嬉しそうに彼女たちが持つホルンやバスクラリネットは、ふるさと納税として寄附された楽器たち。
高額になりがちな楽器は他の部との兼ね合いで予算を取るのが難しく、困っていたところ「楽器寄附ふるさと納税」を導入することで生徒さんの笑顔を増やした三重県いなべ市。
今回はその取組みについて、担当者の方にインタビューをおこないました。
楽器の寄附でふるさと納税!?
ーー本日はインタビューお受けいただきありがとうございます! 取り組みをうかがう前に、お名前や業務内容などを教えてください。
2019年に入庁して、いなべ市役所 企画部 政策課に所属している小林 真歩(こばやし まほ)です。
業務は楽器ふるさと納税含む、ふるさと納税全般の業務をメインで担当しています。
その他、隣の東員町(とういんちょう)と連携して定住自立圏構想の事業計画や進捗管理をおこなっています。
ーー楽器を寄附することでふるさと納税ができるとのことですが、始められたきっかけは何でしょうか?
中学校で起こった楽器不足がきっかけです。
元々楽器は不足していましたが、当時の吹奏楽の顧問の先生が持つ楽器を貸し出していただくことでやりくりしている状況でした。ところが異動になってしまい…。
購入するにあたって校長先生からも予算の提示を求められたのですが、楽器は高額になりがちなのです。
フルートなど、ご家庭でも比較的手の届きやすい楽器は私物として所持している生徒さんも多いのですが、サックスやユーフォニアムといった手が届きにくい大型の楽器は特に不足しています。
また他の部活動との兼ね合いもありますので、吹奏楽部だけが多額の費用を使うこともできず、市の予算で購入することが難しい状況になってしまいました。
ーー仕組みとしてはどんな形になっているのでしょうか?
使われなくなった楽器を学校や音楽団体などに自治体を通して寄附していただくことで、査定額が税金控除される仕組みになっています。
ただこれは事務手続き上の話で、楽器寄附ふるさと利用いただくことで「自分では使わなくなった楽器を、今の生徒さんたちに使ってほしい」といった寄附をされる方の想いと、楽器を受け取った生徒さんたちに、笑顔とありがとうの気持ちを感じてほしいと思っています。
そんな繋がりやストーリーが生まれると嬉しいです。
届いた先には笑顔
ーー寄附された楽器を持つ生徒さんの写真をいくつか拝見しましたが、みなさん笑顔ですね!
はい(笑)。この笑顔が1番ですね!
私がバストロンボーンを中学校に持っていった時は、そのパートの生徒さんたちがケースを見ただけで分かったのか、とても嬉しそうにしていて。
開いたときの笑顔と「きゃー!」と言う歓声は何回思い出しても嬉しくなります。
また顧問の先生のパートもトロンボーンなので「こんなに良い楽器を寄附してくれるんや!」と一緒になって喜んでくれました。
ちなみに寄附第1号の楽器はフルートだったのですが、楽器が届くことを半信半疑で待っていた生徒さんたちが実物を見たときの笑顔は本当に良かった…! と前任担当から聞いています(笑)。
寄附いただいた方には生徒さんより感謝状を贈らせていただいているのですが、文通に繋がったり、お菓子をいただいたりなど、地域の中で情緒的な繋がり(関係人口)も生まれていて、良いサイクルになっていると思っています。
今年はオンライン演奏会
過去5回ほど、寄附していただた方を招いた演奏会をおこなっていますが、今年は新型コロナウイルスの影響で全国的に部活動の休止や演奏会及びコンクール中止などが相次ぎ、全国の吹奏楽部の発表する場が失われています。
順次部活動の再開が始まっているかとは思いますが、集大成を発表する場所を無くし、悲しむ学生の皆様も多いはずです。
そこで、楽器寄附ふるさと納税実行委員会では、音楽に関わる学生の皆様を少しでも応援するために「オンライン演奏会」として、演奏動画を掲載させていただきます。
学生たちが頑張ってきた練習の成果を是非ご覧ください!
現在、三重県でも新型コロナウィルスの感染が拡大していて、日々油断のできない状況です。
思うようにいかず、大変なことや苦しいこともたくさんありますが、こんな時だらこそ、音楽を通して繋がり合い、共有し合い、勇気づけられながら、みんなで乗り越えていきたいと思っています。織りなす布のように繋がり合い、安心して過ごせるあたたかい街になることを願って、一生懸命演奏させていただきます。また、楽器を寄附してくださる方々がいらっしゃらなければ、今回の演奏会はできなかったと思います。 大切な楽器を寄附してくださって感謝でいっぱいです!これからも部員みんなで大切に使わせていただきます。
私達の感謝と笑顔の演奏をお楽しみください!
【演奏】いなべ市立 大安中学校 吹奏楽部
【曲名】風になりたい
手紙に乗せて
おもいでの楽器を
ーー先ほど自宅で使われなくなった楽器とうかがいましたが、どのような経緯で楽器が寄附されるのでしょうか?
ご自身が学生時代に使用していたものの、その後は使われていない楽器を寄附していただくケースが比較的多いですね。自宅に眠っていた楽器なので状態が良い物が多く、査定も良い結果になることが多いと聞いています。
また、「青春時代の思い出が詰まっていて捨てられなかった楽器を次世代の子どもが使ってくれることはありがたい。」と仰って寄附してくださる方も沢山いらっしゃいます。
ーー楽器寄附ができる自治体は他にあるのでしょうか?
北海道から九州まで、現時点で15市参画いただいています。
・北海道東神楽町
・埼玉県北本市
・宮城県富谷町
・愛知県日進市
・長崎県松浦市
・埼玉県日高市
・茨城県行方市
・秋田県湯沢市
・茨城県鹿嶋市
・大分県杵築市
・愛知県豊橋市
・埼玉県本庄市
・長野県小諸市
・京都府亀岡市
・鹿児島県鹿屋市
(順不同)
これまでの多くの方に楽器寄附をいただきましたが、まだまだ不足している状態です。
ふるさと納税では「生まれ育った町や応援したい町に寄附する」という趣旨がありますので、これはと思う市町がありましたら是非寄附をお願いいたします!
ーーふるさと納税で楽器寄附のスキームを作るにあたって大変だった点はありますか?
楽器の査定協力事業者としてマーケットエンタープライズ社さんにお願いできるまで、非常に大変でした。
全国対応やネット査定などの条件を提示させていただいたのですが、20数社さんから軒並み断られてしまいました。初めての取り組みなのでメリットも不明ですし、手間のかかる案件であったことは確かです。
ただ、マーケットエンタープライズ社さんはCSRの観点からも共感と理解をいただけたのでお願いすることができ、楽器寄附ふるさと納税のスキームを整えることができました。
査定や買取などの仕組みは、同社が運営しているオンライン買取の仕組みに乗らせていただく形にしてあるので、楽器の型番を使ったオンライン査定が可能だったり、相場も最新の市場に合わせたもので査定してくれるなど、寄附していただく方にもメリットを感じていただけると思っています。
思い描く、まちづくり
ーー小林さんは入庁後間もない期間で大きな仕事を担当されていますが、元々まちづくりに関する ”やりたいこと” があったのでしょうか?
いなべ市では、若者がまちづくりに参画する機会を提供していきましょうということで、高校生が自分たちの ”まち” に関する課題や将来像を考えるINA-COM(「い~な!いなべ」高校生アイディアコンテスト)を毎年実施しているのですが、実は私はそこの一期生なんです。
このコンテストに参加して、いなべ市のことを考える機会をきっかけに職員になりたいと思いました。その後、配属の時の面接でコンテストを企画した政策課を希望して、無事配属されました!
ーーさらに今後思い描く、やりたいことは何でしょうか?
実はバストロンボーンを持っていった中学校は私の母校なのですが、その生徒さんたちを笑顔にできますし、知らない町の方と寄附を通じて繋がれる事業に関わることができています。
楽器寄附ふるさと納税を通して、これからも笑顔があふれるような街づくりの活性化をしていきたいと考えています!
また今は勉強中なので自分の仕事で手一杯なのですが、ゆくゆくは楽器寄附ふるさと納税のような、みんなを笑顔にする新しい政策を考えたいなと思っています!