さくらインターネットと情報経営イノベーション専門職大学(iU)は、教育支援などに関する包括連携協定を締結しました。この協定によって、新技術の創出や研究推進および社会をリードするDX人材の育成に取り組みます。
具体的にはインターンシップなどを通じた人材交流や、さくらインターネット 代表取締役社長である田中の超客員教授※就任。さらにiUの授業におけるさくらインターネットのサービス提供などのさまざまな活動をおこないます。
※超客員教授とは、国際的にきわめて顕著な功績等があり、教育・ 研究の向上に寄与するとiUが認定した客員教授のこと。
中村 伊知哉さん プロフィール
1961年生まれ。京都大学経済学部卒、大阪大学博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。MITメディアラボ客員教授、スタンフォード日本センター研究所長、慶應義塾大学教授を経て、2020年4月よりiU(情報経営イノベーション専門職大学)学長。
CiP協議会理事長、吉本興業HD社外取締役、京都大学特任教授、慶應義塾大学特別招聘教授、国際公共経済学会会長、日本eスポーツ連合特別顧問、理化学研究所コーディネーターなどを兼務。 内閣官房、内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省などの参与・委員を歴任。著書に『新版 超ヒマ社会をつくるーアフターコロナはネコの時代―』(ヨシモ トブックス)、『コンテンツと国家戦略』(角川EPUB選書)など多数。
田中邦裕 プロフィール
さくらインターネット株式会社 代表取締役社長。1996年に国立舞鶴工業高等専門学校在学中にさくらインターネットを創業、レンタルサーバ事業を開始。1999年にはさくらインターネット株式会社を設立し、月額129円から始められる低価格レンタルサーバ「さくらのレンタルサーバ」の開発に自ら関わる。その後、最高執行責任者などを歴任し、2007年より現職。インターネット業界発展のため、各種団体に理事や委員として多数参画。
二人の関係性
――お二人は以前からお知り合いなのでしょうか?
田中邦裕(以下、田中):中村先生のことは、一方的に20年以上前から存じ上げていました。はじめてお話ししたのは20年くらい前ですかね? イベントやコミュニティでよくお見かけしました。
中村伊知哉氏(以下、中村):私も存じ上げていました。田中さんとは、属するコミュニティが同じですからね。デジタル教育やプログラミング教育などを普及させる運動を、違う立場でおこなっていました。
どうして包括連携協定を結ぶことになったのか
――さくらインターネットとiUは、教育支援などに関する包括連携協定を締結しました。どうして包括連携協定を結ぶことになったのでしょうか?
中村:じつは大学を作るときから「田中さんに超客員教授になってもらいたい」と学内で話していました。ただ、もう少し組織として一緒にできる状態になってからお願いしようと考えていたので、このタイミングになりました。
田中:そうなんですか。ありがたいですね。
中村:田中さんには、iU卒業生のモデルになってもらいたいです。この大学は、ITとビジネスの学校です。ITの知識を持ちながらビジネスを作り、イノベーションを起こしていける人材を育てています。モデルになる人は誰? と考えるとあまりいないんですよ。
田中:たしかに、あまりいないですね。
中村:日本では、テクノロジーオリエンテッドで代表をされている方が少ないです。高専で技術を学んで代表になっている田中さんは、まさにiUの学生に目指してもらいたいモデルです。
田中:ありがとうございます。中村先生からこんなに言っていただけるなんて、うれしいです。
――お話しいただいたとおり、田中さんがiUの超客員教授に就任となりました。具体的にどのようなことを一緒にやっていくのでしょうか。
中村:インターンシップなどを通じた人材交流や共同研究などです。それに加えて、個人的に一番お願いしたいのは”場作り”ですね。枠を超えてのコミュニティ作りをご一緒したいです。
田中:起業家に知り合いがたくさんいるので、そうした人を連れてくることはできるかもしれません。
iUが目指す世界
――中村学長が考える、iUの目指す世界について教えてください。
中村:学生全員が在学中に一度起業する「全員、起業」を掲げています。全員が起業に成功すると就職率は0%ですから、目標は就職率0%です。文科省からは「いかがなものか」と言われましたが(笑)。
田中:(笑)。
中村:逆説的なことを言いますけど、失敗を経験してほしいのです。起業はひとつの手段でしかありません。起業を目的にするのは違います。起業して何を学ぶかです。学生の内であれば、失敗しても大丈夫ですから。iUは「失敗大学」と呼ばれてもいいと思っています。
田中:そうですね。なにかしらの失敗は絶対します。でも致命的な失敗を避けられれば、持続可能です。
中村:全員が起業家として成功しなくてもいいと思います。自分の「やりたいこと」を見つけて、それをやれる環境を提供できる学校にしたいです。
やりたいことをサステナブルに続けるうえで、一番わかりやすいのが起業です。起業といっても、上場する企業を作るだけではありません。
目の前の社会問題を解決するとか、身近なことを片付けていくような社会起業でもいいわけです。「創る人」になってほしいですね。
田中:「サステナブル」は重要だと思います。私も起業の重要なキーワードが、サステナブルです。ボランティアや誰かからカンパしてもらったりではなく、事業としてやらないと持続しないですよね。スモールビジネスでもいいから、持続可能な仕組みをいかに作るかが重要です。
中村:僕らの世代は特にそうですけど、いい大学に入って大きな会社に入るという一本道しかありませんでした。起業に対する親のイメージも良くなかったです。でもいまは、そうではありません。
田中:起業するうえで一番のハードルは親ですから、親御さんの意識が変わったことも大きいですよね。
起業をすると本当に学ぶべきことが見えてくる
――iUでは「全員、起業」を掲げているとおっしゃっていましたが、カリキュラムと学生の内に起業する意義を教えてください。
中村:iUでは2年生になるまでに英語、IT、ビジネスを勉強。3年生で半年間くらいインターンに行って、4年生で起業を想定していました。でも1年生から「起業させろ!」と声が挙がっているので、考え方を変えなければなりません。実際に現在、5社起業していますからね。
田中:10代で起業しているわけですね。私も10代で起業しているので、一緒です。
中村:目指せ、田中邦裕ですよ。やりたいことで起業すると、それを通して本当に学ぶべきことが見えて取り組むようになります。大学に入って4年間遊んで、会社に入ってやらないといけないことがわかって、そこから勉強をはじめたりするわけですよね。
だったら本当は、高校卒業したら働きはじめて、やらないといけないことがわかってから大学に入ったほうがいいと思うんです。
田中:本当そうですね!
中村:そのほうが真剣に学びますからね。じゃあ大学として真剣に学んでもらうためにどうすればいいかを考えると、実際に何かプロダクトを創り出す経験をしてもらうことです。そうすればテクノロジーを学ばないといけないし、法律を学ばないといけないし、経済を学ばないといけないし……。学ぶ重要性がわかるはずですよね。そのほうが吸収力が高くなります。
田中:私も同じ考えです。高校卒業したら会社に入って、20代で会社にホストしてもらって大学へ行くのは、非常にいいなと思っています。
中村:日本の大学は最大で8年間までしか在籍できませんが、それを20年くらいにしたらどうかと思います。その期間で働いたり、起業してみたりと柔軟にできたら面白いと思いますね。
田中:大学としてもそのほうが良さそうですね。大学のサブスクみたいな。ダイバーシティも進みそうです。いろいろな年代の人が同じ大学に通うようになりますし。
中村:うちの大学に、親子で入学している学生がいますよ。
田中:え! それはすごい!
中村:こちらも想定していませんでしたね。そういう学び方もあるのか、と気づかされました。
iUのビジョン
――中村学長が考えるiUのビジョンを教えてください。
中村:大学の枠組みを破壊することです。いまの枠組みでは、入学した大学で授業を受けて、単位を取得して卒業します。でもそんな必要はありません。プログラミングはiUにいる先生の授業を受けて、法律は東大にいる先生の授業を受ける。国内に限らず、オンラインで海外にある大学の授業を受けて単位をとってもいいと思うんです。そうしたものをポートフォリオとして持っておけば、ひとつの大学を卒業した卒業証書よりも絶対価値があるはずです。
田中:たしかに。いまはオンラインで、どこの大学の授業も受けられますからね。
中村:そうなると、それぞれの学校は強みを持たないと生き残れなくなります。iUの場合は、面白い大人が集まる場を作っていて、企業などと一緒に勉強ができるようにしています。
――田中さんは、学生の方にはどのような学生時代を過ごしてほしいと思いますか?
田中:まずは真面目に勉強したほうがいいと思います。勉強というのは、別に座学だけではありません。
たとえば起業することも勉強ですし、インターンで働くことも勉強です。海外にもぜひ行ってもらいたいと思っています。いろいろな知見を広げることが大事です。
学生時代にたくさん学び、たくさん失敗する。卒業までにいろいろな経験をすることが重要です。
私も学生時代に起業しましたが、学生の場合は失敗しても就職先があるのでチャレンジしやすいですよね。経営者の立場でいうと、学生時代に起業した方は行動力があるので魅力的です。そういう人に入社して活躍してもらいたいと思っています。
起業にチャレンジする方へのメッセージ
――これから起業にチャレンジしたいと思っている方へのメッセージをお願いします。
中村:失敗してみましょう。あれこれ考えずに一歩前に出てやってほしいです。はじめれば、いろいろなことがわかって、いろいろな人と知り合いになります。そうすれば、前に進めるようになるはずです。
田中:まず会社を作ってほしいです。中村先生と非常に近いメッセージですね。最近、さくらインターネットの子会社を作ったときに驚いたんですけど、マイナンバーカードがあると会社設立がオンラインで完結するんですよ。
本来であれば印鑑証明や住民票が必要ですが、マイナンバーカードがあれば要りません。
中村:みんなマイナンバーカードを作りましょう! ……というデジタル庁の宣伝のようなまとめになりました(笑)。
(撮影:ナカムラヨシノーブ)