物流の 2024年問題 デジタル技術はどこまで物流システムを改善できるのか?

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みなさんは宅配便をどの程度利用しているでしょうか。
筆者は最低でも週に 1回は自宅に荷物が届いています。筆者が住む地域は、けして都会ではなく一般的に田舎と呼ばれる地域ですが、ECサイトで商品を購入した翌日に自宅に届くこともあります。
家にいながら好きなものを購入でき、1週間もたたずに手元に商品が届くサービスは非常に便利ですが、2024年以降、荷物がスムーズに配達されなくなるかもしれません。
物流業界ではいま、何が起こっているのでしょうか。

物流の 2024年問題とは

いまや宅配便は、多くの人が当たり前に利用しているサービスです。 実際に、図1 の国土交通省が公表している宅配便取扱個数の推移を見てみると、宅配便合計のデータが記載されはじめた 1992年から 2022年の間で約4倍に増加しています。

図1:宅配便取扱個数の推移
出典:令和3年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法 p.3

 

もちろん国内で流通する貨物は宅配便以外にもありますが、トラックがもっとも多く貨物の輸送を担当しています。日本の運輸業界はトラック、つまりトラックドライバーに支えられているといっても過言ではありません。しかし、トラックドライバーの働き方をめぐっては、以前から以下のような問題が指摘されていました。

  • 長時間労働
    全産業と比較すると、トラックドライバーの年間労働時間は約2割長い。
  • 低所得
    全産業と比較すると、トラックドライバーの年間所得額は約1割低い。
  • 人手不足
    全産業と比較すると、トラックドライバーの有効求人倍率は約2倍。

2021年度には、脳や心臓疾患で労災認定を受けた全労働者の 3割以上を「運輸業、郵便業」が占めており、厳しい労働環境であることが窺えます。

 

このような問題を解決するため、2024年4月より自動車の運転業務の時間外労働についても、年960時間(休日労働含まず)の上限規制が適用されることが決定しました(図2)。

図2:自動車の運転業務に関する法改正
出典:国土交通省「物流の2024年問題について」p3

 

この規制により、たとえば長距離輸送では、これまで 1人のドライバーで担当していた仕事を交代のドライバーと 2人で担当する必要が出てきます。

前述の通り、トラックドライバーは人手不足の状態であるため、新たなドライバーを雇用するのは難しい状況です。人が雇えなければ、事業者はトラックの運行本数を減らすことも検討しなければならず、収益の低下につながってしまいます。これがいわゆる物流の 2024年問題です。

この問題に何も対策をおこなわなければ、2024年度には輸送能力が約14%(4億トン相当)不足、2030年度には約34%(9億トン相当)不足する可能性があると試算されています。

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2024年問題を解決するための施策とは

上記の問題は、国や物流に関わる民間企業も認識をしており、対策を練っています。

自動運転トラック・ドローンの実用化

2023年3月には、福井県永平寺町で使用する車両について自動運転「レベル4」が認可されました。自動運転「レベル4」では、ルートや速度など、特定の条件付きでドライバーが不要となります。

物流業界でも自動運転は検討されており、大型トラックを使った自動運転の実証実験が始まりました。すでに千葉県の高速道路で実証試験をおこなっており、2025年度に東京と大阪間で輸送サービスを始めることを目指しています。

他にも、以下のような施策が発表されています。

  • 2024年度に新東名高速道路の一部区間などにおいて、100km以上の自動運転車用レーンを設定
  • 送配電網などの既存インフラを活用して、将来的には地球1周分(約4万km)を超えるドローン航路の設定を目指す。

AI によるマッチングサービス

前述のとおり、物流業界は人手不足に悩んでいます。
これまで中小物流会社では、ドライバーが不足している場合、対応可能な同業者を電話やメールで探していました。この作業を AI に任せることで自動化し、物流会社の人員確保を手助けするサービスが登場しています。

電子道路情報データの整備

道路法では、特殊な車両が道路を通行するには特殊車両通行許可が必要と定められています。特殊な車両とは、車両の構造が特殊な車両や、輸送する貨物が特殊で一般的制限値を超える車両などで、自走式建設機械や一部のトレーラーが該当します。

物流業界でもこの特殊車両通行許可が必要な車両が増えており、審査に時間がかかることが課題になっていました。審査には道路情報のデータが必要ですが、これまで人手中心の作業であったためデータ収集に時間がかかり、審査の長期化の要因となっていたのです。

このデータ収集をセンシング技術を用いて自動化することで、審査を迅速化する動きがあります。

スマートインターチェンジ

スマートインターチェンジ(スマートIC)とは、高速道路の本線やサービスエリア、パーキングエリア、バスストップから乗り降りができるように設置されたインターチェンジです。ETC搭載車のみが利用でき、事業中のスマートIC は 2023年3月31日時点で全国に 51か所設置されています。

民間施設直結スマートIC という形態もあり、民間施設(大規模商業施設、工業団地、物流施設等)と高速道路を直結するものもあります(図3)。

図3:民間施設直結スマートインターチェンジのイメージ図
出典:国土交通省「民間施設直結スマートインターチェンジについて」p.1

 

スマートIC は、産業拠点から高速道路へのアクセス向上や物流の効率化が期待されています。たとえば、物流施設と高速道路を直結すれば、よりスムーズに貨物を運ぶことができるでしょう。

物流の DX は 2024年問題を解決できるのか

ここまで物流業界におけるデジタル技術の活用を紹介しました。
政府も民間企業も 2024年問題を解決するために、物流業における DX を推進する方針です。しかし、DX の推進だけで 2024問題を解決できるわけではありません。荷主と消費者の行動変革も必要です。

荷主側の取り組みとしては、下記などが挙げられます。

  • リードタイムの延長
    長距離輸送は中1日を空け、満載での効率的な輸送をおこなう。
  • 「標準的な運賃」などの収受
    ドライバーの労働環境改善や働き方改革に取り組むための適正な運賃を収受する。
  • 送料以外に発生する料金の収受
    燃料サーチャージや附帯作業料金、高速道路利用料などを収受する。

また、消費者側の取り組みとしては、下記などが挙げられます。

  • 再配達を減らす配慮
    確実に受け取れる日時・場所の指定、宅配ボックス・ロッカーの利用や置き配を利用する。
  • まとめ買いによる運送回数の削減
    注文回数を減らすことで配送を削減する。

 

消費者側に求められる取り組みについて、心当たりがあると思った方もいらっしゃるでしょう。

筆者も、なるべく 1回で荷物を受け取ることを心がけているものの、宅配ボックスに入らない荷物を受け取れず、再配達をお願いしたのは 1度だけではありません。

また、現在は多くの ECサイトで送料無料サービスがおこなわれています。そのため「送料無料なら」と思って、無計画に注文し、荷物を何日も連続して届けてもらったこともあります。

おそらくエレベーターを使うよりも速いからだと思いますが、筆者が住む地域を担当するドライバーさんは、階段を駆け上がって荷物を届けてくれます。

まとめて注文しておけば、何日も連続で階段を駆け上がってもらう必要はなかったでしょう。

猛暑でも、雪が降っていても家まで商品を持ってきてもらえる便利な生活に慣れてしまっていますが、ドライバーさんの努力のうえで成り立っていることを忘れてはいけません。

現在は多くの運送業者が、オンラインで荷物の配達状況を確認できるサービスを提供しています。私たち消費者も、ただ荷物が届くのを待つのではなく、そのようなサービスを利用して荷物を受け取る努力をする必要があるのではないでしょうか。

「確実に」「1度で」荷物を受け取れるよう、心がけてみませんか?