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個人型確定拠出年金の iDeCo(イデコ)は、個人事業主が将来に備えられる積立制度の1つです。掛金の全額は所得税控除の対象になるので、iDeCo を上手に利用すれば、個人事業主は資産をためながら節税対策も可能になります。
一方で、iDeCo ではなく「個人事業主なら、小規模企業共済の上限でも十分」と考える人もいます。
本記事では、個人事業主の方向けに、株式会社SoLabo 代表取締役 田原 広一が税理士有資格者の立場から、iDeCo で掛金を支払える上限と小規模企業共済との違いを解説します。
個人事業主のiDeCo上限は6万8千円
個人事業主が iDeCo に加入した場合、掛金の上限額は6万8千円です。個人事業主が iDeCo に加入する場合、事業者は第一号被保険者として扱われます。
iDeCo の掛金の範囲は5千円~6万8千円で、年額だと81万6千円になります。
毎月5,000円掛けるよりは、上限である6万8千円を掛けたほうが、所得控除の恩恵は受けやすくなります。
ただし、iDeCo の掛金上限を検討する際は、節税だけでなく、iDeCo の特徴も確認しておきましょう。なぜなら、iDeCo には「投資信託の運用が前提」や「60歳まで引き出せない」といった、個人事業主にとってのリスクもあるからです。
【iDeCo の特徴】
①国民年金被保険者は誰でも加入できる ②iDeCo の運用は定期預金または投資信託が選べる ③掛金と運用益を合算した金額を将来給付として受け取れる ④掛金全額が所得控除できる ⑤60歳まで引き出せない ⑥加入手数料として初回のみ2,829円、口座管理手数料として月額171円必要 |
※iDeCo 公式サイトをもとに、株式会社ソラボが作成
たとえば、iDeCo の運用を考える場合、iDeCo のおもな運用方法は「投資信託」なので、投資信託自体が苦手な個人事業主にとっては、初期の設定が面倒に感じるかもしれません。
また、積立に関する経費をゼロに抑えたい個人事業主にとっては、初期費用と口座管理手数料がかかる点がデメリットに感じるかもしれません。
そんな iDeCo ですが、なにより最大の魅力は「掛金の全額所得控除」です。iDeCo の掛金を上限にすることで、所得控除の恩恵が広がります。iDeCo の掛金は年1回まで変更できるので、所得控除で節税をしたい個人事業主は、上限を6万8千円に設定することを検討してみましょう。
なお、iDeCo の掛金上限額は国民年金基金と合算した金額です。国民年金基金に加入済で、これから iDeCo に加入する人は、掛金が上限を超えないよう注意してください。
個人事業主が使える国民年金基金や小規模企業共済の上限も知ろう
控除を受けられる積立制度には、iDeCo のほかにも、国民年金基金や小規模企業共済があります。iDeCo とともに他の積立制度も利用すると、控除枠はさらに広がるので、資金に余裕のある人は積立制度の併用も検討してみましょう。
一方、小規模企業共済とは、従業員数が20名以下の個人事業主や従業員数が5名以下の会社役員などが加入できる積立制度です。
【個人事業主、フリーランスが加入できる非課税年金制度】
非課税年金制度の名称 |
控除の種類 |
対象 |
掛金の上限(月) |
iDeCo |
小規模企業共済等掛金控除 |
●国民年金の1号~3号までの被保険者 ●国民年金に任意加入する人 ●(60歳以上65歳未満または20歳以上65歳未満の海外移住者など) |
iDeCoと国民年金基金合算で6万8千円 ※iDeCo は5千円から積立可 |
国民年金基金 |
社会保険料控除 |
●日本国内に居住している20歳以上60歳未満の自営業者とその家族 ●自由業、学生など ●60歳以上65歳未満の人 ●海外に居住されている(国民年金の任意加入) | |
小規模企業共済 |
小規模企業共済等掛金控除 |
●小規模企業の経営者や役員、個人事業主など |
1,000円から7万円までの範囲内 |
※iDeCo、国民年金基金、小規模企業共済の公式サイトをもとに、株式会社ソラボが作成
たとえば、iDeCo と国民年金基金と小規模企業共済にすべて加入する場合、掛金の上限は月額13万8千円となり、所得と社会保険料をあわせた控除額の合計は、年間で165万6千円にもなります。
iDeCo の掛金の上限は6万8千円ですが、国民年金基金や小規模企業共済も加えることで、掛金の上限を増やせます。毎月の生活費を差し引いても個人事業主の所得に余裕があるなら、iDeCo 以外の非課税制度を組み合わせることも検討しましょう。
年収600万円の場合iDecoの掛金次第で所得税額に最大8万円差ができる
年収600万円の場合を例にすると、iDeCo の掛金を毎月上限の6万8千円とするか、下限の5千円とするかで、納める所得税が1年で約8万円変わります。
将来受け取れるお金を増やすためにも、余裕があるなら、iDeCo の上限まで掛金を上げるか検討してみましょう。
【年収600万円で経費200万円の個人事業主の場合】
●年収:600万円 ●経費:200万円 ●基礎控除:48万円 ●青色申告控除:65万円 | |
毎月の掛金 |
年間控除額 |
68,000円(上限) |
816,000円 |
5,000円(下限) |
60,000円 |
たとえば、年収600万円で年間経費が200万円の場合、所得400万円から青色申告控除額と基礎控除額、そして、控除できる上限額「81万6千円/年間」を差し引くと、課税所得は約205万4千円、支払う所得税は10万8千円となります。
一方、同じ条件で掛金を下限額「6万円/年間」にすると、課税所得は281万円となります。所得税は約18万4千円となり、上限で掛けるよりも所得税が約8万円多くなります。
個人事業主が iDeCo の上限で掛金を設定すると、下限で設定するより所得税が少なくなり、節税となります。iDeCo は長期運用する前提の積立制度なので、長期で掛金を支払わなければなりませんが、一方で、長い期間で所得税の控除を受けられるというメリットがあります。
実際にどれぐらい節税できるか、iDeCo の公式サイト「かんたん税制優遇シミュレーション」で確認できます。税制優遇をどれだけ受けられるか知りたい人は、試してみてください。
iDeCoや小規模企業共済の上限で60歳まで加入する場合のシミュレーション
iDeCo に加入する際は、60歳で受け取れる金額を想定して掛金を決めると、将来設計がしやすくなります。iDeCo で上限まで掛金を設定するか迷っているなら、60歳まで掛けた場合の控除額も計算しておきましょう。
iDeCo の掛金の運用は、投資信託と定期預金の2つから選べます。そのため、今回は投資信託と定期預金の双方で積み立てた場合の「年間控除額」を、国民年金基金や小規模事業者共済と合わせ、シミュレーションしてみます。
【個人事業主が国の非課税制度を40歳から60歳まで20年間利用する場合】
国の非課税制度 |
上限 |
毎月の掛金 |
年間控除額 |
60歳で受け取れる額 |
iDeCo |
68,000円(月額) |
58,000円 |
696,000円 |
〈投資信託〉 14,337,600円 ※平均利回り3%で計算 |
〈定期預金〉 13,947,840円 ※平均定期預金金利0.002%で計算 | ||||
国民年金基金 |
10,000円 |
120,000円 |
2,532,000円 ※年利率4.3%で計算 | |
小規模企業共済 |
70,000円(月額) |
70,000円 |
840,000円 |
16,968,000円 ※年利率1%で計算 |
つみたてNISA |
40万円(年間) |
約33,000円 |
400,000円 |
8,160,000円 ※年利率2%で計算 |
たとえば、iDeCo の投資信託で40歳から60歳まで20年間、毎月5万8千円を積み立てた場合、年間の控除額は69万6千円なので、20年間では1,392万円の所得控除となります。
これに対し、iDeCo の定期預金で同じ額を同じ期間で積み立てた場合、20年間の所得控除額は1,392万円で同額です。ただし、iDeCo の投資信託と定期預金では、それぞれ平均金利が約3%と0.002%で異なるので、60歳で受け取れる給付は投資信託のほうが多くなる計算です。
これから iDeCo の掛金を上限にすることを検討している場合、60歳まででいくらの控除ができるのか計算してみてください。そうすることで、将来設計がしやすくなり、個人事業主として事業に使える資金とのバランスを考えやすくなります。
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個人事業主がiDeCoを始める際は変更と資金を引き出せない点に注意しよう
iDeCo は節税対策としての側面を持つ一方、個人事業主にとって不便な点があることも否めません。今後海外に行く予定の人や資金を流動的に出し入れしたい個人事業主には、使いにくい側面もあるので注意してください。
【iDeCoが個人事業主にとって不便な点】
IDeCo のルール |
個人事業主にとって不便な点 |
掛けたお金は60歳まで引き出せない |
緊急でお金が必要な場合に事業資金として使えない |
海外に居住して iDeCo に加入する場合は、厚生年金被保険者のまま転勤するか、国民年金に任意加入しなければならない |
海外で現地法人を立てている場合は、国民年金に加入しないと、iDeCo には加入できない |
口座管理手数料が月額171円かかる |
掛金の運用方法を投資信託にすると、鋼材管理手数料がとられる分、初期の運用では運用成績がマイナスになる |
たとえば、将来的に個人事業主が海外で事業を始める場合、日本支社に籍を置きつつ海外転居するか、国民年金に任意加入しなければなりません。
また、iDeCo は60歳まで解約できないので、緊急でお金が必要になった場合に事業資金として使えないというリスクもあります。
iDeCo の掛金を上限で考えているなら、個人事業主として不都合な点も考慮することで、不要なトラブルは回避できます。iDeCo は長期運用が前提の積立制度なので、海外に行く予定がある人や資金が必要になる可能性がある人は、iDeCo 以外の積立制度も検討してみましょう。
途中解約や変更ができるつみたてNISAも検討する
iDeCo は掛金の変更をおこなえるタイミングが1年に1回ですが、つみたてNISA の場合は上限である年間120万円(2024年に変更予定)までは、自由に投資信託の銘柄や掛金を変更できます。
iDeCo は掛金の所得控除にくわえて、運用した結果の利益分が非課税になります。一方、つみたてNISA は運用益は非課税になりますが、所得控除はありません。つみたてNISA は制度が変わり、2042年までに購入した投資信託は20年間非課税で保有できます。
たとえば、iDeCo の場合、年間で81万6千円までしか積立できませんが、つみたてNISA では年間120万円まで積立できるので、将来的な資産を増やせる可能性があります。
iDeCo の特徴は、資産形成と所得控除を受けられることです。もし途中解約や掛金の変更ができる資産運用が希望なら、所得控除はありませんが、つみたてNISA の利用も検討してみてください。