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鹿島建設のスマート生産を推進する共創型DX開発の実例~東京-鹿児島間、一度も対面せずに建設現場をDXした方法とは?~

さくらインターネットが提供するライブ配信エンジン「ImageFlux Live Streaming」
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テクノロジーが日々進化するなかで、建設業界もまたロボティクスやIT技術を取り入れさまざまな変革を遂げようとしています。鹿島建設株式会社(以下、鹿島建設)は、工事映像配信システム「moni-as®」(モニアス)を開発し、複数の現場で導入を進め、効率的な遠隔監視による労務負荷の軽減を図っています。

「moni-as®」の基盤には、さくらインターネットの提供する「ImageFlux Live Streaming」を採用しており、システムの開発は鹿児島のスタートアップである株式会社リリー(以下、リリー)が担当。大企業とスタートアップによるオープンイノベーションやリモート環境での取り組み事例として、2024年10月2日に鹿児島のmarkMEIZAN(マークメイザン)にて、さくらインターネット・鹿島建設・リリーの3社によるトークセッション「鹿島建設のスマート生産ビジョンを推進する共創型DX開発の実例」がおこなわれました。本記事では、その一部をお届けします。

ImageFlux Live Streamingの導入事例
>>鹿島建設がImageFluxでCFT工事の映像配信システムを開発 効率的な遠隔監視で労務負荷の大幅な低減へ!

登壇者

建設現場のDX:遠隔監視システム”moni-as®”とは?

大柴

今回3社で開発したものはどういうものなのでしょうか?

諸橋
(鹿島建設)

社内向けアプリケーション「moni-as®」について簡単にご紹介します。弊社(鹿島建設)をはじめ、国内における建築では「CFT」と呼ばれる(躯体)構造の採用が増えています。これは、鉄骨の柱の内部にコンクリートを充填して強度を高める構造です。通常の鉄骨造に比べて柱を細くできることから、空間が広く取れるうえに、柱に用いる鉄の使用量も減らすことができ、環境負荷低減やコスト削減のメリットがあり、とくに都市部の建築での採用が増えています。

ただ、この構造の課題は、柱の内部に密実にコンクリートを充填する必要があるため、外からは見えない柱の中の状態をどうやって把握するか、施工時における管理が難しい点です。私たちは、業界に先駆けて、コンクリート充填状況の確認にビデオカメラによる確認をおこなってきました。現場の担当者はモニターをつねに見守りながら作業を進める必要があるため、片手間でほかの仕事をすることができず、また、ビデオカメラの準備のために時間を消費してしまったりすることがあり、課題となっていました。

そこで、ITを使ってスマートに作業できないかと考え、この「moni-as®」というシステムを開発しました。これはCFT施工に特化した遠隔管理システムで、インターネット経由で柱内部のコンクリート充填状況を遅延なくリアルタイムに映像配信可能です。

もっとも肝心な配信インフラには、ImageFlux  Live Streamingを採用し、低遅延で映像共有できることが最大の特徴です。さらに、施工管理に必要となる関係者間のチャットや音声通話機能も実装しました。これまでは、現場内の複数箇所からの映像確認に止まっていましたが、本システムを導入することにより、現場から離れた場所に設置されることが多い現場事務所や、さらには本社・支店などの遠隔からでも、遅延なくリアルタイムで確認できるようになりました。これまで、CFT工事の専門家が各現場に赴いて確認していたことが、遠隔地からでも確認できるようになることで、全国のCFT工事を監督する専門技術者の移動にともなう負荷が大幅に軽減しました。

本システムはとてもシンプルです。無駄な機能を排除して、施工に関わる人が誰でも使いやすく利用できることを追求しました。アカウントも管理者用と配信・視聴者用で分けられており、使いやすさとセキュリティの両方を確保しています。私たちはこのシステムの試適用を通じて、現場の声を直接反映させながら、さらなる機能改善を進めてきました。

大柴

Zoomなどの既存のアプリケーションでも配信できるのでしょうか?

諸橋
(鹿島建設)

ZoomやTeamsでも可能だと思いますが、CFT施工に特化していないので運用が難しく、また、録画データを記録として残すために別途SDカードへ移す長時間作業の負荷は減りませんでした。また、既存のアプリケーションではさまざまな機能が盛り込まれているため、かえって使い方が難しく、独自のシステムを開発したほうがいいのではないかと考えました。

「moni-as®」によるCFT柱コンクリート充填作業の遠隔管理イメージ(提供:鹿島建設)

大企業がITベンチャー鹿児島のDX会社と取り組んだ経緯とは?

大柴

今回ImageFlux Live Streamingを採用したということですが、これはどういうサービスなのでしょうか。

税所
(さくら)

ImageFlux Live Streamingはブラウザから簡単にライブ配信ができるインフラサービスです。WebRTCという技術を採用しており配信の遅延を非常に低く抑えることができます。遅延は0.5秒程度で、ほぼリアルタイムなコミュニケーションが可能です。

さくらインターネットが提供するライブ配信エンジン「ImageFlux Live Streaming」
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大柴

当時、ほかに検討されていたサービスはありますか?

諸橋
(鹿島建設)

他社にも、類似の配信プラットフォームはありましたが、ImageFluxはカスタマイズ可能な部分と、出来上がっている部分の塩梅がちょうどよかったんです。また、ImageFluxのWebサイトには、私たちが知りたい情報がまとまっており、導入事例が豊富にあったのも安心感につながりました。導入事例では、開発したエンジニアの方との対話の内容も公開されており、自分と近い境遇の方が答えられていたので、より一層イメージが湧きました。


(鹿島建設)

私は諸橋から提案や相談を受ける立場ですが、同じような具体的な事例も紹介してもらえると、安心して導入指示を出すことができます。今回はゼロから始める新しい取り組みだったので、似たような実績や、導入した企業の実際の声があると安心できますし、このような情報は非常に重要な意味があると考えています。

大柴

発注者側の心情をお聞きできて、非常に有益な情報ですね。リリーは今回システム開発を担当されたということで、経緯やパートナーとして選ばれた理由をお聞かせください。

税所
(さくら)

リリーさんとは以前、弊社(さくらインターネット)の別のサービスで開発に携わっていただいており、なおかつImageFluxを使用した経験もありました。今回、鹿島建設さんからインフラの利用に加えてシステム開発のご相談もいただき、開発パートナーとしてぴったりだと判断して依頼しました。

決め手としては3点あります。まずImageFluxの利用経験もあり、サービスに対して深い理解があること。2つ目は、コミュニケーションがスムーズであることです。普段から野崎さんをはじめ社員の方々とやりとりしますが、みんなレスポンスがすごく速いんです。スピード感を重視していたので、リリーさんはその条件に合致していました。3点目は、経験やシステム開発実績が豊富であることです。

野崎
(リリー)

初めて税所さんと会ったのは、じつはここmarkMEIZANでの税所さんが登壇されたイベントです。イベント終わりにお話しさせていただいて交流がスタートしました。このようなコミュニティの場は、さまざまな立場の方ともフェアに話せて貴重な場だと思っています。

一度も対面せずに完全リモートで開発できた理由

大柴

3社が直接対面できたのは今日が初めてなんですね。最初からプロジェクトを完全リモートで進めるという前提だったんですか?


(鹿島建設)

会わないと決めたわけではないのですが、そもそも拠点が離れているのと、当時コロナ禍の最中という状況もあって、自然とリモート形式で進めることになりました。当社はもともと対面での打合せを重視していましたが、コロナ禍をきっかけにリモートワークが醸成されつつあったので、関係者間のコミュニケーションを図るのに、さほど障害にはなりませんでした。

大柴

さくらインターネットと鹿島建設は両社とも東京に拠点がありますが、2社は対面で会っていたんですか?

税所
(さくら)

じつは弊社と鹿島建設さんもほとんど会っていません。最初にお問い合わせいただいたときはコロナ禍でしたし、その後の打ち合わせも基本的にはリモートで進めていました。その後、弊社がオフラインの展示会に出展した際に諸橋さんがお越しになって、初めて対面しました。そのときにはシステムはもう出来上がっていましたね。

大柴

実際に開発はどのような流れで進めたのでしょうか?

税所
(さくら)

最初に打ち合わせで工事の概念図や要望を聞いて、システムの構成や要件を考え、簡単な資料を作成して何度か認識をすり合わせながら進めていきました。開発期間としては半年~1年程度だったと思います。

諸橋
(鹿島建設)

最初から完璧なものを追求して完成させるのではなく、まずは土台をつくって実現場で使ってもらい、現場の声を聞きながら改善サイクルを回していこうという考えが当初からありました。結果として、通常より短期間で開発できたという実感があります。現在も、さらなる機能向上を図るべく、現場の方の声を聞きながらアップデートを続けています。

野崎
(リリー)

早い段階からリリーも打ち合わせに参加し、一緒に議論を重ねました。もともとわれわれは”共創型DX”の開発スタイルを特徴としています。はじめから設計や詳細要件が決まっているものより、課題や悩み・大事なポイントをときには直接現場にヒアリングしながら開発を進めることが得意です。

今回はリモートという環境下でしたが、諸橋さんのディレクション能力が非常に高く、現場の方々の意見を適切にまとめていただきました。リモートだからといってとくにやりにくい点もなく進められたと思います。


(鹿島建設)

当社でのほかのシステム開発事例では、トラブルがあった際に現地にきて対応いただくことも多々ありますが、今回はそういう場面は殆どなかったですね。もともとの品質がよかったのと、トラブルがあった際にもSlackで相談したらすぐに反応いただけたので、トラブル解決は速やかにこなせたと感じています。

今後に向けた意気込み

大柴

3社それぞれの今後の抱負を教えてください。


(鹿島建設)

建設現場はいまでも多くの作業が人の手に頼っており、今後もその基本的なところは変わらないと思っています。一方、昨今の建設就業者不足への対応としてロボティクスやICTの導入による現場DXが待ったなしですが、まだまだ充分ではないと感じています。現場作業員の高齢化は顕著であり、将来的には必ず機械化や自動化を実現しなければなりません。ただ、建設業に近くない新しい技術をどう活用すればいいのか、その方法を我々技術者が掴みきれていないのが現状です。これを克服するためには、技術を活かす発想の転換が必要ですが、古い方法を良しとする現場も已然として多く、業界全体での変化は容易ではありません。これは、当社だけの問題ではありません。

鹿島建設では、こういった課題の解決や働き方改革の実現に向けて、生産性向上や働き方改革の実現を目指す「鹿島スマート生産®」の推進を、全社をあげて取り組んでいます。

大柴

業界全体での課題意識があるんですね。諸橋さんのような若い世代の方が、異なる角度から問題提起をすることが有益だと思います。また、異業種からの新しいアイデアも重要ですね。

税所
(さくら)

さくらインターネットとしては、クラウド事業者としてガバメントクラウドへの取り組みや、生成AI向けのGPUサーバーの提供など、幅広い技術支援をおこなっています。DXがまだ進んでいない業界や企業の方々のDX推進を支援していくことで、業界全体の発展に寄与できると考えています。

野崎
(リリー)

リリーはモノづくりが好きなメンバーが集まる会社ですが、モノづくりだけではなくさまざまな産業へ貢献できるか、誰かの役に立てるかを重視しています。技術が直接的に価値を生み出せる環境を整え、エンジニアがその技術に集中できるような体制を整えたいです。

大柴

日本全国には技術力がすぐれた多くの会社がありますが、なかなか自分たちの技術を世に発信したり、つながりを持つことができないという課題があると思います。一方で、鹿島建設のような大企業はそういった会社とももっと取り組みたいけど、顕在化していないのでわからないということもあるでしょう。たとえば鹿児島であれば、markMeizanという箱を用いてコミュニティをつなげていくことで、地域内外の連携を深めて新しい機会を生み出していくことが期待されますね。

イベントではエンジニアや建設業、公務員の方など多様な職種の方々に参加いただき、質疑応答やイベント後の交流も活発で新たなつながりをつくることができました。

さくらインターネットが提供するクラウド型の画像変換・キャッシュ配信サービス「ImageFlux」
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執筆

佐藤 舞

2018年4月にさくらインターネット中途入社。ImageFluxやCDNのプロダクトマーケティングを担当。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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