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「動画で魚に親しんで」漁協が異業種との協業で取り組む新たな分野での挑戦

大分県と愛媛県の間の海域は、太平洋の暖流と瀬戸内海の冷たい海流がぶつかり合い、豊富なプランクトンが発生する全国でも有数の好漁場だ。とりわけ豊後水道と呼ばれる海域では潮流が速く、脂がのって身の締まった魚が獲れる。「関アジ・関サバ」と言えば聞いたことのある人も多いだろう。有名な関アジ・関サバブランド以外にも、大分の豊かな漁場では、四季折々の魚がとれ、ブランド魚の養殖も盛んだ。

 

そんな大分県の漁業を取りまとめる漁業協同組合(JFおおいた)で、独自のYouTubeチャンネル「JFおおいた おさかなチャンネル」が始動したと聞き、販売課の橋本 圭介さんにお話を伺った。

「JFおおいた おさかなチャンネル」で一番閲覧数の多い「かぼすヒラメのお刺身」の動画とともに

橋本 圭介(はしもと けいすけ)さん プロフィール

1974年生まれ。大分県出身。19歳から29年間、大分県漁業協同組合(JFおおいた)に勤務。漁協入職時から経済事業部 販売課に配属され、20年以上現場業務に携わる。その後漁政課に異動し、3年間PRや魚食普及に務め、再び販売課に配属された。現在は課長補佐を務める。

教材としての側面をもたせた第1弾の動画

YouTubeの「JFおおいた おさかなチャンネル」は、2022年3月に始動したばかり。きっかけには新型コロナの影響も少なからずあったという。

 

「コロナ禍以前は、料理教室や小学校などで魚のさばき方を教えるなど、魚に親しんでもらう活動をしていました。しかし、コロナ禍で対面のイベントが開催できなくなってしまったため、動画を作ることにしました」

 

2022年3月9日に、初の動画となる「魚のさばき方動画」を10本公開。JFおおいたのYouTubeチャンネルには、ブリ、シマアジ、ヒラメ、カワハギ、マアジ、イセエビ、ハモ、タチウオ、タイ、アオリイカなど、いずれも大分で獲れる10魚種のさばき方の動画が並んでいる。

 

「最初はテレビでのコマーシャルなども検討したものの、お年寄りではなく若い人に観てもらうには、テレビよりスマートフォンで観られるYouTubeのほうがいいのではと考えました」

 

 

第1弾として公開されたさばき方の動画は、小学校などで教材用として使ってもらうことも視野に入れて作成された。県のイベントや学校給食に魚のフライなど食材提供する際に、動画についてもお知らせしている。

 

動画を制作する際にこだわったポイントは、「耳でも楽しめること」だという。「JFおおいた おさかなチャンネル」で公開されている動画は、有名な声優さんを起用しているものも多い。

 

「動画を観ているようで、音声を聴いている方も多いと思います。目の不自由な方も楽しめるように、耳から入る情報も大事にしたいという思いがありました。音声だけでも楽しんでもらえるようにと考え、第1弾はドラゴンボールのビーデル役をされていた皆口裕子さんにナレーションをお願いしました」

 

力を入れていると伺ったとおり、プロの声優によるナレーションは聞き取りやすく、音声だけでも魚をさばくイメージが得やすい。それぞれの動画は3~4分とコンパクトにまとめられているが、特別な道具や包丁でなくてもコツさえつかめばきちんとさばけそうだ、と思わせてくれる。

 

「動画を通じて、少しでも魚に興味を持ってもらい、魚料理って楽しそうだな、食べてみたいな、と思ってもらえるように工夫しています。お子さんには、保護者と一緒に自宅で魚をさばくことにチャレンジしてもらい、魚に親しむきっかけにしてもらえたら」

異業種連携で進めた第2弾はレシピ動画

さばき方動画では大きなブリや伊勢エビなど、実際に家庭で調理するにはハードルの高い食材も多かった。教材としての側面が強かった第1弾に対し、第2弾では食卓で実際に並べてもらえるよう、レシピと作り方を紹介している。

 

「第2弾としては、親御さんとお子さんで一緒にチャレンジしてもらえたらいいのではと考え、調理動画を企画しました。いずれも大分の自慢の魚や高品質の養殖魚を使って簡単にできるレシピです」

 

レシピや調理を動画で紹介するにあたっては、異業種連携もキーワードの1つとなった。

 

「JAおおいたさんと大分に本社のある富士甚醬油株式会社さんに依頼し、野菜や調味料を提供していただき、動画内で一緒にPRを図りました」と橋本さん。

制作する動画について、JAおおいたとの打ち合わせ風景(提供写真)

「みんなでチャレンジクッキング」と名付けられた第2弾では、大分で活躍するタレントの野口真美さんを起用。食材の調達から作り方までをJAおおいた提供の野菜や、地元富士甚醤油提供の醤油やドレッシングとともに紹介している。

 

定番のお刺身は、柵からの上手な切り分け方をていねいに解説。ブランド養殖魚の「かぼすヒラメのお刺身」では、難しく感じてしまいがちな薄造りの仕方が、手元がよくわかるアップでわかりやすい。

 

ほかにも洋風の「かぼすヒラメのムニエル」といったメニューのほか、「イカとニラのユッケ」などのアレンジメニューも。コラボレーションにおいては、野菜や調味料の提供だけでなく、紹介するレシピについても協力を依頼した。

声優の平野文さん(左)、古川登志夫さん

第1弾と同様、“耳から入る音声”にも気を配った。第2弾ではアニメ「うる星やつら」で主役を務めた2人の声優、平野文さんと古川登志夫さんを抜てきし、耳で聞くだけでも楽しめる、ワクワク感を感じてもらえるような動画に仕上がっている。

YouTube動画づくりの難しさ

JFおおいたとJAおおいた、民間企業の3者が連携して動画を制作するうえで、困難なことはなかったのだろうか。橋本さんに聞いた。

 

「初めは、JAさんのほうでも権限の問題などがあり、スムーズには行きませんでした。それでも諦めず交渉することによって企画がすすみはじめたので、問題というほどのことはありませんでした。JAさんからは大葉や味一ねぎ、水耕栽培の三つ葉やセリなど、通年出荷できる野菜を提供していただき、動画で紹介しています」

 

同じように富士甚醤油からはさしみ醤油やドレッシングなどの提供を受け、魚と一緒にPRする動画が完成した。

 

「初めは大分県と漁協で、魚食普及に向けた取り組みでしたが、JAおおいたさんや富士甚醤油さんとのコラボで大分全体のPRにつながればという思いもあります。動画が完成してからは、JAおおいたさんや富士甚醤油さんにもとても喜んでもらえました」

「みんなでチャレンジクッキング」調理シーンの撮影風景(提供)

限られた予算の中での撮影のため、普通は何日もかかる撮影を1日で済ませたり、天候にも左右される可能性がある天然魚を動画に合わせて用意したりする大変さはあったという。

 

「いろいろな方の知恵を拝借して、協業して、動画を完成させることができました。1人ではとてもできなかったと思います。だれかが観てくれて、少しでも食べてみたい、作ってみたい、と水産に興味を持ったり、食べたりするきっかけになってくれれば……。ひいては漁師になってみたい、という方が増えると嬉しいですね」

「養殖魚を知ってもらう」ためのPR動画も

「JFおおいた おさかなチャンネル」では、トラフグ、ヒオウギ貝、ヒラメ、ブリ、シマアジ、ヒラメなどの養殖風景を紹介する動画も作成した。

 

天然魚は不漁のこともあるが、養殖魚は安定的に高い品質の美味しい魚を提供できる。「かぼすブリ」や「かぼすヒラメ」など、大分独自のブランド魚のPRにも力を入れている。養殖場の様子や給餌風景、検品の様子などがわかりやすく編集されている。

 

「ヒオウギ貝は磨くのが大変。何度も磨いては戻すことを繰り返しながら、きれいな貝殻になっているんです。こういうのも、動画で観てもらうとわかるのではないでしょうか」

 

ドローンを用いたり水中撮影したダイナミックな映像は、資料としての側面もあり、テレビ番組などから「風景動画を使わせてもらいたい」といった問い合わせもあったという。

JFおおいた直営店「おさかなランド」での撮影の一コマ(提供)

JFおおいたで作成された動画は、地元テレビ局 大分放送(OBS)のCMや、大分市内に3店舗あるJFおおいたの直営店「おさかなランド」でPR動画として設置して活用している。水産見本市であるシーフードショーでの活用も考えているという。

 

「動画という形にしたことで、いい意味でいつまでも残ってくれると思っています。チャンネル登録者数や再生回数は決して多くはありませんが、1人でも動画を観て、魚食や漁業に興味を持ってもらえたら嬉しいです」

来年度公開予定の第3弾にも乞うご期待

「おさかなチャンネルは3本立てで、第3弾の企画も準備中です。次の企画も異業種連携を図り、意外なところとコラボできれば」と語る橋本さん。

 

お父さん向けのお酒のあてになるレシピや、簡単にできて“映える”ようなメニューの構想を練っているという。「第3弾の企画とは別で、漁法や漁をしている映像も展開していきたい」と希望はふくらむ。

第3弾に向けてのアイデアや新しい動画について語る橋本さん

今回、DXという取材テーマに橋本さんは謙遜していたが、これまでにない新しい挑戦や異業種と連携しておこなう取り組みなど、柔軟な姿勢こそがDXの推進に不可欠なのではと感じた。

 

デジタルや新しい分野に否定的にならず、DXを推進して業務効率を改善したり、新たな気づきを得たりするきっかけは、こうした身近な取り組みから始まるのではないだろうか。

 

 

執筆

荒川 晴奈

1990年生まれ、千葉県出身。現在は大分県在住のフリーライター。自然・食・旅・温泉をこよなく愛する。 座右の銘は「現状維持は衰退」。 Web制作・撮影・デザイン・PRなどもちょこちょここなす、よく言えばオールマイティ―タイプ。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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