粗大ごみの手続きをもっと簡単に!コミュニケーションをつくる LINE Fukuoka流DX

粗大ごみを出すときは、まず電話で役所の窓口に申し込む。そのあと、コンビニなどで処理券を購入してごみに貼り、回収日に指定の場所に出すのが一般的だ。ところが、福岡県福岡市では、粗大ごみの申請から支払いまでが LINE で簡単にできるという。本サービスの導入支援をおこなっている LINE Fukuoka株式会社 DX・Smart Cityセンター センター長の南方 尚喜さんに話を聞いた。

南方 尚喜(みなかた なおき)さん プロフィール

東京都出身。2007年リクルートコミュニケーションズ入社。広告制作や新規事業の立上げに従事。2018年LINE Fukuoka入社。経営企画として会社の基盤づくりや福岡市との協業案件を担当。同年発足したSmart City戦略室の室長に就任。2021年8月、DX・Smart Cityセンターに組織を拡大し、センター長に就任。

きっかけは人口増加に伴う手続き負担の解消

福岡市と LINE株式会社および LINE Fukuoka株式会社(以下、LINE Fukuoka)は、2018年に包括連携協定を結び、LINE の技術を活用して街のさまざまな課題を解決している。南方さんいわく、なかでも大きな成果を上げているのが、粗大ごみの申請手続きだ。

 

「福岡市は人口が増加傾向にあり、それによって役所でおこなう手続きが増えています。とくに、4月や10月の転勤に伴う引っ越しシーズンは、あらゆる手続きの対応が逼迫するため、効率化したいという課題を福岡市のほうで持っていました。そこで福岡市と協議のうえ、粗大ごみ申請の簡略化に取り組むことを決めました」

 

日常的におこなうものではない粗大ごみの手続きのフローは、市民にとって手間のかかるものであった。また、行政側としても市民からの問い合わせが多い業務でもあった。そのため、手続きを簡略化すれば役所の負担が減るだけでなく、利便性の向上により市民の暮らしにも貢献できると狙いを定めたのだ。

 

「これまでの申請方法の場合、電話で申し込んだり、近くのコンビニに処理券を買いに行ったりする時間を考えると、トータルで20分はかかっていたのではないでしょうか。 LINE なら、それが数分で終わります」

 

メリットはほかにもある。これまで福岡市は、処理券を販売する店舗に手数料を払っていたが、それもオンライン決済になれば削減できる。また、LINE側としても LINE公式アカウントや LINE Pay の利用促進につながる。まさに、「三方よし」の解決策だ。

段階的なモデルチェンジで LINE の友だち数20万人突破

2018年9月にローンチされたときは、申請のみのサービスだった。その後、2020年1月に LINE Pay によるオンライン決済を開始。2023年2月のリニューアルでは、手数料支払いで使えるオンライン決済の種類を拡大した。リニューアルには、どのような経緯があったのだろうか。

 

「LINE Pay導入後のオンライン申請利用者は、粗大ごみ申請者の約3割。LINE は日本の人口約1.2億人のうち、およそ9,400万人が使っている普及率の高いサービスなのに、思いのほか利用者が少なかったのです。そこで、PayPay やクレジットカードを使えるようにして、決済手段を広げました」

 

福岡市粗大ごみ受付LINE公式アカウントの友だち数は、リニューアル後の約2か月間で約1万8千人増加し、20万人を突破した。これは、福岡市の世帯数を分母として計算すると、4分の1にもおよぶ数字だ。

 

「市民のみなさんが、SNS で『福岡市は粗大ごみの申請が LINE でできるんだ!』と、自慢してくれているのを見ました。活用してくださっているのが何よりうれしいですね」

粗大ごみ収集を LINE で申し込む流れ

変革には当事者意識が必要

「粗大ごみ収集がオンライン申請・オンライン決済になったことで、一連の粗大ごみ収集の方法に大幅な変更が生じました。たとえば、ごみ出し時、粗大ごみに貼り付けが必要な受付番号等も、処理券を使わず白紙に手書きする方法に変わっています。こうした変化にともない、福岡市では『申請方法が変わると現場が混乱するのではないか』『ルールを守らない人や不法投棄が増えてしまうのではないか』といった不安の声もあがりました。そんななか、福岡市職員のみなさんが丁寧な対話や調整をしてくださったことにより、実現することができたのです。そこには、『市民のみなさんに喜んでもらいたい』という当事者意識があったと思います」

 

何かを変えるときには、必ず賛否がある。それぞれの立場があるので当然だ。その声を受け止めて、理解を求めていく調整は容易ではない。その原動力になるのは、課題を自分事として捉える当事者意識だと南方さんは言う。

 

「DX は、テクニカルな部分にフォーカスされがちです。でも導入するのも、利用するのも、影響を受けるのも、結局は『人』が中心。なかには、理解してくれない人や反対する人もいます。そういう難しい局面でも粘り強く進めていく必要があり、だからこそ関わる人々の当事者意識がないとうまくいきません」

つくっているのはシステムではなくコミュニケーション

DX・Smart Cityセンターは、2018年の発足以来、LINE の技術によって暮らしの困り事を解決し、市民が主体的に活用するしくみを提供している。こども病院の初診予約や水族館のレストランの順番待ちに LINE を導入するなど、これまでに100件以上のプロジェクトを進めてきた。

 

「わたしたちは、システムをつくるチームではありません。コミュニケーションをつくるチームです。目指しているのは、市民・企業・自治体のコミュニケーションを円滑にすること。システムをつくるだけではなく、きちんと使ってもらって、満足してもらうには工夫が必要です」

 

それゆえに、数字にはこだわっている。こども病院では予約者の8割、水族館のレストランでは9割以上の方が LINE を活用しているそうだ。

 

「市民も企業も自治体も便利になるというのが、わたしたちの目指す DX です。そのために、現場をしっかり見て、手続きやオペレーションをスムーズにするにはどうしたらいいのか、メンバーと知恵を絞っています。暮らしにまつわるあらゆるコミュニケーションを、LINE の技術で便利にしていきたいですね」

 

LINE Fukuoka株式会社