「物流×不動産×テクノロジー」で物流DXの実現を目指すイデアロジー

コロナによってライフスタイルが大きく変化した。在宅勤務や巣ごもり時間が増え、非接触のニーズも高まり、EC市場も急拡大している。一方、少子高齢化の進行や感染による自宅待機で人手不足の問題も顕在化している。物流を取り巻く環境はガラリと変化し、新しい仕組みが求められている。「物流x不動産xテクノロジー」で一歩先の物流DXを進める株式会社イデアロジー。代表取締役CEO坂本 哲朗さんに話を聞いた。

 

坂本 哲朗(さかもと てつろう)さん プロフィール

坂本 哲朗(さかもと てつろう)さん プロフィール

1976年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。1998年ガデリウス(旧ABBグループ)に入社。2007年ジョージワシントン大学 経営学修士号(MBA)取得。GEリアルエステート(現日本GE)で商業不動産のアクイジション・ディスポジション部門を経て2008年にプロロジスに入社。物流不動産の投資・売却を担当。2009年から日本GLP株式会社で事業開発部のSVPとして10年に渡り物流不動産のリーシング事業をリード。その後、株式会社ワールドのロジスティクスソリューション開発統括部長を経て、2020年株式会社イデアロジーを設立。代表取締役CEOに就任(現職)

環境に優しい不動産開発を目指したい

坂本さんは父の仕事の都合で、中学の3年間フランスに住んでいた。欧米では不動産は何世代にも大切にされ、その分価値が上がる市場がある。新卒入社した会社では、北欧の建築材料・機械を扱う貿易部門に配属された。当時、北欧では世界で最も高性能の建築材料が使われていた。初期投資額は高くなるが、環境に優しい気密断熱性の高い住宅を建て、よいものを長く使うことでライフサイクルコストを下げるのだ。

「一方、当時日本の住宅ではまだまだ24時間換気、断熱性・気密性の考え方が広まっていませんでした。日本の住宅は建設後、20年が経つと価値がなくなる。世代ごとに住宅を購入し可処分所得も下がっていきます。欧米のように100年以上も使うことで逆に価値が上がる市場ではありませんでした」

より規模と影響が大きい環境と不動産、グリーンビルディングの投資・開発にキャリアチェンジしたい。米国に留学し、ジョージワシントン大学で不動産ファイナンスと環境経営を専攻しMBAを取得した。

その後、GEリアルエステートで2年間不動産投資の実務を経験。しかしリーマンショックのあおりを受ける。環境配慮に力を入れた物流施設の開発をするプロロジスへの転職が縁で、シンガポール政府投資公社(GIC)の資産運用目的に設立された「日本GLP」の創業メンバーとなる。

「日本GLPで物流不動産開発1号をトロフィー物件(一等地の大型不動産物件)にするにはどういうコンセプトが必要か?そう問われたとき、『LEED』というグリーンビルディングの環境認証の取得を迷わず提言しました。

『LEED』とは世界標準の環境評価ツールの1つです。当時の日本ではまだほとんど知られていませんでしたが、CO2の排出抑制のための断熱性能(省エネ)、雨水の再利用(節水)や従業員の通勤性や労働環境など、環境負荷の低い建築が要求されます。これからの日本の物流施設開発に差別化戦略が必要だと考えました」

世界初の物流施設として表彰

坂本さんがコンセプト提案と営業を担当した物流施設「GLP三郷Ⅲ」は「LEED」の最上位であるPlatinum認証を受けた日本初の物流施設だ。米国の権威ある開発団体「アーバン・ランド・インスティテュート(ULI)」からも、2014年の世界中で最も優れた不動産開発プロジェクトとして物流施設としては世界で初めて表彰された。

「嬉しいことに『GLP三郷Ⅲ』はパタゴニア日本支社様が日本初のLEED認証施設へ共感頂き、第1号テナントとして入居を決定頂きました(現在は退去)。今でこそSDGsと騒がれていますが、当時環境配慮をされる日本企業はほぼ皆無。日本GLPでは単純な不動産開発ではなく、環境に配慮した建物を開発し、入居することの大切さを啓蒙、普及活動を10年近くやっていましたね」

物流不動産の開発は好調だったが、坂本さんにはジレンマが生まれた。リース営業をすると必ず耳にする人手不足の問題、営業する物件の賃料を含む物流費の高騰だ。「このまま倉庫を建てて貸すだけで良いのだろうか」

人手不足を解消するためにロボットをはじめとする新しいテクノロジーが出始めていた。AIやロボットと併せてソリューション事業を進めたい。

その折、ロボット導入も視野に企業全体の物流再編や中長期事業戦略策定の責任者としてワールドに転向し、グループの中長期物流事業戦略策定、ファッション物流プラットフォーム事業の立上げ、自動化・ロボット化の検証に参画することになった。

「物流×不動産×テクノロジー」イデアロジー設立

ワールドでは事業会社としてグループ全体の物流事業戦略の策定や、ファッション物流のシェアリングプラットフォームの構築、ロボットや自動化技術導入検証に携わる。しかし事業の風向きが変わったことで、次のキャリアを考える転機が訪れた。

「物流、不動産、テクノロジーのすべてに精通している人がほとんどいない。物流施設オーナーとユーザー両方の実績と知見を生かして物流会社や事業会社の物流コストの削減や、ロボットへの投資判断のアドバイスをしたいと考えました。

また、オフィス不動産の不況から物流不動産開発に参入するデベロッパーが多くいますが、建てれば貸せるという感覚で使い勝手の悪い倉庫を建設している物件が散見されました。一度建てたら壊せない。何十年も使わなくてはいけないのです。せめて物流会社や事業会社の目線で使い勝手の良い倉庫を建設してほしい。そう思って立ち上げたのがイデアロジーなんです」

ワールドに転向していた1年間に、物流施設の建築ラッシュが加速していた。坂本さんが日本GLP時代に蓄積していた物流不動産の情報に空白が生じていた。アップデートが必要だった。

 

「ア・ソコ(à sôko)」物流施設オンライン検索システムのDX

住宅の賃貸、売買検索サイトはそれこそさまざまある。一方、物流施設の検索については課題があった。物流施設を借りたいユーザーは物件オーナーの個別サイトや仲介会社の検索サイトから断片的な情報を集め、自ら調査、比較分析をして意思決定が必要だった。

問い合わせ欄からアクセスし、契約に至るまで手間も時間もかかる。いつから・どこで・いくらで・どのような物流施設を借りられるのか、一元的に情報を把握できるサイトは現在(2022年8月時点)存在しない。

「物流施設のオーナーは約70社います。しかし、どのオーナーがどこにどんな施設を保有しているのか一元的に開示するデータベースや検索サイトがありませんでした。情報収集もまずは問合せで営業担当と会ってから。物件概要書、提案書、契約書の全てが各社個別のフォーマットで情報もバラバラでした。全体をデータベース化し、オンライン上で検索から契約までのプロセスを標準化・自動化したいと考えました」

 

ア・ソコ(à sôko) 検索から契約までのメニュー 画像キャプチャー:株式会社イデアロジー提供

ア・ソコ(à sôko) 検索から契約までのメニュー 画像キャプチャー:株式会社イデアロジー提供

 

イデアロジーが提供する「ア・ソコ(à sôko)」は、オンライン上で最適な物件の検索から契約まで一気通貫におこなえる。

「ア・ソコ(à sôko)」では、日本全国の約1,200(2022年8月現在)を超える大型賃貸物流施設を地図上でデータベース化している。独自開発のAIで、最適な物件の検索や、意思決定に必要な比較分析のレポートもワンクリックで入手できる。

 

ア・ソコ(à sôko)物流施設マッピング 画像キャプチャー:株式会社イデアロジー提供

ア・ソコ(à sôko)物流施設マッピング 画像キャプチャー:株式会社イデアロジー提供

 

一方、物流施設を借りられても、そこで働く人がいなければ機能しない。

「人手不足のいま、人の確保は大きなポイントです。建設ラッシュで大型の物流施設の総面積は拡大しています。施設の周辺に人が集まるのか。雇用状況を物件ごとに出せるようにしています」

「ア・ソコ(à sôko)」では労働力指数、周辺時給相場、最低賃金のデータも物件ごとに確認できる。

国勢調査と住民基本台帳を基に最新の人口データを埋め込み、各物件の5km圏内、10km圏内の労働人口はどれくらいなのか。一方その同一圏内の物流施設の供給面積はどのくらいか。物流施設の面積1坪あたりの労働力に換算することで労働力指数(労働力の確保のしやすさの指標)がわかる。

「もちろん、必ずしもその地域すべての人が倉庫に働きにくるとは限りませんが、目安にはなります。同じ基準で各物件での採用のしやすさを比較できます」

ア・ソコでは、AIを利用して各物件の最寄駅の2km圏内、10km圏内の平均時給相場のデータを毎週取得して反映している。時給単価が高く大人数を採用する大手EC会社の物流施設が同じ圏内にあると、時給相場も上がり採用しづらい傾向になる。

最低賃金は都道府県ごとに異なる。例えば、埼玉は群馬より10.5%、千葉は茨城より8.4%、大阪は奈良より14.5%高い。そのため、特に県境にある施設では、賃金が低い県の施設よりも高い県の施設に人が流れる傾向があるという

 

ア・ソコ(à sôko)効率化の画面 画像キャプチャー:株式会社イデアロジー提供

ア・ソコ(à sôko)効率化の画面 画像キャプチャー:株式会社イデアロジー提供

物流効率化のDX 「ア・ソコ(à sôko)2」,「ア・ソコ(à sôko)3」の開発

「いま、『ア・ソコ(à sôko)2』の開発を進めています。これは倉庫の空間や什器や棚の配置、作業工程をすべてデジタルで再現します。保管効率や作業効率をシミュレーションして最適化するシステムです。

例えば、倉庫内のピッキングリストを作成する場合、WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)では、本日中に出荷すべきモノの数量と保管ロケーションから、あらかじめ設定されたロケーションの順番でピッキングリストを作成しています。

しかし『ア・ソコ(à sôko)2』では柱間距離や棚のサイズ、モノの位置までデジタル空間で3D座標で認識されています。出荷すべきモノのデータから、最適な作業人数やピッキングするルートのシミュレーションができます。

また実際の作業員の歩行速度や作業処理速度の再現も可能です。毎日変動する売上予測に対して各工程で何名必要か、作業人数が足りない場合は、不足人数やバックログの予測もシミュレーション可能です」

坂本さんはAGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)やAMR​​(​​​​Autonomous Mobile Robot:自律走行搬送ロボット)を導入するだけ​​では、必ずしも物流効率の改善にはならないという。例えば、AGVを倉庫の奥に設置してしまうと搬出入ごとに搬送距離が増え人員が増えることもある。

AMRの場合も、ロボットがすれ違う通路幅を広げると逆に保管スペースが犠牲になることもある。部分最適の効果のみに着目し、前後工程や全体最適を考慮せずに導入し、効果が出ていないことに気づいていない現場も多いという。

「モノのライフサイクルでは、移動距離が増えてしまうケースがあります。ロボットを入れて省人化するはずなのに、逆に人が増えてしまう場合もある。部分最適しつつも前後工程に配慮し、オペレーションを俯瞰しながら全体を最適化することが必要です」

「ア・ソコ(à sôko)1」で、日本中の物流施設のロケーションデータと「ア・ソコ(à sôko)2」のオペレーション最適化のシミュレーションを掛け合わせて実現するのが、「ア・ソコ(à sôko)3」だ。

製造拠点から販売拠点のロケーションと物量を登録すると、どこの物流施設でどのようなオペレーションをおこなうと企業の物流コスト全体で最小になるかを提示できる。

「やりたいことをできるに変える」海外から日本の倉庫のピッキングができる世界

「ア・ソコ(à sôko)1」では、インドの最先端VRのベンチャー、ユークリッドXRイマーシブ社のFidelity Engine搭載のVR内覧機能を採用した。そこから将来的に、新しいアイデアを生み出そうとしている。

まずは、ARのグラスを掛けて倉庫内の棚のロケーションや動線をナビゲートする。どこで何をピッキング(棚からモノをとる作業)するのか、ピッキングしたモノをスキャンまでしてくれる。その視認データや作業時間がWMSに連携される。それらのデータをAIに学習させて将来的にはア・ソコ2の延長でメタバースで物流施設を再現する。

「目指しているのは、VRとデバイスによるピッキングロボットの遠隔操作とAMRやAGVを搬送ロボットとして連携させることです」坂本さんはそう話す。

将来的には慢性的な人手不足を解消するために倉庫の現場に行かずとも、リモートで作業できるようにしたい。働きたくても外出が難しい子育て中や介護中の人、高齢者や体力的にサポートが必要な人たちが自宅でVRとデバイスを装着して倉庫のデジタル空間内で仮想オペレーションをする。そうすると現実の倉庫でロボットが連動し、実際のオペレーションをするイメージだ。

「日本には技能実習生をはじめ世界各国の人たちが働きに来ています。しかし、VRを利用した遠隔オペレーションが可能になれば、日本にいなくても良いのです。海外から日本の倉庫のオペレーションができるようになる。いまは倉庫に人がいないとオペレーションが成り立たない。それは自動化でも効率化でもないと考えています。イデアロジーが持つ物流効率化のノウハウを本当の自動化に役立てていきたいですね」

「物流会社の方に、先を行き過ぎてます、とよく言われてしまいます」と話す坂本さん。描く世界観は日本と世界、現実と仮想のボーダーを越え、物流の最先端を走っている。

 

株式会社イデアロジー