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“書き始めが遅い問題”を解決した「スマホ書き出し術」

ずっと、書き始めるまでの時間が長いのが、悩みだった。

とはいえこれは自分だけの話ではなく、案外「書く人」共通の悩みなのでは!? と思っているので、知見を広めるためにも最近の気づきを書いてみる。

今回のお題は、「書き始めるまでの時間が長い問題に私はどう立ち向かったのか?」である。

“書き始めが遅い問題”を解決したのは……

書き始めるまでの時間。それは自分の腰の重さをしみじみ実感させられる問いである。

他の人がどれくらいのスピードで書いているのか、筆の速さがどんなものなのか見たことがないので、自分の書くスピードが速いのか遅いのかわからない。筆が速いほうだと言われても、遅いほうだと言われても、どっちにしろ納得してしまいそうだ。

が、私の主観としては、「書き始めたら速いんだけど書き始めるまでが遅いよねえ」――というのが、自分の筆の速さへの評価なのだった。

体感として、書き始めちゃえたら、速いのだ。やれば終わる。でも、そこまでに時間がかかる。書き始めるまでが、長い。

書き始められる状態に自分を持っていくまでが、遅い。

それが自分の物書きとしての体感だった。本の執筆でも、連載の記事でも、同様だ。

 

頑張っても、遅い。なんだかしらんが、時間がかかる。とにかく書き始めるまでが、長い。

 

ずっとそういう状態への改善策を探し続け、とりあえず試すものはいろいろ試してみた。タイマーをかけるとか、時間割を決めるとか、自分のテンションを執筆モードにする音楽を決めるとか。

そしてそのたび「これはいいかも」と思うものが見つかっては、続かない、という状態が続いていた。

そして試行錯誤の末、最近ハマっているやり方がある。これまで試してきた「これはいいかも」の実感のなかでも、かなり上位の方法を見つけたのである。

 

それは、書き始めを、スマホで書くことだ。

「スマホ書き出し術」が生み出す効果

スマホで書いている作家さんがいるという話はしばしば聞いてきたが、なかなか長文をスマホで書くことには慣れなくて、ずっとうまくいかなかった。

しかし今年に入ってくらいから、自分が更新している note をスマホで書くことに慣れてきた。

私の note の記事は有料にしていて、基本は1か月の定期購読か単体購入してもらっている。定期購読は、読者さんにとっては内容が気に入らなければいつでも解約できるサブスクスタイルなので、作者としても「このクオリティで金額に見合ってるかな?」と考えずに済むのがいいところである。いやもちろん最低限のクオリティは必要だが、それでももしクオリティが担保されていなければ、来月は購読をやめてもらえる……というのがとても気楽だった。なのでいろいろ執筆スタイルも note で試すことができる。

私の note は週2更新が基本、自分のなかではわりと多い更新頻度だ。そのためとくに旅行中や移動の多い週は、スマホで更新せざるを得ない。そのうちに、1,000文字以上のものをスマホで書く習慣がついてきたのだった。

 

そして極めつけは、前回の記事で紹介した、哲学者の千葉雅也さんの執筆法の本。この存在も大きかった。

千葉さんは「とにかく執筆してないときと執筆しているときのハードルを極限までなくすこと」に注力している、と書いていた。

スマホのいいところは、つついてたところで、仕事モードにならないところだ。もはや電車待ちやドライヤーの時間にスマホをつつく、なんて私にとっては日常茶飯事である。そのなかで、Twitter(現:X)を更新するのと同じように、スマホに入れた Google ドキュメントに文字を打ち込む。

とりあえず文字を打ってみれば、書くべき原稿について、書き出しが決まる。何を書くのか、その切り口や内容が定まってくる。

こうして「スマホで書き出しをつくり、PC書き終わりや修正をおこなう」現在のスタイルができあがったのである。

 

このスタイルの何がいいかといえば、机に向かって PC を開いて初めて「えーーーっとーーー、今回は何を書こうかなぁーーー」と唸らなくていいところだ。

最近気づいたのだが、やっぱりどこかで「集中してこそ、いいものが書ける」という信仰が私には存在していた。しかしそれは裏返すと、集中してない時間は執筆に使えない、ということになってしまう。それでは筆は速くならない。

集中なんて関係ない。とりあえず書き始めればいい。修正はあとからできる。

そう考えることで、私の「書き始めが遅い問題」はかなり楽になった。

どこかで「これから集中しなきゃいけないぞ」「執筆という重たい集中タイムがやってくるぞ」と自分にプレッシャーをかけていたからこそ、私の書き始めは、遅かったのかもしれない。

自分にプレッシャーをかけていたのは、自分だったのだ。

しかしプレッシャーをかけたところで、いいことなんて1つもなかった。集中力には限界があるし、何より気が重くなり、書き始めの腰が重くなる。

むしろいかに自分にプレッシャーをかけないか? 気軽に書くのか? が自分にとっては重要な要素だったのだ、と今更気づいた。

 

なにも重々しいものを書きたいわけではない。プレッシャーにがんじがらめになった文章を書きたいわけじゃない。

私は、楽しそうな文章を書きたかっただけだった。

スマホ書き出し術は、自分にそう気づかせてくれたのだった。

 

楽しく書くために、私はいろんなものを使いたい。スマホも PC も、自分のなかでは、楽しく書くための1つのツールだったことに今更気づいたのだった。

 

執筆

三宅 香帆

書評家・文筆家。1994年生まれ。 『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』などの著作がある。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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