ジブリ鈴木敏夫氏の仕事術とは? 書評家がおすすめするビジネス書

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クリエイターが使えるビジネス書を紹介する本連載。今回は、『自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(石井朋彦、WAVE出版)について書きたい。

「自分の感情を捨てろ」意外な一言の意味とは?

著者は、スタジオジブリの名プロデューサー鈴木敏夫のもとで若い頃に働いていた、アニメプロデューサーの石井朋彦。本書は彼が若い頃に鈴木プロデューサーから教わったことを、さまざまな仕事エピソードとともに書き残した一冊である。

 

要は、「鈴木敏夫の仕事術」を、「鈴木敏夫ではない他人の視点」から綴った本なのだ。

そのため鈴木敏夫がどんなふうに仕事のやり方を教えているのか、どんな仕事が大切だと思っているか、その仕事観から仕事の tips に至るまでわかりやすく教えてくれている。

 

私自身、本連載でさまざまなプロの仕事術の本を紹介しているが、この本が一番、意外だな! と感じる点が多かった。

どのような点が、意外だったのか。それは鈴木プロデューサーが徹頭徹尾「自分の感情を捨てろ」と言うことである。

 

たとえば、鈴木さんが著者の石井さんに伝えた言葉がこちら。

鈴木さんはこう断言しました。

「人を、肩書きで判断しろ」

普通は「人を、肩書きで判断してはいけない」じゃないか?

納得のいかない顔をしていると、いつもの上目づかいで続けます。

「君がいま思っているような意味じゃない。抽象的に相手を判断するな、ということ。君は好き嫌いが激しすぎる。自分が好きな人にはよくするけど、嫌いな人には徹底的に厳しい。でも、それって君の主観だろう」

主観で何が悪い。主観といってもフェアな主観だ。明らかに仕事をしていない人や、プロジェクトにおいてマイナスな人は、年齢や肩書きに関係なく、容赦なく切り捨てるべきだ。それが、ちゃんと仕事をしている人に対する最低限の礼儀だ。ぼくはそう信じていました。

「そんなのは関係ないの。自分にとっていい人か、悪い人かっていうのはどうでもいい。大事なのは、相手が『どういう立場にいて、何ができる人なのか』ということなんだ。だから肩書きを見る。そして、その人と、これからどのような仕事ができるのかを客観的に判断する」

出典:『自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』石井朋彦、WAVE出版

 

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自分を感情を捨てることで見えてくるもの

たしかに仕事をしていると、どうしても感情に揺れ動かされてしまう。自分の好き嫌いや相性、そしてなによりも相手がどれくらい仕事をしてくれるのか、仕事の邪魔にならないのか、といった点でイライラしたことのない人のほうが少ないはずだ。

 

しかし、本当はそれらの感情を排して、立場を見る必要がある。ーーおそらくアニメプロデューサーのような、個人として働くことの多い人なら、尚更気をつけるべきことなのだろう。

 

もちろんこの仕事論がすべて正しいとは思わない。時代にそぐわない面もたくさんある。しかし一方で、自分の仕事をなんとかアップデートしたい、もっとよりよいものにしたい、と思うとき、「自分の感情を一回オフにして、仕事する」ことが必要になる場面はあるのではないか。本書を読んで私は心底そう思った。

 

アニメを作るなんて、感情が大切で、合理性の外側にあるような仕事だと思い込んでいた。しかしクリエイティブな仕事をしているからこそ、本当にクリエイティブな作業を除いた部分は、合理的に、客観的に、進めなければいけない。本書は繰り返しそう伝えている。

客観的に自分を見つめなおす

ほかにも、たとえば多忙を極めるような鈴木プロデューサーは、どうやってスケジュール管理やアポイントメントの管理をおこなっているのか? 話し始める前のアイスブレイクのコツは? 他社にお金を出してもらうためのスピーチとは、どのような技術が必要なのか? そんなコツが惜しげもなく綴られているのが、本書なのだ。

 

そのなかでも、もっとも強く語られるのは、タイトルにもあるとおり「自分を捨てる」こと。つまりこれは、自分が他人にマウンティングをしたいと思ってしまう欲求や、自分が他人に認められたいと思ってしまう欲求を、いかに飼い慣らすか、という技術でもある。

他人のいうことをちゃんと聞いて、自分の手柄や発言に固執しない。――当たり前のようだが、それらの具体例を読むと「なるほどなあ、自分はできているだろうか?」とドキリとさせられる。

 

仕事は、自分のためにやるものだと私は思う。自分の生活の食い扶持や、人によっては自分の楽しさのためにやるものだろう。しかし、自分のことだけ考えたり、自分のことだけ主張したりして、仕事を自分のものだけにしようとすると、たしかにうまくいかない。

仕事は、他人を引き込みながらやるものだ。自分のことだけを考えていては、結局自分のための仕事にならない。そんなことを教えてくれるビジネス書が、本書なのだ。

 

アニメに関わる仕事をしてなくても、きっと役に立つ金言が多々収録されている。ぜひ一読をおすすめしたい。

 

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