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「観光客の動きをITの力で可視化する」熊本県人吉市長に聞く”観光のDX化”

2021年10月1日、緊急事態宣言が解除され、政府は「GoToトラベル」の再開時期の検討をはじめました。

それと時を同じくして、東京のベンチャー企業である株式会社iTANは、観光客の行動を可視化し、未来の観光客を集客するアプリ「MONOMI(モノミ)」をリリース。観光事業者が利用する「YUSAN(ユサン)」とともに、日本国内の観光復興、そして観光のDX化の一歩を踏み出しました。

また、国内観光地でアプリを利用した実証実験も同時におこなうことを発表し、その第一弾の都市に、2020年7月に豪雨被害のあった熊本県人吉市を選びました。

 

熊本県立大学1年生の松田夏実です。

株式会社iTANが中心におこなう、熊本県内のDX化プロジェクト「Do-oR Project」に所属しています。このプロジェクトでは、私のような熊本県内の大学生もメンバーとして活動しています。実証実験を成功させるべく、県内大学生メンバーが一丸となり、人吉エリアの観光事業者への説明会開催および協力依頼など、直接お話して準備を進めてきました。

今回、実証実験の地となった熊本県人吉市がどのような期待をしているのか、人吉市長・松岡隼人氏にDo-oR Projectに所属する学生メンバーで話を聞いてきました。

観光×ITを軸にした人吉市の復興とは

人吉市長・松岡隼人氏

 

熊本市内から車で1時間ほど走ったところに、熊本県人吉市はあります。

人吉市は温泉地として栄えており、歴史的な建造物などもたくさんあります。私自身も急流下りやSL機関車乗車などを体験したことのある思い出深い土地です。そんな人吉市を、2020年7月に豪雨が襲いました。

コロナ禍で観光業界が厳しいと言われている中で起こった豪雨被害です。建物が壊れたり、道路や河川が崩壊したりと、大きな被害があったのをニュースで目にしました。観光事業者の中には、閉店を余儀なくされた方々もいます。そんな人吉市は、どのように復興を目指すのでしょうか。人吉市の松岡市長に聞きました。

 

「人吉市は昔から観光を軸にやってきました。温泉地として知られていて、SLや寺院などの観光コンテンツや人が訪問したくなる歴史のストーリーがある土地だと考えています。

昨年の豪雨被害は熊本県内において、全半壊 374 棟、床上浸水 4980 棟以上、施設被害 128 施設に及んでいます。球磨川の氾濫で、熊本県人吉市の青井阿蘇神社では、楼門が冠水しました。水が引いた現在も境内にがれきが残っており、鳥居前の池にかかる国登録文化財の禊橋は、濁流で欄干が損壊しました」

 

(写真提供:人吉市)

(写真提供:人吉市)

(写真提供:人吉市)

(写真提供:人吉市)

(写真提供:人吉市)

(写真提供:人吉市)

 

「昨年の豪雨被害から1年が経過し、現在は被災からの復興を目指す途中にありますが、限られた予算のなかで人吉が”残すべきもの”と、”変えるべきもの”の選択が必要になっていると感じています」

 

残すものと変えるものを選択するーー。

その言葉が示すのは、一体どんなことなのでしょうか。掘り下げて聞いてみました。

 

「最近、観光客の目的が変化してきていると感じることがあります」(松岡市長)

 

人吉市は、人気漫画でアニメ化した『夏目友人帳』の著者の出身地です。同作の舞台となっていることもあり、聖地巡礼と称して、このエリアを訪れるファンが増えてきているとのこと。しかし、松岡市長は言います。

 

「これは観光事業者や住民が肌で感じているだけで、実証データとして取れているわけではないのです。実際に、アニメファンがどれくらいの割合で訪れていて、聖地巡礼として何を見ているのか。彼らが目的に訪れているのはどこなのか。そういったものをきちんと把握したいと考えています」

 

人吉市では、限りある予算のなかで崩壊した観光資源を修復しようとしています。エリア全体で必要とされているものだけを残し、人吉らしさを失わないモノサシが必要と考えているようです。

松岡市長が期待するのは、「観光復興を目指すうえで、観光客の動きをITの力で可視化していく点」とのことです。

観光客の目的の変化をデータで可視化したい

MONOMI

MONOMI : https://lp-monomi.itans.jp
株式会社iTAN:https://itans.jp

 

人吉市内で実証実験をおこなう観光アプリMONOMIとYUSANは、観光客がどこで買い物をし、どのくらいお金を使ったかを可視化するアプリです。

観光客や住民などのユーザーは、MONOMIをダウンロードして人吉市内で消費をすると、その額に応じたポイントが付与されます。人吉エリアを街歩きすると、クーポンが利用できる近場の店舗や飲食店などを見つけられ、ポイントに応じてクーポンと交換でき、お得に買い物や観光を楽しめます。

観光事業者は、YUSANで自身の店舗情報やクーポン情報を登録しておけば、ユーザーが店舗を見つけて来店してくれるため、集客の効果が期待できます。

 

災害から立ち直る

 

「災害によって観光地が失われたわけではありません。作り直していく市民の過程を見て、感動してくれる人もいるでしょう。私はこの一連の流れ自体も観光だと考えていて、きちんと復興の過程も見せていきたいと考えています」

と松岡市長は話します。

これまで観光客への案内はチラシやポスターなど、紙媒体が主流で、その多くは市内の事業者から観光客への一方通行のメッセージでした。しかし、このようなアプリを利用することで、観光客と事業者の双方向のやりとりや、さらに見込み観光客へ情報を届けられるようになっていきます。

実験的な取り組みを通じ、人吉エリアの観光が一段上のフェーズに変わっていくことに、松岡市長は期待しています。

県内の人と県外の人が「観光」アクションをどう取るか

県内の人と県外の人が「観光」アクションをどう取るか

 

観光で訪れたエリアの魅力はよくわかるのに、住んでいるとその魅力には気づけないものです。

 

「人吉市民は、人吉の良さをなかなか理解していないと思います。住民が参拝に訪れる青井阿蘇神社というところがあるんですけど、私が幼い頃にそこで遊んでいて、窓ガラスを割ってしまったことがありました。遊びに夢中で、いつの間にか近づきすぎていたんです。当時はこの神社がどれだけ歴史的価値があり、観光地として有名な場所かを感じられていなかったんですね」(松岡市長)

 

今回のインタビューのなかで、最後に市長から私たちへの問いかけがありました。

 

「君たちが考える、観光とは?」

 

私たちは「地域の個性」「エンターテインメント」など、思い思いに回答し、市長はそれをうんうんとうなずきながら聞いていました。

 

市長は、観光についてこう言いました。

「私は、観光とは『地元の人が地元の価値に気づく』ことだと考えます。今回の実証実験でMONOMIとYUSANを使い、観光客の行動を可視化することで、どこが市内で人気のスポットなのかを知ることができます。それを踏まえたうえで情報発信していくというサイクルは、人吉市にとって素敵なモデルになると考えます」(松岡市長)

 

自分たちの住んでいるエリアが外からどう見られていて、何が人気なのか。それを把握した上で、県内の人たちが情報発信し、観光客を迎え入れることが大事なのかもしれません。

まとめ

県内の人と県外の人が「観光」アクションをどう取るか

 

今回のインタビューでは、人吉市がどんな観光を目指しているのか、さらに観光を軸にした復興にITの技術をどう取り込んでいくのかについて、人吉市のトップである松岡市長にお話をうかがいました。話を聞く中で、災害で壊れてしまったものについて、修復するのか、なくすのか、もしくはまったく新しいものを取り入れていくのか、ニーズを把握しながら選択することが重要なのだと感じました。

熊本県内で有名な観光地である人吉市が考える「理想の観光像」があります。それは観光地を回ってもらうだけではなく、市民の復興に対する姿勢を見てもらうことです。

 

私はアプリ普及のため人吉市に何度も訪問していますが、ある店舗で「この辺りは被害が大きかった地域だが、復興のために頑張ってみんな店を開けている」と店員が話していたのが印象に残っています。周りの店舗に対する気遣いも感じられ、店舗同士が競い合っているわけではなく、「協力」しているのだと感じました。

MONOMIは、買い物や観光をお得にできる点がユーザーにとっての魅力ですが、アプリを利用することで観光の活性化を実感できることも、大きなメリットなのではないかと思います。アプリを利用するユーザーが友だちを招待することで、地域外の人を観光誘致することもできます。

アプリを使うことで、ユーザー自身が復興とつながっている、復興過程を実感できるはずです。

 

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執筆

松田 夏実

熊本県立大学1年生。大学入学と同時にDo-oR Project(熊本県内の学生にIT教育をおこない企業や自治体と伴走しながら県内全域のDX化を進める団体)Do-oR Projectに所属。地元をよくしたい思いのもと、活動中。

編集

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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