IoT導入の課題の1つである通信コスト。それを解決するIoT SIMとは?
>>資料のダウンロードはこちらから
生活を豊かにするデバイスが多数リリースされる現在、身体障がい者の生活をアシストするデバイスも多数開発されている。電動車いすもその 1つで、不慮の事故や ALS(筋萎縮性側索硬化症)、筋ジストロフィーなどの難病により、身体に重度の障がいを抱えた方々の生活をよりよいものとする技術が進展している。電動車いすの専門店であり、自社オリジナルブランドも展開する株式会社コボリン(以下、コボリン)の代表・浅見 一志さんに、電動車いすの現在、今後の可能性を聞いた。
1975年生まれ。東京科学電子工業専門学校(現:東京デジタルテクニカル専門学校)卒業後、半導体製造装置の機械設計に従事。その後、障がい者ヘルパーのアルバイトを経て、2000年に有限会社さいとう工房に就職し、車いすの製作・販売メンテナンスに従事。2007年に独立し「車いす工房 輪」を設立。2022年8月に同事業を法人化し、株式会社コボリンを設立。
一緒に作る、あなたの「できる」を増やす超電動車いす
「電動車いすを使うユーザーには、事故や後天性の病気によって、ある日突然身体が不自由になり、寝たきりになる方も多い。そういった事故や病気はいつ、誰の身に起こるのかわかりません。
だからこそ、健常者も『かわいそう』と他人ごととして捉えるのではなく、病気や障がいを自分ごととして考えていく必要があると思うんです」
東京都東村山市に所在するコボリンの工房で、浅見さんは静かに語る。工房にはさまざまな工具が並び、中央には制作途中の電動車いすが完成の時を待つ。工房の 2階にはシートやクッションのカバーなどを制作する縫製室、3階には予備のパーツが収められた倉庫があり、その数は 1,000種類以上にもなる。急な修理や調整作業に即応するために、パーツは常に備えてある。
工房見学の際、偶然居合わせた電動車いすユーザーの方とお話しすることができた。その方も自動車の運転中に突発性の心臓疾患を発症し木に衝突、心肺停止のまま病院に運ばれた。一命は取り留めたものの、半身不随の後遺症が残ったという。
冒頭の浅見さんの言葉のように、不慮の事故や疾患により突然身体が不自由になることは誰の身にも起こりうる。こうしたアクシデントが予期せず起きた際に、電動車いすは、身体の不自由を補い、生活をするうえでの可能性を広げてくれる。
コボリンが手がけるのは、ユーザーのニーズに合わせたカスタマイズだ。具体的には、昇降、リクライニング、ティルト(身体全体を上下に傾ける)といった動作から、座位(座っているときの姿勢)を保持するクッションやシートの材質、肘掛けの位置などの細かな調整まで手がけている。
「私たちは“一緒に作る、あなたの『できる』を増やす超電動車いす”をメッセージとして掲げる電動車いす専門店です。目指しているのは、ただ市販の電動車いすやオプション品を販売することではなく、それを超えて、よりパーソナライズされた電動車いすを作ることなんです。
電動車いすの販売のほか、電動車いすの改造や搭載する補装具の開発、メンテナンスも手がけています。現在では電動で姿勢変換ができるオリジナル商品『Hineru(ハイネル)』も展開しています」
電動車いすは製造時点では同一規格で出荷されるが、ユーザーには障がいや病状によってさまざまな需要がある。とくに直接ユーザーに触れ、座位を保持するシート部分のカスタマイズは非常に重要だ。
ハイネルは背もたれを傾けるリクライニングやティルトのほか、上半身を傾ける(側屈)やひねる(回旋)、脊柱を伸ばす(背の上下)といった 5つの姿勢変換機能を持つ。同社は座位の電動制御に注力している。ユーザーはなぜこのような動作を求めるのだろうか。
「たとえば、筋ジストロフィー患者の場合、筋力が少しずつ衰えていくので重力に耐えられず、次第に身体がつぶされて曲がっていってしまう。そういったときに身体を固定して倒れないように支える装置のことを『座位保持装置』といいます。
しかし、この装置を使って長時間身体を支え続けていると、支えている部分が痺れたり、痛くなるんです。また、座位のままでは血流が下半身に集中してしまうため、時折身体を頭部側に傾ける必要もあります。座位と休む姿勢、身体の固定と痛みや痺れを軽減する動作の必要性、いずれもかなえる機能を電動車いすに持たせたいと思ったのが、そもそもの始まりです」
IoT導入の課題の1つである通信コスト。それを解決するIoT SIMとは?
>>資料のダウンロードはこちらから
人が『自由に生きたい』と思うことはわがままではない
浅見さんが電動車いすに携わり始めたのは 2000年のこと。2007年に個人事業主として独立、「車いす工房 輪」を開業した。2022年8月に法人化し、社名を株式会社コボリンに改めた。浅見さんが電動車いす業界に入ってから 24年目となる。業界とともに長年のキャリアを過ごしてきた浅見さんから見て、現在の電動車いすの技術的な発展をどう捉えているのだろうか。
「私が業界に入った当時は、まだ携帯電話もガラケーの時代です。カメラもフィルムが主体でしたし、車にはまだカーナビもついていませんでした。その当時と比べれば、電動車いすも飛躍的な発展を遂げています。
たとえば、電動車いすとスマートフォンを Bluetooth でつなげて、ジョイスティックから操作できるような技術はすでに実装されていて、ALS のユーザーさんで発話ができない方はスマートフォンに文字を入力して、音声変換することでコミュニケーションをとっています。
そのほかにも、Bluetooth をつなげることで家電を操作したり、カーテンを閉めたりすることもできます。電動車いすにも IT技術は活用されているんです」
また、先述のハイネルのように、ハードウェア面でも大幅な進化を遂げている。ハード・ソフトの両面から、可能性は広がっている。コボリンでは一人ひとりとの対話を通して、電動車いすに +α の「できる」を増やしているのだ。
その一例が、オリィ研究所との共創により生まれた「P-5eye」(ピーファイブアイ)の開発だ。オリィ研究所は、眼や指先しか動かせない重度肢体不自由患者のための意思伝達装置を開発し、分身ロボット「Orihime」を販売する。P-5eye は視線の認識により電動で身体の姿勢を変えられるシステムであり、ユーザーの声が起点となった。
P-5eye の事例は、車いすユーザーに新たな希望をもたらした。この取り組みは、開発当初から山梨放送が取材、報道されていた。それを見た別の ALS のユーザーが、コボリンに P-5eye の 2号機の発注をしたのだ。
「技術の発達は著しいものがあります。しかし、結局一番大事なことは、当事者の気持ちなんです。私たちはユーザーの方々が気持ちを伝えてくれない限りは、手を出せません。一方で、身体が動かなくなってしまうと、気持ちが萎えてしまって、自分の要望をあきらめてしまうことが多いんです。
たとえば、ALSは進行すると呼吸するための筋力も低下します。なので、いずれは人工呼吸器をつける必要がある。しかし、人工呼吸器をつける割合は全体の4割以下程度という調査結果(参考:厚生労働省「看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会(第3回)<資料2>ALS患者の療養状況について」)があります。ALS患者の実情として、家族や周囲の人に迷惑をかけたくないと思い、生きることをあきらめてしまう方もいるのです。
しかし、人が『生きたい』と思うことはわがままなんでしょうか。私はそうは思いません。『生きたい』『姿勢を変えたい』『誰かに会いたい』と思うことは、人として当たり前のことではないですか。
『たまたま障がいがあるとか、事故をしたからできないだけで、それはわがままなんかじゃない。自分がしたいことをぜひ言ってください』と伝えています」
“俺がわがままに振る舞うのは、『他人に迷惑をかけたくないから』って縮こまっている若者に、生きるってのは迷惑をかけ合うことなんだって伝えたいからなんだ”
このセリフは、映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(監督:前田哲、主演:大泉洋、配給:松竹)の劇中に登場する。同作は筋ジストロフィーに発症しながら、自らの意思や夢を追い求めた実在の人物、鹿野靖明さん(1959〜2002年)のエピソードに基づく映画だ。
同作で大泉洋さん演じる鹿野さんが乗る電動車いすの製作を担当したのもコボリンだ。製作陣からの依頼は、同社のユーザーである当事者の紹介により実現した。
世界的な潮流に目を向ければ、電動車いすをめぐる先進的な取り組みは、北米や欧州がけん引しているという。国外ではどのような技術が運用されているのだろうか。
「日本ではまだ運用されていませんが、スウェーデン製の電動車いすなどに実装されている機能に、『バーチャルシーティングコーチ』というものがあります。これは、電動車いすユーザーがとっている座位がリアルタイムでデータ化され、医療従事者に共有されるシステムです。
これにより、一人ひとりにとって適切な座位や休む姿勢をプログラムにすることができ、定期的なカンファレンスによってプログラムの修正やアドバイス、また身体機能の状況などをつぶさに観測することができます。
もしもこのシステムが世界中で実装できるようになれば、世界中にいる患者の症例をビッグデータとして蓄積できます。そうなれば病状を遅らせ、身体機能を向上させるための医療的なエビデンスを得ることになる。そんな機能が海外ではすでに運用されているんです。
いま、日本にはさまざまな社会課題があり、政府や行政が懸命に対応し、不平等を是正していることは理解しています。そんななかで、どうしても難病や障がい当事者の声は相対的に小さく、対応が後手に回ってしまいがちです。こうした現状を知っていただき、当事者の声に耳を傾けてほしいと思います」
電動車いすで「可能性の『引き出し』になる。」
浅見さんが見据えるのは、あくまで電動車いすユーザーが自分らしく生きる未来の実現。そのために新たな取り組みも始めている。多機能電動車いすのレンタル事業だ。
ALS などの難病は進行性のため、社会福祉制度の補助を受けられるのはレンタル品に限られる。希望するすべての人に移動と姿勢の自由を提供したいという思いからこの事業が始まったのだという。
「障がい福祉の観点では、『障がい固定』といって、ある程度身体の障がいが固定的でなければ車いすの購入の補助が受けられない制度になっているんです。ALS の場合は進行性の難病ですから、症状によって何度も買い直す必要があります。
ある程度、理にかなった制度ではあると思いますが、介護保険の福祉用具レンタルは元々高齢者を対象に設計された制度です。難病当事者の実態と制度の狭間で当事者が困っていることが、現在社会課題として問題視されているんです。
そして、ALS を発症した方には中途発症といって、それまでは普通の生活を送り、社会人をしてきた方も多いんです。そこから急に身体が動かなくなる苦痛は、非常に大きいと思います。そこを可能な限り自由に高性能な電動車いすに乗れて、しかも介護保険の範囲で提供できれば、より自由な生活が可能になります。そういったことにチャレンジしていきたいんです」
レンタル事業では、高性能な電動車いすを提供し、可能な範囲でレンタルするユーザーに合わせた調整作業にも対応する。
「可能性の『引き出し』になる。」
コボリンのホームページ内、代表挨拶で掲げられる言葉だ。浅見さんはその意志のとおり、今後も電動車いすユーザーの可能性を最大限発揮するために、挑戦を続けていくだろう。
「『できる』を増やすことこそ、『可能性』を広げることにつながると考えています。今後も自社の事業としてもよりよい製品を作っていきたいですし、社会としてそうした未来を実現したいです」
IoT導入の課題の1つである通信コスト。それを解決するIoT SIMとは?
>>資料のダウンロードはこちらから
(撮影:ナカムラヨシノーブ)