メンターとは、部署の垣根を越え、対象の新入社員(メンティー)に個別でアドバイスをおこなう支援者です。
最近では多くの会社で、人材を育成する制度のひとつとして、メンターの役割に注目が集まっています。この記事では、メンターの意味やメリット、他の語句との違いまでを説明していきます。
メンター制度は新入社員を導く存在として浸透
新入社員を教育・サポートするポジションのひとつとして、多くの企業で採用されているのが「メンター」です。メンターは部署の垣根を越え、対象の新入社員(メンティー)に個別でアドバイスをおこなう支援者といえます。
メンターには、新入社員とあまり歳が離れていなくて、経験や知識のある先輩が任命されることが多いです。そして、仕事上の疑問はもちろん、職場内での人間関係や仕事へのプレッシャーなど、新入社員が抱えるさまざまな精神的なケアをします。
メンターの語源は、古代ギリシャの書物からです。叙事詩『オデュッセイア』には「メントール(Mentor)」という賢者が登場し、王子の教育係という役割を担っていました。彼は、王子が素晴らしい指導者になれるよう、学問だけでなく人格面でもさまざまな教育を施しました。そして、メントールから派生し、ビジネスシーンにおける教育係の一種をメンターと呼ぶようになったのです。
メンターの目的と効果は?ビジネスシーンで広がる理由
さまざまな教育の方法があるにもかかわらず、メンターが広まっている目的は「企業文化を伝えるため」「人材育成・定着」のためです。これまでの社会では、先輩社員が日々のコミュニケーションを通して新入社員に企業文化を教え、社内で価値観が共有されていました。そして、新入社員が成長したとき、下の世代に同じ教育を施すという流れが自然に形成されていたのです。
しかし、終身雇用制度が揺らぐにつれ、ひとつの企業で長期的にキャリアを築こうとする社会人は少なくなってきました。そのため、企業文化を自主的に受け継がせようとする社員も減りました。こうした状況下では、企業側の采配によって、先輩と後輩の絆を意図的に強化していく必要が出てきたのです。
そこで、編み出されたのが、新入社員を他部署の先輩社員に指導させるメンター制度でした。
大事なことなので繰り返しますが、メンター制度には「若手の離職率を抑える効果」もあります。新入社員がすぐ退職してしまう場合、人間関係の問題は無視できません。また、業務上の不安や疑問を解消できないまま、自信を喪失していくパターンもあります。こうした問題は、従来なら同部署の先輩や上司が取り組むべきでした。しかし、新入社員が「評価を落としたくない」「今後の関係に影響するのが怖い」とためらってしまい、直接の上司に相談できないことも増えてきたのです。
メンターがいれば、新入社員はいつでも、内容に関係なく悩みを相談できます。早い段階で問題が解決するため、転職という発想がなされにくくなります。また、先輩社員と信頼関係が築けると企業そのものへの愛着も生まれるでしょう。企業の世代交代を途切れさせない手段として、メンター制度は多くの企業で導入されています。
さくらインターネットでは、ビジネス研修として「メンター研修」も取り入れています。メンタリングをするために必要なスキルを習得することができます。
メンター制度のメリット
メンター制度の具体的なメリットを社員自身(メンター・メンティー)と、職場の2つに分けて紹介します。
まず、社員自身へのメリットですが、
- メンターの人材育成意識が向上
- メンティのモチベーションの向上
- メンティの職場環境への適応
- メンティの知識やスキルの獲得
などが挙げられます。
続いて職場のメリットですが、
- コミュニケーションの活性化
- 定着率向上による人手不足の解消
- 働きやすい職場風土づくり
などが挙げられます。
こうしたメリットがあるため、メンター制度を活用する企業が増えたのです。
育成方法はいろいろ!メンタリングはコーチングやOJTとどう違う?
メンター制度による社員教育を「メンタリング」と呼びます。そして、メンタリングと同じく、多くの企業で社員教育に導入されている制度のひとつが「コーチング」です。
コーチングについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
>>コーチングとは? ティーチングとの違いや効果について解説
メンタリングとコーチング
いずれも助言者が1対1で向き合う点は共通しています。また、仕事のことに限らず、人間関係などの相談も受け付けているところは同じです。そして、いずれも施す側でなく、受ける側の主体性に基づいて進められていく制度です。
ただし、メンタリングが新入社員や若手を対象としている教育システムであるのに対し、コーチングはよりキャリアのある人材向けだといえます。なぜなら、コーチングは行動の変容を通じて、成長や自己変容といった未来に向かっての高みを目指していく方法だからです。まだ、入社したばかりの人に自己変容をうながすのはハードルが高いといえます。
そのほかの相違点として、指導側のスキルが挙げられます。メンタリングにおいて、メンターは新入社員の手本となる存在です。仕事上のスキルはもちろん、信頼関係を作るためのコミュニケーション術や精神性でも新入社員の模範とならなくてはなりません。
メンターは自薦が基本となりますが、社内で上層部から信頼を受けている人材が任命されることもあります。ただし、その際にはメンター自身が義務としてメンタリングをおこなうのではなく、やる意思のある人間を任命する必要があります。自発的におこなうことで、メンター自身もメンタリングを通じて、人間的に成長できるでしょう。
そして全体的に、メンターは心、コーチは行動について助言する機会が多くなります。その理由は、メンターには企業文化の継承という役割も含まれているからです。
コーチは相手と対話し、相手の言うことを受け入れて理解し、適切な質問をすることで、相手の能力を引き出して自発的な行動をうながします。ただ、企業になじむ前で経験や知識が少ない新入社員には、心に寄り添ってくれるメンターのほうがよいといえるでしょう。
OJTとの違い
メンタリングとよく似た制度として「OJT」が挙げられます。OJTとは「On the Job Traininng」の略で、実務を体験しながら覚えてもらう教育方法です。
OJTでは、新入社員は一定期間、同じ部署の先輩社員に付き添って行動します。そして、先輩社員の仕事や考え方を直接教えてもらい、一人前の社会人として成長していく流れです。「付き添って行動」という部分が、メンタリングやコーチングとの大きな違いです。
OJTと異なり、メンタリングは他部署の先輩社員に指導を仰ぐケースが大半です。なぜなら、同じ部署の先輩社員だと人間関係が悪化することを恐れ、新入社員が相談しにくい内容も発生しがちだからです。
日常的に関わらない他部署の先輩社員なら、新入社員は気軽にアドバイスを求められます。「これを聞いたら怒られるのではないか」という懸念もなく、本心を打ち明けやすくなるといえるでしょう。
メンターは別の部署の先輩社員、OJT担当は同じ部署の先輩社員にするのが理想的です。
もしも任命されたら?メンターをするうえでの注意点とは
まずは、メンタリングの教育を受け、メンタリングの流れをマニュアル化することです。もしも、明確なマニュアルがないままメンタリングを開始してしまうと、新入社員に伝えるべき内容を無視してしまう可能性が出てきます。そうして企業理念から外れた育ち方をすると、メンターを置いた意味がありません。マニュアルがなければメンター本人が上司に相談し、用意してもらいましょう。
次に、メンティーとの関わり合い方も大切です。メンターはメンティーのモチベーションを引き出せるよう働きかけなくてはなりません。そして、メンティーによって、意欲が向上する方法は異なります。強く鼓舞されると気合が入る人もいれば、優しくされないと委縮してしまうパターンもあるでしょう。
メンターはメンティーの性格を把握したうえで、もっとも効果的なコミュニケーション方法を探らなければなりません。メンター主体で指導方法を考えていると、メンティーとの間に溝が生まれる危険も出てきます。
注意したいのは、メンターが使命感を抱え込むあまり、メンティーに一方的な指導をしてしまうことです。確かに、メンターはメンティーを導く役割です。しかし、メンタリングの目的はメンティーの悩みを解決することであり、強制的に思想や価値観を叩き込むのは望ましくありません。
メンターは話すよりもむしろ、メンティーの話を聞くことが重要です。メンティーがメンターに安心感を覚え、「何でも聞いてくれる」と思えば深い悩みを話してくれます。結果的に、そのほうがメンターの成長を促すきっかけになりえるのです。
正しいメンター制度で新入社員の孤立を防ごう
人がすぐ辞めてしまう企業では、新入社員の孤立や不安が解消されていない可能性を疑いましょう。こうした問題を解決するには、新入社員に寄り添ってくれるメンターやロールモデルの育成が役立ちます。
ただ、メンター制度を実施していくには、正しい方法論が不可欠です。メンターが自分の役割を意識しながら、メンティーの本心を聞き出そうとする姿勢こそが大切です。将来的にはメンター制度を組織の風土にできれば人材育成にも繋がるでしょう。
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(参考:厚生労働省,女性社員の活躍を推進するための「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」)