2021年2月12日、株式会社ミライロは第三者割当増資による資金調達を発表しました。引受先には、さくらインターネットも含まれています。
障害者の視点からダイバーシティ&インクルージョンの推進を行う「ミライロ」が2億8,000万円の資金調達を実施
その株式会社ミライロの代表取締役社長・垣内さんに、ミライロの事業内容や、さくらインターネットから出資を受けることになったきっかけについて語っていただきました。
垣内 俊哉(かきうち としや)さん プロフィール
1989年生まれ。2010年、立命館大学経営学部在学中に株式会社ミライロを設立。障害を価値に変える「バリアバリュー」を企業理念とし、デジタル障害者手帳「ミライロID」の開発や、ユニバーサルデザインのコンサル事業を展開。一般社団法人日本ユニバーサルマナー協会 代表理事や、日本財団パラリンピックサポートセンター アドバイザーも務める。
障害を価値に変える
ーーまずはじめに、垣内社長の自己紹介をお願いします。
私は「骨形成不全症」という魔法にかけられて生まれました。骨形成不全症とは、簡単に説明すると、骨が弱く折れやすい病気です。これは遺伝的なものです。私と同じく、父親と弟も車いすに乗っています。先祖代々引き継がれているものですが、昔は舗装された道路もなければ、エレベーターもありません。車いすも高価で買えず、外へ出ることさえ叶わない時代がありました。
幸いにも、私が生まれたのは平成の時代です。日本のバリアフリーはかなり進みはじめていました。あくまで「進みはじめている」段階であって、「進んでいた」わけではありませんが……。
日本のバリアフリーが大きく変わってきたのは、2000年代に入ってからです。とくに東京オリンピック・パラリンピックが決定した2013年9月を契機に、バリアフリーの動きに勢いがつきました。
私が過ごした小学校、中学校、高校時代。このときはまだ、バリアフリーが十分ではありません。通学は不便でしたし、学校生活も不便でした。
不便な生活を送る中で、車いすであること、歩けないこと、そもそも障害があること自体を大きな足かせと捉えていました。その足かせを外したい、克服したいと思い、高校を休学して大阪で手術しました。8時間にもおよぶ手術です。その後、リハビリに励みましたが、結局自分の足で歩くことは叶いませんでした。
歩けなくてもできることはないかと探しはじめ、大学に進学しました。大学に入学してからウェブ制作会社でアルバイトをしていたのですが、その会社で営業のお仕事をすることになったんです。
車いすで営業するのは不便です。訪問先の入り口に段差があったり、エレベーターがなかったりして、オフィスまでたどり着けないこともありました。でも訪問を続けると、「また車いすの営業が来た」と多くの人に覚えてもらえて、成果にも繋がったんです。
そのとき働いていた会社の社長が「歩けないこと、車いすに乗っていることは、お前の強みだ」と言ってくれました。この言葉をもらってから、障害を一つの「価値」や「強み」に変えていけるのではないか、と思いました。
ただし、それは価値であり強みであるけれど「武器」ではありません。自分は弱者だと訴えて、誰かから手を差し伸べてもらおうとすると、そこには距離や溝が生まれてしまうかもしれません。
あくまで、お互いにとってプラスだからバリアフリーにしていったほうがいいですよね、と伝えることが大切だと感じ、その姿勢を根幹に事業をスタートさせました。
ミライロが取り組んでいること
ーー続いて、御社の事業内容について教えてください。
環境・意識・情報、これら3つのバリアを解消していくことに取り組んでいます。
環境
もともとは「建物のバリアフリー」を広げることに注力していました。最初は、教育機関のバリアフリー地図を作る事業からはじめたんです。
しかし、バリアフリーの地図を作るための調査をする中で「ここをこう変えたほうがいい」という課題が見つかります。結果、アドバイスを求めてくれる教育機関、企業が増えました。バリアフリーの地図を作るところから、コンサルティング事業がはじまったんです。
意識
コンサルティングしても、予算の都合上変えられない場所も出てきます。その中でどうするのかを考え「ハードは変えられなくても、ハートは変えられる」という切り口から、従業員研修をスタートしました。
障害のある方が店舗にお越しになる、または従業員として採用するとします。たとえ段差があろうと、階段があろうと、その場におけるサポート方法さえ知っていれば十分に向き合うことができます。
情報
聴覚言語障害のある方へ情報保障をする事業をおこなっています。手話・文字通訳でみなさんのコミュニケーション負担を減らしていく事業です。
加えて、障害者手帳のデジタル化をおこないました。障害者手帳をスマートフォンで手軽に管理できます。この基盤を持って企業と障害者、自治体と障害者を結んでいく取り組みに注力しているところです。
環境・意識・情報、これら3つのバリアを解消していくことで、障害のある方々の外出をうながしたいです。外出が増えれば、教育の機会が広がります。教育の機会が広がると、就労の機会が増えます。就労の機会が増えれば、所得収入が増えます。そうすれば、消費の機会も増えるでしょう。
こうした良い循環をまわしていくことで、障害のある方々が積極的に社会参加できるような社会を目指しています。いずれは日本で培ったノウハウ、コンテンツ、ソリューションで、海外でも貢献していきたいと思っています。
さくらインターネットからの出資について
ーー2021年2月12日に資金調達の発表がありました。引受先には、さくらインターネットも含まれています。さくらインターネットから、出資を受けることになったきっかけを教えてください。
関西の経営者が集まる「関西ブリッジフォーラム」で、田中社長とお会いしたことがきっかけです。そこから、事業のアドバイスなどをしていただきました。ミライロの展望をお話していく中で、出資のご相談をしました。
さくらインターネットさんのことは、以前から知っていました。というのも、17年前からさくらインターネットユーザーなんです。高校時代、自分でホームページを作ってスニーカーやピアスを販売していました。そのときに利用していたのが、さくらさんのサーバーです。
当時、お付き合いしていた恋人が、誕生日や記念日にプレゼントをくれたんです。でも、私は車いすでアルバイトができないので、お返しができません。パソコンを使えば何かできるだろうと思い、HTMLを勉強して自分でホームページを作りました。
はじめはスニーカーを売っていて、のちにピアスを売りはじめました。私は昔、めちゃくちゃピアスをつけていた時期がありまして「ピアスについては何でも聞いてくれ」といえるくらい博識でした。その知識を活かしたんです。
パソコンを使って、サーバーを契約して、ホームページを作って、商品を売る。これが私にとって、はじめての「働く」ことでした。当時の私にとって、やりたいことをできるに変えてくれたのは、さくらインターネットさんといえます。
長きにわたるご縁があったので、今回こういった形で繋がれたのは、運命的だと感じています。
ーー以前からご利用いただき、ありがとうございます。出資以外の面でも何か協力しあえることがあると思いますが、さくらインターネットに期待していることを教えてください。
すでに脆弱性診断に関して、さくらインターネットさんのグループ企業からお力を借りています。加えて、あるプロジェクトについても一緒に進めています。ミライロだけではできなかったことを、さくらインターネットさんに伴走いただくことで、できなかったことができるようになると思います。
「バリアバリュー」に込められた想い
ーーミライロの企業理念「バリアバリュー」に込められた想いを教えてください。
「障害を価値に変える」。これがバリアバリューです。
いままではネガティブにとらえられていたこと、マイナスに受け取られてしまっていたことがあるとします。でも、見方や向き合い方を変えれば、価値に変換していけます。私もまだ道半ばですが、多くの人に想いを感じ取ってほしいので、企業理念を「バリアバリュー」にしました。
私だけではなく、視覚障害のある社員、聴覚障害のある社員、LGBTQの社員。こうした仲間がいるからこそ、新しく生まれた事業やサービスもあります。
障害を強みに、プラスに、価値に変えても「武器」にはしない。これを前提としたうえで、しっかりと儲けていきます。社会貢献とビジネスを同時に進めていく。その両輪をともなってやっていく想いが、企業理念に込められています。
ーー続いてミッション「自らの色を描ける未来、自らの路を歩める未来をデザインする」に込められた想いを教えてください。
このミッションは、社名の由来にもなっています。「未来の色(みらいのいろ)」「未来の路(みらいのろ)」から「ミライロ」という社名をつけました。
自らの色を描ける未来。すなわち自身の特性、個性をしっかり活かせる未来です。そして自らの路とは「障害者だから、こうあらなければいけない」「障害者だから、こういう仕事しかない」ではなく「自分が選びたい路を歩めるようにするんだ!」ということです。
言葉の中に「デザインする」とありますが、これは私たちが創造していくわけではないからです。私たちは、きっかけを提供していくにすぎません。みんなと一緒にやっていく姿勢を示すために「デザインする」という言葉を使っています。
ーーミッションにはそういう意味が込められているんですね。次に、ビジョン「小さな想いを、大きなうねりに変える会社」に込められた想いを教えてください。
これは、起業して数年経ったときに武道館のプレゼンテーションで使った言葉です。障害のある方は日本の全人口の8%、およそ964万人います。決して少なくないものの、その方々の声や想いは社会全体に届いているでしょうか?
きっと届いていないですよね。これは日本だけでなく、世界でも同じです。私がこの数年で足繁く通っていたのが、エクアドルです。当時の大統領レニン・モレノさんが、車いすユーザーというご縁から、よく通わせていただきました。
エクアドルでは、あれだけ広い国で交通の便がよくないにも関わらず、国中から多くの方が私に会うため集まってくれました。
障害のある子どもたちや、その親御さんが私を見て「信じられない」と言うんです。地球の裏側から、車いすに乗った私がここまで来たことが信じられない、と。すごく希望を持てたし、自分の子どもも私と同じような未来を歩めれば、とてもうれしいと涙ながらにおっしゃってくれました。
そうした方々の不安であったり、漠然とした未来に対する悲観を、より良い方向に変えていきたいです。
物事は共感を生まなければ、推進力にはなりません。社会全体がこうあったほうがいいよね、とみんなが同じように思えなければ、良い方向へのうねりには変わらないんです。
少数派の不安、不満、不便を変えていく。良い形でムーブメントとして進めていくんだという想いから「小さな想いを、大きなうねりに変える会社」をビジョンに掲げています。
※本記事では「障害者」と表記しています。「障がい者」と表記すると、視覚障害のある方が利用するスクリーン・リーダー(コンピュータの画面読み上げソフトウェア)では「さわりがいしゃ」と読み上げられてしまう場合があるためです。