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副業するのが当たり前の時代と
副業が事実上許されなかった僕らの時代。
僕は、中小企業の中間管理職である。先日、とある部下から「部長は副業でいくら稼いでいますか?」と質問された。かつて、別の部下から「副業は何をしたらいいでしょうか」という、返答に困る相談を受けてから、たった数年間のうちに状況は劇的に変化した。副業が当たり前になっている。
副業をする人が増えた。副業が市民権を得たというか、一般的になったというか、副業先を見つけやすくなったというか、決定的な理由はわからないが、まちがいなく副業をしやすい環境になった。僕が社会に出たころは(1990年代中ごろ)、同僚で副業をしている人はいなかった。表立ってやっている人がいなかっただけであって、隠れてやっている人はいたはずだ。しかし、社会がまだまだ副業に対して懐疑的で、副業自体を禁じている会社も多かった。僕が新卒で入った会社は副業を禁止していなかった。それでも「本業に身が入っていない/手を抜いている」と社内で見られる、あるいは突然の残業や休日出勤が多かったりして副業をしたくてもできないという状況があって、副業はやりにくかった。
副業がしやすくなったといっても、依然として考え方がアップデートできていない人もいる。見ていて、この人は大丈夫だろうかと心配になる。冒頭のとある部下が典型的だ。彼は真顔で「副業は何をすればいいでしょうか」と聞いてきたのだ。はっきりいってこのタイプの人は副業に向いていない。「君は副業に向いていないから本業に専念したまえ」といいたくなる。しかしながら世知づらい現代においては上の立場にあるものの言動が、意思や意図がなくてもハラスメントとされることがある。最悪、失脚するはめになる。そういう、くだらない質問に対しても真摯に対応をしなければならない、上司受難の時代なのだ。
「クソ面倒くせー」と思いつつ「なぜ君は副業をしたいと考えたの?副業をしなければならない理由は何かな?副業に求めるものは何かな?」と部下に尋ねたのである。真顔で。その返答が「動画サイトにおもしろい動画をアップして楽に稼ぎたい」だったので僕の心は死にました。それから数年が経ち、先日も別の部下から副業について相談を受けた。またユーチューバーになりたい、といわれたらどうしよう…声を荒げてしまうかも…そういった心配は懸念に終わった。やはり、副業というものが、当たり前のものになったからだろう、部下は僕が副業をやっているという前提に立って「部長は副業でいくら稼いでいますか?」と訪ねてきたのだ。
僕は副業を公表していない。社内に親しい人間はいないので副業について話をしたこともない。それでも部下が副業収入を尋ねてきたのは、副業はみんながやっているものという考えがベースにあるからにほかならない。僕は正直に指を三本立てて答えとした。当時副業で稼いでいる額だった。すると部下氏は「三千円ですか。しょぼいですね。でも煙草代にはなりますね」といった。部下は上司の副業収入を聞いてマウントしたかっただけであった。おそらく、ミスをした彼に注意したあとだったので、一矢報いたかったのだろう。そのあと、彼は彼がやっている副業についてあれこれ説明していたけれども、覚えていない。僕の人生に1ミリも役に立たないからである。なお、僕は喫煙者ではない。副業が認められている環境、あるいは副業がしやすい状況になっても、僕の観察範囲ではまだまだ副業について職場で語っている人は少ない。もっとオープンに情報交換ができるようになればいい。まあ、本業の所定労働時間内に大っぴらに副業について話しているのも問題といえば問題かもしれないが、仕事中にSNSを眺めているのと大差ないと思うがいかがだろう。
副業とはお金を稼ぐことであることを忘れるな。
副業が社会的に普通のことになっているのは、ごく普通のなりゆきに思える。会社に就職するなどして、仕事をひとつに限定するほうが不自然だ。終身雇用が崩れて、定期昇給もなくなりつつある。つまり、就職した会社が人生の終わりまで面倒を見てくれなくなったということ。ましてや先行き不透明な時代だ。工場や事業所の閉鎖等のリストラによって明日からの仕事がなくなる可能性だってゼロではない。そういった事態に対して、副業はセーフティーネットになる。
副業をするのはお金のためである。これは昔も今も変わらない。本業で数万円の昇給は難しくても、副業で数万円を稼ぐのは工夫次第で可能だ。その副業が人間関係を必要としないものなら、気づかいは不要であるし、同僚から「どんな副業をすればいいのかわかりません」みたいなバカみたいな質問に対応する必要もない。気楽でよい。本業に影響が出ない程度に副業をやっていくのが理想だ。ライフプランを立て、本業の稼ぎでは足りない部分があったら副業で補填すればいい。ライフプランは、子どもの養育費や老後のたくわえ以外に、外車や自家用機や鉄道模型の巨大レイアウトや起業といった夢も含まれる。いってみれば、副業は現状打破するための手段の1つだ。また、最近の物価上昇への対応としても副業は有効な手段だ。
お金以外には、副業を通じて将来役立つ技術や経験を得られる。僕はこの動機で副業をしたことがないから想像でしかないけれども、技術や経験を得るために、消費した労力や時間に見合わないような定額の報酬で仕事は受けないほうがいい。とくに僕のような俗物は、「技術を習得するぞ」と理想を追いかけているあいだは、報酬が少なくても「これも将来のため」と我慢できるが、技術を覚えて経験を積むにつれて、どうしてこんなに報酬が少ないのだろうと不満を募らせ、将来の夢ごとイヤになってしまうからである。これは最悪だ。守銭奴みたいで申し訳ないが、夢や理想を守るためにも、副業は稼げるお金こそがいちばん大事なのである。
また、お金を稼ぐということを第一に考えた場合、副業はある程度、現実に即したものを選ぶべきだろう。いいかえれば「ある程度、稼げるお金が想定できるもの」になる。先述の副業ユーチューバーを目指していた部下は、夜な夜な「ハーイ!」と変顔を晒しておもしろくない自称おもしろ動画を作成して全世界に向けて公開したのか僕は知らない。だが、その後の彼の暗い顔からは、副業ユーチューバーで成功したようには見えなかった。そのうえ、本業でミスが目立つようになった。夜な夜な動画制作で注意力が散漫になったものと想像する。全世界にゴミ動画をまき散らしたうえで、お金にもならず自身の評価を下げることになったのは現代の悲劇である。副業は計画的に。
副業で得られるものと失われるもの。
副業で得られるものはまずお金である。失われるものは体力と気力と時間だ。僕は語彙力がないので、不謹慎なたとえになってしまうけれども、副業とは愛人みたいなものである。奥様をこえてはいけない。愛人さんと遊びすぎて帰宅したときにヘロヘロでは話にならないのだ。そのため、副業はできるかぎり時間と労力を必要としないものが望ましい。特別な技術を必要としないもの、あるいは現有の技術と経験を武器で取り組めるものにすべきだろう。
その一方で、奥様より愛人を選んでしまうような不届き者のように、現在の本業からの入れ替えを念頭に入れた副業もある。たとえば本業で培った技術で副業をおこない、次第にスケールを大きくして本業をこえてしまう。あるいは、まったく異なる分野の副業であったが、本業よりも夢中になってしまい、本業に手が回らなくなるなど。決めごとはない。自由だ。かつてのように新卒で就職した会社で定年まで働くような社会でも時代ではなくなった。それに会社サイドも「定年まで面倒を見ていられない」と考えている。本業にとらわれずに副業をやりたい人はやればいいし、やりたくない人はやらなければいい。とにかく自由だ。
僕の経験からいえることは、副業は「片手間の小遣い稼ぎ」「いつかは本業に育てる」など位置づけを決めてからはじめるとうまくいく可能性が高まるということだけである。消費される体力と気力と時間と対比して、自分にとってよい副業を選んでもらいたい。
息抜きのための副業もあり。
副業は、お金を稼ぐものが前提で、そのうえで、本業への転換を目指すもの(転職や起業)もあると語ってきた。いまでもその考えは変わらない。しかしながら最近はもう1つの副業もあると考えている。それは「気分転換、息抜きのための副業」だ。仕事をしていると、ストレスがたまるものだ。また、値上げムーブメントや世界情勢など日々不安は増すばかりで息が詰まってしまう。
本業は、基本的にまじめにやらなければならない。そこで気分転換、息抜きのための副業が必要になる。趣味や遊びで息抜きするのは最高であるけれども、その時間はただの浪費であることもまた事実である。しかしながら、気分転換と息抜きをメインにすえた副業ができれば、ストレスと不安を解消しながらお金が稼げる。一石二鳥である。息抜きのための副業は、必然的に、技術や労力をほとんど必要としない仕事になる。そのため稼げるお金は少なくなる。ただ、ストレスを減らしながらお金を稼げるというのは大きなメリットだ。
僕は副業として執筆業をやっているけれども、お金のためというよりは、息抜きのためにやっているという側面が強い。こうして文章を書くことによって本業でため込んだストレスを解消している。特別な技術が不要で、僕の文章を書くことに苦労しない体質がマッチした、まさに息抜きのための副業なのである。好き勝手に副業について思うところを語ってきたけれども、自由に副業を選んで自由に働いてもらいたい。自由がいちばん大事なのである。くれぐれも金額や手軽さに走って闇バイトに走らないようにしていただきたい。
執筆
フミコ・フミオ
大学卒業後、営業職として働き続けるサラリーマン。
食品会社の営業部長サンという表の顔とは別に、20世紀末よりネット上に「日記」を公開して以来約20年間ウェブに文章を吐き続けている裏の顔を持つ。
現在は、はてなブログEverything you’ve
ever Dreamedを主戦場に行き恥をさらす
Everything you've ever Dreamed : https://delete-all.hatenablog.com/
2021年12月にKADOKAWAより『神・文章術』を発売。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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