お客さまに寄り添い、BtoBのラストワンマイルの配送を担う株式会社ロジクエスト(以下ロジクエスト)。あらゆる「届ける」を解決するため、3つの輸送サービスを提供し、4つの配送方法を駆使する。一方、現場では日報に関わる大量の紙の扱いが課題だった。ペーパーレスでDXを実現した株式会社ロジクエスト 執行役員の後平 佐保子さんに話を聞いた。
後平 佐保子(ごひら さほこ)さん プロフィール
2013年、慶應義塾大学経済学部卒業。翌年、HEC Paris 経営大学院修士課程を修了後、フランス現地の戦略コンサルティングファームに初の日本人社員として入社。おもに Due Dilligence と組織改編の案件に従事。その後、アジア各国にて電動車両の製造から販売までを手がけるテラモーターズに参画、電動バイク事業を担当する。ベトナム法人責任者、ネパール法人責任者を歴任後、2018年よりロジクエストに入社。配送現場から社内および顧客への運用まで、新たな視点からIT導入を進め包括的なDX化に取り組む。株式会社 ロジクエスト 執行役員 社長室 室長(現職)。
BtoBのラストワンマイルを担うロジクエスト
「物流の裾野はとても広い領域です。私たちがサービスを提供するBtoBの企業専属便は、普段の暮らしの中ではあまり知られていないサービスです。全国の輸送会社の数はコンビニより多いのですが、4つの配送方法をカバーしているのはロジクエストしかありません。ラストワンマイルにマッチした運び方を全国レベルで展開しています」
ロジクエストが提供する輸送サービスは3つ。
- 配送代行サービス:BtoBの企業専属便として専属ドライバーによるお客さまのラストワンマイルの配送を担う。
- 緊急配送サービス:緊急配送が必要なときにスポット的な配送を担う。
- 国際輸送サービス:通関、越境ECサービス、国際間の緊急貨物輸送を担う。
そして、サービスを実現するための配送方法はつぎの4つだ。
- トラック
- バイク
- 自転車
- ハンドキャリー(カートやリュックで人が荷物を運ぶ)
ロジクエストの取引先は、食品、衣料品、建築資材、薬品など、種々様々な分野・業種にまたがる。
「たとえば、パン1つとっても冷凍品を1週間に1回届けるのと、焼きたてを30分に1回届けるのでは運び方がまったく異なります。我々は、お客さまのビジネス、価値に寄り添ったカスタマイズ配送を実現することを強みにしています。
物流は単なるA地点からB地点への移動ではありません。荷物のピッキングや梱包、積み込みなど前後の付帯作業についても、お客様ごとのルールややり方があります。そういった点もすべて加味して、専属のドライバーが現場に入り込んだサービスを提供しています」
一方、ハンドキャリーは極めてユニークなサービスだ。ロジクエストのスタッフが、キャリーケースやリュックを使い、鉄道などの公共交通機関で急ぎの荷物を運ぶ。国内だけでなく海外へ緊急で届けたケースもある。国内工場で製造された部品を、航空機に乗ってメキシコへ届けたこともあるそうだ。
DX導入前の課題
現在、ロジクエストの取引先は約5,500社。ほぼ同数のドライバーから日報が送られてくる。日報にはドライバーの稼働時間や走行距離の情報が記載され、給与計算のためのデータとなる。約55の支店に送付される日報の合計は毎月約7,000枚。給与計算の元データとなっている。
後平さんはDX導入前の課題を説明してくれた。
「日報はFAXで送付されてきます。大量な紙のデータをもとに、支店の事務スタッフが請求を起こすため、基幹システムに手で入力しなくてはいけません。ドライバー1人ひとりの始業から就業までの稼働時間、何時から何時はどこへ納品したか、超過時間などを紙を見ながら打ち込むのです」
月末月初の事務所の現場は大変な状況でほかの作業が出来ないほどだった。営業事務のスタッフがデータ入力にかかりきりになる。入力ミスや再入力の手前もかかった。
当時は約15名のスタッフが、月末月初の6日間、日報データの入力しかできない状態だった。ひたすら打ち込んで、残業しても終わらない。残業を加味すると8日ほどもかかる負荷だったという。
「運送の現場ではまだまだ紙文化が根強いのが実情です。ドライバーさんの平均年齢は約45歳くらい。世代的にデジタルアレルギーのある方もいらっしゃいます。そのため、どうしても紙の利用が続いていました」
さらにこれらの書類は、日報兼請求書として7年間の保管義務が法律で義務づけられている。紙の原本を保管するために倉庫を2つ借りていて、保管費用も書類を探す負荷も膨大だった。
DXを導入してペーパーレス化を実現
「非効率なことを今後10年もやっていくイメージがまったくつきませんでした。DX化して運用の方法を切り替えなきゃいけない。手始めにペーパーレスに取り組みました」
当時の課題は膨大な紙の量だ。倉庫だけでなく、本社や支店にもダンボール箱が積まれていた。必要な書類を探すにも膨大な時間がかかる。
「探せないなら、無いのと同じ」。後平さんは紙を減らし電子化するため、文書管理ツール「invoiceAgent」を導入した。ドライバーから送付された日報は、「invoiceAgent」のOCR(Optical Character Reader:画像データのテキスト部分を認識し、文字データに変換する機能)で取り込まれ、電子データ化される。「invoiceAgent」のクラウド上に保管されるので、原本の紙は破棄できる。取り込まれたデータにはタイムスタンプが押されるので、改ざん防止にもなる。
DXのハードル
電子帳簿保存法が2022年の1月に改定されて、電子化のハードルが緩くなった。そのため業務効率化のSaaSに参入するベンダーも増えてきた。
しかし一方で、導入現場の営業事務レベルを理解し、システムの機能と運用の双方を上手にすり合わせて新しいシステムを軌道に乗せるのは簡単ではない。DX導入に際して後平さんが苦労した点だ。
「現場もシステムも、どちらもできる人はなかなかいなかったので、要件定義が大変でした。自社にぴったりのサービスはないわけです。実際に導入する際は、システムを変えるのか、現場の運用を変えるのか、といった調整が必要でした」
現場レベルのフォーマットの変更や、いままでの工程を新しい方法で運用するなど、業務フローの組み直しも必要だった。短期間での実現は非常に難しかったという。
加えて請求業務は何十年もルーティン化されてきた業務だ。現場はそれでも回っている。いままでの仕組みを変えようとしたとき、現場のマインドセットを変えることも重要だ。
「現場の皆さんが協力してマインドセットを変えてくれたおかげで導入できました。どこの会社さんも苦労される点ではないでしょうか。DXがなかなか進まない要因だと思います」
後平さんはそう話す。
DXのきっかけとは
以前から物流クライシスが騒がれ始めていた。日本は少子高齢化でドライバーが不足する、労働集約的な産業の物流に危機がくる。
「100年後も同じように人が物流を担っているのだろうか。自動運転やIT化、会社としても新しいものに対する感度を上げておくことが非常に重要だと思っていました。2018年頃からITやテクノロジーにくわしい人材が入社してきて変化が始まり、いまではインサイドセールス部隊や、デジタルマーケティングのクリエイティブツールも持っています。CRMも導入しました。2018年以降、少しずついろいろなツールを導入したおかげでDXの素地ができていました」
このような背景から、ペーパーレスのDXも実現した。一朝一夕には変化しない。DXは少しずつ積み上げて少しづつ広げていくことが大事だと後平さんは話す。
日本のトラック運送会社の99.9%は中小企業
日本の物流の市場は極めて大きい。トラック運送事業者の営業収入は約19兆円、従業員数が約194万人、トラック運送事業所は約6.3万ある。*1 しかし、一方で中小企業率は99.9%となっている。ヤマト運輸、佐川急便、JPのトップが抜き出ているが、裾野が広がるいびつなピラミッド構造だ。
資本力の課題もあり、DXもなかなか進まない。デジタルから遠い業界でもある。
「ロジクエストはDXに一歩踏み出せた物流会社と言えるでしょう。取引のある運送会社に、私たちが得たノウハウを広げていきたい。物流業界としてステージを一段上げるような取り組みをしていきたいです」後平さんはそう話す。
現場視点で寄り添い、目指したいこと
「物流はとても大切だと思います。縁の下を支える人たちのおかげで、物が届けられ経済成長もできた。コロナ禍でも私たちの生活を支えてくれました」
ロジクエストでは、会社としてドライバーエンゲージメントを高めていこうとしている。会社として、「日本一ドライバーに支持される会社になる」をスローガンの1つに掲げている。後平さん自身も日々現場で働くドライバーの助手席に定期的に乗るようにしているという。
「現場にしかインサイトはありません。現場を知らないと新しい取り組みは企画できません」
現場が好きだという後平さん。物流現場のステージをあげることも目指し、物流DXに取り組んでいる。