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社会の急速なデジタル化により、近年はスマートフォン1つでさまざまな情報を得られるようになった。その影響で、顧客エンゲージメントを高めるため、パーソナライズした情報を発信する企業が増え、その変革の波は旅行業界にも及んでいる。
株式会社阪急交通社(以下、阪急交通社)は、大阪市に本社を置く大手旅行会社で、阪急阪神ホールディングスの中核事業会社だ。主要顧客は60〜80代のシニア。パーソナライズした旅の情報を提供するにあたり、シニア世代に利用者が多く、双方向のコミュケーションが取れるLINEに注目した。同社のウェブ戦略部課長の宇和川匠さんに、LINEを活用したマーケティングを実施した背景や、効果について聞いた。
宇和川匠(うわがわ たくみ)さん プロフィール
株式会社阪急交通社 DX戦略事業本部 ウェブ戦略部 ウェブ戦略二課 課長。1991年阪急交通社に入社。情報システム部門で基幹システムの構築、ネット決済の導入や顧客データの基盤作りなどCRM推進を経て、現DX事業本部ウェブ戦略部に所属。Webマーケティング全般に携わる。オウンドメディア『たびこふれ』の立ち上げメンバーでライターも兼務。個人で旅のYouTubeチャンネルも運営している。
主要顧客のシニア世代もデジタル化
スマートフォンを持つことが当たり前になった現代において、シニア世代におけるデジタル化は年々進んでいる。モバイル社会研究所が2024年に実施した調査によれば、70代のスマートフォン所有率は80%を超えた(※1)。また、総務省の「通信利用動向調査」には、60代のインターネット利用率は、他の世代とほぼ変わらないとの調査結果が記されている(※2)。
このようなデジタル社会において、変革を求められているのが、シニアを対象としたマーケティングだ。阪急交通社の主要顧客は、60~80代のシニア世代。これまでは新聞広告や自社発行の旅の情報誌『トラピックス倶楽部』を中心とした販売戦略をとることで、顧客へのアプローチを続けてきたが、新たにLINEを活用したマーケティングを開始した。その背景には、一体どのような考えがあったのだろうか。
「1980年代は、新聞広告をはじめとした紙媒体が販売戦略の主力でした。しかし、1990年代後半からインターネットが普及し、2010年代にはデジタルデータの利用が本格化したことで、社会のデジタル化は消費者行動に直結するようになります。そのため、当社においても、Webサイトでの予約が当たり前となっているお客さまへの対応を強化してきました。当社のサイトを見てくださったときに、欲しい情報がスムーズに得られるよう日々改善に取り組んできたこともあり、2010年代後半以降は、Webサイトからの予約申し込みが大幅に増えています。
もちろん、Web以外での申し込みを希望される方もいらっしゃるため、コールセンターでの予約受付も並行しておこなっています。そのため、シニア世代とのコミュニケーションに大きな課題はない状況でした。しかし、個人でさまざまな情報を得られるようになった社会では、お客さま一人ひとりの希望や興味に関連する情報を提供する重要性が増しています。そのため、Webサイトやコールセンター以外にも、シニア世代に情報が届く可能性の高いデジタルプラットフォームを活用すべきだと考えていました。また、これから主要顧客となっていく40代、50代との接点をつくっておきたいという思いもありました」
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双方向でコミュニケーションが取れるLINEに注目
では、なぜ数あるデジタルプラットフォームのなかから、LINEを導入することになったのだろうか。LINEを選んだ理由について、「ほかのSNSとは異なり、一方的な情報提供にならない点に魅力を感じた」と宇和川さんは語る。
「コールセンターを利用するお客さまは、おもにスタッフと会話をしながら、質問や申し込みをおこないたい方々です。お客さまには、いつも丁寧な案内を評価していただいています。このようなことからも、活用するデジタルプラットフォームは、パーソナライズされた情報を送れるうえに、双方向のコミュニケーションが取れるLINEがいいと考えていました」
LINEの活用を決めた背景には、シニア世代におけるLINEの利用率の高さも関係している。前出のモバイル社会研究所の調査(※2)によれば、シニア世代のLINEの利用率は7~8割だという。
「じつは当社では、2016年にLINE公式アカウントの運用をスタートしました。しかし、全国各地の支店ごとでの運用だったので、『阪急交通社』と明記されたアカウントの数は30以上になっていました。おまけに、担当者によって運用戦略や稼動時間が異なっていたため、発信している内容に統一感がない状態だったのです。
さらに、管理画面でできることに制限が多く、手間もかかっていました。こうして『LINEの活用法を変革したい』との思いを持ち続けていたところ、LINE@が2020年2月に完全終了。そこで、CRM対策の一環としてLINE活用強化プロジェクトを発表し、LINE公式アカウント統一の道筋をつけました」
LINEを最大限活用するため「MicoCloud」を導入
LINE公式アカウントの統一、旧アカウントの友だちの移行、パーソナライズした情報の提供、ファーストパーティデータ活用に向けた基盤作りと、基幹システムとの連携。LINE公式アカウントの統一までには、数々の山を乗り越える必要があった。このような課題の解決のために導入したのが、LINEに特化したマーケティングプラットフォーム「MicoCloud(ミコクラウド)」だ。
MicoCloudの特徴は、友だち登録の経路やタグの分析、アンケート配信などによって顧客の興味が何なのかをくみ取り、ニーズにあわせたコミュニケーションを設計すること。配信の種類も豊富で、セグメント配信や個別メッセージ、bot対応なども可能だ。
しかし、LINEマーケティングツールはいくつもあり、広告の配信、顧客の情報収集と分析、顧客に合わせたコミュニケ―ション設計の機能などは、各ツールにおいて共通している。阪急交通社がMicoCloudを選んだ理由は何だったのだろうか。
「LINEの通知メッセージを送れることが決め手でした。LINEのメッセージは、メールよりも見逃す確率が低くなります。また、LINE IDがわからなくても電話番号でメッセージを送れるため、当社の会員になってくださっている方にも情報を届けられます。すでに同業他社が導入していて、プラス面を見習えたことや、困ったときにすぐに対応してくれることも、惹かれたポイントですね」
同社では、約3か月のテスト期間を経て、2023年10月にLINE公式アカウントを統一。同年12月から、アカウントの本格的な運用を開始した。
パーソナライズした情報提供でLINE経由の申込みが大幅にアップ
気になるMicoCloudの導入効果についてたずねてみると、「以前よりもパーソナライズした情報を発信できるようになった点が助かっている」と宇和川さんは語る。
MicoCloud導入後は、出発地や行き先、旅行形態など、多岐にわたる顧客からの要望を踏まえて、パーソナライズした情報や、キャンペーンの告知を定期的に届けられるようになったという。
また、公式LINEの統一により情報が集約され、顧客の解像度が上がったことも、導入メリットの1つだ。その知見で選んだ「LINE担当者おすすめツアー」や、LINE登録者対象の抽選イベントの情報などを配信した結果、LINE経由の予約数は導入前の倍以上に。売り上げはもちろんのこと、パーソナライズした情報が顧客に支持されているとの確信も得られた。
LINE公式アカウントの運用によるメリットは、それだけではない。 ペーパーレス化の推進にも役立っているという。
「当社のクルーズ船ツアーでは、寄港地の情報などを掲載した船内新聞を毎日配布していました。貸し切りのチャータークルーズを催行した場合、お客さまは2,500人。全員分の船内新聞を印刷すると、大量の紙が必要でした。DXはペーパーレス化の推進という点にも意味があるため、クルーズの乗船前にLINEの友だち登録をしてもらって、船内新聞のデジタル版を配信してみたのです」
すると、二次元コードで友だち登録ができる手軽さも功を奏したのか、想定以上に登録者数が増えて、船内新聞のデジタル版は定番となったという。ペーパーレス化の実現とLINEの友だち登録者の獲得の両方を実現させた、まさに一石二鳥の施策といえるだろう。なお、最近では、LINEを使った船内スタンプラリーも開催し、顧客から好評を得ていると宇和川さんは語る。
Web利用シェアをさらに伸ばすプロジェクトの成功を目指して
MicoCloudを活用して、LINEを使ったマーケティングに成功した阪急交通社。ここで、DXを推進するためのポイントについて聞いてみると、「導入したシステムを活用するには、自社用に変更すべきところもあり、一筋縄ではいかない」と宇和川さんは語る。
「システムを導入しても、事は簡単には進みません。使える機能がたくさんあるぶん、覚えることは山のようにあるうえに、操作も複雑になります。ベンダーにサポートしてもらうことはできますが、やはり社内教育も重要です。2024年現在はLINEチーム3人で対応しているので、今後は運用できる人材を増やし、組織化したいと思っています。
LINEの活用は、Webシェアを伸ばすプロジェクトの1つ。安定した販売経路にするためには、さらに使い勝手の良い仕掛けを作り、営業に提案すべきだと考えています」
DXに取り組んだものの、「DXのビジョンやロードマップが描けない」「中途半端な結果しか出ない」などと悩む企業も多い。最後に、DX推進の秘訣についてたずねると、「あくまで私の考えにはなりますが」と前置きしたうえで、このように語ってくれた。
「DX推進の目的は、2つに集約できるのではないかと思っています。まずは、作業を効率化して仕事環境を改善すること。次に、顧客エンゲージメントを高め、スムーズな集客を可能にすることです。
DX推進には、他部署への説明がキーポイントになります。定期的なミーティングを開催して、具体的な数値を提示したり、ビジョンの共有を繰り返しおこなったりすることが必要です。社内でのハンドリングは難しいですが、それを乗り越えたら、目標を達成できるのではないでしょうか」
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(※1)モバイル社会研究所|2024年シニア調査
(※2)総務省|令和5年版情報通信白書
執筆
村上いろは
大阪府在住のライター・編集者。制作会社や編集プロダクションを経てフリーに転身。Webメディアなどで記事の企画、取材、執筆、編集に携わっている。趣味は読書と散歩。
ポートフォリオ:https://note.com/iroha1227mmyy/n/n77676a287fa1
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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