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生まれつき視覚障害(全盲)のあるユニバーサルマナー検定講師 原口さんが”作りたい社会”

「ブラインドサッカーのピッチ内のような社会を作りたい」

そう語るのは株式会社ミライロで働く原口淳さん。生まれつき視覚障害があり、全盲(視力がまったくない状態)です。原口さんはミライロ入社前からブラインドサッカーのプレーヤーとしても活動しており、小学生や中学生にブラインドサッカーの普及活動もおこなっています。

そんな原口さんに、ミライロでおこなっているお仕事の話から、ブラインドサッカーの話までうかがいました。

原口淳(はらぐち じゅん)さん

原口淳(はらぐち じゅん)さん プロフィール

株式会社ミライロ ビジネスソリューション部 所属。生まれつき、視覚障害(全盲)のある講師。2011年より株式会社ミライロに入社。視覚障害者の視点から、教育機関や企業に対してユニバーサルデザイン化のコンサルティングや講演活動をおこなっている。地元兵庫県のブラインドサッカーチーム「兵庫サムライスターズ」で現役選手として活動する傍ら、小中学生を中心にブラインドサッカーの普及活動もおこなっている。

バリアバリューの考え方に共感し入社

バリアバリューの考え方に共感し入社

ーーまずはじめに、原口さんがミライロで担当しているお仕事について教えてください。

高齢者や障害のある人との向き合い方を学ぶユニバーサルマナー検定や、それに関連する講演の講師をしています。コロナ以前は、受講者、お客さまのもとに出向いてお伝えしていましたが、いまはオンラインでおこなうことがほとんどです。今日のこの取材も、実家の兵庫県淡路島からつないでいます。

私は新卒でミライロに入りました。入社してすぐのころは会社に数人しかいなかったので、営業活動などなんでもやりました。講師としての仕事を本格的にはじめたのは、入社してしばらく経ってからです。

講師以外にも、コンサルティングもおこなっています。視覚障害のある当事者の視点から、Webサイトなどを閲覧し、企業や行政の担当者に課題や解決策などを伝えています。

ーー数人しかいなかったということは、ミライロ創業からすぐ入社されたのでしょうか?

そうですね。創業2年目に入りました。4人目の社員になります。代表の垣内を除くと障害のある当事者で採用されたのは私が1人目です。

ーーどうしてミライロへ入社しようと思ったのでしょうか?

私が入社したのは2011年ですが、大学を卒業したのは2010年の3月です。当時、リーマンショックがあったこともあり、1年間就職浪人をしていました。100社くらい落ちましたね。

ちょうどそのとき、友人から民野(ミライロ副社長)を紹介してもらいました。そこからホームページや垣内のブログを見る中で、障害を価値に変える「バリアバリュー」の考え方や理念にすごく共感しました。

それまでは「障害があっても入れる会社」ばかりを探していたこともあり、「自分にしかできないことがありそう」と強く思ったことを覚えています。まだはじまったばかりの会社でしたが、ぜひ一緒に働かせてほしいとお願いして、今に至ります。

Webアクセシビリティは少し気をつけるだけで良くなる

ーー講師以外にコンサルティングもされていますが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?

最近は、Webアクセシビリティのコンサルが多いです。そもそも視覚障害のある方がどうやってWebを閲覧しているのか、わからない方や、そもそも閲覧できることを知らない方も多いのが現状です。

そこで、私が実際にどうやってWebを閲覧しているのかをその場でお見せすることで、どんなことが利用の妨げになるのか、どうすれば課題が解決するのかをお伝えしています。

Webアクセシビリティといっても、簡単にできることもあります。例えばオンラインショッピングの商品画像にALTタグという代替テキストを設定するだけで、視覚障害のある方にどんな商品なのかを文字で説明する、といった対応は非常に簡単です。それをしっかりとやっていれば、スクリーンリーダー(文字を音声で読み上げるソフト)ユーザーでも閲覧できるんですよ。少し気をつけるだけで、ホームページがより良くなっていくと思います。

コンプレックスを克服したきっかけ

ーー原口さんは一時期、目が見えないことへのコンプレックスを抱いていた時期があったとうかがいました。そのコンプレックスをどうやって克服したのでしょうか?

「放送部で一般の学生が参加する放送コンテストがあるから、それに出てみようよ」。高校生のときに、担任の先生に誘われたことが「目が見えない」というコンプレックス克服のきっかけでした。

小学校から高校に入るまで、盲学校で過ごしていました。なので、同じ年代の一般の学生に混ざって参加できるところに魅力を感じて、出場したんです。結果、全国大会まで行けるような成績をおさめることができました。

良い成績をおさめられた理由があります。放送部はアナウンスの技術を競うので、発声の方法や滑舌の練習というのは、書いて覚えるものではありません。聞いて自分の声に出して覚えるものです。完全に私の得意分野でした。

大会で良い成績をおさめるようになって、他学校の生徒からも一目置かれるようになりました。他学校の生徒から「全国大会に行った原口さんですよね」と声をかけられて、はじめて目が見えない子ではなく、ひとりの生徒としてみんなから見られていると感じられたんです。自分自身が望んでいたものが、ひとつ叶った瞬間でした。

その経験もあって、ミライロの「バリアバリュー」という考え方に出会ったときに、自分がやりたいことは、まさにこれだと思いました。

ブラインドサッカーの魅力

ーー原口さんはブラインドサッカーチームにも所属されていますね。

はい。社会人として働きはじめる前から、ずっとブラインドサッカーをしていて、小学生などに体験してもらう機会も作っています。

ブラインドサッカーの魅力

大学時代にブラインドサッカーと出会いました。ピッチ内の居心地がとても良かったんです。

ブラインドサッカーについて、簡単にルール説明をします。1チーム、ゴールキーパー含めて5人チームです。ゴールキーパー以外のフィールドプレーヤーはアイマスクをつけて、まったく見えない状態です。ゴールキーパーは目が見える人がつとめます。

また、相手ゴールの後ろにゴールの場所を指示する「ガイド」がいて、それも目が見える人がつとめます。ブラインドサッカーは、「視覚障害者と晴眼者が同じピッチに立ってプレーができる」珍しいスポーツです。

目が見える人と見えない人が、一緒にフィールドに立ち、それぞれが阿吽の呼吸で指示を出したり、プレーをしたりします。。そうすることで、目が見えない私たちもコートの中では全力で走り回ることができるんです。そ普段の日常でも、社会全体がこうなればいいなと感じているんです。それが目指したい社会だとずっと思っていて、ミライロに入ったときも同じ話をしました。

ブラインドサッカーのような社会を

ーーなるほど。原口さんが考える、視覚障害のある方が暮らしやすい世界を教えてください。

ブラインドサッカーの話をしましたが、これが私の中では一番だと思っています。

あと、折に触れて講演やコンサルのときにお伝えしていることがあります。視覚障害のある方にとって、点字ブロックはすごく重要です。一方で、車椅子ユーザーの方には、場合によっては点字ブロックは移動するときの邪魔になってしまう。スーツケースを利用してる人やべビーカー利用者にとっても、点字ブロックが邪魔になってしまうこともありますよね。

なにが言いたいかというと、みんなが100%使えるものを作るのってすごく大変で、現実的に難しいです。なので、みんなが100%使えるものではなくて、「みんなが70%使えるもの」を考えることが重要だと思っているんです。

じゃあ残り30%の不便はどうするんだ、となります。30%不便なところは、ちょっと我慢するとか、誰かがちょっとサポートしてくれるだけで、十分解決できると思います。なので、視覚障害者が使いやすいものを作るのではなくて、みんながある程度使いやすいものを考えていくことが重要です。

ーーまさにブラインドサッカーのキーパーやガイドの役割をみんなができるようになるといいですね。

はい。この社会の仕組みや設備も、結局は同じだと思います。

ユニバーサルマナー検定とは?

ーー原口さんが講師をされている「ユニバーサルマナー検定」について、どのようなものか教えてください。

ユニバーサルマナーの実践に必要な「マインド」と「アクション」を体系的に学び、身につけるための検定です。障害のある方やご高齢の方、多様な方々への向き合い方をお伝えしています。ユニバーサルマナーの定義は「自分とは違う誰かのことを思いやり、適切な理解のもと行動すること」です。

みんな、一人ひとり違います。誰かのことを理解して、その理解のうえで行動することが重要です。

たとえば、一言で障害といっても人によってそれぞれ異なります。視覚障害でも、私のように生まれつきまったく見えない方もいれば、中途失明された方、小さい頃にだんだん見えなくなっていく、大人になってから見えなくなっていく人もいます。

人によって感じ方も違うでしょうし、不便に思ってることも違うので「視覚障害者」とひとくくりにはできないんですよね。

障害と向き合うのではなく、その人自身としっかり向き合ってください。なにができて、なにをしてほしくて、どんなことができるのかを一緒に考えてほしいです。

「ユニバーサルマナーができる人ってカッコいい」

これまでは障害者や高齢者と向き合うことは、ちょっと特別なこと、いわゆる福祉的な要素が多かったと思います。でもいまの時代、超高齢化社会ですし、障害のある方も外に出る機会が増えてきました。見かける機会も増えてきて、これからもっと多くなっていくと思うんですね。

そうした方々と向き合うのは、決して特別なことではありません。「ユニバーサルマナーができる人ってカッコいいよね、素敵だよね」と言われるようにしたいです。テーブルマナーやビジネスマナーと同じように、ひとつのマナーとして捉えてもらいたいので、ユニバーサルマナーと名付けています。

ユニバーサルマナー検定の大きな特徴は、障害のある当事者が自分たちの生の声をお伝えしていることです。建物の「ハード」の部分を変えるのは、お金も時間もかかるので、すぐには変えられないこともあります。

でも、声をかけたり、サポートをする「ハート」の部分は誰にでもすぐに変えられます。検定の中で、「ハードは変えられなくても、私たちのハートはいますぐ変えていけるよ」とお伝えしています。

ユニバーサルマナーが文化として広がれば、誰もが過ごしやすい社会になっていくのではないでしょうか。

ーーユニバーサルマナー検定を受けている方はどのような方が多いのでしょうか?

ユニバーサルマナー検定をはじめたのは2013年からですが、当初は接客業に携わる方が多かったです。いまはIT企業から製造業の現場の方まで社員教育の一貫としても、幅広い方に受けていただいています。学生の方も就職活動に向けて、多様な方々と向き合っていくマインドを取得するために受ける方も増えてきました。最近は小学校、中学校からのご依頼も増えていますね。

2021年に障害者差別解消法が改正

企業としては、法律の観点からもユニバーサルマナーが重要です。

2016年に障害者差別解消法が施行されました。この法律は、障害のある方に対して不当な差別をしてはいけない、配慮を求められたら合理的配慮をしなければならないものです。

これまで民間事業者は、合理的配慮に関して「努力義務」止まりでした。それが今年の5月に改正され、民間事業者に対しても「義務」とされることが可決、3年以内には施行されます。

障害者差別解消法に対応するにはどうすればいいか? 大事なのは障害のある当事者と事業者が、双方しっかりコミュニケーションを取ることです。

ユニバーサルマナー検定を通じて、スムーズにコミュニケーションが取れるようになっていただくことを目指しています。

原口さんの「やりたいこと」

原口さんの「やりたいこと」

ーーさくマガのコンセプトは「やりたいことをできるに変える」です。原口さんが今後やりたいことはなんでしょうか?

ブラインドサッカーのピッチ内のような社会を作りたいです。私に会っていただいた方、私の話を聞いていただいた方に、障害のある当事者と接するハードルをとにかく下げてもらいたいなと思っています。

そのために講義や情報発信を続けていきたいですね。

これは私じゃなくてもいいのですが、当たり前にテレビやラジオに障害者が出ている世界を作っていきたいです。

「めちゃくちゃ面白いテレビに出てた人、よく見たら車椅子だった」「めっちゃ面白い人がいて、よく考えたらこの人は目が見えなかった」。障害者の誰々ではなくて、まずはその人を見てもらいたいです。

 

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執筆

鎌田 真依

2015年6月にさくらインターネットに中途入社。 ES(人事)部所属。 これまで、スタートアップ支援や学生支援などのブランディング活動に従事し、現在は新卒採用を担う。

編集

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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