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選手のデータを可視化してタイムを伸ばす。スポーツにデジタルを取り入れた「慶應箱根駅伝プロジェクト」

選手のデータを可視化してタイムを伸ばす。スポーツにデジタルを取り入れた「慶應箱根駅伝プロジェクト」

 

2017年4月、慶應義塾体育会競走部の創部100周年を迎えたことを契機に「慶應箱根駅伝プロジェクト」が始動。1994年から途絶えている箱根駅伝本戦出場を目指し、プロジェクトを進めています。

慶應義塾大学にはスポーツ推薦制度がありません。いまある受験制度で入学してきた選手ばかりのチームです。選手は寮で生活をしながら、早朝5時30分から練習をします。朝練後は他の学生と同じように授業を受け、夕方16時30分から再度練習。まさに文武両道です。

慶應箱根駅伝プロジェクトは、慶應義塾大学SFC研究所に設立された「ヘルス・ランニングデザイン・ラボ」の研究プロジェクトとも連動。ヘルス・ランニングデザイン・ラボは、医学・生理学・ITなどを活用して、駅伝競技の社会的意義から強化方法までの研究を進めています。

さくらインターネットもこの研究プロジェクトに協力し、「さくらのVPS」を提供しています。選手が身につけるウェアラブルデバイスによって取得されたデータを、さくらのVPSに送り、分析し、練習に活かしています。

慶應義塾体育会競走部 長距離ブロック・ヘッドコーチで、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の特任講師でもある保科光作さんに、プロジェクトについて聞きました。

 

保科 光作(ほしな こうさく)さんプロフィール

保科 光作(ほしな こうさく)さんプロフィール

1984年生まれ。日本体育大学や日清食品で指導者を経験した後、2017年に慶應義塾大学競走部 長距離ブロック・ヘッドコーチ就任。慶應義塾大学 政策・メディア研究科特任講師。自身も学生時代(日本体育大学)に4年連続で箱根駅伝に出場。大学卒業後に所属した日清食品時代には、ニューイヤー駅伝優勝を経験。個人としても関東インカレ優勝やユニバーシアード入賞など、実績を残す。

スポーツ推薦制度がない中、「研究」を軸にしたパフォーマンス向上を追求

――2017年に慶應箱根駅伝プロジェクトが開始され、ヘルス・ランニングデザイン・ラボの研究プロジェクトとも連動しています。これらのプロジェクトをはじめたきっかけについて教えてください。

慶應義塾体育会競走部の創部100周年を迎えたときに、今後の100年に向けての取り組みとして、慶應箱根駅伝プロジェクトが立ち上がりました。箱根駅伝は、大学スポーツの中で注目されている大会です。そこにもう一度出場できるようにチャレンジしていくことになりました。

その中で、ただ選手を集めて強化をするのではなくて「研究」を軸にしたパフォーマンス向上を追求して、ヘルス・ランニングデザイン・ラボの研究プロジェクトと連動をはじめました。慶應義塾大学には体育学部がないですし、スポーツ推薦制度もありません。育成が重要になります。

 

――慶應箱根駅伝プロジェクトと連動している、ヘルス・ランニングデザイン・ラボの研究内容について教えてください。

 

保科ヘッドコーチ

 

ヘルス・ランニングデザイン・ラボでは、健康とランニングを多方面から研究しています。デジタルの活用や医学、⽣理学を含む、多様な学術的側面の融合領域としての健康とランニングについて研究しています。その目標のひとつが箱根駅伝本戦出場です。

長距離走においては、VO2 Max(最大酸素摂取量)・LT値(乳酸性作業閾値)・ランニングエコノミーといった3つの指標が、パフォーマンスを決定する要因です。これらに対し、生理学的なアプローチに加え、デジタルの力を融合させてパフォーマンスを上げています。

 

――デジタル面では、保科さんが「選手のデータを離れたところからリアルタイムで取得したい」と要望をあげたそうですね。

 

そうです。箱根駅伝の予選会では、選手の状況をポイントごとに表情やタイムによって把握していました。しかし、そこが限界点なのか、それともまだ余裕があるのかは実際のところわかりません。多くの指導者は同じような悩みを抱えていると思います。

離れたところからでもリアルタイムで心拍数やタイムなどのデータが得られれば、走り方の効果的なアドバイスができると考えました。

 

箱根駅伝本戦出場を目指す慶應義塾大学・慶應義塾体育会競走部の選手たち

箱根駅伝本戦出場を目指す慶應義塾大学・慶應義塾体育会競走部の選手たち

VO2 MaxやLT値といった数値を計測している大学は、他にもあります。でも、リアルタイムにデータを取得して、そのデータをもとにアドバイスしている大学はないはずです。私たちならではの取り組みになります。

慶應義塾大学オリジナルのアプリを開発

――データはどのように取得されているのでしょうか?

選手が着けているウェアラブルデバイスから、アプリを通じてリアルタイムにデータがサーバーに送られます。アプリはオリジナルのもので、リアルタイムトラッキングデータが取得がされます。このアプリは、高い計測技術を持つ国際航業さんに開発いただきました。「離れたところからでも、リアルタイムにデータを見たい」という私の要望を叶えてくれたアプリです。

 

会議室での取材中、グラウンドで走っている選手のリアルタイムトラッキングデータの一部を見せてくれた

会議室での取材中、グラウンドで走っている選手のリアルタイムトラッキングデータの一部を見せてくれた

 

アプリから取得されたデータは、さくらインターネットさんのサーバーに送られています。コーチが遠くにいても、タイムや距離、心拍数などを確認できます。極端な話、選手が北海道で走っているときに私が沖縄にいても、リアルタイムに沖縄でデータを確認できます。

 

ウェアラブルデバイスにはApple社のApple Watchを採用。  国際航業株式会社が開発したアプリから、さくらインターネットが提供するさくらのVPSにデータが送信される

ウェアラブルデバイスにはApple社のApple Watchを採用。
国際航業株式会社が開発したアプリから、さくらインターネットが提供するさくらのVPSにデータが送信される

 

――ウェアラブルデバイスにはApple社のApple Watchを採用していますが、何か理由はあるのでしょうか?

セルラー通信に対応しているうえ、アプリの開発とアップデートがしやすいからです。アプリを使っているうちに、選手から機能追加の要望があがることもあります。たとえば最近だと、ラップタイム(トラック1周のタイム)機能を付けてほしいという声がありました。国際航業さんに機能を追加いただき、いまはラップタイムも測れるようになっています。アプリをアップデートすれば、新機能を全選手が利用できるのがいいところです。

Apple Watchだと選手も興味を持ってくれますね。「使ってみたい」というところからはじまって、データを確認していくうちに練習にも活かせるようになっていきます。

デジタル活用による効果がタイムにも表れている

――慶應箱根駅伝プロジェクトを開始して5年目となります。デジタル活用の効果について教えてください。

選手たちが自分のデータを見て、状態を数値で確認可能です。自分の感覚で状態が良いと思っても、心拍数データを見ると疲労が抜けきっていないこともあります。その場合は、練習強度を少し下げて回復させます。逆に心拍数データに余裕があるなら、練習強度を上げて追い込むのです。私がデータを見て細かく指示するのではなく、選手自身がデータを見て考え、裁量を持って練習してもらいます。

このように、データをもとに選手自身が自分の状況を客観的に知ることができるので、さらに練習をしていいのか、それとも休んだほうがいいのかが一目でわかります。パフォーマンス向上に効果的です。実際にプロジェクトを開始してからは、タイムも上がっています。

 

直近29年間の予選会順位

 

育成の成果

 

――2023年大会の予選会は10月15日におこなわれますね。チームの状態はいかがですか?

 

夏合宿でハードな練習をしっかりできました。昨年のチーム力と遜色ないところまで仕上がっています。あとは予選会までどれだけ状態をよくできるかです。昨年同様、本戦出場に向けチャレンジします。

2024年には、第100回箱根駅伝が開催されます。例年よりも出場枠数が増えるので、本戦出場を狙っていきたいです。当然、2023年の大会も狙って勝負します。

(撮影:ナカムラヨシノーブ)

 

 

執筆

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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