕の考える文化や趣味といった世界におけるのDXの中心だと思います」

ミューゼオが提供するサービス

ミューゼオでは、熱い情熱と深い知識を持つユーザーが自身の好奇心や知識を形にできる表現サービスを中心としていくつかの機能を提供するプラットフォームを提供している。

プラットフォームであるMuuseoは、単なるメデイアやサービスではなく、個人・法人ユーザー双方が使える。ここでは、コレクション・ブログ投稿+交流 / Webメディア / オンラインライブ / オンラインショップ / ブランド情報紹介等のメニューがあり、サービスやカテゴリーをまたいで新しい興味に出会うきっかけが提供されている。

プラットフォームとしてのMuuseo

プラットフォームとしてのMuuseo
画像提供:ミューゼオ株式会社

 

2022年4月現在、月間のサイト利用者数は94万人、PV数は237万。マニアックでニッチなジャンルを問わず、知的好奇心が旺盛なダイバーが多い。ダイバーとは興味や趣味を深掘りする趣向をもつユーザーの総称として敬意を込めたいと思い、そう呼んでいる。

コレクションが投稿されたCloud Museumをのぞいてみてほしい。さまざまなジャンルが並んでいる。どれもが深く熱い。突き抜けている。レコードやファッショングッズ、靴や文房具、ミニカーやカード、キャラクターグッズ。カワウソグッズやラッコグッズは極めてニッチなコレクションだろう。

法人向けDX支援の一環として行う共創コンサルティング事業では、現代アートDXに取り組んでいる。「CaM by Muuseo」のサービスを活用しCADAN(⼀般社団法⼈ ⽇本現代美術商協会)とも密接に協力しつつ運営している。Web上で、ギャラリーとコレクターの両者によるコミュニケーション空間を実現し、ギャラリーのOVR(デジタル展⽰)やコミュニティづくりを実現している。

 

   CaM by Muuseo

CaM by Muuseo
画像提供:ミューゼオ株式会社

 

役員をしていたクックパッド時代のこと。クックパッドが解決したかった課題は、キッチンでの孤独な作業になりがちな料理をもっと楽しみにすること。つなげることで応援しあえる関係になれると考えていた。趣味の世界も同じで、つながることで別の価値を生みだせる。それがデジタルの特質だ。

ミューゼオのプラットフォームでは、コンテンツとユーザーが交差し、ユーザー交流や新たな世界に出会える仕組みが作られている。新しい興味の扉を開いて人生がプラスになるのだ。

ミューゼオのユーザーとケミストリー

Muuseoのユーザーはどんな人たちなのだろうか。

 

「テレビ東京の『家、ついて行ってイイですか?』で取り上げられたユーザーがいました。家中に、400個以上も置き時計や柱時計があるコレクターで、生涯をかけて古今東西の時計を集めてきた人です」

 

ミューゼオのCloud Museumに投稿された、キャリッジクロック(上部にハンドルがついて持ち運びができる時計)のコレクションは圧巻だ。

 

「熱烈な鉱物標本コレクターもいます。日本の鉱物の産地を巡る旅をして、ひたすら記録に残すことをしています。その人の本が出て、一緒に鉱物の産地を旅したら楽しそうだと思います」

 

Cloud Museumには色とりどりの膨大な鉱物標本の画像が投稿されている。永遠に続きそうな画像をスクロールしていると、素人でも「沼」に落ちていく感覚になる。ケミストリーも起き始めている。

今まで、リアルの世界で「鉱物標本コレクター」と、「レコードコレクター」、「ウルトラマンの怪獣コレクター」が交わり、何かをすることはなかった。Muuseoのサービス上で、趣味の「沼」にハマった人たちが交流し、つながることで新しい価値が生まれている。

Muuseoという「場」の中には、どっぷりハマる世界や、趣味の「沼」が数多くある。「場」が媒介として、外部に対し熱量を伝える。それを見た人たちから新しい沼が生まれる。成松さんは、それが理想の姿だという。

これから目指す、ミューゼオの未来

これから目指す、ミューゼオの未来

 

中期的にミューゼオが目指すのは、専門書が提供していた役割を違う形で提供していくことだ。大型書店の専門書コーナーにある、それも手に取る人すら少ない一番上の棚に鎮座する専門書だ。沼を極めた熱量が高い人たちの、ブログサービスや発信や自己表現の場、知識を出せる足場も作っていきたい。

長期的には「極めた人にとってそれが、生き様に変わる」こと。

 

「趣味が本業みたいになっていったら面白いと思っています。趣味といわれるものが、生き様に変わる手伝いをしたいという思いもありますね。 沼を極めた人たちを見て、新しいモノやコトだけでなく、アーカイブにも興味を持って欲しい。そんな世界を目指していきたい。

これからはAI、自動化が進んでいく。人間は遊ぶことが仕事になって来る。遊びというか、マズローの欲求五段階段階説などでいう一次欲求などではなく、深い好奇心で人生を切り開いていくこと自体が喜びに繋がる。それが個人的には信じたい未来ですね」

 

今、時代は変化している。働くことの意味が変化し、自分の楽しみや趣味が生き様に変わっていく。そんな世界の入口を、成松さんは作り始めている。

 

ミューゼオ株式会社